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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
32/62

第32話 修羅の道、三毒に勝る強き心


 ここは天空省の10階、修羅課である。鬼渡が勝手に提出した特別研修のために京子は亜修羅に抱えられて来た。

 


 「では、始めよう」

 (あっ……あううっ……は、始まっちゃう…)

 亜修羅はそう告げると修羅課と外部を隔てている巨大な鉄壁を片手で開ける。その時、



 「あっ、ちょっと待ってください……亜修羅課長」

 声のする後ろの吹き抜けを見ると鬼渡が手すりの上に立っていた。



 「お……鬼渡~~、助けに来てくれたのか? 」 

 考え直してくれた。今から修羅課で始まろうとしている危険な予感がする研修をやっぱりやめようと止めに来てくれた……京子はそう思った。

 「いや、違います……。閻魔の大鎌忘れてたんで渡しに来たんすよ。研修で必要っすよね……亜修羅課長」

 鬼渡はそう言って手に持っていた大鎌を亜修羅に渡す。

 

 

 「おお、すまんなぁ鬼渡君。そうだそうだ、武器なしでの丸腰はさすがに危険だからなぁ。いやぁ助かったぞ、な~~はっはっは!! 」

 「いえ。じゃ、頑張ってください課長」

 鬼渡はそう言うと手すりから足を離し、するりと下へ落ちていった。



 「は……薄情者がぁああああ!! 」

 鬼渡を罵ったあとに気が付いた。武器が必要な……研修。嫌な予感は当たっていたようである。

 鉄の扉のその先。あいさつ回りで来た窓ガラスと頑丈そうな扉の先には以前と変わらぬ修羅の姿が見える。修羅たちは相変わらず刃を交えた戦いを繰り広げていた。



 「あ、あの……研修って……ここで、何をするんでしょうか? 」

 不安しか感じない……が、聞かなくては始まらない。覚悟を決めて尋ねる。

 「ん? 何簡単なことさ。この中の修羅のどれか1人で良い。その閻魔の大鎌の柄を修羅の首元に付きつけるのさ!! 」

 「…………はぇ!? しゅ、修羅の首元にって…ど、どうやって!? 」

 「もちろんこの中に入ってさ」

 そう言うと亜修羅は修羅のうごめく扉をぐいっと開けた。




 「きぃえぃやあああああああああああ!!! 」




 「うりゃあああぉおおおおおおお!!! 」




 扉が開き、修羅たちの声がより大きく聞こえる。そのあまりのすさまじい声に亜修羅はすぐに扉は閉めた。



 「こ、この中に入る!? い、いやいやいや!! 無理無理無理ですって! こんな中に入ったらあたしあっという間に首切られてバラされちゃいますって!! 」

 両手を前に突き出し、全力で拒否する。



 「心配はいらん。この階の修羅たちの持つ刀は切れない刀に変えてある。それに大勢いる修羅のどれかの首元に鎌の柄を突き付ければいいだけだ……簡単だろう? 」

 「で、でも…………」

 「それに日下君にはその大鎌がある。いざという時はその鎌を使っても構わん。修羅は首をはねられようと死にはせんからな」

 亜修羅は淡々と説明する。再び反論して何とかこの研修を拒否しようと思った。

 が、ここで何もしなければ餓鬼課の炎鬼や氷鬼の協力は得られない。何よりも桃次郎に対抗する力がない。京子は覚悟を決めた。



 「ううっ……分かりました。。」

 京子は両手で閻魔の大鎌を持ち、修羅たちがいる扉も前に立つ。

 (あたしを守ってね……ぱんにゃー。)

 京子は休日に吹姫にもらったぱんにゃーのお守りを赤服の内ポケットから取り出し、ぎゅっと握り、再びポケットに戻した。 



 「では、研修開始だ!! 」




 『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…………』




 亜修羅の掛け声とともに修羅の世界とこちらを隔てている扉が開く。

 





 ♦  ♦  ♦






 「きぃえぃあぇええええええええ!!! 」




 「しゃりゃあああぉおおおおおおお!!! 」




 扉が再び開くとこの世のものとは思えぬほどのけたたましい叫び声が響き渡る。



 (うっ……うわぁ……修羅だ。本物の……)

 先ほどまでガラスの向こう側から見ていた修羅。その怪物たちが今は何の隔てもない先にいる。

 京子は目的を達成するために大鎌の柄を自身の前に突き出し、前へ前へと進む。



 (大丈夫……大丈夫……ゆっくりと…後ろから)

 京子は互いに刃を交えている修羅の背後に回り込む。……が、向かいにいる修羅に気が付かれた。



 「きぃやぁあああああああ!!! 」 

 修羅は『ぱっ』と跳びあがると、京子の肩に刃を叩き込む。



 「いっ!! 」

 鎌を後ろに回し、柄を前に構えながら前進していたためその攻撃を防ぐことも出来なかった。まともに攻撃を受けた。幸いなのは刃が切れぬ刃であったこと。だが、それは鉄の塊。それを修羅の力で振り落とされた。京子の身体はたちまち地面に倒れ込んだ。



 「しぃえぃあぇええええええええ!!! 」



 「あゃりゃあああぉおおおおおおお!!! 」



 「きぃしゃああああああ!!! 」



 その身体に修羅たちが群がる。ここは修羅道。情け容赦の概念など存在しない。弱い者は叩く。そこに慈悲の心などはないのである。やらなければやられる。そんな『痴』が心を支配しているのだから。

 鉄の塊で無数の修羅から身体を叩かれ、京子の意識は薄れてゆく。


 …………が、薄れゆく意識の中で聞こえる修羅の声を聞いて気が付いた。

 

 




 ◇  ◇  ◇






 (…………あれ? あたし、この声……聞いたことがある。あいさつ回りで来た以前よりもずっとずっと前に聞いたことがあった。声だけじゃ……ない。この血生臭いにおい、血がしたたる音。全部知ってる……)

 そのどれもが京子には初めての経験ではないように感じた。気が付いた。


 

 (そうだ……あたしは前に……ここにいたことがある。修羅として。。)






 ◇  ◇  ◇






 そう思ったその時、急に体が軽くなった気がした。京子は袋叩きになっているその身体を起き上がらせ、高く跳んだ。

 (……え?? )

 その行動に驚いたのは修羅たちではなく京子自身であった。先ほどまで攻撃されていた修羅たちが2、3m下にいた。京子の身体は人では考えられないような高さまで跳んでいたのだ。それも無意識に。

 くるりと修羅たちの作る輪から抜け出した。



 「い、一体……何が……」

 京子は不思議に感じ、自身の身体を見下ろす。

 と、そこで違和感に気が付いた。手が浅黒い。それは京子のいつもの肌の色ではない。

 


 「え!? な、何これ!! か、鏡!! ……はないから……あっ、大鎌!! 」

 京子は手の大鎌の鎌に顔を近づける。鎌に反射して映る顔はさらに大きく様変わりしていた。その顔は瞳孔が大きく開き、肌は手と同じような浅黒い色、さらに髪は全体が白髪になっていた。その姿はまるで今、周りにいる修羅のようであった。


 「こ、これって……な、何が起きたの? なんでこんな姿に……? 」



 「いぉえぃあぇええええええええ!!! 」



 「えゃりゃあああぉおおおおおおお!!! 」



 自身の身体を気にしているのもつかの間、先ほど京子を叩いていた修羅たちが京子に駆け寄る。



 (今はそれどころじゃなかった……やらなきゃ……やられる!! )

 京子は再び高く跳び、修羅たちをかわす。周囲の修羅を圧倒するほどの身のこなし、素早さである。向かってきた2,3人の修羅の攻撃を見事にかわし、足払いをする。

 普段では考えられぬほどの素早い足払いに修羅たちは一斉に地面に叩きつけられる。京子はさらにその内の1人の修羅の顔を右手で地面にめり込ませる。修羅の顔はみるみる地面にめり込んでゆく。




 (…………楽しい……)




 心にそんな気持ちが自然に湧いてくる。他の修羅を圧倒する力、速さ。京子の心は次第に変化してゆく。圧倒的な力を持つ自分。手も出せぬ修羅。そんな状況に心が躍り、ある欲望が京子の心を支配する。




 (首を……はねたい。あの首をはね飛ばして……そこから出る真っ赤な血しぶきが見たい……)




 そう思った。

 京子は自身の周囲に群がる修羅よりもはるか高く跳びあがり、くるりと華麗に回転する。そしてそれまで前方へ構えていた閻魔の大鎌の柄をくるりと回転させ、鎌の部分を身体の前へと突き出した。真下に見える修羅の1人が呆然とこちらを見上げているのに気がついた。その表情はどこか怯えているように見えた。そう、圧倒的な力の前になす術の無いあわれな生き物……対象は決まった。落下に合わせて、それに向かい鎌を大きく振りかぶる。

 



 首を……はねる。そう思った瞬間、




 『……シャン!!』




 鈴の音がした。

 視線を修羅から外し、音の方角を見る。そこには吹姫からもらったぱんにゃーのお守りがあった。

 


 (あれは……? ぱんにゃーの) 

 おそらくはくるりと回転した時に服から落ちたのであろう。そのぱんにゃーの根付を見て思い出す。



 (…………あっ)



 【お守りだよ、そのお守りがあれば迷った時や困った時にもきっと自分を見失わない】





 『すっ!!』




 京子は修羅の首元に突き付けた。閻魔の大鎌の鎌の反対側にある柄を。




 「見事!!」

 その瞬間、亜修羅が鉄の扉を開けて部屋に入って来た。亜修羅は京子の周囲の修羅を蹴散らし、京子を抱え、修羅のいる部屋を後にした。






 ♦  ♦  ♦






 「あ、あたし……一体。。さっき、顔と身体が変わってて……あれ? 」

 京子は再び手の鎌の部分に自分の姿を映す。……が、それは先ほどまでの容姿ではなく、いつもの京子であった。

 


 「あれは、何だったんだろう……夢?? 」

 「いや、夢ではない。あの時、君は確かに修羅だったぞ日下君」

 「えっ……しゅ、修羅だったって? 」

 亜修羅の方に目を向ける。



 「修羅の姿は並外れた身体能力を発揮できる身体。だが、その欠点は身体が次第に三毒に侵され、本来の目的を見失い、目の前の相手を殺したい。欲望のままにいたぶりたいという心に支配されてしまう。この研修の目的は君が前世で修羅であったのかどうかの確認と、その身体の制御を会得することが目的だったのさ。修羅だったころの記憶を思い出したんじゃないかね? 」

 「あっ……と……は、はい……」

 



 「修羅の記憶を思い出し、君は修羅の身体を獲得した。そして次第に三毒に侵され心が完全に支配されそうになりながらも自分を見失うことなく、最初の目的を達成したのは見事だ」

 「は、はぁ……ありがとう……ございます」

 最初の目的。亜修羅は1人の修羅の首元に柄を付くつけよと言った。その目的を見失い、首をはねかけた。だが、京子はその三毒に打ち勝ち、目的をやり遂げた。




 「だが、油断は禁物。あまり長い間、修羅の身体でいてしまえば身体はたちまち三毒に侵され、元に戻れなくなるからなぁ。先ほど落とした鈴は肌身離さず持っておくと良い。な~~はっはっは!!! 」

 (そっか……これがあたしを正気にしてくれたんだ。ありがとう!! 吹姫さん、ぱんにゃー!! )

 京子はぱんにゃーを服から取り出し、『ぎゅうっ』っと胸もとに押し当てた。

 


 「あれ……? でも、待って。もし、あたしが欲望に負けて修羅の姿から戻らなかったら……どうするつもりだったんですか? 」

 「ん?? ああ、何たいしたことはない。その場合はおれがこの6本の腕で殴り倒して君を気絶させて正気に戻していただけさ」




 (こわ~~~!! 何言ってんのこの人。。)




 研修と呼ぶにはあまりにも雑すぎる内容。

 しかし、京子は見事に修羅の記憶を思い出し、その身体を会得することに成功したのであった。




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