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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
24/62

第24話 超絶極悪!! 鬼を100万匹殺した男

 

 再び建物の外へ出る京子。しかし、今回は強力な部下鬼渡がいる。罪人や餓鬼も近づいては来ない。しばらく鬼渡と共に歩いていくと地面に大きく窪んだ部分を見つけた。



 「……これは? 」

 「ここが下へ行く階段っす」

 「え!? こ、ここから……行くの? 」

 その大きく窪んだ溝のような裂け目は天空省の建物の階段のような建築的な作りではなく、古代文明の遺跡のような階段であった。先を覗き込むと暗くてまったく見通せない。



 「あの、本当に行くの? 真っ暗なんだけど……」

 「問題ないっす。ちゃんと行燈持ってきたんで」

 「あっ、いつの間に……」

 鬼渡の手には行燈が握られている。



 行燈で足元を照らしてもらいながら階段をおりていく。その階高は一段あたりがかなり高い。おそらくは50cm程度はありそうである。それでいて一段あたりの段の幅も異常に長い。そしてその形状はらせん状である。



 「はぁ…やっと……着いた? 」

 「いえ、ここは地下12階……地獄の門があるのは地下14階……なんでまだ下っす」

 「え!! まだ下なの!? 」

 行燈に照らされる周囲を見渡してみると鬼渡の手に持っているのと同じ行燈がところどころにあった。



 「へぇ~、一応明かりは置いてあるんだね」

 「そうっすね…一応動線は照らせるように置いてあります。俺と前の地獄課長の地平さんで置いたんです。地平さんも何度か地獄の門を開けようとしてたんすけど……結局ダメでした…門が開いたら罪人を下に誘導するためにこの行燈も頑張って付けたんすけどね……」

 「そ、そっか……」

 あの気力を失ったような表情の地平も最初の頃は頑張っていたのであろうか。人は初めはやる気に満ち溢れ、やがて現実を知り失望する。それはこの章でも同じということなのかもしれない。






 ♦  ♦  ♦



 



 さらに下層に進む。



 「んっ……んあっ……」



 「う、うわぁ」

 当然と言えば当然なのだが、地獄には男だけではなく女もいる。

 そんな場所に両者がいれば、それも欲にまみれた罪人であれば進みゆく道の途中の折々で散見されるような行為もまぁあるのであろう。それが合意の元か否かは定かではないが、そんな光景を極力見ないように両手で周囲が見えないように顔を覆う。



 「見たくなかったら俺の後ろにいて下向いててください……大丈夫っす。もし罪人が寄って来たらぶち倒しますんで」

 「そ、そうか…あ、ありがとう……」

 何とも頼もしい。



 京子は鬼渡の両肩に掴まり、かつ鬼渡から決して離れないように視線を下におろしてさらに下へ下へと進んでゆく。






 ♦  ♦  ♦






 「着きました…これが地獄の門っす」

 「はぇ~~、これが地獄のもんかぁ……それにしても大きいなぁ」

 京子と鬼渡の前にあるのは、高くそびえる周囲の岩壁と同化するように存在している巨大な門。地獄の門である。それは想像よりもはるかに大きかった扉の横幅は10m,高さは20mと言った所であろうか。もはや扉と言いうよりは一つの建造物のようである。



 「……この先はどうなっとるんじゃ? 」

 「いや、知らないっすよ……開かないんすから」

 馬鹿な質問をした。さらに扉の前できょろきょろと扉の左右を確認する。その左右には大きな柱がそびえており、その上部はすり鉢状になっていることが確認できる。



 「ふんっ……ううっ~~~~!!! 」

 扉に体当たりして扉を押してみる。

 「う~~ん…やっぱりだめかぁ…」

 一応ダメもとでも挑戦する。それがこの女、日下京子である。

 「だがら開かねぇって言って……課長!! ちょ、こっちに来てください!! 」

 「おわぁあ!! 」

 鬼渡は京子の腕を引っ張り近くにあった岩の陰に隠れた。しだいに声が聞こえてくる。







 「いやぁ…しっかし今日も収穫っすね~~」

 「おうよ、金さえあればあの餓鬼どもの不思議な力を使って欲しいものが手に入る。あいつらははした金で饅頭やらで満足するからなぁ……こんな楽なことぁないやろう。これも兄貴のおかでやで…まったく」

 「容易いことじゃ、おどれらは儂に従っとけばここでの暮らしも安心じゃけんのう……まぁ、せいぜいここでゆっくりしちょれや」

 「へいっ、ありがとうごぜぇやす!! 」



 「まったく……何なんじゃあいつは」

 岩陰から眺めるその連中はおそらくは罪人である。…が、まるで罪人感のかけらもない目の前に現れた集団を見て京子は呟く。

 「あれは桃次郎っす」

 「桃次郎? 」

 「その昔、1000年くらい前の現…つまり今の日本には人と鬼が共存していた時代があるんすよ

桃次郎はそんな遥か昔からこの地獄にとどまり続けている大物っす」

 「えっ、そうなの!? 」

 「はいっ、図書館で調べましたから…間違いないっす。あいつは鬼を殺して金品を奪った桃太郎と同様、いやっ、それ以上の極悪人っすよ」



 「桃太郎さんはあたしの出身地岡山の英雄じゃ!! 岡山駅にも桃太郎さんたちの銅像が建っておるんじゃぞ? 桃太郎さんとあの桃次郎を一緒にしないでよ! 」

 鬼渡の解説に反論する京子。

 「いや、あれはただの強盗っていう説ありますよね」

 「そ、そんな訳ないじゃろ!? 」

 「いや、ありますよ。俺は図書館で調べてますから詳しいっすよ。桃太郎のことは」

 「ど、どこの図書館じゃ!! その図書館は!? 」

 この男の発言、その発言のすべてはどこかの図書館から得たものらしい。



 「章の図書館っすよ。章の図書館は過去の歴史に関する本が無数に保管されてるんす。確かそこに書かれていた記録では桃太郎はその鬼退治と称して鬼を殺した罪で地獄で罪を償ったと書かれていましたし、間違いないっす」

 「そ、そんな……桃太郎さんが…地獄にいたなんて……あっ、で……でもあれじゃろ? どうせ鬼なんて元々日本にはいなかったし、ただの作り話……だから桃太郎さんが鬼を殺したとか、地獄で罪を償ったとかっていうのも作り話なんじゃ……? 」

 本末転倒であった。尊敬する岡山の英雄、桃太郎を擁護したい気持ちが強すぎた結果、尊敬する桃太郎の存在自体を否定してしまっている。



 「いや、桃太郎はいたし、鬼もかつてはいましたよ…日本に。俺、しっかりと章の図書館で調べましたから」

 また図書館情報。この男、相当に図書館に入り浸っているようである。

 「そ、そうなの!? で、でもさぁ…鬼がいたんなら何で今の日本にはいなくなっちゃったの? 絶滅しちゃったってこと? ……ニホンオオカミみたいに」

 詳しく図書館情報を聞き出してみる。



 「もともと現には人や他の生き物以外に鬼が暮らしていたんすよ。でも、桃太郎が鬼を退治してから鬼が宝をたくさん持ってるって噂が広がって全国で鬼狩りが始まったんす」

 「うん……うん」

 「そこで名声を上げたのがあの桃次郎っす。あいつは桃太郎よりもより多くの財や権力を手に入れるためにひらすら鬼を殺しまくったんす。その数なんと約100万匹…図書館の本で調べました」

 「ひゃ…100万匹……。で、でも桃次郎なんて名前あたしは聞いたこと……そんな悪人なら現の記録にも残ってるんじゃあ? 」

 「これは俺の推測ですけど抹殺されたんすよ、歴史の中から。桃次郎の所業はあまりにも残酷だった。だから、人間たちは自分たちの鬼たちへの悪行を隠すとともに桃次郎の存在も消し去ったんす」



 「そ、そんな……」

 「しかも今の章の議会も圧倒的に人間型の菩薩で構成されているんで地獄の桃次郎の件も……処罰しにくいんでしょうね。餓鬼たちは餓鬼たちで桃次郎たちにびびり倒してこの今の惨状って感じっす」



 「そ、そんな!! それじゃ殺された鬼たちが可哀想ではないか!! 」

 壮大な話に感じた。かつての日本には人と鬼が共存していた。

 しかし、桃太郎の活躍をきっかけに鬼狩りが始まり、あの桃次郎が鬼を滅ぼした。その人の罪を認めまいと議会が地獄での桃次郎の暴挙を許しているのだとしたら……殺された鬼たちが浮かばれない。殺されたのは鬼であるが、命の重さは皆同じ、何としても成敗せねばならない。京子はそう感じた。



 「図書館で見た話にはまだ続きがあります。殺された鬼たちの怨念は現にも戻れず転生できずにこの地にとどまり続けた。それを哀れに思った章土の仏様が六道の一つとして餓鬼を作り、餓鬼にはその仇である桃次郎のように悪事を働いた人間を罰する役割を与えなさった。図書館で調べた本にはそう書かれてました。

 それでも恨みの根源である桃次郎を何とかしないと餓鬼課の餓鬼はずっと渇いたままでしょうね…

ほらっ、あいつらやたらと腹空かせてるじゃないっすか…」



 「あっ…確かに」



 そう。餓鬼課で京子が餓鬼たちから金を回収していた時に聞いた言葉。



 【でもさぁ……お腹すくんだよぉ……】



 あの言葉はもしかすると物理的な空腹ではなく、心の空腹の方が大きかったのかもしれない。桃次郎に殺された鬼たちの怒り、恨み、無念。

 そんな感情が現在の餓鬼にも引き継がれているのかもしれない……




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