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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
43/62

第43話 春だよ! 新年度だよ!! 期待の新人だよっ!!!


 3月25日。本日も朝から六課長会議である。



 今週は色々なことがあった。炎鬼、氷鬼との力比べ。京鬼の出現。その欲望との戦い。週末になった京子の今の身体はくたくたであった。階段を上ることなく、1階の吹き抜けから上を見上げる。



 「餓鬼型になれば……鬼渡みたいにここから行けるのかなぁ? 」

 そう、京子は京鬼の欲望と折り合いをつけ、見事に餓鬼型を会得した。……が、その所有権は京鬼にある。ここで京鬼に頼めば、上まで駆け上がってくれるかもしれない。そう考えていた。



 (……ふふっ、ここから上ろうとしてるさね? こんなところを上がっていくのは京子には無理さね。でも、あたいがここから上まで連れて行ってもいいさね) 

 そんな京子の欲を感じ取ったのか、京鬼が話しかけて来た。あれから京鬼と意識の中で会話をしてすこし仲良くなった京子は京鬼に名前で呼んでもらえるようになった。



 (ほ、本当か!? )

 (もちろんさね……その代わり、京子はあたいに今日1日身体を貸すさね。それが条件さね)

 が、京鬼が提示した条件は丸1日の身体の所有権。だが、そんな条件を飲んでしまえば京鬼の中で意識がなくなる京子は上がった後の会議に出席できない。




 (だ、ダメ!! 今日は年度末だし……なんか大切な話がありそうな気がするし。それに京鬼は会議の内容なんて分からないでしょ)

 京子は京鬼の提案をはねのけた。

 (そうさね……じゃあ、頑張って階段を上るといいさね。。)

 そう言うと京鬼は京子の中に身をひそめてしまった。



 「あっ!! ……はぁ、しょうがない。階段を上ろう……いつも通り……」 

 京鬼がいなくなり残された人型の京子は結局、朝から最上階の76階を目指した。





 ♦  ♦  ♦





 「……はぁ、……はぁ。……ふぅ……やっと着いた」

 いつものように息絶え絶えである。

 




 「おはようございま~~す」

 部屋には天海山と亜修羅、馬面の3名がいた。今日は珍しく馬面が着ぐるみを着ていなかった。その代わりに気になる物が頭の上に乗っていた。

 (何だろう?……カエル? )

 「おう、日下……ちょっと来てくれ」

 馬面はふすまを開けて入って来る京子の姿を見るなり、自分の方へ手招いている。



 「な……何ですか?? 」

 「これを見てくれ」

 馬面はそう言うと自分の頭の上の乗っているものを机の上に乗せ換えた。




 「何ですか、これ……カエル? でも、羽がある」

 そう、その机に乗った生き物。見た目はカエルのようである。だが、その背中にはトンボが持つような形状の羽らしきものが付いているのだ。

 「ハネカエルだ。実は今、畜生課では新種の生物を考案中なんだが俺は章に来て長いから今の現の感覚って言うのがよく分かんねぇ。お前は最近まで現にいたんだよな? 」

 「えっ、そうですね……3月3日までいました」

 死にたてほやほやの京子は答える。

 「そうか!! ならこの実験にぴったりだな。早速だが、このカエルめがけて拳を振り下ろしてくれ」




 「え……ええ!? そ、そんな!! 可哀想じゃないですか!? 」

 目の前にいるそのカエル。見た目はアマガエルほどの大きさで目が少し大きい。見た目も少し愛くるしい見た目である。拳で潰すなどできるはずはない。京子は拒否した。

 「大丈夫だ、問題ねぇ。良いからやってくれ!! 」

 「う~~、分かりましたよ……」(ごめんね、カエルさん!! )

 京子は言われた通り、拳をカエルに向けて振り下ろす。が、カエルが死なないように加減はした。


 


 「……あれ?? て、手が……」

 だが、京子の手はカエルに触れる直前で突然止まり、動かなくなった。

 


 『ギギ……グギギ……バン!! 』



 「ふわぁ!? 」

 かと思ったその拳はカエルとは反対の京子の顔めがけて飛んできた。自らの顔を殴り、後ろに倒れる京子。 

 




 「な……何ですか?……今のは」

 「こいつは羽蛙ハネカエルだ。今の現は生存競争が激しい。特に魚類、両生類は他の生物に狙われやすいだろ? つうことで作ってみたんだ……どうだ? こいつは羽があるから外敵からも飛んで逃げられる。そして今みたいに身に危険が及ぶとその攻撃を相手に跳ね返すんだ。こいつは現に送り出しても問題なさそうか? 」



 馬面の表情が珍しく明るい。おそらく自信作なのであろう。が、今の現にこんな生物が放たれては世界中がパニックである。たちまち学者に見つかり研究材料にされ、血眼になってこの奇妙な蛙は乱獲されて絶滅してしまうだろう。

 「えっと……その……羽があるカエルって言うのは……今の現にはいないんで……大騒ぎになっちゃうと……思います」

 やんわりと断った。問題は羽があることではなかったが、京子はやんわりとお断りした。 

 「……そうかぁ。う~~ん、なかなか難しいなぁ……。よしっ分かった。ありがとうな、日下」

 「い、いえ……お役に立てて……良かったです。。」

 畳の上に転がったまま京子は馬面の謝意に答えた。

 





 ♦  ♦  ♦






 それからしばらくして空谷、琴流が集まり、定刻通り会議が始まった。





 「え~~、では3月最後の六課長会議を始める。今日は4月1日に天空省に配属になる新人の配属先に関する議題だ」



 (……ん? し、新人!? )

 京子は手元に配られていた資料をよく確認する。



 「今年天空省へ配属される新人は全部で10名。名前や性別に関しては先入観を持たぬよう伏せてあるが、新人のランクはその紙の記載の通りだ」

 京子はその紙を凝視する。そこに書かれているランクは、



 上品下生

 中品上生

 中品上生

 中品上生

 中品上生

 中品上生

 中品上生

 中品中生

 中品中生

 中品中生



 すべて京子のランク中品下生よりも上、さらには1つだけ上品の新人がいる。



 (ほ、欲しい~~!! )

 ランクもさることながら今の地獄課は人手不足が過ぎる。とにかく新人が欲しかった。




 「ということでその10名を天空省のどこかの部署に採用するわけだが、必要な部署は手を挙げてくれ」


 「はい」

 「はいはいっ!! 」

 室内には2つの声が室内に響く。その声の主たちは互いに声のした方を見る。空谷と京子である。互いに相手を威圧するかのように立ち上がる。



 「ちょっと……日下さん? どうして手をあげてるのかしら? 」

 「ど、どうしてって……新人が欲しいからですけど。そっちこそ、何で手を挙げてるんですか? いっぱいいるじゃないですか……部下」

 京子の問いかけに空谷は顔を横にそらし、ほくそ笑んだ。



 

 「天国課はより良い天国を作るために来年からさらに色んな業務が増えるのよ」

 「そ、そんなの地獄課だって同じですよ。地獄の門が開いたら地獄だって忙しくなるんだから……」

 来年度から忙しくなるのは地獄課も同じ。京子は空谷に反論する。




 「はぁ……本当に新人が地獄課なんかの配属を希望すると思ってるの? あんな罪人が野放しになっているような野蛮で下劣で劣悪な環境……新人が希望するわけないじゃない。分かったらさっさとその身の程知らずにあげてる恥ずかしい早く手を下ろしなさい」

 「なんじゃと!? 」

 またもや空谷の挑発に乗る京子。




 「も、もう許さん!! 絶対に新人を地獄課に引き込んで見せるんだから。部長、お願いしますね!! 新人が10人来るんなら5人は地獄課、いや8人は欲しいです、私1人しかいないし。良いですよね部長? あれ……部長? 」 

 京子の問いかけに天海山は無反応である。

 「まぁまぁ、落ち着け2人とも。とりあえず新人の配属を希望する部署は天国課、地獄課だけで良いか? 」

 亜修羅は小競り合う2名の課長以外の課長に確認する。



 「ふ~~ん、新人かぁ……まぁ俺の部署には必要ねぇな。職員は足りねぇけど新人が来ても役に立たねぇだろうしな」

 「私のところも今年は職員も足りてますし、大丈夫です」

 「うむ。……では、新人の配属部署は天国課と地獄課のいずれかとする。続いて今週の各課の業務報告について……」

 (うわぁ……新人かぁ。楽しみだなぁ。。) 

 会議はまだ始まったばかりであるが、最初に新人が来ると分かった京子の心はそれに関心が奪われ、会議中は上の空であった。 





 ♦  ♦  ♦





 地下11階、地獄課。

 京子はいつもよりも軽い足取りでルンルンと地獄課まで戻って来た。



 「鬼渡~~、聞いてよ!! すごい、すごいよ!! ……あれ、いないや。。」

 会議後、すぐに鬼渡に喜びを報告したかったが、鬼渡は餓鬼課にいるようで未の刻までは1人で過ごした。





 ♦  ♦  ♦





 未の刻。鬼渡が餓鬼課から戻って来た。

「鬼渡~~~~~~!!!! 聞いてよ~~~~~~~~!!!! すごい、すごいよ~~!!!! 」

 1人でため込んでいた喜びが爆発する。



 「どうしたんすか……ていうか何も見えないっす」

 嬉しさ余って京子は地獄課の入口まで走り、鬼渡の顔に課長会議で配られた紙を押し当てていた。





 「なんと4月に天空省に……新人が来るんだってさぁ!! しかもすごいよ、ほらっ……これ!! みんな中品中生以上なの!! しかもさぁ、ここ!! この人は上品だって!! すごくない!? すごいよね!! 」

 「へぇ、そうっすか……」

 鬼渡は京子の喜びとは対照的で冷静に紙を顔からのけて、地獄課の空いている椅子に座った。



 「ちょっと、なんか冷めてないか? もっと喜ぼうよ。期待の新人だよ!? 」

 「いや……そんなランクの人たちが地獄課に来てくれるんすかね……って思っただけっす。あんまり期待すると後のダメージがデカいっすよ」




 「うぐっ……でも、中品中生の人もいるし……。それにさぁ、欲しいって言ったもん、新人。部長にちゃんと欲しいって言ってきたもん!! 」

 子どものような言い分である。欲しいと言ったからと言って手に入るわけではない。欲しい人材が来ないと嘆いている管理職のなんと多いことか。享年32歳の女は知るべきである。




 「でも、ここじゃあ、働く部署を決める権限は新人にもありますから。だから部長にいくらお願いしてきても無駄っすよ」

 「だ、大丈夫だよ……10人も来るみたいだし。希望したのは天国課と地獄課だけだし……何人かは来るっしょ!!」

 「いえ、10人全員が天国課に持ってかれる可能性は大っすね」

 「えっ……ま、マジ? 」



 「マジっすよ。だってありますか? 地獄課にアピールポイントって? 」

 「あ、アピールポイント?? って言われても……なぁ。あっ!! 」

 鬼渡に地獄課のアピールポイントを尋ねられ、あれこれ考え、絶好のアピールポイントを見つけた。




 「あるじゃん!! 桃次郎たい……」

 「いや、ダメっすね……全然ダメっすね。いると思います? 桃の木よりも桃次郎退治を希望する新人が。どうせ所望するなら『地獄にのさばる強面の桃』よりも、『天国に実ってる美味い桃』でしょ。そんなの口が裂けてもアピールしないでください、絶対に言わないでください」

 全部言い終わる前に言葉を遮られた。

 「うっ……そ、そっか……」



 「あんまり余計なことは言わずに無難な説明に徹しましょう。罪人を裁いて次の輪廻の輪に正しく送り出すことが出来るやりがいに溢れた仕事内容です。とかにしましょう……あとは、人数が少ないから……アットホームな感じの温かみのある職場です……的な感じっすかね。そうすれば、もしかしたら奇跡的に1人入るかもしれないっすから」

 やりがい、アットホーム。人を集めるために使われる常套句である。その言葉が真にふさわしい職場もあるが、そうではない職場にも適用されていることがある。

 


 「で、でもさぁ……桃次郎のことを言わないのはなんか騙すみたいでちょっと。。」

 「1人も来なくていいんすか? 新人」

 「うっ!! わ、分かったよ……」

 京子と鬼渡は紙と鉛筆を手に取り、現状確認のために天国課の弱点と地獄課の長所を紙に書き記した。





 ♦  ♦  ♦






 【 天国課の短所 】

 課長が性悪

 エレベーターは上品以上の者しか使えない


 

 【 地獄課の長所 】

 職場が地下11階で通勤が楽

 職員が少ないので早くから責任ある立場での仕事が出来る

 課長はバカだが、悪い人ではない



 「よしっ、こんなとこっすかね」

 「うんうん、良い感じじゃな!! 特にエレベーターが使えないで毎朝70階まで行くのはつらい。よく気が付いたね、鬼渡! 」 

 エレベーターなしでの70階までの階段上りはつらい。何度もそれを実体験している者だからこそ言える言葉である。

 



 「……でもさぁ、鬼渡君。この課長はバカだが、悪い人ではないの課長って……誰のこと? 」

 京子は笑顔で鬼渡を見つめて、問いかける。

 「えっ、あ!! やべ……が、餓鬼課長のことっすよ、餓鬼課長……職務放棄しててば、バカな奴だなって……」

 「嘘つくな~~!! どう考えてもあたしのことじゃろ~~~!! 」

 「あっ、く……首が……苦しいっす……か、課長~~……」




 京子と鬼渡は来る決戦の日。4月1日までに入念な勧誘方法を考えるのであった。






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