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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
38/62

第38話 戦力獲得 炎鬼、氷鬼と力比べ!!

 

 3月21日。今日は春分の日。春分の日とは【 自然や生き物をいつくしむ日 】とされている。

 しかし、この日の京子はそんな日とは程遠い殺気満ちた1日が始まろうとしている。




 「やれ~~~~!! やっちまえ~~~!! 」



 「食い潰してやれや~~!! 」



 「ぶっ殺せ~~!! 」



 物騒な言葉が周囲から聞こえる。

 目の前には巨大な餓鬼。餓鬼課下層にいる最上級の餓鬼である炎鬼と氷鬼の2匹である。



 「ね、ねぇ……鬼渡。やっぱり日を改めてまたに……し、しない? 」

 振るえる足、震える手で大鎌を構えながら京子は隣にいる鬼渡に声をかける。その周囲には2人を囲むように餓鬼たちの輪が出来上がっている。



 「いまさら何言ってんすか……ここまで来たらもうやるしかないっすよ。大丈夫っす。俺が指示を出すんでそれに従って課長は戦って下さい」

 「う……わ、分かったよ」

 


 そう、今日は地獄制圧に必要な下層にいる上級の餓鬼である炎鬼と氷鬼との力比べを行う日。炎鬼と氷鬼たちを戦力に引き入れるために餓鬼課長として力を示すために2人は餓鬼課の最下層である地下10階に来たのだ。






 ■  ■  ■






 今から数日前。




 「……という訳でこれが炎鬼、氷鬼の体長や容姿の特徴っす」

 京子と鬼渡は地獄課にいた。鬼渡は地獄制圧のために必要な戦力である炎鬼と氷鬼について京子に説明をしていた。



 「体長が……10、10m!? って!! ばけもんじゃん!! こんなのとどうやって戦うのよ!? ねぇ、鬼渡!? 」

 鬼渡が書き記した餓鬼の特徴を見て京子は詰め寄る。

 「落ち着いてください……。身体はデカいっすけどその分あいつらはスピードがない。だから変化の術を使うって説明したじゃないっすか。それに今回の戦いの条件は2対2の力比べ。俺も課長と戦うんで、ヤバくなったら俺が守りますよ」



 「……とか言って、桃次郎の時には守ってくれなかったじゃん。。それにさぁ、この絵の餓鬼が持ってるこのデカい棒は何!? 」

 「金棒っすね」

 「だよねぇ!! 金棒だよね!? これってどうなの!! 鬼に金棒……じゃない、餓鬼に金棒じゃん!! こんなデッカイ鉄の棒に当たったら無事じゃすまないでしょ!! 修羅課の研修だって本物の刀じゃなかったんだよ!? ねぇ!! 」

 取り乱しながら鬼渡の描いた絵をぴらぴらと羽ばたかせる。



 「まぁ、そうなんすけど……ただ、この作戦通りに戦えばいけるはず。大丈夫っす、変化の術も特訓して会得できた。あとはこの力比べに勝って炎鬼と氷鬼を味方につけて地獄の門を開門できれば地獄制圧は目前っす! 」

 「うっ……わ、分かったよう。。」






 ■  ■  ■






 こうして本日、21日。2人はこの場に来た。



 目の前には見上げても顔がはっきりとは見えないほどの大きさの餓鬼が2匹。手には2匹ともに巨大な金棒を持っている。

 「へへっ、手加減しねぇぜ係長……おいら達は強ぇ奴にしか従いたくねぇんだわ」

 にたにたと笑みを浮かべながら巨大な金棒を振り回す炎鬼。

 「もし、あたい達がうっかり間違ってその課長を食っちまっても、それはお咎めはないんだろうねぇ? 係長? 」

 同じく不気味な笑みを浮かべながら質問をしてくる氷鬼。


 

 「ああ、問題ない」

 「ちょっとぉ!! 問題あるでしょ、鬼渡!! 」

 鬼渡の即答に動揺する京子。

 「ただし、俺らが勝ったらお前ら全員俺たちに協力するんだぞ? 分かったな」

 鬼渡は周囲を取り囲んで見物しているその他の炎鬼や氷鬼を睨む。



 「がははっ、もちろんだわな。そいつらはおいら達の中で一番強い炎鬼と氷鬼。そいつらを負かしたとなっちゃあ、おいら達は従うしかないんだわ。がははっ!! 」

 「そうだわね。そうだわね、もし勝てたら従うわね」

 周囲の炎鬼や氷鬼は高みの見物とばかりに京子と鬼渡を見下ろしている。



 「……っち、舐めやがって。始めますよ、課長……って、何やってんすか? 」

 京子の方を向くと、京子は何かを手に握りしめて目をぎゅっと閉じていた。

 「だ、だって……この炎鬼や氷鬼……い、一番強いって……。あたしを守ってね、ぱんにゃー……」

 「ぱんにゃー?? 」

 不思議そうに首をかしげる鬼渡。


 

 「お守り。これはあたしが修羅課の研修で修羅に心を支配されて自分を見失いかけた時にあたしを正気に戻してくれたの……お願いだよ、ぱんにゃー……ぐすっ」

 京子は涙目になりながらぱんにゃーのお守りを見つめる。

 「あの……課長」

 「……何? 」(もしかして元気の出る言葉でもかけてくれるのかな? )

 「両手が塞がってると戦いに支障が出るんで早くしまってください……それ」 

 「……お前には思いやりの心はないのか? もっと他にかける言葉があったじゃろ……」

 京子はぱんにゃーに戦いの勝利をお願いをし、そのお守りを再び服の中にしまった。



 



 ♦  ♦  ♦






 京子の願掛けも終わり、やがて周囲は静寂に包まれる。



 「では、これより力比べを開始する、始め!! 」

 周囲を囲む餓鬼のうちの一匹が静寂を破り、勝負は始まった。



 「でや~~~~!! 」

 「ほほほっ……」

 目の前の炎鬼や氷鬼が全力で2人に向かって走って来る。



 「ひ、ひやぁあああ!! 」

 京子は慌てて後ろへ全力で走る。残った鬼渡はその場でとどまっている。

 「ああ? あの課長……一体どこへ行くんだい。まぁ、いいかい。まずは係長から仕留めるよ、いいかい炎鬼!! 」

 「おいよ、氷鬼!! 」

 やがて2匹の餓鬼が鬼渡の元へやって来た。



 「うがあぁあああああ!! 」

 「ひょひょおおおおお!! 」

 2匹の餓鬼の手が鬼渡に伸びる。その手には巨大な金棒。左右から金棒が鬼渡に迫って来る。



 「…………変」




 『ゴ~~~ン!!!!!!! 』



 が、鬼渡の姿は消え、炎鬼と氷鬼は振りかざした巨大な金棒を互いの金棒にうち付けあう。



 「がぁああああ!! 」

 「うっ……ひょおお!! 」 

 その衝撃に2匹はたまらず金棒から手を離す。その瞬間、再び鬼渡は姿を現した。そう、先ほどまでダンゴムシになり、身を潜めていたその身体を。




 

 『キン!! 』


 『カンッ!! 』


 餓鬼の手から離れた金棒を鬼渡は蹴りによって周囲を囲む餓鬼たちの遥か向こうへ蹴り飛ばした。続いて鬼渡は左手から氷の塊を出し、左側にいる炎鬼の左足元に投げつけた。



 「うがあぁあああああ!! 」

 炎鬼は慌てて口から炎を吹き出し、その飛んできた氷にぶつける。炎鬼の気が左足に向いている隙に鬼渡は右足後ろに回り込み、炎鬼の足をすくいあげた。



 「がぁあああああ!! 」



 『ズシャアアアアアン!!! 』



 周囲の地面が大きく揺れる。




 「ったく、何やってんだい!! そっちは後だ。まずはあの弱っちそうな小娘を食っちまうんだよ!! 炎鬼!! 」

 炎鬼が倒れ込む姿を見ながらも氷鬼はその場を離れ、視界に京子を捉えていた。


 

 「はぁ……はぁ……」

 必死に走り、氷鬼から逃げる京子。だが、その体格差からその距離はみるみるうちに縮まる。

 「もらったぁああああああ!! 」

 氷鬼の手が京子を捉えようとした……と、その時。

 「……あ、あれ? ど、どこに消えた!! あの小娘!! 」

 先ほどの鬼渡のように氷鬼の視界から消えた京子。その京子を探すように氷鬼は歩みを前へ前へと進める。




 と、そこに鬼渡が氷鬼の元へ走って来る。




 「っち!! 炎鬼の奴、使えないねぇ。足止めもできないのかい……かぁああああ!! 」

 鬼渡に気がついた氷鬼は後ろを振り返り、鬼渡に向かって巨大な氷塊を口から放った。



 「う……うがぁああああああああ!!! 」

 それとは反対側の炎鬼もようやく立ち上がり、鬼渡に向かって巨大な炎の玉を放つ。炎鬼、鬼渡、氷鬼が直線状に並ぶ。その中心の鬼渡に向かって両側から炎と氷の塊が迫っている。



 「…………変」

 その2つがぶつかる寸前、鬼渡は再び姿を変え、身を潜めた。

 



 『バァアアアアアアアン!!! 』




 2つの玉はぶつかり合い巨大な水蒸気が立ち込める。その水蒸気によって炎鬼と氷鬼は互いの姿が見えなくなった。

 それを確認した鬼渡は水蒸気の中を抜けて氷鬼の元へ近づく。そしてその右手に炎を灯し、炎を氷鬼の足元へ投げる。



 「ひょわああああああ!! ひ、火がぁああ!! 」

 慌ててその炎を振り払おうと氷鬼が思わず右足をあげた。その足に向かって鬼渡は駆け寄り、そして先ほどの炎鬼同様にすくいあげた。



 「ひょおおおおおお!! 」

 「課長!! 今っす!! 」

 足を掴んでいる鬼渡が叫ぶ。と、先ほどまで姿を消していた京子が現れた。そう、京子は先ほどまでしじみの姿で身を隠していたのだ。再び姿を現した京子のその姿は修羅。頭部が白髪の浅黒い肌をした修羅型であった。

 京子はその身体で高く跳ね上がり、鬼渡によって倒された氷鬼の首元に迫る。だが、京子は前回のように自分を見失っていない。その首元に迫らせる大鎌は刃ではなく、持ち手側の柄。決着はつけるが、命は取らない。そんな気持ちの表れである。




 が、そんな気持ちは餓鬼にはないのかもしれない。

 「お~~い!! 氷鬼!! そんなしょうもない棒っきれの攻撃、この金棒で蹴散らしちゃれ!! 」




 『ひゅん!! 』




 周囲の餓鬼の1匹が勝負の中に自分の手に持っていた金棒を投げて来た。京子は視線を左に向け、そして瞬間的に身体を後ろにそらした。……が、



 

 『ずんっ!! 』



 「うぐっ……」

 その金棒は京子の左わき腹にわずかに辺り、そして倒れ込んでいる氷鬼の左手に収まった。鈍い音が周辺にわずかに響いた。



 「……かはっ!! …………うぐっ……ううっ……」

 「か、課長!! 」

 まともに当たることは回避したものの、それは鉄の塊。京子の身体は修羅型から人型に戻り、息絶え絶えである。その身体は目の前にいる氷鬼の右手にあっという間に収まった。





 「あっ……ううっ…………」





 「ひょひょお、全く。小娘だと思って油断しちまったよ。中々奇妙な術を使うんじゃないか。なら、こっちも決めたよ……殺しちまおう」

 そう言うと氷鬼は倒れ込んだ状態のままで右手の京子と左手の金棒を炎鬼へ向かって投げた。




 『ひゅううううん!! 』




 「おっと……へへっ」

 京子の身体は炎鬼の左手に収まった。





 「あっ……うぐう……ううっ……」





 炎鬼はその手を一度離し、京子の右足のみを掴みなおした。京子の身体は炎鬼の手の中で宙づりになった。

 「か、課長!!! 」

 鬼渡は急いで氷鬼の反対側にいる炎鬼に掴まれている京子の元へ駆け出す。が、その後ろにいる氷鬼が叫ぶ。



 「加減はいらないよ、炎鬼!! とっととその金棒で頭をたたき割っちまいな!! 」

 「おいよ!! 氷鬼。……じゃあな、餓鬼課長…………いや、ちんけな小娘……」

 炎鬼はそう言って右手の金棒を大きく振りかざし、京子めがけて振りおろす。


 

 「課長~~~~~!!!!! 」

 その間も必死に京子の元へと駆け寄る鬼渡。




 (あっ……ううっ…………うぐ。。)




 意識が薄れてゆく中で見える鬼渡の姿。そしてそのさらに先で薄ら笑いを浮かべている氷鬼。2匹の餓鬼が見える。

 





 ◇  ◇  ◇






 (…………餓鬼。……強い者がのさばる…………欲望の…………世界。そっか、……あたいは…………負けたんさね……。あれ? あたい、何で自分のことあたいって言ってる……ね? ………………そうだ、あたいは…………あたいは…………)

 京子は気がついた。…………いや、これからその身に訪れ惨事を思えば、気がついてしまったと言うべきであろう。






 ◇  ◇  ◇






 『ゴ~~~ン!!!!!!! 』




 炎鬼が振り下ろした金棒が京子の身体を打ちつける。 



 「か、課長~~~~~~~!!!!! 」

 









 「…………いったぁ、……なにするさね……」




 



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