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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
44/62

第44話 因縁対決、新人争奪戦!!(天国編)


 4月1日。いよいよ決戦である。



 今日は今後の現の未来を決める決戦と考えても過言ではない。今日入ってい来る新人がこれからの地獄を作り、それが未来の素晴らしい地獄へとつながっていくのである。京子も気合十分である。今日のために用意した洗い立ての閻魔の赤服に身を包み、いざ、出勤である。



 辰の刻よりも少し前、京子は鬼渡と共に地獄課の室内の机や椅子、床をせっせと掃除していた。


 

 「……よしっ、こんなもんかな……じゃあ、行くよ鬼渡!!」

 「えっ……俺も行くんすか? 」  

 両手に雑巾とハタキを持った鬼渡は露骨に嫌そうな顔をする。 



 「当たり前じゃん!! 今日は今後の地獄にとって大事な日なんだよ? 鬼渡もあたしの大事な部下じゃあないかぁ!! だから一緒にこの戦いに勝って期待の新人をもぎ取ろう!! 」  

 京子は嬉しそうに左手に持ったハタキを掲げて左右にぶんぶんと振り回す。すでに新人を獲得できたかのようなテンションである。せっかくハタキで捕えたホコリがはらはらと落ちる。




 「俺、餓鬼課所属っすけど……あとホコリが落ちるんでやめてください……」

 京子の落としたホコリを再び集め、掃除を終えた2人は1階まで上って来た。今日の新人配属の予定は辰の刻丁度から天国課の業務説明および見学、そしてその後に地獄課の業務説明および見学である。一連の予定には天国課、地獄課の両課長は随行することになっている。

 そのため、京子も今から70階の天国課を目指す。






 ♦  ♦  ♦





 「……ということで、おぶって!! 鬼渡♪ 」

 両手を鬼渡に向かって前に目一杯のばす。




 「……はぁ、またこれっすか……だいたい何で俺が……」

 「……じゃあいいよ。京鬼になって上に行くから……」

 「うっ……わ、分かりました……運びますよ……」

 京子は京鬼に身体を任せて吹き抜けから上に行くという選択もできた。……が、京鬼の言葉を出したのは自身の身体で上がるためというよりは鬼渡に連れて行ってもらうためであった。

 京鬼は京子の別餓鬼格であるが、その性格は京子以上にハイテンション。そんな京鬼に朝からまとわりつかれてはうざくて仕方ない。故に京子の予想通り、鬼渡は70階まで連れて行ってくれた。





 ♦  ♦  ♦






 70階に到着すると、天海山のいる部長室に入った。



 そこには部長の天海山……そしてその横には部長の通訳者であると思われる人物が1人。その他には天国課の空谷課長にその周囲を囲む天国課の職員であろう4人。そして部屋の真ん中には団子のように丸くまとまっている集団がいた。



 (わぁ……あれが新人かぁ……♪ )

 部屋に入って一目でわかった。どこか落ち着かない挙動、部屋の真ん中から伝わって来る緊張感。平然を装っていても伝わってしまう初々しさがその中央にはあった。全部で10人、その全員が動物でもなく、おぞましい容姿の修羅でもなく、角もない人型であった。その内訳は男が5名、女が5名の半分ずつ。


 

 (うんうん……いいなぁ。楽しみだなぁ……あの中から地獄課に来てくれる新人が……ふふっ)

 初々しいことは確かであるが、京子がその集団が新人だと分かった理由は他にある。



 「……はぁ……はぁ……も、もうむ……無理ぃ~~」



 「はぁ…………はぁ……つ、疲れた~~……」



 その集団の多くはすでに息絶え絶えであった。それは彼らがここまでの道のりをあの鬼畜階段でやって来た証拠でもあった。



 そんな初々しさとは程遠い自信と余裕に満ちた空気の先に京子は目を向ける。そこには今日の勝つべき敵……京子の宿敵ともいうべき空谷が笑顔を向けている。その顔はすでに勝ちを確信している表情である。




 (むむっ……絶対に負けないんだから!! )

 「それではこれから新人の配属を決定するための各課の業務説明および見学を行います。まずは皆さんが配属される予定の天国課、地獄課の課長の紹介です」

 天海山部長の横の人物に促され、前へ出る2人の課長。




 「天国課の空谷そみれです! 本日は私の所属する天国課の業務内容を皆さんにご説明します。よろしくお願い致します♪ 」 

 「じ……地獄課の日下京子……です。本日は私が所属している地獄課の業務内容を……せ、説明します。……よろしくお願い致します……」

 自信に満ち溢れた自己紹介をする空谷。一方できょどっているのか、何か後ろめたさがあるのか、どこか挙動不審な印象を受ける自己紹介をする京子。

 赤の和服と白の和服の2人の女。すでに勝敗はついたようにも思える光景である。



 が、一途の望みをかけ、因縁の対決が始まった。






 ♦  ♦  ♦





 「……さっ、ここが天国課です」

 最初は空谷の案内によって案内された天国課の業務説明である。

 70階の天国課の室内。そこは最初にあいさつ回りで来た時のように相変わらずのオシャレ空間であった。オシャレな机やイス、職員たちはきらきらと仕事をしている。


 


 「うっわぁ~~……」



 「すごい……素敵」



 新人たちは初めて京子が天国課に来た時と同じような反応をしめしている。当然と言えば当然である。ここは天国課。天空省の中でもダントツで人気の部署である。そんな人気部署に入れるチャンスがあるというここに集まった新人。彼らは実に幸運である。……が、その背後にはそんな未来明るい彼らを地獄へ誘おうと赤服の人物が虎視眈々と見つめている。



 空谷に案内され、新人たちはオシャレな椅子に腰かける。その後方にある残りの席に京子と鬼渡も腰かける。

 「はいっ、どうぞ!! 」

 その席へ空谷と共に説明会に参加している職員によって美味しそうな桃が並べられる。



 「うわあ……おいしそう」



 「ありがとうございます! 」



 提供された桃に上機嫌になる新人たち。彼らがまとっていた緊張感が一気に脱ぎ捨てられた。

 (うっ……ず、ずるい……あれってありなの!? ……こんな……こんなおいしい桃を差し出すなんて……)

 『もぐもぐ……』

 新人たちへ提供された桃と同じものが提供された京子は桃を口に運びながら前方にいる空谷を見続ける。 





 ♦  ♦  ♦






 「天国課は優秀な職員の方が多いのでとても働きやすいです。また、自分が現で頑張って来た方々のつかの間の幸せを作っているんだというやりがいをとてもかんじながら働いています。私の現在の主な業務は……」

 桃を食べながらざっくばらんに天国課の業務内容の説明がおこなわれ、続いて天国課の先輩職員が新人のみんなの前で天国課の魅力や業務内容を説明する。



 (……そんな魅力語らなくたって……もうすでに魅力的でしょ……)

 京子は椅子に座りながら後ろで新人たちに混ざって話を聞くふりをしながら考え込む。一緒に話を聞いて天国課を羨ましがってしまわないように……。



 天国課の業務を聞いている新人の中で京子には気になっている人物が1人いた。

 金髪に大きな青い瞳。青い和服に身を包んではいるものの、その見た目は海外の人物のようである。話を聞いている新人の中でも彼女はひと際異質で目立っている。意識しなくても無意識に視界に入ってきてしまうほどに。




 (……なんだろう、あの子? 外国人? )

 京子がその人物に気をとられていると椅子に座っていた人々は立ち上がって移動し始めていた。

 「あっ!! ……はむっ!! 」

 京子は目の前の残りの桃を平らげると急いで後を追いかけた。






 ♦  ♦  ♦





 「そしてここが……天国です♪ 」

 空谷は笑顔で新人たちの方を振り返る。



 「うわぁ……き、綺麗……」



 「す……すげぇ」



 ここは天空省の69階。京子たちは先ほどの70階の天国課から1つ下の階に来ていた。が、その光景はまさに絶景である。

 眩い光、晴れ渡った青々とした空、辺り一面は花畑である。それはまさに物語や絵本で見る天国であった。天空省の建物内にも関わらずこの景色、それは畜生課でも同じであった。しかし、畜生課とは明らかに違う点があった。



 「ひ、人が……と……飛んでる……」 

 そう、その違いは目の前の人々。地面を離れ、宙をふわふわと飛んでいる人々である。その背中には羽が生えている。空谷に生えているものとよく似ている天使のような羽が。彼らはその羽を使って空中でクルリと一回転したり、木に実っている桃をもぎ取り、それを頬張ったりしている。




 「うわぁ……すごい……」


 

 「きれいだなぁ……本当に天国ってあったんだ……」



 新人たちはまたも目の前の光景に感動している様子である。


 

 その様子を見た空谷は気をよくしたのであろうか。新人たちの目の前にいたその足を1歩、2歩と下げる。そして周囲に空間が出来た途端、背中の羽を左右に勢いよく広げた。




 『ばさっ!! 』




 「おおっ~~~~!! 」

 音を立てて、勢いよく広がった羽に周囲からは感嘆の声があがる。その羽は周囲を飛んでいる人々の持つ羽よりもはるかに大きい。その姿はまさに大天使といったところであろうか。

 そして空谷は目の前の人々と同じように空中にふわりと浮かび上がるとそのまま10mほど上空まで一気に飛び上がった。




 「うわぁ~~、すご~~……」



 「か、かっこいい……」



 新人たちの注目が一気に上空の空谷に集まる。新人たちの後ろをついて来た京子や鬼渡の存在などもはや誰も気にしてなどいない程に……。


 

 (うっ……く、悔しい~~~~!! )

 そんな上空でみんなの注目を集めている空谷を見て悔しがっていると京子は誰かに見られている視線を感じた。その気配の方に目を下ろすとそこには先ほど京子が見とれていたあの大きな青い瞳の新人がこちらを見ていた。皆が空にいる空谷を見ている中、その女は何故か京子を見つめていたのである。

 が、京子の視線に気がつくとその女は他の新人と同じように空を見上げた。




 (……なんだろう? あの子、今……あたしのこと……見てた?? )

 大きな青い瞳の新人を見ていると、京子の頭上に空谷の声が響いてくる。 

 「天国課に配属された職員にも同様に天使の羽が貸与されますから職場までの通勤も楽です。ですから皆さんはどうぞ安心して天国課への配属を希望してくださいね~~~~? 」

 「……え!? な、なんじゃと!? 」

 


 70階までの通勤が大変という天国課の数少ない欠点が打ち消された。新人たちの心象に残ったのはオシャレな職場に美味しい桃、そして天使の羽。

 たくさんの魅力ある光景を目にし、目をきらきらと輝かせている新人たち。……が、そんな希望に満ちた新人たちはこれから背後にいる赤服の女によって地獄へと落ちてゆくのであった。





 

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