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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
36/62

第36話 可能性は無限大!! 考えるって素晴らしい!!!


 3月17日

 昨日の畜生課での研修に続いて、今日は人間課での特別研修である。




 「いたたたっ、もう~~昨日はさんざんな目にあったよ……。しかも、鬼渡も餓鬼課に行ってていないしさぁ……はぁ。。」

 京子はだらだらと愚痴をこぼしながら、50階の人間課の琴流の元へ向かうために階段を上っている。

 昨日はあれから散々な目にあった。木にしがみついた後は、土の中に埋められたり、花に顔を無理やり突っ込まれたり、鷹に襲われたりした。

 鉞たちはまだまだたくさんの作業を用意していたようであるが、今日は人間課でも研修の予定であったため、結局畜生課では2つの生き物への変化だけを会得した。



 

 「あたたっ……身体が……」

 昨日の研修で疲れ切った身体で50階を目指す。






 ♦  ♦  ♦






 「おはようございます、日下課長! じゃあ、早速研修を始めましょうか」

 50階に着くと部屋の入口では人間課の課長、琴流が対応してくれた。



 「よ、よろしくお願い……します。あ、あの……ここではどんなことをするんですか……? やっぱり戦ったり、高く投げ飛ばされたりするんですか? 」

 京子のその怯え切った目を見て、琴流は笑って答える。

 「あははっ、亜修羅課長や馬面課長のところでひどい目にあったみたいですね。でも、ここではそんな身体を酷使するような内容はないので安心してください」

 「そ、そうですか……よ、良かったぁ。。」

 琴流の答えに一安心する。 






 ♦  ♦  ♦






 「わ~~~、待て~~~~~!! 」

 「こっちだよ~~~! 」



 琴流に案内され、室内に入るとそこは相変わらず園児のような小さい子どもが駆けずり回っている賑やかな部屋であった。部屋を進んでゆき、案内された先には何やら子供の遊び道具のようなものがたくさんあった。その中の1つの前で立ち止まった。




 「では、始めましょう。この筒の中にあるボール。このボールに触らないでボールを筒から出してください」

 「えっ? それが研修なんですか? そんな内容が? 」

 京子は琴流に確認する。今まで修羅課、畜生課で受けて来た内容と比べてやけに簡単なないようだと思った。

 「はい。人型は修羅型、畜生型、餓鬼型のように特殊な力や身体能力はありません。だから少し物足りないと感じるかもしれません。でも、人には他のどの型よりも考える力がある」

 「考える力……ですか」

 「そうです。周囲をよく観察し、どう行動したらいいかを思案する。その思考能力こそが人型のスキルなんです」



 「ふ~~ん……なんか、普通だなぁ…」

 素直にそう感じた。元から京子は人間道からこの章へやって来た。そのため、物事を考えるという行為はあまり新鮮に感じなかった。

 (よ~~し、すぐにクリアしちゃうもんね)

 畳の上にある目の前にあるボールは直径20cm程度。そのボールが1mほどの透明な筒の中にある。手を入れれば届きそうな気がするが、手を使うことはできない。どうしたものか……京子は思案する。



 (う~~ん……そうだ!! 変化だ!! あれに変化してボールを取ろう)

 そう考えた京子はしじみの他に会得したもう1つの生き物へ姿を変えた。

 「……へぇ、それが日下さんの前世なんですね」

 変化した京子の姿を見下ろしながら琴流が話しかけてくる。 




 (うっ……なんか、恥ずかしいな。。は、早くボールを押し出して戻ろう……)

 そう思い京子は筒の中へ歩みを進めた。……が、すぐに変化の術が解けた。

 「あっ!! いたっ!! あたたたっ!! は、挟まった!!! ふ、太ももが~~~~!! 」

 変化の術は他の生き物になることができる。が、その持続時間は自身がどれだけその時の記憶があるか等が重要な要素となる。変化した生き物の記憶だけしかない今の京子の身体はすぐに人型に戻った。そして歩み出していた筒の中に太ももが挟まった。



 「あっ、だ……大丈夫ですか!? 」

 琴流は慌てて京子を筒から助け出した。




 「はぁ……はぁ。あ、ありがとうございます」

 「い、いえ……考えは良かったと思いますけど。まだ、変化の術は慣れてないみたいなので今回は人型の状態で取る方法を考えましょう」

 「は……はい。。」



 「先生~~~、何してんの~~~? 」



 「新しいお遊び? 」



 京子の騒ぎ声を聞きつけてきたのか、周囲にいた子供たちが琴流に集まって来た。

 「違うよ~、先生は今ねぇ、この人とこの筒の中のボールを取る方法を考えてるの」

 「ふ~~ん……そうなんだ」

 子どもたちは琴流の説明を聞き、京子の方に目を向け、近づいて来た。


 

 「分かんないの? おばさん、こんなの簡単じゃん」

 「おば……おばさん!? 」

 投げかけられた言葉にショックを受けた。まだ32歳。いや、もう32歳と言うべきか。だが、平均寿命の延びた現代では32歳はまだまだお姉さん……でもいいはず。いや、でもこんな小さな子からはおばさんに見えるのかもしれない……京子は口をぱくぱくさせながら考えた。



 「じゃ、じゃあどうすれば取れるの!? やってみてよ!! 」

 おばさん呼ばわりされたやり場のない怒りを語気を強めた言葉でやり返す。

 「こうすればいいんだよ、ほらっ!! 」

 そう言うとその子どもはボールと筒が乗っている畳の端をひょいと持ち上げた。持ち上がった筒の中のボールは持ち上げられた畳の反対側へと転がり、そして筒の中を出た。




 「な……なるほど……そんな方法が。。」

 その子どもの柔軟な考え方に京子は感心した。

 「こういう方法もあるよ~~! 」

 すると今度は別の子どもが筒の中に戻ったボールに息をふ~~~っと吹きかけ、ボールを転がして筒から出した。

 「そっか、そういう方法もありなんだ……」

 子どもたちは自由な発想でボールを出してゆく。その様子を見て京子も負けじとボール出しに挑戦する。




 「じゃあ、あたしは……よっと……これでどうじゃ!! 」

 京子は筒の端を足の親指と人差し指で挟み込んで持ち上げた。するとボールは筒から転がり、筒の外へ出た。

 「ふふっ、お見事です」

 琴流が手をぱちぱちと叩き、拍手をしてくれる。



 「うわぁ~~、本当だ。すごいねぇ~」



 「そっか~~、足を使うのかぁ……思いつかなかったなぁ」



 琴流の周囲の子どもたちも京子を見て感心しているようである。



 「ふふっ、そうでしょうそうでしょう!! 」

 おばさん呼ばわりから一気に尊敬のまなざしを向けられ、優越感に浸る。

 「でもさぁ……お行儀悪いよ~~~! 」

 「うぐっ!! 」



 こうして考えるという何気ない行為を続けてゆき、人間課での研修は終了した。






 ♦  ♦  ♦






 「ただいまぁ……」

 人間課での研修も終わり、京子は地獄課へ戻って来た。部屋には朝にはいなかった鬼渡が戻って来ていた。

 「お疲れ様です。……終わったんすか? 研修」

 「う~~ん、まぁね……はぁ、つっかれたよぉ~~……」

 鬼渡の質問に答えながらとぼとぼと部屋に入り、自分の課長席に腰かけ、机に突っ伏した。



 「そうっすか。じゃあ、会得したんすよね畜生型も? 何になれましたか? 」

 「………………」

 「あれ……課長? 俺の話聞いてます? どんな生き物になれました? 」

 鬼渡の問いかけに対し、京子はうつむいたままである。



 「…………なんかさぁ。あたし、前世はイルカとして優雅に海で泳いだりしてたかったよ。もしくはツバメみたいにさぁ、自由な渡り鳥で世界中を飛び回ってたりしてさぁ……はぁ。。」

 京子は机に頭をうずめながら鬼渡に愚痴をこぼす。




 「まぁ、そんなに甘くないっすよ……。生き物って無限に種類がいるんすから。……で、何に変化できるんすか」

 再度同じ質問をしてくる鬼渡。その声に頭をがばっと上げて鬼渡を見る。

 「デリケートな話題でしょ!? ひ、人の……前世の話を聞、聞くなんて……悪趣味だよ!? 」

 「いや、前世の話はどうでもいいっす。何になれるようになったかだけ教えてもらえたら。桃次郎と戦う前に知っといた方がいいじゃないっすか」

 何とか答えたくなかったが、桃次郎の話を出され、観念した京子は自身の前世を披露する。



 「し……しじみと……か、カブトムシ……。。」

 「へぇ、しじみとカブトムシ……って!! 全然役に立たないじゃないっすか!! 」

 そう。京子が研修で気がついた自身の前世はしじみとカブトムシの2つ。その他の生き物であったかもしれないが、研修で会得できたのはこの2つである。



 「しょ、しょうがないじゃん!! 気がついた前世がこの2つだったんだからぁ!! 鬼渡だってそんな甘くないって言ったじゃん」

 「いや、まぁそうなんすけど……それにしても犬とか馬とかもう少しなんかなれるかと……。それじゃあ桃次郎との戦いには使えないっすね。……それにしても……しじみにカブトムシって……ふっ、ふふっ……」  

 笑いをこらえきれずに下を向く鬼渡。



 「あ~~~!! バカにしたじゃろ!? カブトムシさんをバカにすんなよ? 自分だってカブトムシだったくせに~~~~!! 」

 「……まぁ、仕方がないか。じゃあ特訓しましょう」

 「と……特訓?? 」

 「畜生型でいられる時間を長くする特訓っすよ。一応カブトムシなら飛べるし、しじみより先にカブトムシになれる時間を延ばしましょう……」

 


 「えっ……でもさぁ。。こ、ここで変化するのは……ちょっと……」

 先ほどの人間課での出来事を思い出す。カブトムシの姿を琴流に上から見下ろされたあの時。見られていたのが妙に恥ずかしいかった。あの感じをまた味わうのは抵抗がある。

 「何もたもたしてんすか……早く変化してくださいよ、カブトムシに」

 鬼渡が早く変化するように促して来る。

 「じゃあさぁ、鬼渡もなってよ、カブトムシ!! あたしだけなって見られるのは何か恥ずかしいじゃん……」

 「えっ、俺もっすか……分かりましたよ……」

 「じゃあ、行くよ。せ~~のっ!! 」

 京子の掛け声で向かい合った2人は互いにカブトムシに変化した。




 (……あれ? 戻らない。さっき人間課で変化した時はすぐに解けちゃったのに……)

 そう、今回鬼渡と共に変化した京子の身体は先ほどのようにすぐに人型に戻るような気配はない。先ほどとの違いと言えば目の前にもう1匹カブトムシがいることである。


 (そっか……もしかして仲間がいるからカブトムシとしての感覚が続いてるのかも。だからすぐには戻らないのかな? )

 先ほどまで人型であったカブトムシは冷静に考える。……が、次第に思考が鈍る。

 (あれ……なんだろう? このカブトムシ……角が鋭くて……かっこいいなぁ……。。)

 京子は目の前のカブトムシをじっと見つめる。 そこにいるのは餓鬼としての鬼渡でもなければ、部下としての鬼渡でもない。

 そこにいるのは、そう。1匹のカブトムシ。鋭い角があって身体が自分よりも大きいオスのカブトムシ。



 (あれ……な……何だろう? この……気持ち。。)

 足が次第に鬼渡……オスのカブトムシの方へ進む。京子のその身体はゆっくりと歩みを進める。目の前のオスのカブトムシもまた同じようにこちらへ近づいてくる。

 今、地獄課にいるのは人型の京子と餓鬼型の鬼渡ではない。ここにいるのはオスとメスの2匹のカブトムシ。互いに同種である2匹のカブトムシなのである。



 (…………何だろう? 頭が……上手く回らない……)

 次第に思考が薄れる。……が、歩みは止まらない。もはや自分の意志では止めることが出来ない。向かう先にはカブトムシ。1匹のオスのカブトムシ。もはやその姿しか見えていない。

 ……と、その時。鬼渡の変化が解け、カブトムシが視界から消えた。

 



 「…………はっ!! 」




 我に返った京子。ふと視線を下に向けると京子も人型に戻っていた。

 (良かった、も……戻ってる。……あ……あたし、あの時。確かに鬼渡に興味を……持ってた。。もし、あのまま変化が解けてなかったら……危なかったのかも……。今まで鬼渡のことそんな風に考えたことなかったけど……あううっ、い……意識しちゃう。。) 




 仏教では生き物の身体はしきそうぎょうじゅしきの5要素で成り立っているという考えをとっている。色は身体部分、その他の4つは精神部分を構成する要 素である。

 そられは互いに作用しあい、生き物を作っているのである。

 そのため、カブトムシに変化したことでしきが変わった2人は他の4つの要素にも影響を受けることになる。それ故に京子と鬼渡の2人は今までは人型と餓鬼型という間柄では気がついていなかったじゅに気がついてしまったのである。





 (あれ……? 俺、何でこんなに課長のこと……んっ、変に意識しちまう……)



 (ま、まずい……あたし……鬼渡のこと……。この変化の術、危険な気がする。修羅型のこともそうだったけど……心が変わってる気がする。あんまり使わないようにしなくちゃ……特にカブトムシへの変化は……。。)



 カブトムシへの変化の後遺症からか、戻った後も京子と鬼渡はしばらくの間、互いの顔を見て頬を赤らめた。


 



 仏教では肉体と魂という考えではなく、五蘊という5つの要素で生き物が出来ているという考えです。なので構成する5つの五蘊の1つが変わってもそれは以前の自分とは違う。

 諸行無常という言葉はそんな五蘊の考え方をよく反映した言葉なんだなぁと思います。

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