表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
45/62

第45話 因縁対決、新人争奪戦!!(地獄編)


 未の刻。ここは地下11階。地獄である。



 先ほどの天国課の業務説明や見学が終わり、新人たちは地獄へやって来た。部長の天海山以外の者たちは新人たちと共に階段でわざわざ降りて来た。

 それは移動の間も大事な新人の勧誘のチャンスであるため。案の定、新人たちは地獄にくるまでの間にも空谷や天国課の職員たちに質問をしまくっていた。




 しかし、その長い長い下り階段の間にも京子や鬼渡に声をかけてくる者はいなかった。地獄課の説明も見学もしていないので当然といえば、当然である。

 が、説明の順番ですでに大きく不利な状況になった。

 (……なんとか挽回しなくっちゃ……)





 ♦  ♦  ♦






 こうしてようやく新人たちを地獄へ連れて来た京子。何としても地獄課に興味を持ってもらいたい。

 「じゃ、じゃあこちらへどうぞ~~」

 気合を入れて新人たちを案内する。もっとも本当の地獄には罪人が我が物顔でのさばっている。そんな危険地帯に新人を放り込むわけにはいかない。そのため、京子は天国課のようにまずは地獄課の安全な室内に招く。


 

 昔ながらの机と椅子の配置。そんな古臭さを少しでも軽減するために京子は一生懸命その机と椅子を使ってオシャレな配置を作って用意していた。その席に新人と随行の天海山や空谷、空谷が連れて来た4人の天国課職員が着く。本来の並べ方をを大きく変えられ、円状にぐるっと並べられた長方形の机たちは互いの角によってその距離を遠ざけあっている。



 「え~~、そして調査省の調査書を元に地獄行きが決定した者たちが三途の川を渡ってこの地獄に来るわけです。そしてここでは罪人の犯した罪に応じてそれぞれの地獄によって裁くという業務を行って……い、ます」

 京子は皆の前に立ち、地獄課の業務を説明する。が、その言葉はたどたどしい。当然である。京子自身がここへ来てまだ1月ほど、地獄はあるにはあるが裁かれているとは言えない状況。ましてやそれぞれの地獄と説明したその地獄は、閉じられたままの地獄の門もその先の地獄……閻魔である京子でさえも未だに見たことのない地獄である。



 「……あの~~」



 京子が地獄に関する説明をしていると1人の新人が挙手した。あの金髪の青い瞳をした新人である。

 


 「あっ……はい! 何でしょうか? 」

 挙手をしてこちらを見つめるその新人の方を見る。

 「今の説明で話してたそれぞれの地獄ってどんな地獄なの? それって見られるの? 」

 青い瞳の新人は京子に質問する。



 (……あれ? なんでタメ口?? )

 その新人に対してそう思ったが、せっかくの質問。大抵の新人が興味なさげにしている中で出たせっかくの質問。京子はその質問に丁寧に回答する。




 「え、えっと……それぞれの地獄っていうのは八大地獄という地獄です。その八大地獄はさらに八熱地獄と八寒地獄の2種類に分かれていて、罪人はその地獄によって裁かれる……っよていです。。」

 新人の質問にはっきりと答えたかったが、語尾が自然と小さくなる。やはり、実際の地獄との乖離がある説明に抵抗がある。




 「ふ~~ん……なぁんだ、見せれないんだ……。本当はそんな地獄ないんじゃないのぁ……ふわぁあ……」

 京子の回答に対し退屈したのか、その新人は身体を後ろへのけぞらせて、両腕を後ろに伸ばす。と、




 『バサバサバサっ!!! ガサッ!! 』




 新人の背後の棚につめこんでいた罪人の調査書の入ったファイルがゴトゴトと音を立てて崩れ落ちた。



 「あっ!! 」

 思わず声をあげる京子。その落ちたファイルを拾い上げて、青い瞳の新人はその中身を確認する。

 「ふむふむ……殺人……窃盗……ご、強姦。。 へぇ~~、こっわ~~い。 こんなヤバいのが地獄にいるんだね~~。 ほらっ、見てこれ!! 怖くない?? 」

 そう言って青い瞳の新人は左右の席の新人にその調査書を見せびらかしている。

 ……見られた。新人への業務説明会で一番見られたくなかった罪人のリアルな罪状。当たり障りのない説明していたものを。



 「……うわぁ……」



 「こわっ、……顔もすごく怖い」


 

 数刻前まではあんなに目をきらきらと輝かせていた新人たちの顔が見る見る絶望の表情に変わってゆくのが見て分かる。




 「あっと……そ、そういう人も……極々たまに……い、います。で、でも……そうした人たちを地獄でしっかりとさ、裁いて……次の輪廻に送ることができる……やりがいが……あ、ありま~~す!! 」

 明らかにヤバい空気になっていたが、横にいる鬼渡に小突かれ、慌ててフォローする。ここで地獄が恐怖しかない場所であると思われればもはや新人獲得は絶望的……何とか業務のやりがいをアピールしてゆく。 



 「……ふ~~ん……」



 「そうですかぁ……」



 が、すでに新人たちの地獄課への興味は薄れていた。 


 

 (ぐっ……あの新人……余計なことを~~!! )

 京子は余計なことをしてくれた青い瞳の新人の方を見た。新人は悪びれることもなく、呑気に他の罪人たちの調査書をぺらぺらと確認している。

 (……あれ? でも、この感じどこかで味わったような?? ……まぁ、いいか。。)

 今のこの状況によく似た状況を体験したことがあるような気がした京子であったが、そんなことよりもまずは目の前の新人たちの獲得が最優先。ふつふつと込みあがる怒りを鎮めた。



 地獄課の部屋を出て、次に案内するのは先ほどの天国課のように現地の見学。つまりは地獄の見学……といいたいが、今の地獄はほとんど無法地帯状態。そんな場所に大事な新人たちを出すわけにはいかない。





 ♦  ♦  ♦





 「こ……ここが、じ……地獄で~~す……」

 京子は天空省と地獄をつないでいる出入口へ新人たちを案内した。出入り口付近からはわずかにその外にある地獄の様子を伺いことが出来る。荒々しい大地、ごつごつとした大きな岩が周囲に確認することができる……が、幸いなことに入口から見える範囲には罪人の姿は見えない。

 


 (よ……良かった。。)

 天空省の安全な建物の中から見える範囲の地獄を見てもらいつつ、京子は新人たちとの共通の話題を探る。

 「こ、この景色は皆も見覚えがあるんじゃないかな? ……ほらっ、最初に章に来たときに三途の川からここに来たんじゃないかな? 」

 京子は死んでから三途の川を船で渡ってこの地下の天空省の入口から章へやって来た。そんな一月ほど前の記憶を思い出しながら皆に話しかける。

 しかし、周囲の新人たちは皆、不思議そうな顔をしている。




 「えっ……こんな汚い場所……来たことないです」



 「……え?? 」


 

 「私も……章に来た時には三途の川なんて渡らないで、気がついたら章の街にいましたけど……」



 「あれ……そ、そうなんだ……へぇ~。。」


 

 話が合わない……。どうやら、京子が死んでから章へやって来た道のりは特殊だったらしい。会話のネタがなくなり、次の話題を考えていると視界に3つの影が遠くから近づいて来た。



 (うわっ!! や……やばっ!! )

 京子は慌てて見学会を打ち切ろうとした。……が。

 「あれ~~? 何だろうあの人たちぃ? 」

 京子がそのとぼけた声の方を見ると声の主はあの青い瞳の新人。その声によって他の新人たちも京子同様に目の前からこちらへ近づいてくる罪人たちの存在に気がついてしまった。そうこうしているうちに罪人たちは見る見るとこちらへ近づき、10mほどの距離までやって来ていた。



 「……なんやぁ、ありゃ? ……おっ!! 女じゃぁねぇか……」

 「おお……女だ……女だ……」

 「ぐへっ……ぐへへっ……へへ……」

 3人の罪人たちもこちらの存在に気がつき、そしてニタニタと不気味な笑みを浮かべている。



 「……うわぁ……」

 「何……あれ……きもっ」

 その視線を浴び、顔をしかめている2人の新人たち。その様子を見た京子は思わず鬼渡の方に顔を向け、そして両目を見開いて心の中で思った。


 

 (何故、地下に追いやっていない!! ……鬼渡~~!! )  

 京子はあえて心を読ませた。

 「……えっ!! いや、……あの。。」

 理不尽な要求である。鬼渡は餓鬼課所属にも関わらず、朝から京子に付き合って業務説明会に参加していた。そんな中で地獄のヤバそうな罪人を1人で下層へ追いやるなど不可能である。

 それは京子にも十分に分かっていた。分かってはいたのだが、行き場のないこの怒りを鬼渡へぶつけた。



 罪人たちの登場は京子にとって最悪だった。とは言えここは地獄。罪人がいるのは当然ではある。目の前に見える罪人たちはなおもこちらに好奇の視線を向けている。新人は10人。が、少なくともその視線に嫌悪している新人の地獄課配属の可能性が消え去ったことを京子は悟った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ