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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
33/62

第33話 図書館ではお静かに。。


 3月14日。本日と明日15日は章の休日。京子にとっては章に来て最初の連休である。本来であれば昨日修羅たちに鉄の塊でタコ殴りになれた身体を休めたいところなのだが、京子はあるところに向かっていた。



 「まったく……何なの? 鬼渡は……昨日の研修に引き続いてお休みの今日もあたしを呼び出すなんて……えっと……こっちかな? 」

 京子は朝から章の街を歩いている。実は昨日の研修後、地獄課に戻った後に鬼渡から地図を渡されたのだ。これも特別研修には必要な内容であると。

 


 「あっ……いだだだた……か、身体がいたぁい……」

 痛む身体を引きずりながら目的地を目指す。今日は休日なので以前買った私服で来ようとも思ったが、鬼渡に会うので閻魔の赤服を着てきている。

 





 ♦  ♦  ♦






 「ここか……はぁ、やっと着いたよ。あっ、鬼渡」

 着いた場所は大きな建物の前。何か公共の施設のような感じである。建物の前には鬼渡がいつもの服装で立っていた。私服で無くて良かった、改めて京子はそう思った。



 「鬼渡~~。おはよう!! 」

 まずは元気にあいさつする。

 「おはようございます、課長」

 鬼渡は相変わらずいつものようにクールである。



 「この建物が今日の目的地なの? 」

 「はい、そうっす。じゃあ、入りましょうか」

 「あっ、ま、待ってよ……あ、いだだだたっ……」

 すたすたと建物の中へ入っていく鬼渡を必死に追いかける。






 ♦  ♦  ♦






 「うわぁあ~~、すっご~~い。ここって図書館だったんだねぇ」

 「そうっす」

 目的の建物は図書館であった。見渡す限りの本、本、本。外観からも建物の高さが分かったが、その内部は3階建ての作りである。らせん状の階段の先にも本棚とそこに収められている本が見えた。そこで京子は思った。これだけ本があるのならあれもあるはずだと。



 「ね、ねぇ……鬼渡? 」

 「ん? 何すか? 」

 京子に尋ねられ、横を向く。

 「ま……マンガもある? 」

 「マンガ? ああ、ありますよ。平日はマンガの類のコーナーは閉鎖されてますけど今日は休日っすから……あっちに」

 あった。やはりあった。



 「そ、そうか!! じゃあ……」

 足を指さされた方向に出す。

 「ど~~こ、行くんすか。俺たちが用があるのはそっちじゃないんで…」

 ……が、2歩目で阻止される。



 「あっ、は……離せ鬼渡!! 死んだ日が発売日で楽しみにしてた……ま、マンガ……あるかもしれないんだったら!! 邪魔しないでよ!! 」

 鬼渡に引っ張られ、マンガがあるというコーナーからはだいぶ離れた机と椅子のある読書コーナーに来てしまった。






 ♦  ♦  ♦






 「も~~、せっかく読みたかったマンガがあったかもなのにさ……」

 「だから今日はそんなことしに来たんじゃないんすよ」

 「じゃあ、今から何すんのよ……」

 京子の質問にため息が出る鬼渡。

 「……課長、問題です」

 「えっ、何々? またクイズ? 」

 京子は机に身を乗り出し、向かいの鬼渡に顔を近づける。京子はクイズ好きである。



 「課長の章でのランクが中品下生で俺のランクが中品上生なのはなんででしょうか? 」

 「はぁ!? 何それ!? マウント取りのつもりか!? こ、この!! 」

 向かいの鬼渡の角を引っ張ろうと手を伸ばす。背もたれに身体をそらし、京子の手から逃れる。



 「はいっ、時間切れで~~す。正解は仏教に対する知識の差っす」

 「仏教に対する知識? 」

 「課長は仏教について何か知ってること……ありますか? 」

 「えっとね……六道でしょ? あとは輪廻にお寺にお墓……あ、とは……あっ、桃次郎がつけてた南無っていう言葉と……あとはぱんにゃー!! ほらっ、可愛いっしょ!! 」

 京子はもらったぱんにゃーのお守りを鬼渡に見せる。




 「へぇ……ぱんにゃーを知ってるのは意外でした。でも、仏教にはまだまだ色んな知識があるんすよ。観音とか、八正道とか。あとは初期の仏教である上座部仏教からその後に発展した大乗仏教の概念も知っておく必要がある」

 「ん?? 八正道? じょ…じょうさぶっきょう?? あっ、いだだだだたたっ……」

 聞きなれない用語に首を左にひねる京子。修羅にやられた肩が痛む。


 

 「そうっす。そうした用語や考えを学んで、知識をつけていくことで九品のランクはあげることが可能なんすよ。九品のランクが上がれば、より修羅型の制御時間も長くすることができる。だから今日はここに勉強にきたんす、分かりましたね? マンガ読む暇なんてないんすよ」

 「ああ、だから鬼渡は中品上生なんだね。図書館好きだもんね」

 「分かったら、早速本を取りに行きましょう」

 「ううっ……分かったよう。。」






 ♦  ♦  ♦






 鬼渡と京子は本棚から10冊本を持ってきた。


 「う~~ん、わ、分からない……。。」

 京子は持ってきた本の中から『六道の観音』という本を手に取った。……が、そこには難解な漢字が並んでいる。如意輪観音、准胝観音、十一面観音、馬頭観音、千手観音、聖観音……。



 (観音って何だろうなぁ……仏像とかで名前は聞いたような気がするけど……もうちょっと分かりやすいのを探してこよ!! )






 ♦  ♦  ♦






 京子は再び本棚から分かりやすそうな本を探す。

 「ん?? これは……」

 分かりやすそうな本があった。その本はその他の本よりも絵が多かった。何故かと言えばそれが絵本だからである。



 「ふ~~ん、ジャータカ物語かぁ……これなら分かりやすいかも」

 ジャータカ物語。それは仏教の開祖である釈尊の前世の姿を物語るお話しである。京子はその中でも興味のある『月のうさぎ』という本を手に取り、席で読み始めた。



 京子の手にとった『月のうさぎ』の概要は下記のようなものである。



 その昔、うさぎが他の動物と仲良く暮らしていた。そこに帝釈天という天部が彼らの道徳心を試すために老人の姿で現れた。その老人は空腹で動くことが出来ないという。それに対し、うさぎ以外の動物は自らが用意した食料を老人に与えた。

 しかし、他の動物のように食料を何も用意できなかったうさぎは喜んでその身を炎に包み、その肉を老人にささげた。

 その行動に感銘を受けた老人の姿をした帝釈天はそのうさぎの徳を忘れぬよう、世の中がそのうさぎの行動のような徳で満ちるように願いを込めて月にうさぎの形を刻み込んだのだ。

 日本やアジアの一部の地域で月にはうさぎがいると言い伝えられているのはこの話が由来であると言われている。



 「ふぅ……」

 京子は『月のうさぎ』を読み終えた。絵本なので10分ほどで読み終えた。



 「う……ううっ……」



 「あれ? 課長、何読んでるんすか? そんな本選んでないっすよね……って、課長!? 」



 鬼渡は驚いた。自分も本に夢中になって気がつかなかったが、京子が選んだ本とか全然違う絵本を読んで目から大粒の涙を流していたのだから。



 「ちょ、ええ!? か、課長……な、なんで泣いてるんすか? 課長? 」

 「ううっ……こんなのって……あんまりだよう……ぐすっ」(帝釈天が老人の姿で動物たちを試したりしたから……)

 「え……ええ!? 」

 泣くじゃくる京子に困惑する。その様はまるで別れ際のカップルのようである。

 



 「ぐすぅ………ひどいよ……鬼渡」(こんなの……うさぎさんがあまりにも……可哀想……)

ところどころが感極まって声に出る……が、肝心の絵本の内容は声に出てこない。

 


 「……何? もしかして別れ話? 」

 「えっ、……あの2人……付き合ってんの? 」

 


 「えっ……いや、その……これは。。」

 周囲のささやき声に気が付き動揺する鬼渡。



 「まじか……つ~~か、ここは精進する場だってのに……いちゃつくんなら他所でやれよ」

 冷たい視線が注がれる。




 「えっ……いやっ、あの、これは違くって……この人は課長で、俺の上司で……」

 「ううっ……ひどい……なんでこんなことするの……」(他の動物さんも……止めてあげたらこんなことには……ううっ……)



 京子は徳を積むために自ら炎の中に飛び込み、その肉をささげた心優しいうさぎさんに心を痛めながら図書館で泣き倒した。



 図書館ではお静かに……。




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