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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
35/62

第35話 可能性は無限大!! 多様性って素晴らしい!!!


 「あれ……馬面課長?? 」

 京子と鬼渡が地獄課に戻ると入口に馬面がいた。



 「おう、いねぇからどこ行っちまったかと思ったぜ。じゃあ、行くか……」

 馬面はそう言うと階段の方へ歩みだす。



 「えっ、……ど、どこに行くんですか? 」

 「どこって、25階だよ。するんだろ? 研修……結構時間かかるだろうから早く行くぞ……」

 馬面は特別研修の迎えに来たようであった。馬面のあとに続いて京子と鬼渡も1階まで階段で上がる。 






 ♦  ♦  ♦






 天空省1階。




 「お~~い、こっちだ!! 早く来い! 」

 1階に着くと馬面は吹き抜けから上に向かって叫んだ。すると上の方から何かがやって来た」



 「おっ、すずめじゃ……」

 馬面の声でやって来たのはすずめであった。そのすずめは羽を羽ばかせ、やがて1階の床に到着した。ごくごく普通のすずめである……と思った矢先、そのすずめは大きく形を変えた。




 「ふぅ……お待たせいたしました。課長!! 」

 「う、うわぁ!! か、怪物!! 」

 京子は思わず叫んだ。目の前のすずめがたちまち京子の背丈よりもはるかに大きな巨人に変化したからである。……が、その姿には見覚えがあった。



 「あっ、ま、鉞係長? 」

 「おはようございます。日下殿!! 」

 そう、その目の前の人物は畜生課の鉞であった。銀十郎なのか銅十郎なのかは判断できないが、鉞であった。



 「じゃ、後は頼むぞ、銀十郎。俺は帰るからよ……」

 「えっ! 帰っちゃうんですか!? 」

 京子は後ろにいる馬面の方を振りむいた。修羅課の亜修羅課長のように畜生課も馬面が研修をしてくれると思っていたから。せっかくきつそうな研修を受けるのなら性格はともかくとしてイケメンの指導を受けたい……そんな不純な気持ちが少しある。



 「俺は忙しんだよ。それに今回の研修ならこいつらの方が適任だしな……じゃ、頑張ってな」

 「こ、こいつら?? 」 

 馬面から説明され、周囲を見渡す京子。……が、いるのは銀十郎1人。こいつ『ら』という複数形は不適切である。そう思った瞬間、京子の身体が宙に浮いた。



 「うあっ!! えっ、ちょっと……何するんですか!? 」

 京子の身体は鉞の両手に掴まれ、鉞の頭上にかかげられていた。

 「ではっ、参りましょう!! 」


 「えっ、行くって……どこに……? 」

 鉞が見上げている吹き抜けの上を見る。そこには今下にいる人物と同じ顔がこちらを見下ろしていた。



 「兄者~~~!! 準備良しですぞ~~~~~!! 」

 「良しっ、行くぞ~~~~~!!! 銅十郎~~~~、しっかりと受け止めろよ~~~~!!! 」

 その声のあと、京子の身体は一度少し下に下げられた。

 「えっ!! ちょ、何する気なの!? 」

 嫌な予感がした京子はすぐに鉞に尋ねる。

 「いやなに、畜生課の研修は時間がかかりますのでここから日下殿を上まで投げ、時間を有効活用しようと思いましてなぁ。心配無用ですぞ、日下殿。日下殿を上の銅十郎に渡した後、私もすぐに飛んで向かいますので」 

 ここは1階。そして今から投げられようとしている目的地は25階。約375mの距離である。




 「では!! ……届くかどうかは分かりませんが、もし届かなくてもご安心くだされ。私が下で受け止めますので。いずれにせよ、その落下途中で日下殿が前世で飛べる生き物であった場合にはその気づきのきっかけとなります故、ではっ行きますぞ!! 」

 「わっ、わわ!! ま、待って!! 投げないで!! お、鬼渡~~!! 何とかしてくれい!! 」

 京子は鉞の提案を断固拒否した。距離にして375m。しかも重力と言う制約のある垂直方向の375m。届くかどうかではない、届くわけがない。確信した京子は鬼渡に助けを求める。

 


 「はぁ……分かりましたよ。。」

 京子は鬼渡の背中におぶさって無事、25階まで吹き抜けを駆け上がった。






 ♦  ♦  ♦






 ここは25階、畜生課の演劇部である。

 あいさつ回りで来た時のように相変わらず周囲はまるで屋外のように川や木々、床は草や花で覆われていた。




 「……で、今からここで何を……するんでしょうか? 」 

 京子は不安そうな表情で2人して並ぶ同じ顔に尋ねる。




 「今から日下殿には特別研修として、畜生型の会得をしてもらいます。我らは馬面課長よりその命を受けておりますので。心配せずとも我らが必ずや日下殿の前世を呼び起こし、畜生型を会得させてみせますぞ!! 」

 「ち……畜生型の会得。で、今から一体何を……」

 具体的に何をするのかを再度聞く。

 「うむ、そうですな。生き物の生き方は実に多様です」

 「はぁ。。」

 「空を飛んだり、水の中にいたり、土の中にいたり、木に止まっていたり、草の中に隠れていたり……故に、日下殿は前世でどのような生き物であったのかを調べるには膨大な時間がかかる」

 「なるほど……」

 人間以外の生き物すべて……というのはあまりにも膨大な数である。魚類、両生類、爬虫類、鳥類、被子植物、裸子植物、菌類、微生物……数えだしたらきりがない。



 「なので、その膨大な数から手っ取り早く前世を思い出していただくために今から日下殿には実際にその体験をして過去の記憶を思い出していただきます」

 「えっ……じ、実際に体験って一体どういう……」

 「では、研修開始!! 銀は金よりも良し~~~~!!! 」

 「銅は金と同じ~~~~~~!!! 」

 「う、うわぁ!! 」

 さらに具体的に何をするか聞こうとしたが、研修は鉞の大きな掛け声とともに開始された。






 ♦  ♦  ♦






 「うわぁ!! ちょ、や……やめて!! やめてってば!! 」



 「行くぞ~~!! 銅十郎~~、しっかり日下殿を受け止めるんだぞ~~~!! 」



 「おう、兄者!! 準備はばっちりだぁ!! 」

 ここは先ほどの場所から少し高い丘の上。高さとしては10mといったところであろうか。京子は再び、銀十郎の両手の中にいた。

 


 「は、離して……離してください!! な、何する気ですか!? 」

 「これは日下殿が飛べる生き物であったかどうかを確認する作業です。生き物の中でもやはり空を飛べるというのはかなりの利点ですからなぁ。では、投げますので空中でしっかりと羽ばたいて前世を思い出してくだされ!! それっ!! 」

 「えっ……? 」

 銀十郎の掛け声とともに京子の身体は丘の上から宙に投げ出された。空中で静止したような気がする……が、すぐさま京子の身体は重力の作用を受ける。 




 「い、いやぁああああああああああ!! 」

 銀十郎の手から離れ、重力によって銅十郎の元へ落下していく京子。その間、京子は羽ばたいた。銀十郎が言っていたことを思い出して必死に必死に両手をばたばたさせて羽ばたいた。……が、落下した。



 「おっと!! 」



 「あっ……あううぅ……」




 落下した京子を両腕でしっかりと受け止めた銅十郎。その腕の中で京子は目をぐるぐる回している。この作業によって京子は前世で鳥類でいたことはないことが分かった。


 

 



 ♦  ♦  ♦ 






 続いている場所は大きな湖。両脇を鉞に挟まれている。

 「こ、今度は一体何を……」

 「では、始めます!! 」

 


 「う、うわぁ!! 」


 

 『どぼんっ!! 』


 

 再び何をするのかを確認するために左側の鉞に尋ねる。どうせ先ほどのような作業が待っていることは分かっていた。……が、一応心の準備をするためにも尋ねた……のであるが、左に気を取られて右が手薄になっていた。その右側にいたもう1人の鉞に抱えられ、京子は湖に引きづりこまれた。



 「うぷっ……お、溺れる……た、助けてっ!! 」

 必死に目の前のもう1人の鉞に助けを求めた。が、京子の身体は背後にいるもう1人の鉞に次第に引きづりこまれ、やがて深く沈んだ。






 ◇  ◇  ◇






 (はぁ……い、息が出来ない……何でこんなこと……あたし、ここで死んじゃうのかなぁ? )

 その中は水の中。深い深い水の中。水面の上の音は聞こえない。安らかな静寂。周囲を見渡すと魚がいたり、底では藻類が揺らめいている。




 (…………あれ……この水の底……この感覚、どこかで……? )

 その水の冷たさ、静寂。そして揺らめく藻類。その感覚が懐かしいことに京子は気が付いた。

 ……あれは青森県の水の中。それは青森の十三湖という湖の中の記憶。その気づきが京子の身体を変化させてゆく。



 (……あれ、あたし……手足がない。…………そっか、あたしは昔、湖の中で……)

 ある変化を会得した京子。……だが、水の中での呼吸はまだできず意識が薄れてゆく。






 ◇  ◇  ◇






 『ザパァン!! 』



 京子の変化を確認した鉞は、水面に戻り、顔を水の中から出した。



 「ぷはぁ!! ……はぁ、く、苦しかった……。。」

 鉞に抱えられた京子もまた水面に顔を出した。思い切り空気を取り込む。

 「いやぁ、やりましたな!! 日下殿。見事、1つ目の畜生型を会得しましたぞ!! 」

 「えっ……あ、そっか。あたし……さっき。。」

 鉞にそう言われ、先ほどまで変化していた姿を思い出す。そう、京子は見事にこの湖の中で気づき、前世の姿を会得した。

 


 「や、やった……あたしちゃんとなれてましたよね? 」

 畜生型を会得した京子は笑顔で鉞に尋ねる。

 「ええっ、ええっ、お見頃です」

 「えへへっ、じゃあ畜生型も会得できたしあたしはこれで……」

 畜生型を会得したことも嬉しかった。だが、それ以上にここでの研修が終わることがそれ以上に嬉しかった。京子はそそくさと湖の中から出ようとする。


 

 「ややっ!! いけませぬぞ、日下殿!! 」



 「うわぁ!! 」



 が、鉞に腕を掴まれて再び湖へ引きすられる。


 

 「うぷっ……お、溺れる……おぼれる……!! 」

 「いけませぬぞ? 日下殿。しじみであればもっと長い間水の中にいられるはず……より長く畜生型でいられるようにするためにも特訓です。さぁ、水の中へ、さぁ!! 」

 「うぶ……お、溺れる……か、係長!! も、戻ってる!! あ、あたし人型に戻ってるから!! 」

 鉞によって再び湖の底へと引きづられていく。そう、京子が会得した姿はしじみ。青森県十三湖の名産であるしじみであった。






 ♦  ♦  ♦






 「…………こんなことして何になるんですかぁ、もう……。。」

 鉞の特訓でしばらくの間はしじみでいられるようになった京子。今度は木にしがみついてひたすら止まっている。



 「こちらもまた作業の1つです」

 「さ、作業って……あたしはもうしじみだったって分かったじゃないですかぁ? これって意味あるんですか? 」

 「大ありですぞ、日下殿。何も前世での畜生道の経験が1つとは限りませぬからな。可能な限り様々な生き物の記憶を思い出させるための作業を行いますぞぉ!! 」

 そうして屈強な男2人は木にしがみつく京子をひらすら見守っている。



 (……はぁ。こんなことしても前世の記憶なんて……記憶……なんて……)

 そう思った矢先、感じた。その木の感覚。木からうっすらと出ている樹液……。

 (お…………おいしそう。。……あっ、そっか、あたし……)

 そう。京子は再び気が付いた。その気がついた京子の身体が再び変化する。



 「おおっ、やりましたな、日下殿!! 」  

 「この調子でどんどんと他の作業も進めよう、兄者!! 」



 京子の変化した姿に喜ぶ2人の係長。こうして2人の係長によって京子の特別研修はまだまだ続くのであった。

 



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