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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
30/62

第30話 間違ってるもんは、間違っとるんじゃ!!

 

 3月11日。本日は2回目の六課長会議の日である。

 


 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……つ、着いた」

 ここは76階、課長会議の行われる階である。今日はいつもより1時間早く家を出たが、上る階段の段数は変わらない。息は絶え絶えである。

 呼吸を整えて会議室へ向かう。






 ♦  ♦  ♦






 「おはようございます!! 」

 部屋に入ると天海山部長、空谷、琴流、亜修羅、そして今日は畜生課の馬面が来ていた。相変わらず餓鬼課の課長は不在である。



 「おおっ、おはよう! 」

 「おはようございます 」

 部屋に入ると亜修羅、琴流があいさつを返してくれた。空谷と馬面は少しこちらを見るとそのまま視線を戻した。






 ♦  ♦  ♦






 「え~~、それでは3月2回目の課長会議を始める。まずは天国課から報告を頼む」

 本日も進行役は亜修羅である。

 


 「それでは天国課の今週の業務内容についてですが……」

 空谷の説明から会議が始まった。

 天国課、人間課の説明が終わり、初めて聞く畜生課の業務報告が始まる。

 


 「畜生課の来期の生物生産数に関してですが、現在現では魚介の乱獲が多発しています。食いきれもしない量を人間が大量に獲って廃棄しています。製造部でも24時間体制で生産を行っていますが、追いつけない状況です。なので諦めて来期はカツオとブリの製造を抑えることにします」



 (えっ……諦めちゃうんだ。。)

 京子は馬面の説明を聞きながら考えた。……が、この諦めも単なる諦めではなく、その理由を『明らか』にした上での『諦め』であることは理解できていた。それでもカツオとブリの製造を諦めるという事実は変わらないが。






 ♦  ♦  ♦






 「え~~、では最後に地獄課の業務報告だが……」

 亜修羅は言葉を一度止め、天海山の方を見る。



 「手元の資料を見てくれ。実は地獄課では今、人手が必要らしくてな。じゃあ、日下君説明を頼む」

 そう言うと亜修羅は続きを京子に任せ、畳に座った。



 それと入れ替わりで畳から立ち上がり京子は手元の資料で説明する。

 「それでは説明いたします。現在、地獄では地獄の門が開いていない状況です。それは引き続き開門を試みるのですが、今回はそれに関わるお願いです。実は今、地獄には3000万人ほどの罪人がおり、その人数をしっかりと裁くために調査省の調査書を確認している状態です。その数は罪人の数と同じ3000万枚。それを現在2名で行っており、人手が足りません。なので皆さんの課の職員に協力して頂きたいです。よろしくお願いします」


 

 「うむ……そうか。修羅課はなかなか修羅の管理で手が回らんが……その間の穴埋めは俺が何とかしよう。良し、修羅課は30名協力させよう。少なくてすまんな」

 「あ、人間課は今の時期は比較的余裕があるので……う~~ん。70名くらいは協力できると思います」

 京子の説明を聞いて自身の課から職員を派遣してくれると明言してくれる亜修羅と琴流。



 「あ、ありがとうございます!! 助かります」

 


 「うちは来期の業務で立て込んでるからちょっと……ねぇ。ごめんなさいね、日下課長」 

 京子の喜びに水を差すように続いて空谷が答える。

 


 「あっ、そうですか。分かりました」

 はなから期待はしていない。それに天国課は約100名の少数精鋭。本当に業務で多忙なのかもしれないし、無理強いは出来ない。京子が一番期待しているのは最後の課。京子はその課の課長に視線を向ける。そう、畜生課の馬面である。馬面は馬の着ぐるみのまま京子の用意した資料を見ている。



 (大丈夫だよね。10000人もいるんだし……少しくらい協力してくれるはず……)

 京子がそう思っていると資料を見ていた馬面が立ち上がり、京子の方へ近づいて来た。



 「あ、あの……畜生課は……何名くらい協力して……頂けますか? 」

 答えを待ちきれずに尋ねる京子。



 「しねぇよ……協力なんて。忙しいって言ったろ? 」



 「…………え?? 」



 まさかの0名回答である。



 「あっと……で、でもみんなでやれば多分1週間くらいで終わるんで……その、何とか1週間だけでもご協力いただけないでしょうか? 」

 京子の言葉にしばらく無言になる馬面。そしておもむろに着ぐるみを脱ぎ、イケメンのその素顔を晒す。 




 「地獄で罪人を正しく裁くなんて言うのはよぉ……理想だろ」

 「り、理想?? 」

 「地獄で罪人を正しく裁くって言うのは……どういう意味だと思う? 」

 「え?? えっと……六道の循環が正しく行えるようになること……ですか? 」

 六道。天、人間、修羅、畜生、餓鬼、地獄の6つが数珠のような輪になっているという考え。その1つである機能不全の地獄が正しい形になることでそれらが正しく循環する。京子はそう考えた。



 「逆だよ……」

 「え? ぎゃ、逆? 」

 「正しく裁くためには地獄に罪人を長居させるだろ? そうなると人として転生させられる人数が減る。だが、現に送り出す必要のある命は変わらねぇ……つまりは俺たち畜生課の仕事が増えんだよ。だからお前は調査書を調べるなんて余計なことはしなくていい。地平みてぇに適切に罪人を裁いて、転生省に引き渡してりゃあいいんだよ」

 馬面は京子を見下ろしながら淡々と説明する。



 「で、でも地獄でしっかり裁いてみんなに『命って大事なんだよ』って分かってもらった方が現も良くなるし、不必要に生き物を獲ることもなくなって良いじゃないですか! ほらっ、馬面課長もカツオとかブリがの製造が追いつかないって言ってたじゃないですか。地獄がちゃんと正しく動けばそういう問題も解決するんじゃないですか? 」

 京子の説得に馬面は右手で髪をかき分ける。



 「それが理想だっつんだよ……そうなるまで何十年かかんだよ。んなことよりも今は目先の仕事が大事なんだよ。分かったらこのくだらねぇ資料を回収しろ」

 「り、理想を追求したっていいじゃないですか!! その理想が手に入る可能性が少しでもあるんです。だったら私はその理想を実現したい。現で正しく裁かれない……人では裁くことのできない罪を地獄で正しく裁きたい。それが私のすべきことであり、したいことなんです!! だからお願いです、協力してください」



 「っち……知るかよ……んなことっ!!」

 一歩も引かない京子にいらだち、馬面は最初の会議で畳を窪ませたときのように着ぐるみの前足を京子の前に高くかかげ、振り下ろす。



 「……何してんだよ? 」



 「ふぐっ……ううっ……」



 ……が、京子はかがみこんでその足と畳の間に両手を挟み込んだ。畳は無傷である。畳と馬面の足の間から手を抜き、再び立ち上がる。



 「……間違ってます。おかしいでしょ? いくら忙しいからって……畳に八つ当たりするなんて。業務が忙しくなるからって妥協して罪を見過ごすなんて……そんなの……絶対におかしいです」



 「間違ってるかどうかなんてどうだっていんだよ。今さえよけりゃそれでいい……」



 その言葉に京子は反応した。今さえよければ。それは現状で手一杯の状況なら仕方のない言葉なのかもしれない。だが、もし今ここで京子が引いてしまったら、地獄は何も変わらない。何もしないは、もうしない。ここに来て決めた想いを思い出す。



 

 「間違ってるもんは、間違っとるんじゃ!! 」



 声を荒らげて馬面に言い放つ。その気迫におもわずたじろぐ馬面。 



 「な……何だよ。急に……」



 「私は絶対に調査書を全部調べて必ず地獄の罪人を正しく裁ける地獄を作ります!! 琴流課長、亜修羅課長、職員のご協力ありがとうございます」

 京子は亜修羅と琴流の方を向き一礼する。そして再び馬面の方を見る。



 「畜生課の協力はもういいです!! 馬の助けなんていらないんじゃ~~~!!! 」



 そう言って京子は馬面に向かって舌を出し、指で左目元を下に引っ張り、あっかんべ~をした。



 「なっ!! 」

  


 「な~~~はっはっは!! 一本取られたなぁ馬面ぁ!! いやぁ愉快愉快!! では、以上で本日の会議は終了とする。いやぁ、本当に愉快愉快!! な~~はっはっは!! 」

 気まずい雰囲気の中、亜修羅の大きな笑い声だけが会議室に響いていた。 






 ♦  ♦  ♦






 「おはよ~~。。」


 

 ここは地下11階の地獄課。鬼渡は本日も朝から1人でもくもくと調査書を確認していた。



 「あ、おはようございます。……会議どうでしたか。協力してもらえそうっすか? 」 

 「うん……まぁね~~。人間課が70人、修羅課が30人協力してくれるってさぁ。。」

 今日の成果報告をする。



 「あれ……畜生課はどうしたんすか? あそこが一番職員が多いのに」

 「知らなぁい……あの馬は協力してくれないってさ。頭に来てあっかんべ~して帰って来た」

 ふてくされながら京子も自分の席につき調査書の確認を始める。



 「ちょ!! 何してんすか!? 結局100人でやらなきゃいけないじゃないっすか! 」

 「もういいよ……あんな非協力的な馬は……。協力してくれる人間課と修羅課にファイルを運ぼうね、鬼渡」

 先ほどの出来事を思い出さぬように心を無にして作業を進める。



 「えっ、これ持ってまた上まで上がるんすか? 」

 「大丈夫だよ……エレベーターで持って行ってくれるみたいだから……だから1階までは2人で頑張って運ぼうね……」

 話す言葉に覇気がない。やはり一番のマンモス職場である畜生課の協力が得られなかったのは痛かった。内心、心穏やかではない。



 「あっ……課長、あれって」

 「え……何? 」

 「あの馬……馬面課長じゃないっすか? 畜生課の」

 「え!? 」

 鬼渡にそう言われ、鬼渡が目を向けている地獄課の入口を見る。そこには馬……ではなく、先ほど会議室で会った馬面課長の姿があった。その両脇には屈強な男。そう、以前あいさつ回りで出会った係長の鉞銀十郎、銅十郎である。



 「何の用っすかね? 」

 「う、うん……」(まさか、仕返しに来た!? あの2人の係長を連れて……)

  馬面は入口からすたすたと室内に入り、京子の前で立ち止まった。隣には2人の係長も一緒である。



 「な、何ですか? 」 

 身構える京子。すぐ脇に鬼渡を盾として持ってきた。馬面は着ぐるみを脱ぎ、素顔で京子を見つめる。




 「さっきは、悪かったな……」



 「え? 」



 「業務で忙しくてつい苛立っちまった。お前の言う通りだな。今だけしか考えてたんじゃ、状況はよくなんねぇよな。どっかで誰かがなんとかしなくちゃいけねぇ……。でも、それが俺じゃなくてもいい。きっといつかどこかで俺じゃない誰かがやってくれる。そう思ってた。けど、お前は違うんだな。誰かじゃなく、今自分がやるんだって、そんなお前を見てたら畳に当たったり、お前に当たったりしてた自分が恥ずかしくなってなぁ……悪かったな」




 「い、いえ……私の方こそ、すみませんでした。大人げなくって……」

 大人げない。その言葉は語弊がある。今どきあっかんべ~など子供でもしない行為である。そんなおこちゃまな京子の言葉に馬面は小さく2回頷いた。


 

 「おい、銀十郎、銅十郎!! 地獄課長の業務に手ぇ貸してやれ!! 」

 馬面は左右にいる係長に指示を出す。



 「ややっ!? 課長、今の演目部にそのような余裕はありませぬぞ!? 」

 「そうですぞ!! 製造部もフルスロットルで稼働中ですからな。我らはてっきり地獄課長をボコるためにここへ来たのかと思っておりましたぞ!! 」



 (うわぁ……やっぱりそのつもりだったんだ……)

 少し鬼渡を前に出す京子。



 「うるせぇな……1000人でやりゃあ3日で終わる。3日なら何とかなるだろ。業務に支障のねぇように調査書の確認に協力してやれ」

 「ややっ、なんとそれはまた……」

 「言うことが無茶苦茶ですな」




 「1000人もいれば足りるか? 日下課長? 」

 馬面は京子に尋ねる。今度提示されたのはなんと1000人。十分な人数である。

 「は、はいっ!! 十分すぎる人数です。あ、ありがとうございます。馬面課長!! 」 

 京子は満面の笑みで馬面に一礼した。その様子を見て馬面は再び着ぐるみを着て室内をあとにした。その顔はどこか笑っているような、楽しそうな。そんな顔に見えた。






 間違っている。

 誰しもがそんなことを思ったことがあるのではないだろうか。それも1度や2度ということはないはずだ。しかし、それを口にすることは容易ではない。



 そんな素直な言葉【 間違っていることは間違っている 】という度胸のいる言葉は死んで生前を後悔した京子だから言える言葉なのかもしれない。



 その言葉は馬面を動かし、地獄再建を好転させる結果をもたらした。




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