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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
26/62

第26話 地獄制圧作戦会議

 

 天空省地下11階にある地獄課の室内。京子と鬼渡は命からがら戻って来た。



 「……課長、大丈夫っすか? 」

 鬼渡はかかんでおぶっていた京子を課長席の椅子に下ろした。

 

 

 「な、何とか……あ、ありがとう……」

 「いえ……そんな……俺は何も……」

 重苦しい空気が流れる。安全な地獄課に戻ってきて改めて気が付く。地獄の門を開けようとしてヤバい奴に遭遇してそそくさと戻って来た事実を。結果的に惨敗である、気分が落ち込む。



 時計の針を見る。時刻は戌の刻と酉の刻の間付近を指していた。

戌の刻ちょうどの1時間前であるが、勤務時間が緩やかな章では終業時間である。



 「課長……」

 「ん……何? 」

 互いに何を話したら良いか分からないためか言葉数は少ない。

 「今日は……もう帰ったらどうっすか」

 鬼渡は京子のことを気遣い、早めの帰宅を提案する。



 「いや…でも、まだ…戌の刻じゃないし……それに大鎌もとりに行かなくっちゃ……」

 そう言って立ち上がろうとする京子の両肩を鬼渡は抑えて再び腰かけさせた。



 「大丈夫っす、大鎌は俺が餓鬼から回収しとくんで……それに課長は丸一日餓鬼に捕まってたんすから……今日は早めに帰って明日からまた考えましょう」

 確かにこのまま戌の刻になるまでいたとしての何かをする気力ももうない。

そうであれば早めに帰宅して明日に備えたほうが良いだろう。

 


 「……ありがとう。じゃあ、そうしようかな」

 京子はそう言うと机の上に置いてある閻魔の赤服を一着手に持ち、立ち上がる。

着ている服はすでに丸二日着ている。明日着る用の赤服である。

 「あっ……1階まではまたおぶりますよ」

 鬼渡の背中におぶさりながら天空省の1階入り口まで階段を上がる。






 ♦  ♦  ♦






 「ありがとう……ここで大丈夫だから」



 「そうっすか……じゃあ、俺はここで」



 「うん……じゃあ、また……」



 鬼渡に背を向けて京子は章の街へ歩き出す。


 「あの!!……明日また辰の刻に地獄課の職場にいますから……それじゃあ、お疲れ様です!」



 鬼渡の呼びかけに京子は振り返りことなく小さく右手を上げ返した。






 ♦  ♦  ♦






 戌の刻よりも少し早いためか、章の街はまだ少し明るい。

……が、歩いていくに連れて次第に日が沈んでゆく。

沈んでゆく日に気持ちがつられる。京子は目の前の日を見つめる。



 日はゆらゆらと激しく揺れていた。






 ♦  ♦  ♦






 「あ~~、きぼちびび~~~……」

 2日ぶりの風呂である。肩までしっかりと浸かれるほどに湯を張り、さらに口をうずめて子どものように『ぶくぶく』と口から空気をはき出す。



 「ん~~……どうしたもんかなぁ~~」

 頭に浮かんでくるのは桃次郎の顔。胸ぐらを掴まれた部分の首がまだ少し痛む。

 「あ~~!! もう、むかつくむかつく!! せっかくお風呂に入ってるんだし

桃次郎のことを考えるのはやめじゃ!! いつまでも落ち込んでても仕方がない!! 

たしかにヤバそうな奴だったけど……こっちには鬼渡も餓鬼50万匹もいる……うん、大丈夫大丈夫!!」



 風呂から出るとさっさと寝支度を済ませる。

 布団は相変わらずないが、昨日の檻の中で過ごした冷たく硬い岩の上に比べれば、

畳の上はとても柔らかく感じた。

 明かりを消す前に雪宮に借りた腕時計の時刻を見る。時刻は亥の刻。

これなら十分に眠れそうだ。京子は雪宮から借りている腕時計に付いていた目覚ましをセットし、消灯して床に就く。



 【でもさぁ……お腹すくんだよぉ……】

 消灯して目を閉じたまぶたの裏にあの時の餓鬼の顔と言葉が浮かんできた。


 

 (何とか桃次郎を裁いて、餓鬼たちを救いたいなぁ……)

 そんなことを頭に浮かべながら京子は眠りについた。






 ♦  ♦  ♦






 3月6日卯の刻。



 「………すぅ……すぅ……すぅ……」

 『ま~~か~~はんにゃ~~は~~ら~~みった~~しんぎょう~~』

 


 「うわぁ!! 」




 『かんじ~~ざい~~ぼ~~さ~~つ~~』




 「え!! ……な、何なに!?」

 頭のあたりで鳴り響く騒がしい音で目覚める。京子は音の正体を探してきょろきょろと周囲を見渡す。

 「あっ……これかぁ」

 その音は腕時計からであった。



 「えっ……何? この目覚まし……何か……変な声が聞こえる……」




 『ぎょう~~じん~~はんにゃ~~…』




 慌てて目覚ましを止める。

 般若心経。悟りを得るための六の徳。の内、智慧の獲得に関して説かれた経典である。


 

 「いってらっしゃ~~い!!」

 今日の朝食はトマトと天むす2個である。

 二日ぶりの食事ではあったが、天むす2個とトマトだけでも腹が十分に満たされた気がする。






 ♦  ♦  ♦






 「ふわぁあ~、おはよう~~」

 「あ、……おはようございます」

 地獄課の室内に入るとすでに鬼渡がいた。手にはホウキと塵取りを持っている。

どうやら掃除をしてくれていたらしい。



 「おう、掃除をしてくれていたのか!! 」

 「いえ……やることもなかったんで……大丈夫っす。あと、大鎌は机の上に置いときました」

 「お~~、取り返してくれたのか!! ありがとう」

 京子は鬼渡が取り返してくれた机の大鎌の方へ向かい、そして椅子に腰かけた。

 


 「さてっ!! それじゃあ、閻魔の大鎌も戻って来たし……作戦会議だ~~!! やるよ鬼渡!! 」

 家で1日ゆっくりと疲れをとった京子。寝たのは畳の上であったが、それでも元気いっぱいに声を張る。

 「えっ……作戦会議? 何のっすか? 」

 「決まってるじゃん……地獄制圧の作戦会議だよ! 桃次郎倒して地獄を取り戻さなくっちゃでしょ!? 」

 昨日は負けた。だが、桃次郎は必ず倒さねばならない相手である。

 そのためにも入念な作戦が必要である。



 「作戦っつっても……どうすんです? 俺たち昨日桃次郎に負けたばっかりっすけど」

 「ふふっ、心配ないぞ? 鬼渡。これを見ろ!! 」

 京子は机に置いてくれていた閻魔の大鎌を手に取り鬼渡の方へ向けた。



 「えっ……これがどうかしたんすか?」

 「分からんか? この大鎌でじゃな……こう桃次郎の首をえいっ……とはねるんじゃよ!! 

こう……えいっ……とな? 」

 京子は嬉しそうに鬼渡の方へ鎌を向け、左右に振り回す。



 「……課長」

 「ん? 何?? ……えいっ……えいっ♪ 」

 京子はにこにこしながら大鎌で桃次郎を刈り取る練習をしている。



 「俺を桃次郎だと思ってその大鎌を振りかざしてください」

  「…………え、ええ!? い、いやいや!! ダメでしょ!! 鬼渡が危ないよ!! あたしこれで鬼渡を刈っちゃうよ!? 」

 「大丈夫っす。俺の身体は桃次郎よりは10倍硬いんでもし万が一首に当たっても大丈夫っす」

 「そ、そうなの? じゃ、じゃあ……やるよ~~!! 」(当たらないように直前で止めなくちゃ……)

 「え~~い!! 」

 だが、京子のそんな心遣いはまったく不要であった。




 『ひょい!! 』




 「うわぁあ!! 」



 鬼渡は左手で大鎌の刃を止め、その大鎌ごと京子の身体は持ち上げる。そして京子の顔の左側には鬼渡の左足が寸止めの状態で存在していた。



 「あっ……あううっ……」

 「分かりましたか? 俺に簡単にやられるんだからこれじゃ絶対桃次郎は倒せないっすよ。この作戦は無駄死になんで絶対やめてください、良いですね? 」

 「く、くう……じゃ、じゃあこういうのはどう? 」

 「……今度はどんな作戦すか? 」



 「餓鬼課にいる餓鬼50万匹を全部使って、桃次郎を倒して地獄を制圧する!! 」

 シンプルイズベスト。単純だが、手っ取り早い。餓鬼約50万匹を使えば桃次郎や他の罪人も制圧できる。京子はそう考えた。 



 「課長……問題です」

 「ん?? 何々? ……クイズ? 」

 鬼渡に大鎌ごと宙に持ち上げられた状態でクイズに参加する。

 「今の地獄に罪人はだいたい何人いるでしょ~~か? 」

 「えっ……う~~ん…どうだろうな 10万…いや? 100万人!! 」

 鬼渡は京子の回答に顔を横に振り正解を発表する。

 「正解は……約3000万人っす」



 「え~~そっか~~!! ってことは~~餓鬼の数は約50万匹。…で、罪人が約3000万人だから何とか 勝て……るか~~!! 勝機がまったく見えん!! そんな戦力差でどう勝てばいいんじゃ!! 」

 3000万人という予想をはるかに上回る数に叫んでしまう。

 


 「まぁ、落ち着いてくださいよ課長。数は確かに少ないが、餓鬼は人間よりも力が強い。餓鬼の力は人間の約10倍。それを考慮すると……どうです? 」

 「え~~とそれだと……そっか!! ……餓鬼が50万匹×10倍で人間換算で500万人と考えると、500万人対3000万人の戦いになる。よしっ!! これなら勝機は十分にって!! あるか~~!!」

 盛大に乗りツッコミをする京子。 

 「無理じゃろ!! いくら何でも!! 」

 完全に鬼渡に弄ばれている。



 「ははっ……まぁ、落ち着いてくださいよ……課長。地獄の罪人の数が3000万人って言ったって多分全員が歯向かってくるわけじゃない……。せいぜい歯向かってくる罪人がその三分の一だとするとその数は約1000万人。と考えると」

 鬼渡は大鎌をゆっくりと下げ、宙から解放された京子はじっくりと考える。


 


 「50万匹×10倍で人間換算500万人対1000万人う~~ん……どちらにしても不利じゃな……戦力差が倍もあるぞ……」

 「まぁ、そうっすね。しかもこれは全部の餓鬼が俺たちに協力してくれたらの話っすから。今の金で買収されてる餓鬼たちがどこまでこちらについてきてくれるか……正直未知数です」



 「あっ……そっか……」

 「しかも、課長は一昨日餓鬼たちから金巻き上げてたんで餓鬼たちの印象も最悪でしょうね……もしかしたら他の餓鬼にも悪い噂が広がってるかも」

 「はうっ!! ぐぐっ……そ、そうじゃった……余計なことしちゃったなぁ」



 作戦を色々考えるも現状では圧倒的に戦力差があることが分かった。そして何よりも厄介な桃次郎を打ち負かす明確な武器や方法は何も見つからない。





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