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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
46/62

第46話 期待の新人!! 意地悪女!?


 「……地獄って怖ぇな」



 「ほんっと……あたし絶対無理……」



 これまでに見聞きした地獄に新人たちは失望し、恐怖し、嫌悪している。当然の反応だった。人は誰しも天国と地獄であれば天国行きを望むであろう。それは働く側も同じこと。目の前のようなどうしようもないような罪人を相手にするよりも天国に行けるような聖人を相手にする方が良いに決まっている。

 因縁の対決に勝負はついた。



 (……ダメかぁ。。)

 京子は周囲の新人たちの呆れた表情や横でほくそ笑んでいる空谷の表情を見て、諦めようと思った。

 ……が、そんな中で1人だけ京子をじっと見つめている目が見えた。青く大きな瞳……京子の邪魔をしていたあの新人。

 その新人は他の新人のように失望や呆れの表情を浮かべることなく、呑気に両腕を頭の後ろへ回して首を左にかしげながら京子を見つめていた。

 まるで不思議なものを見ているかのように……



 

 (……あたし……何やってるんだろう……。。)

 そんな新人の瞳を見て、気がついた。

 (うわべだけの業務説明なんかして……出来もしてない仕事内容をしゃべって……まだ見たこともない地獄を知ったような顔で話して。……そんなんじゃ……ダメなんだ。。 あたしは今……困っている。地獄には新人が……期待の新人が必要なんだ!! )

 京子は気がついた。自分らしくないと。……死んでからここに来て、今日まで色々頑張って来てしたかったのは、うわべで取り繕って新人を騙すように配属させることなんかじゃない。



 「皆さん!! 聞いてください! ……今、この地獄は危機に瀕しています!! 」

 京子は声を張り、周囲の新人たちの視線を集める。

 「えっ!! ちょ、課長!?」

 突然の大声に驚く鬼渡。せっかくのわずかな新人獲得の機会を台無しにするような……そんな嫌な予感を感じ取っていた。



 「あたしはここに来て早々、餓鬼に捕まって食べられかけました……」




 「……えっ。。」



 「餓鬼? 餓鬼ってあのばけもののことか?? 」



 京子の突然の言葉に周囲の新人がざわつく。



 「毎週76階まで階段で上がって会議に出席してます……中品下生だから……」




 「え!! ちょ……嘘でしょ……」



 「中品下生って……俺より下じゃん……」



 京子のランクに周囲はさらにざわつく。

 「ちょ!! か、課長……それ以上余計なことは……」

 慌てて口を閉じさせようと鬼渡は右手を京子の口元へ持ってゆくが、京子の左手によってはじかれる。鬼渡の手をはじいて言葉を続ける。



 「今、この地獄には桃次郎っていう凶悪な罪人がいます。あたしはそんな罪人たちに嬲られかけたり、その桃次郎を倒すために必要な炎鬼や氷鬼っていう化物みたいに大きい餓鬼と戦って……死にかけました」




 「…………」



 「………………」



 もはや周囲からは何も声が聞こえてこない。地獄のあまりにも悲惨な現状、そして京子が味わった体験に周囲の新人たちは声すら出ない。

 隣にいる鬼渡はたまらず左手を頭に持って行き、その手で髪をくしゃっとかき上げた。そんな周囲の反応に目もくれずなおも言葉を続ける。




 「でも!! この仕事には……地獄課の業務にはそれだけの価値がある……私はそう想っています。食われかけようが、階段上りがしんどかろうが、罪人たちに嬲られかけようが、餓鬼に殺されかけようが!! この地獄を正しく……罪人がしっかりと罪を償う……そんな地獄が必要なんです。そのためには皆さんの……皆の力が必要なんです!! だからお願いします……どうか地獄課に来てください!! 」

 京子は最後まで言い切った。自分の気持ちを。自分が地獄をどうしたいのかを。

 そんな京子を横で見ていた鬼渡もちらりと右目で京子を見つめると、髪をかき上げていた左手を静かにおろし、そして小さく2回頷いた。地獄課の業務説明および見学が終わった。



 

 ♦  ♦  ♦





 天国課、地獄課の説明が終わり、新人たちは天空省の1階へ集合していた。今から新人の配属希望を聞き、10人の配属先が決定する。

 新人たちの対面には、中央に部長である天海山とその代弁者。その右側には天国課の空谷と4人の天国課職員。そして左側に地獄課の京子と鬼渡が立っている。



 「それでは、これより配属先を決定します。1名ずつ希望する課を言って下さい」

 配属先の決定は申告制。鬼渡が話していたように課の事情よりも新人の希望が優先される。故に、新人10人が全員天国課へ行ってしまう可能性も十分にある、いや……もはや10人行ってしまうだろう。

 鬼渡はそう考えていた。

 


 それは京子も同様であった。あれだけ地獄の現状を恥ずかしげもなくさらしたのだから。……が、その表情はどこか晴れやかである。それは嘘偽りなどない本当の自分の気持ちを新人たちに伝えられたからなのかもしれない。



 「……えっと、天国課を希望します」



 「私も天国課を希望します」



 「天国課希望です」


 


 しかし、現実は非情である。自分の思いを語ったところでそれが相手に伝わることなどない。天海山の前に出てくる新人たちは次々と天国課を希望してゆく。京子の手の平からこぼれ落ちていく期待の新人たち。今日の朝、あれほど元気よくハタキを振り回していた姿とは対照的にどんどんと肩が下がってゆき、しだいに涙目になってゆくのが分かる。そんな様子の京子に鬼渡は何と声をかけたらよいか分からず、顔をそらす。そんな京子の様子を見て薄ら笑みを浮かべる空谷。

 だが、そんな状況を10人目の人物の言葉がひっくり返す。




 「えっと……地獄課を希望しま~す」




 天海山の前に立ったその新人は他の新人とは明らかに異なる発音をした。



 「えっ!! ……じ、地獄課!? 今、地獄課って聞こえたよね? 鬼渡? 」

 京子は自身の耳で聞いた声を鬼渡に確認する。

 「はい……聞こえましたね……」

 鬼渡は京子の方に視線を向けずに問いかけに応えた。そんな鬼渡が見ている先へ京子も視線を向ける。そこにいた声の主はあの新人。周囲の新人とはどこか異なっている雰囲気の金髪の青い瞳をした女であった。

 京子はその新人も元へ駆け寄る。



 「……あの、本当に……いいの? その……地獄課で……? 」

 せっかく配属希望を出してくれたその新人の意向をわざわざ再確認した。

 「うん!! 」

 その新人は京子の問いかけに笑顔でうんと一言だけ頷いた。


 

 が、そんな新人の承諾を到底納得できない人物が大声で新人に詰め寄って来る。

 「ちょ、ちょっと!! そしら!! 一体どういうつもりなの!? 上品下生のあんたが ……あんな汚らしい罪人のいる地獄課を選ぶなんて。……あたしのいる天国課に来なさいよ!! 」

 新人に詰め寄って来たのは天国課課長の空谷であった。向かい合っている新人と空谷。その様子を見ていた京子は気がついた。




 (……あれ?? なんかこの2人……似てる?? )

 同じ金髪。どこかで見たような容姿だと思ったが、その姿は空谷に似ていたのだと京子は気がついた。そんな詰め寄って来た空谷に向かって新人は満面の笑みを見せている。

 慌てふためく空谷を見た京子は次第に笑顔を取り戻してゆく。空谷がこれほど焦って詰め寄る人材。きっと優秀な新人なのだろう。獲得した新人の数は大敗であるが、何故か勝ったような気がした。



 「う~~ん、でもなんか地獄課って楽しそうだし。……それに何より課長が面白そうだから!! 」

 「うんうん、そうでしょそうでしょ。面白そうでしょ!! 」(やっぱり想いってちゃんと伝わるんだなぁ。素直に自分の想いを話してよかった♪ )

 あれほどの光景を見て楽しそうという感想が出てくる、なんとも頼もしい新人である。ますます嬉しくなる。



 「だから……あたしは地獄課に行くね!! ごめんね、お姉ちゃん! 」

 「くっ……」

 新人の覆らない回答に顔を歪める空谷。その元凶であるかのように空谷は京子を睨む。そんな空谷に京子は今までの意地悪のお返しとばかりに声をかける。 

 「ふふっ、この新人が欲しかったんですかぁ? でも、ざぁんねん。『ごめんね、お念ちゃん! 』ですって。……ふふっ!! …………ん? お姉ちゃん? 」

 新人の放った言葉を反復して気がついた違和感。京子は新人の顔を見つめる。

 「そう、あたしのお姉ちゃん。あたしはそしら。天国課課長の妹の空谷そしらだよ! よろしくね、課長♪ 」

  


 「……えっ……ええ~~~~~~!? い、妹!? あ、空谷課長の!? 」

 京子は新人と空谷の顔を見比べる。……やはり似ている。瞳の色は空谷の橙色とは異なって青いものの、それいがいの特徴はよく似ている。

 「いやぁ……なんかお姉ちゃんから最近、新しく地獄課の課長になった人の話を聞いててさぁ。中品下生で現から来たばっかりなのにいきなり課長になって地獄を作るんだ~~とか言ってるんだって言うからどんな人か気になってたんだよねぇ~~」

 「えっ……ええ!? 」

 衝撃の事実に硬直する京子。その様子を見ていた鬼渡も京子同様に驚きで固まっている。



 空谷あまのたにそしら。空谷の妹だというその新人はどうやら姉から京子や地獄の話を聞いていたという。地獄の現状を姉から聞いて知っていたにも関わらず、素知らぬ顔で京子にあれこれ質問をしていたということのようだ。その意地の悪さはやはり姉譲りといったところであろうか。



 「でも、なんか思ったよりも頼りなさそうだね!! しょうがないからあたしも協力してあげるよ、地獄作り!! よろしくね、課長♪ 」

 「……あ、ありがとう……ございます。。」

 ひたすらにため口で話しかけてくるその堂々とした振舞いに京子は思わず敬語で謝意を述べた。こうして、地獄の現状を偽ることなく伝え、自分の素直な想いを述べた京子は新人の中で最も上位ランクである上品下生の空谷そしら(天国課長の妹)を獲得した。




 4月1日

 新人配属結果:

 天国課 9名

 地獄課 1名(空谷そしら)


 

 


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