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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
40/62

第40話 渇く……飽くなき京鬼の欲望


 3月22日。昨日の炎鬼、氷鬼との戦いから1日が経過した。



 「あううっ……ううっ……な、何なのこれ……あたしが何したって言うのよぉ……鬼渡~~、何でこうなっちゃったのぉ……しかも、すごくお腹がすくし、すごく眠いんだけどぉ……」



 頭頂部の2つの角と赤髪が特徴の人物が地獄課の課長席の机に突っ伏している。その正体は京鬼である。京子の身体は炎鬼、氷鬼との戦いの後から元に戻らなくなっていた。

 ぱんにゃーのお守りの効果なのか、幸いにも京鬼が眠っているだけなのかは分からないが京子は京鬼の身体で京子として過ごせていた。



 「まさか、夢だと思ってたのが全部現実だったなんて……京鬼があたしの身体をとろうとしてるなんて……鬼渡~~、何でこんなことになったのぉ……」

 「ん~~、何でっすかね~~……やっぱり中品下生だからじゃないっすか? 」

 鬼渡は比較的課長席に近い机の椅子に腰かけ、何かを読みながら生返事をする。



 『すたすたすた……』

 「ふんっ!! 」




 『ごっすん!!! 』




 「いてぇ!!! 」

 「……え? 」



 適当な返事をした鬼渡の肩をいつものように軽くたたいた……つもりだった。が、椅子に座っていた鬼渡の身体はくるりと一回転して後ろにとんでいた。 



 「えっ!! な、何……これ。ご、ごめんね!! 大丈夫? 鬼渡!? 」 

 「いってて……気を付けてくださいって。今の課長の身体は餓鬼型なんすよ? いつものように叩いたら俺の身体でも吹っ飛びますって……」

 「あっ、そ……そっか。……ごめん」

 京子は肩を落として課長席へ戻る。鬼渡はそんな京子の元に何かを手に持ってやってきた。

 「あれから色々調べたんすけど、課長の身体が元に戻らないのはあの京鬼って言う餓鬼の欲望を抑えきれていないからだと思います」




 「よ……欲望?? 」

 「はい。餓鬼は欲望の生き物。常に何かを欲し、求めている。自分が欲したものは手に入れないと気が済まないんすよ。……だからその身体を使って自分の欲望をすべて満たそうとしてるんだと思います。今日だっていつもよりも腹も減るんすよね? 」

 「う……うん。今日はおにぎり20個も食べてきたのにもうお腹ぺこぺこで……」

 京子はお腹をさすりながら鬼渡を見る。




 「食いすぎっすね……でも、多分それが餓鬼の欲望っす」

 「そ……そっか。だからお腹がこんなに空くのか……」

 「だから、その空腹や眠気みたいに沸き起こる欲を堪えて餓鬼の……あの京鬼の力をそぎ落としていく。そうすれば多分課長の身体は元に戻るはずっす」

 「ほ……本当か!? 鬼渡!! 」

 京子は座っていた椅子からパッと立ち上がる。



 「はい、この図書館で借りた本に書いてありましたから……間違いないっす」

 そう言って鬼渡は右手に持っている本を京子に見せた。

 「あっ……そうなんだ……あ、ありがとうね。鬼渡」

 ……が、その情報源が図書館情報だと分かると再びそっと椅子に腰かけた。

 (……まぁ、他に解決法も分からないし……よしっ、頑張ってみよう)



 「よしっ、頑張るぞ……あっ……ううっ……」

 「あれ? ……課長?? 」

 鬼渡が課長席に座る京子を見ると、京子は頭を抱えて下を向いてしまっていた。





 「ま……まずい……、鬼渡……早く、す、鈴を……鳴らす……んじゃ……さね」

 「えっ!! ま、まさか……また餓鬼が? ま、待ってください……いま鈴を……」

 鬼渡が京鬼から奪ったぱんにゃーの鈴を鳴らそうと右手を出したその時、京子の手がその手に持っていたぱんにゃーの根付を奪っていった。



 「……鳴らさなくていいさね♪ 」

 そう言うと目の前の京子は鬼渡の持っていた根付を奪ってにっこりと笑っている。

 「お前……餓鬼か? 」

 「あはっ!! 烈火♪ また、会えて嬉しいさね!! でも、あたいのことはちゃんと京鬼って名前で呼んで欲しいさね!! 」

 「いいから早く身体を課長に返せよ」

 鬼渡は京鬼との再会にも全く笑顔を見せることなく、京鬼を睨む。



 「ん~~……嫌さね! というか、烈火は何でこの女にそんなに拘るさね? あたいの方が身体も頑丈だし、強いさね♪ あたい知ってるさね。この女と烈火で桃次郎って奴を倒して地獄を制圧しようとしてるって」




 『シャン!! 』




 「それはお前には関係ないだろ……」

 そう言うと鬼渡は京鬼の左手からぱんにゃーの鈴を素早く回収した。 

 「んん~~~~!! 関係ないことないさね……だってこの身体はもうすぐあたいのものになるさね? 新しい身体の持ち主であるあたいとは仲良くしておいた方がいいさね!! れ~~っか♪ 」

 京鬼は椅子から立ち上がり、背伸びをすると右手で鬼渡の鼻先をつついた。



 「か……身体がお前の物になるって……どういう意味だよ? 」

 鬼渡は京鬼の言葉に少し動揺している様子である。

 「ん? 分からないさね? あたいはついさっきまで眠ってた……なのにこいつの身体は元に戻ってないさね。それはこいつがあたいの欲望を抑えられていない証拠さね」

 「あっ……」

 その言葉を聞いて、鬼渡は先ほどの京子の言葉を思い出す。

 (課長……朝におにぎり20個も食っちまってたんだっけ……)



 「ふふっ、そんな奴が起きた状態のあたいの欲望を抑えられるわけがないさね……。だから、もうこの身体はあたいのも~~の♪ さっ、だからあたいと仲良くするさね、烈っ火!! 」

 そう言って京鬼は両手を広げて鬼渡が来るのを待っている。

 「うるせぇよ……課長はお前なんかに負けねぇよ。さっさとまた眠りな……」




 『シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン!!!! 』

 



 鬼渡は右手の鈴を大きく鳴らし始める。

 「うっ……っ……う~~ん。まだ、仲良くなるには……早い……ね。……まぁ、いいさね……これから、まだまだ時間は……いっぱい……あ……る……」





 『ガシャアアアアアン!! 』





 「か……課長!? 大丈夫っすか!! 課長!! 」

 ぱんにゃーの鈴によって京鬼が眠ったその身体はその操縦者を失い、京子の身体は地面に崩れ落ちた。





 ♦  ♦  ♦





 「んっ……う~~ん……こ、こは? いっ……いたたっ……な、何……これ? ……そ、それに……ここは? 」

 目を覚ました京子の目の前に見えたのは部屋の天井。それは普段からよく見ている自分の家の天井であった。

 



 「あれ? ここってあたしん家じゃん。……あたし……さっきまで地獄課にいたのに……それに……鬼渡…………は? 」

 だんだんと意識が鮮明になり、京子は先ほどまで自分が地獄課で鬼渡と話していたのを思い出した。そして、部屋の壁にもたれて座った状態で目を閉じている鬼渡が見えた。どうやら眠っているようである。

 「あっ……いた……」

 京子が鬼渡に視線を向けると鬼渡もまた、目を覚ましたようで顔を京子の方へ向けた。



 「あっ……起きたんすね、課長」




 (……あれ? ちょっと待って……な、何であたしの家に……鬼渡が? ま、まさか!! )




 「お、お前!! な、何であたしの家に……」

 京子は横になっていた身体を起こし、鬼渡に向かって叫んだ。



 「いや、あの……俺の家っす……ここ」

 その鬼渡の冷静な対応に京子は一度落ち着き、室内をよく確認した。

 「あっ……」

 部屋の中には小さな机や本棚、掃除機などがおいてあった。そして、京子の身体の下にあったのは布団。そこは生活感のある空間であり、生活感ゼロの……何もない京子の部屋ではなかった。



 (な~~んだ……良かっ……ないでしょ!! ……えっ……ええ!? な、なんであたし……鬼渡の家にいるの? しかもこの身体の痛み……もしかして……)

 嫌な予感がした京子は鬼渡に尋ねる。




 「あ……あたしにな、何かし……したか? 」

 京子は目の前であぐらをかいている鬼渡に尋ねる。すると鬼渡は気まずそうに顔を京子からそらした。




 「えっ……。あ~~、っと……その、すんません……つい、その……我慢できなくって」 

 その言葉に京子の顔は見る見る青ざめてゆく。餓鬼の状態で頭髪が赤いのでその青ざめ方も一段と分かりやすい。

 (まさか……そんな……普段から覇気のない感じで無欲な感じだったのに……やっぱり本心は他の餓鬼と同じような感じだったって……こと!? )

 「うっ……うわぁ!! 」

 京子は横に置いてあった枕を鬼渡めがけて思い切り投げつけた。自分が餓鬼型であることを忘れて。





 『パァアアアアアアン!!! 』




 「いてっ!! 」

 枕が勢いよく弾けた。中のそば殻が部屋一帯に散乱した。だが、そんなことはどうでもよかった。


 

 「見損なったぞ~~~~、鬼渡~~~~~!! まさかお前がそんな奴だったなんてぇ!! そ、それにこの行為は不邪淫戒違反じゃろぉ!! 地獄行きじゃあ……お前も……地獄行きじゃあ~~!! 」

 あたりに散らばるそば殻すら気にならない程に取り乱しまくる京子。頭を左右に振り、頭頂部の2本の角を振り回す。



 「あっ、あの!! たしかに俺が悪かったっすけど……仕方ないじゃないっすか!! 」

 「し、仕方ない!? ふ、ふざけるな!! 我慢できなかったから……あたしが魅力的だったからとでも言いたいのか!? お前は!! 何が京鬼の欲望を堪えろじゃ!! お前こそ、欲望を抑えきれなかったとんだむっつりすけべ餓鬼だったということか~~!! 」

 両手で握りこぶしを作り、それを胸もとで構えた京子は鬼渡を力いっぱいに睨みつけた。




 「……で、でも……課長が京鬼になって俺にしつこくすり寄ってきたんで……俺も最初は我慢してたんすけど……あまりにも何度も何度もすり寄って来たんで……つい……その。顔面を2、3発……殴りました……すんません」

 「…………えっ」

 鬼渡の説明を聞き、途端に構えていた拳をほどく。そして身体の違和感の原因個所をよく感じ取る。



 「あ~~、なるほどねぇ。……どうりで顔がズキズキすると思ったら……なぁんだ、顔を2、3発殴られてただけかぁ。あたしはてっきり鬼渡があたしの身体に……そうじゃなくて顔を2、3発殴られてただけかぁ……いやぁ、良かった良かっ……って!! 何しとるんじゃあ!! お前は!! 」

 痛む顔を抑えながら鬼渡に詰め寄る京子。

 「いや、だって……しつこいんすもんあの餓鬼」

 京子の怒りに冷静に弁明する鬼渡。

 


 「だ、だからって……顔を殴るなぁ~~~、これはあたしの身体じゃぁああああ!!! 」

 「ぐ、苦しい……すっ、すんませんでした~……」

 京子は自身が餓鬼型であることも忘れて、力いっぱいに鬼渡の胸倉をつかんで前後に揺さぶった。

 



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