第39話 おまえは誰さね? あたいは京鬼
「あ……ああ、そ……んな……か、課長。。」
金棒が京子にぶつかった瞬間、鈍い打撃音があたりに響いた。それを聞いた鬼渡は足を止めた。間に合わなかった、炎鬼までの距離はあとわずかに5mほどであった。
「あ……ああっ…………」
鬼渡はその場で硬直してしまっている。……だが、その目には京子の無残な姿を捉えていない。何故なら、京子の身体は金棒と共にその周囲全体が煙に包まれていたから。それは変化の術を使い、身体が変化する際に生じる煙に酷似していた。
「か……課長?? 」
もうもうと立ち込める煙はしだいに周囲に拡散し、その中からはやがて2つの影が見えて来た。1つは炎鬼が握っている巨大な金棒。そして、もう1つの影は人影。その影を見て鬼渡は再び炎鬼の元へ走る。
「課長~~~~~!!! 」
鬼渡は再び左手から氷を出現させ、高く跳んだ。そして、その左手の塊を炎鬼の顔面にめり込ませた。
「ぐぅううぉおおおおおおお!!! 」
氷の塊を顔面で受け止めた炎鬼はよろけ、両手を広げて後ろへ倒れ込んだ。そして、その左手から手放された京子の身体を受け止め、地面に着地した。
不思議なことに炎鬼の攻撃をまともに喰らったはずの京子の身体は砕けることなく、人の形を保っていた。
「課長!! 課長、だいじょう……ぶっすか……、か、課長……? 」
が、鬼渡は地面に降りてその両手に乗った人物を見て、怪訝な顔をした。炎鬼から救い出したそれは京子ではなかった。たしかに身にまとう服装や背格好は先ほどまでの京子のものであった。が、その服から伸びる両手の先には長い爪、さらには口元からは左右に2本の長い牙のように鋭くとがった歯が唇から飛び出ている。そして、その人物の髪色は鮮やかな赤色をしており、頭頂部からは2つの鋭い突起が突き出ていた。
餓鬼課に所属している鬼渡はその特徴をしたものをよく知っていた。それはまさに餓鬼課の中層階にいる餓鬼、その赤餓鬼の容姿によく似ていた。
両手に抱えたその人物をゆっくりと地面に下ろす。地面に立ったその人物は両手で頭をさすりながら両目を閉じている。
「か……課長?? じゃない……? いや、でも……炎鬼に捕まってたのは確かに……。か、課長なんすか……? 」
鬼渡は目の前の人物に混乱しながらも問いかける。するとその人物は左手で頭をさすりながらゆっくりと目を開け、鬼渡を見る。
「…………課長? 課長って誰さね? あたいは餓鬼……名前なんてないさね」
「か、課長じゃ…………ない? で、でも……確かにその格好は……」
鬼渡が京子であろうその人物を見ていると、その人物は鬼渡の遥か頭上を見上げ始めた。鬼渡はその視線の方角に目を向けた。
「うごぁああああああ!!! 殺す!! ぶっ殺す~~~~!!! 」
そこには先ほどまで倒れていた炎鬼が金棒を振り回しながら、こちらへ走って来る姿。
「うわぁ!! な、何で炎鬼がいるさね!! ……ひ、ひえっ!! 」
それを見た赤服の餓鬼だという人物は再び地面に座り込んでしまった。
「…………っちぃ!! 」
鬼渡はその座り込んで放心状態の人物を右手1つでかかえて高く跳びあがった。そして、左手で再び氷の塊を作り、それを背後の炎鬼の方向に放った。
『ズゴォオオオオオオオン!!! 』
振りかざされた金棒が地面にめり込み、大地が揺れる。
「ぐぅううぉおおおおおおお!!! 」
『ズシャアアアアン!! 』
続いて炎鬼が地面に叩きつけられたことで再び大地が揺れた。
「うっ……つつっ……大丈夫っすか……課長。。」
炎鬼の攻撃をなんとか回避した鬼渡は右手にかかえた人物に問いかける。その人物は大きく目を見開いて、鬼渡をちらりと見た。が、その視線はやはり炎鬼に集中している。
「……お前……自分の身を投げ出してあたいを守って……なんであたいを……助けたさね? 」
「そりゃあ……課長……ですから……たぶん。。」
鬼渡は未だにこの赤髪の餓鬼に近しい人物が京子なのか半信半疑であったが、そちらをちらちらと見ながら炎鬼の様子を伺っている。
「だから、課長って誰さね……。それにこの状況、なんであたいは炎鬼と氷鬼に囲まれてるさね…」
その人物は周囲を見渡した。
(周囲が炎鬼と氷鬼に囲まれてるさね。これじゃあ、逃げられない。……でも、目の前の炎鬼以外は襲ってくる様子はないさね。それに……後ろにもう1匹、殺気立った奴がいるさね。。あとはこいつ……こいつは誰さね? あたいの味方? ……なら、今はこいつについた方が良さそうさね。。)
京子の服を着たその人物は冷静に周囲を伺った。餓鬼の世界は欲望の世界。そこでは何よりも自己が優先される。この人物はこのわずかな時間の間に状況を分析し、自己が一番有利になるであろう選択をとることを決めた。
「何してんだい!! 炎鬼!! あたいもそっちに行くからそれまでに小娘を仕留めるんだよ!! 」
殺気だったもう1匹、氷鬼が走って近づく。その距離約300mである。が、氷鬼の体格であれば到着までは10秒程度であろう。
「ぼりゃああああああ!!! 」
後ろの氷鬼の声掛けに再度立ち上がった炎鬼。炎鬼が今までよりもさらに巨大な火の玉を口から鬼渡達に放った。
『パッ!! 』
『シュン!! 』
が、その瞬間に鬼渡と京子の服を着た人物は左右に散った。
「…………変!! 」
左に散った鬼渡は再び変化によって姿を消した。必然的に炎鬼の標的は右側に避けた京子の服を着た人物になる。その隙に鬼渡は炎鬼の背後に移動し、その頭上でカブトムシの変化を解いた。
「おりゃあああ!! 」
鬼渡は左手に集まった氷の塊を炎鬼の後頭部に叩きつける。
「ぐうおうぉおおおおおお!! 」
『ズシャアアアアン!! 』
炎鬼はバランスを大きく崩し、顔面を地面に叩きつけた。
「課長!! 今っす!! 」
それを見た鬼渡は炎鬼の向かい側で高く跳びあがっている京子の服を着た人物に叫んだ。その跳んでいる高さはすでに京子が跳べるような高さではなかったが、そんなことよりもまずは炎鬼との決着をつけることに集中した。
鬼渡は閻魔の大鎌の柄が炎鬼に向かって急降下していくのを確認した。
(よしっ……あの速度で突けばさすがの炎鬼もひとたまりも……)
『ドシュウッ!! 』
「ぐごぁああああ!! 」
「…………え? 」
その瞬間、鬼渡の前に赤黒い何かがとんできた。その先には地面に伏した炎鬼がうめいていた。その首元からは鬼渡の方へ飛んできた赤黒いものが噴き出ている。そして、その噴出孔には京子の服を着た人物がいた。その手元には閻魔の大鎌。
しかし、先ほど京子が氷鬼の首に突き付けたのが持ち手の柄であったのに対し、今の人物が首に突き刺していたのは大鎌の刃。その首からは大量の血が噴き出していた。
「か……課長!! 何やってんすか!! 死んじまうっすよ!! 」
鬼渡の声に反応したその人物。視線をゆっくりと鬼渡へ向けた。
「死んじまうってどういう意味さね? 殺すんだから死ぬのは当り前さね……」
この時、鬼渡はようやく確信した。それは京子ではないと。
「や、やめろ!! お前!! これは殺し合いじゃない!! 」
……が、目の前の人物は鬼渡から再び視線を下の炎鬼へと向けた。
「あたいの勝ちさね……炎鬼。 今から首を切り落とすさね」
「うっ…………うぐっ……や、やめてくれい……だ、すげて……くれい」
「…………ダメさね。。」
炎鬼の懇願にも一切反応を示すことなく、その人物は大鎌に手をかけ、最後の仕上げをしようとする。
「やめろっつってんだろ!! 」
鬼渡は炎鬼の首元に駆け寄り、急いでその人物を追いやった。そして、首元の大鎌を抜き取る。
「おいっ、大丈夫か!? 」
「うっ……ぐうう……うごぁ……」
「どうして邪魔するさね……あたいはお前の味方としてこいつを殺そうとしただけさね? 」
炎鬼から降りたその人物は鬼渡を向上げて話しかけてくる。
「だから、これは力比べで殺し合いじゃ……おいっ、後ろ!! 」
鬼渡が下にいる人物に声をかける 。
「え……炎鬼っ!! く、くそ……や……やりやがったな!! この~~~~~!!! 」
そこには炎鬼をやられて激昂した氷鬼が10mほどまで迫って来ていた。激昂のあまり氷鬼は金棒も氷塊も出すことなくただただ走って来る。
「……あたいに任せるさね。。」
それに気がついたその人物は逃げることもなく、全力で氷鬼の方へ走る。そして、その巨大な身体の股の間を素早くくぐり抜け、あっという間に氷鬼の背後に回り込み、高く跳んだ。
そして、その右手から鬼渡のように炎の玉を出し、氷鬼の背中に叩き込んだ。
「き……きひょおおおおおお!! 」
前へとバランスを崩した氷鬼は鬼渡と炎鬼の方へ倒れ込んでくる。
「今さね!! 」
氷鬼の背後から声が聞こえる。
「……っち!! うぉりゃあああああ!! 」
その声を聞いた鬼渡は閻魔の大鎌を手に取り、倒れ込んでくる氷鬼の額にその柄を叩き込んだ。
『ズゴォオオオオオオオン!! 』
「ひょ…………ひょおお………」
『ドォオオオオオオン!! 』
柄を叩き込まれた氷鬼は白目をむき、再び倒れる方向を変え、背後に倒れ込んだ。
炎鬼、氷鬼ともに倒れ込んで十数秒、周囲は静寂に包まれた。勝負はついた。が、周囲の餓鬼はあまりの光景に動けなかった。
「おいっ、早く炎鬼を手当てしてやれ!! 死んじまうぞ!! 俺は救護の依頼をしてくるから早く炎鬼を運んでおけ!! 」
「お、おいよ……」
鬼渡の呼びかけにようやく周囲の餓鬼が動き出す。鬼渡は急いで手当の手配を行い、炎鬼はなんとか一命をとりとめた。
♦ ♦ ♦
炎鬼、氷鬼との力比べを終えた鬼渡は先ほどの京子の服装をした人物と地獄課に戻って来た。
「なんでわざわざあんな変な倒し方をしたさね? せっかく前に倒してやったんだから倒れたところを仕留めたらよかったさね」
目の前の人物は両手を首の後ろに回して首をかしげている。
「もし、あのまま前に倒れて来てたら炎鬼の上に落ちて大出血で死ぬと思ったからだよ……っていうか、何であんな倒し方したんだよ……」
「勝つためさね……だから前に倒した方が確実に殺せたのに。殺すためにあいつらと戦ってたんじゃないさね? 」
目の前の人物は悪びれることもなく、淡々と質問に答える。
「だから…………まぁ、いいや。っていうかお前誰だ? 課長じゃ……ない、よな……やっぱり」
鬼渡は何度も目の前の人物の顔を見る。その顔はたしかに京子によく似ているが、その口元には2本の長く伸びた犬歯、髪は赤く頭頂部には2本の角がある。それはどう見ても餓鬼の姿であった。
「誰って、あたいはただの赤餓鬼さね。……お前こそ誰さね? あんなデカい炎鬼と氷鬼をそんな小さな身体で倒しちまうなんて……そんな強い餓鬼、あたい見たことないさね」
目の前の赤餓鬼だという人物は鬼渡に興味津々の様子である。
「俺は鬼渡烈火だ」
「おにわたり……れっ……か? って何さね」
「名前だよ、名前……名前ってのは互いを呼びあうために必要なものなんだ」
「ふ~~ん、そうさね……」
鬼渡は赤餓鬼だというその人物に説明するが、その人物はどこか理解していないように見えた。
「ふ~~んって。お前にもあるだろ……その、日下京子って……名前が。。」
「ひした……きょうこ……? 」
鬼渡のその言葉に首をかしげて、目をつぶる。
「んっ、ちょっと待つさね。」
するとその赤餓鬼だという人物は何かを考え始めた。
「ひした……きょうこ…………そうね。あたいはこの身体の持ち主……日下京子が餓鬼だった頃の人格……いや、餓鬼格さね」
「か、課長が……餓鬼だった? 」
その人物の言葉に鬼渡は驚いた。目の前のその人物はやはり京子であった。……が、その容姿は餓鬼そのもの。普段の京子の雰囲気とはまったく異なっている。その人物は言葉を続ける。
「ふんふん…………なるほど、名前と言うのは互いが親しくなるためにも必要なもの。なら、あたいはお前のことを烈火って呼ぶさね!! 」
その人物はしばらく何か考え、名前がどういうものかを理解したのか鬼渡のことを名前で呼んできた。
「れ……烈火って……」
「よろしくさね、烈火。あたいのことは……そうね。京子……でも、今のあたいは京子じゃないさ。……そうね! あたいは餓鬼の京子で……京鬼。あたいの名前は京鬼にするさね!! 」
目の前の人物は嬉しそうにニヤリと口元の長い2本の歯をむき出しにして鬼渡に話しかける。
「きょ……京鬼? 」
「そうさね。……それにしてもお前変わってるさね。餓鬼なのに髪が赤でも青でもない。それに炎も氷も両方出せて、そして強い……あの炎鬼と氷鬼を倒しちまうなんて……すごい奴さね。……あたいはお前が気に入ったさね」
そう言いながら京鬼と名乗ったその人物は鬼渡に歩み寄って来る。……と、思った矢先、突然足を止めた。
「んっ……勝手にでて来ようとするんじゃないさね……」
(ん? 何だ……急に動きが止まった……それにこいつ、誰と話してるんだ?? そう言えばこいつ……さっきも何か考えてから名前のことを…………もしかして……)
「今のあたいは赤餓鬼の京鬼。日下京子じゃないさね」
京鬼はなおも立ち止まったまま独り言を喋っている。
(……よしっ、試してみるか……)
「閻魔の仕事も桃次郎退治もあたいがやるから心配ないさね。のぉ、烈火♪ 」
そう言うと京鬼はようやく歩みを進め、鬼渡に身体を寄せた。と、その瞬間、鬼渡は京鬼の服の中に手を入れ、その中をまさぐった。
「んっ!! な、何するさね……」
が、京鬼はそのまま身体を鬼渡におとなしく寄せている。
「……あった! …………これか」
鬼渡は何かを京鬼の服の中から取り出し、服から手を出した。その手に持っていたのは戦いの前に京子が手に持っていたお守り、ぱんにゃーの根付であった。
「ん? なんさね? それ……」
『シャンシャン!! 』
京鬼の問いかけに応じることなく鬼渡は黙って鈴を鳴らした。
「うっ……あ、頭が! な、何さね……この音……」
(……やっぱりそうだ、よしっ……)
『シャンシャン!! 』
鬼渡は京鬼の苦しんでいるような様子を確認すると、再び鈴を鳴らした。
「うっ……もう……なにするさね…………鳴らせ……も、っもっと…鳴らして……れ……」
その京鬼の様子にさらに鈴を鳴らす。
『シャンシャンシャンシャン!! 』
「そ、……そう……じゃ……も、もっと!! もっと鳴らすんじゃあ鬼渡~~~!! もっとその鈴を鳴らすんじゃあ!! 」
「か、課長? 日下課長っすか?? 」
鬼渡は京鬼から発せられた聞き覚えのある言葉使いに問いかけた。
「そ、そうじゃ…………うっ……くうっ……」
だが、鬼渡が鈴を鳴らずのを止めると京鬼の様子が再び変わった。
「だから……勝手に出てくるんじゃないさね。あたいがいれば問題ないさね」
『シャンシャン!! 』
「……な!! これはあたしの身体じゃあ!! …………そんなことないさね。あんたは弱い。弱い奴はいなくなるさね……だからこの身体はあたいのものさね」
目の前の言動のおかしくなった京鬼を見て鬼渡は鈴を激しく鳴らした。
『シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン!!! 』
その音に京鬼は再び頭をかかえ、下を向いた。
「あっ……うぐぐっ……もう、烈火は意地悪さね……まぁ、いいや。どうせこの身体はいずれあたいのもの……さっきの戦いでも疲れたししばらく休むとするさね……また……さ……」
京鬼はそう言葉を出すと、沈黙した。
「…………課長?? 」
鬼渡は目の前で沈黙している京鬼に話しかける。すると、京鬼は上をむき、鬼渡を見つめる。
「ふぅ……やっと消えた。…………変な夢だったなぁ……。あれ? 鬼渡じゃん、どうしたの? 」
目の前にいる人物は鬼渡に再び話しかけて来た。が、その口調はいつもの京子のように感じた。
「あの……もしかして……か、課長っすか……? 」
「そうだよ? 見て分かんないの? なんかさぁ、氷鬼に大鎌の柄を付きつけようとしたとこまでは覚えてるんだけど、そこからは急に意識が無くなって……気がついたらさぁ、身体が言うこと聞かなくってさぁ、びっくりしちゃったよ」
「は、はぁ……」
鬼渡は目の前にいる京子だという人物の話をただおとなしく聞く。
「でも、身体は勝手に動いたり話したりしてさぁ。なんか変な感じの夢だった。その夢でねぇ、あたしの身体を京鬼とか言う餓鬼がとろうとする夢で……あれ? そう言えばここって地獄課じゃん……炎鬼と氷鬼は?? 」
「いや……あの、もう倒したじゃないっすか……」
「えっ!! そうなの!? あたしが見た夢の通りだぁ♪ もしかしてあたしが気絶してる間に倒してくれたのか? 」
「いや……あの、ええっ? 」
鬼渡は困惑した。京子と名乗っているその人物は先ほどまでの出来事の記憶が曖昧……それも夢だと思っているようである。
「うん、うん!! ありがとうね鬼渡♪ なんか最後の方はあたしが京鬼っていう餓鬼の姿になっててお前に胸をまさぐられてたけど……まぁ夢だし!! 多めに見てやるぞ♪ 」
悪夢から解放されたためなのか、京子(?)はやけに上機嫌であった。そんな上機嫌の目の前の人物に鬼渡は今の事実を告げる。
「いや……あの……戻ってないんすけど……」
「ん? ……何が? 」
その人物は鬼渡に笑顔を向ける。その口元には左右対称にある長く鋭い歯が見える。その笑顔に頭をかきながら地獄課にあった鏡をその人物の前に差し出す。
「だから……あの、夢じゃないっす……全部。身体が勝手に動いたり喋ったりしたのも……京鬼に身体がとられそうになったって言うのも……」
「な、なんじゃあ!! この……顔!? 」
差し出された鏡に映った京子と名乗るその人物は服から伸びる両手で顔をぺたぺたと触っている。が、その両手の先にはすでに普段と違う長い爪。さらには口元からは左右に2本の長い牙のように鋭くとがった歯が唇から飛び出ていた。そして、髪色は鮮やかな赤色をしており、頭頂部からは2つの鋭い突起が突き出ていた。
「な……ななっ……何なんじゃ~~~この身体は~~~~~!! 」
京子が夢で見たと話していた京鬼の姿が今、そこにはあった。
炎鬼、氷鬼との力比べを征した京子と鬼渡。だが、その代償はあまりにも大きかった。




