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水野忠短編集

器用な神様と不器用な神様 【短編完結】

作者: 水野忠

 そこはたくさんの神様が暮らす天上世界。


 神様たちは、いつも私たちの世界を気にかけ、

 困っていることがあると、そっと手を差し伸べてくれます。


 日照りが続き作物が育たない時は雨を降らし、穂を実らせ、

 人々が飢えないように、様々な生き物を作りました。

 牛、豚、鳥、鹿、猪、それ以外にも、魚や植物を作ってくれているのです。



 ある日、器用な神様が、

「たまには食べ物になるものばかりではなく、見て楽しまれるような生き物を造ろう。」

 そう言って、青空に浮かぶ白くきれいな雲をちぎると、

 羽を付け、色を付け、空を自由に飛べる生き物を造りました。


 それは、人々の間で「蝶々」と呼ばれて、愛されました。

「神様はなんて美しい生き物をお造りになるんだろう。」

 人々は蝶々の絵を描いたり、着物の柄にしたりしました。


 それを見ていた不器用な神様が、

「器用な神様はきれいな生き物を造ったものだ。よし、私も一つ手伝ってやろう。」

 不器用な神様は、曇り空の雲をちぎると、

 見よう見まねで羽を付け、色を付け、空を自由に飛べる生き物を作りました。

 せっかくならいっぱい増えてほしいからと、たくさん卵が産めるようにしました。


 それは、人々の間で「蛾」と呼ばれて、嫌われてしまいました。

「神様はなんだってこんな気持ちの悪い生き物を作ったんだい。」

「幼虫が庭の草花を食い尽くして全部枯らしてしまったよ。」

 人々は蛾を嫌い、駆除するようになっていきましたが、

 普通の生き物よりも多くの卵を産むため、どんどん増えていってしまいました。


 不器用な神様は首をひねって考えました。

「どうして人々は、私の作った生き物を嫌うのだろう。」

 そして、考えて考えて、

「そうだ。見るだけじゃなく、聞いても楽しめる生き物を作ろう。」

 そう言って、不器用な神様は、再び曇り空の雲をちぎると、

 見よう見まねで羽を付け、色を付け、空を自由に飛べて、

 それでいて鳴き声で楽しめる生き物を作りました。


 それは、人々の間で「蝉」と呼ばれて、また、嫌われてしまいました。

「神様はなんだってこんなやかましい生き物を作ったんだい。」

「うちなんか隣が林だからやかましくって仕方ないよ。家族と話もできない。」

「それに、死んでるかと思って通り過ぎるといきなり鳴き出すし、怖いわ。」

 駆除するほどでもなかったのですが、人々はあまり蝉を好みませんでした。


 それを見た器用な神様が、

「鳴き声のする生き物か、それはいいね。」

 そう言って、青空に浮かぶ白くきれいな雲をちぎると、

 羽を付け、色を付け、空を自由に飛べて、

 それでいて、美しい音色で鳴く生き物を造りました。


 それは、人々の間で「鈴虫」と呼ばれて、愛されました。

「秋にこの鳴き声を聞くと、とても穏やかな気持ちになるよ。」

「神様はとても素敵な生き物をお造りになられたね。」

「とても心地い音色ね。そのままゆっくり眠れそうだわ。」

 人々は鈴虫を庭に放ち、夕涼みをして、その音色を聞きながら家族団らんをしました。



 またある日、器用な神様が、

「今度はカッコいい生き物を作ってみるか。」

 そう言って、青空に浮かぶ白くきれいな雲をちぎると、

 羽を付け、色を付け、空を自由に飛べて、

 雄々しく猛々しい角を付けた生き物を造りました。


 それは、人々の間で角を持ったのは「カブトムシ」、

 ハサミを持ったのは「クワガタ」と呼ばれて、愛されました。

「わぁ。神様はなんてカッコいい生き物をお造りになられたんだろう。」

「見てみて、僕のカブトムシ、角が大きくてかっこいいだろう?」

 子供達が喜ぶ姿を見て、器用な神様はにこにこと笑っていました。


 それを見ていた不器用な神様は、

「よし、今度こそカッコいい生き物を作ってみせるぞ!」

 そして、真っ黒い雨雲をちぎると、

 見よう見まねで羽を付け、色を付け、空を自由に飛べる生き物を作りました。

 カブトムシやクワガタはカッコいいですが動きが遅いので、

 すばしっこくてどんな隙間にも入っていけるようにしました。

 それでいて、いっぱい増えてほしいからと、たくさん卵が産めるようにしました。


 それは、人々の間で「ゴキブリ」と言われて嫌われました。

「駆除しても駆除しても出てくるんだよ。」

「気が付くと部屋にいてさ。あの黒光りが怖いんだよな。」

「神様はなんだってあんな生き物を作りやがったんだ。」

 人々はゴキブリを嫌い、駆除するようになっていきましたが、

 普通の生き物よりも多くの卵を産むため、どんどん増えていってしまいました。

 駆除しようにもあまりにすばしっこく動き回り、

 隙間があればどんどん隠れていくので、人々は疲弊しました。



 器用な神様は、

「なぁ。神様にだって得意不得意はある。君はもう、生き物を作らないほうがいいね。」

 そう言って不器用な神様を諭しました。


 不器用な神様は肩を落とし、

 別の仕事をしようと去っていってしまいました。


 終わり

お読みいただきありがとうございます。


作者は虫が大の苦手です。

職場は自然豊かなもので、

毎年様々な虫さんが来訪します。(笑)


少しでも気を紛らわそうと書いたお話でした。


ブックマークと高評価、

どうぞよろしくお願いいたします。

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