謝るくらいなら、やめとけばいいのに
「長」が殺されてから数日、集落の人々は不安に駆られながら日々の生活を過ごしていた。いや、それだけならまだ問題はないのだ。
「なんかピリピリしてんなぁ」
不安そうに皆が過ごすのは十分理解できるし、それで辺りを警戒することもわかる。実際、集落の周りにおける見張りの巡回が、いつもよりも増えた。けれども、彼らが見ているのは、外よりも中のように見えるのだ。
『なんか、嫌だねぇ』
クロも同じような感覚を覚えているようだ。
集落内の人が殺されたことで近隣の人を疑うのは全く違和感などないのだが、なんで集落から出ていく人を止めるような監視体制を敷いているのか。
『ワタシたちもなかなか外に物資を取りに行くこともできなくなってるしね』
今までは『黒瑠璃の詩』の業務でルリとクロが外に行くことは珍しくなかったのだが、この数日間は誰かの依頼で用事があっても、なぜか外に行くことを止められている。
“あと、ここに住むからには、この街から絶対に出てはならないぞ”
いつかの「長」の言葉が思い出される。
「うーん、「長」の言葉、あんまり気にしたことなかったけど、意味があったのかねぇ……」
『おや、ルリが人の言葉を覚えているなんて珍しいね。それだけで気にしているようなもんだよ』
ルリの独り言に対して、おちょくるように猫は話すが、それを聞いてルリは思った以上に考え込んでしまう。
「ふーむ、思いの外気にかけていたのだろうか……ではなぜだろう……」
『ま、まあまあ、ワタシたちの、というかルリの記憶管理なんぞは適当だから、偶然覚えていただけだって、たぶん』
意外なルリの反応に、クロは慌てたように言う。
「……ま、そっか。クロは大して気にかけてなかったんでしょ?なら、問題ないね」
『そうそう』
「とりあえず、こなせる分の依頼だけこなしていくか」
そうして、『黒瑠璃の詩』は今日も店を開けた。
しかし、事件はそれだけでは終わらなかった。
「ねーねー、なんかお外がうるさいねー」
『黒瑠璃の詩』の者で、その異常に初めて気づいたのはシナツだった。
「ん?あー、なんかそんな気がするねー」
最近は集落も物騒で、そんな雰囲気を敏感に嗅ぎ取っているのか、シナツもなかなか外出しようとしない。もしかすると、元が人見知りしがちなので、いつもと違う集落の人々に怯えているのかもしれない。ちなみにルリは元々仕事以外で外出しないので、あまりいつもと変わらない。なので、ルリとシナツが一緒にいる時間が増えたことについては、今の状況においてただ一つの利点と言えなくもない。
『ルリ、気がする、じゃなくて本当にうるさいよ』
シナツの言葉でも特に外を気にする様子のないルリに、クロがさらに言う。
『つい先日「長」が殺されたばかりだからね、ヒトの心情的にもストレスが溜まって何か起こしやすいし、見に行った方がいいんじゃない?』
「うーん」
やはり気乗りしない様子ではあるものの、この前からの殺人からそう日数も経っていない。似たようなことが起こった可能性はある。それに、クロの様子ではルリが行かなくても見に行くだろうし、そうしたらシナツもついていきかねない。
「そうだね、見に行くか」
勝手に一人(と一匹)で行くよりも、一緒に付いていった方がよかろう。そう判断したルリが席を立ち上がろうとしたとき、店の中に二十代後半程度の男が転がり込んできた。
「あれ、どうしたの?」
シナツは突然の来客に驚いて後ろに隠れたものの、落ち着いてルリが対応する。その男は割と近所に住んでいて、三日に一回くらいは何か仕事をくれる店の常連さんであり、それなりに親しい人だった。
その人は、気が動転したようで、少し震えつつも口を開く。
「また、また誰か殺されてんだ……!」
* * *
シナツを置いて、ルリとクロだけで現場を見に行く。現場はすぐ近くであったため、そんなに時間はかからなかったが、その道中でいくらか話を聞いた。
どうやら、その常連の男もちょっと前に昼寝から目が覚めたらしく、家の外の騒がしさを少し見に行くと、誰かの死体が見えたらしい。その場の皆野次馬ばかりで特に行動を起こす様子はなかったので、急いでそれを他の誰かに伝えようと思い、懇意にしていて、大体なんでも請け負ってくれる『黒瑠璃の詩』に転がり込んできたとのことだ。
その殺された誰かとは誰なのか、という事を何度か尋ねてみたものの、その人が誰かはなぜか答えず、「その意味は行けばわかる」としか言わなかった。
そして、現場に辿り着いた。
先にクロが足元を抜けて、それに遅れて数人の人の間を通り、クロはその現場を目にした。
『うわぁ……』
クロが思わず、声を漏らす。あまり動かないその表情も、ピクリとほんの少しだけ引きつった。
「なるほどー」
ルリはそこまでの驚きを見せなかったが、納得したように呟いた。
そこには、顔や身体の一部がぐちゃぐちゃに潰された死体が転がっていた。体格から男であろうという事はわかるが、それだけではこの死体が誰かは特定できない。
「だから、行けばわかる、だったのね」
狭い集落だ。住民の有無を確認すればこの男が誰かはすぐにわかるだろうが、今すぐには難しいだろう。
「にしても、こんなの見ても気持ち悪いだけだろうに、ヒトはよく興味を持って死体を見に行こうとするね」
周囲には聞こえないくらいの声でルリは呟いた。
『ま、でも触るのは流石に嫌らしいけどね』
誰にも聞こえなかっただろうルリの呟きを、黒猫だけは拾って返す。
死体の周りは、数人の人がいるものの、一メートルくらいの円状の領域には誰も入ってこない。
「ま、何はともあれ、このせいでうるさかったんだね」
喧しさの原因が分かったところで、ルリは興味を失って帰ろうとする。
『ちょ、待って待って』
それをクロが引き留めるが、特に用事もないことは明白だったので、そこの集団から離れた。
『ルリー、流石にすぐ帰るのは無いよー」
非難がましくクロが話しかけてくる。
「でも、依頼で来たわけでも無しに、これ以上することある?」
『それは、うーん、犯人捜し?』
ルリの言葉に少し悩んでクロが答えるが、
「いや、でもそんなことしてどうするの?私たちには利点はないよ。そういうのはやりたい奴がやればいい」
『でもさ、一度ならともかく、二度も人が死んだとなれば、それはワタシたちにも問題だよ。この集落の存続という意味でさ』
「……そう?」
珍しくルリが含みのあるような声色で答え、その会話はいったん終わった。
ルリとしてはいつもと変わらない気分だったが、クロはこの沈黙を気まずく感じたか、しばらくすると妙に明るい声で話し始めた。
『ま、そうだね!さっさと家に帰って次の依頼でも待とうかね!』
「そうしようか」
ルリもクロの言葉には同意して、短い帰路を歩く。後ろの死体現場はその喧騒でさらに人が集まってきたのか、もっと騒がしくなっていた。それを無視して、一人と一匹は歩いた。
そうして、また、いつも通りカウンターで客でも待とうと思いながら店に入ろうとしたとき、後ろからルリを呼び止める声がした。
「ちょっと、待ってください!」
直近で聞き覚えのある声。これは確か、
『あれ、さっきの常連さんじゃん』
振り返ると、先ほど店に転がり込んで現場までルリを連れて行った人が遠目に見えた。
「えーっと、名前は確か……?」
『オサムさんね』
「あー、そうだ、オサム、オサム」
先程は死体の状況を聞き出すのを優先して、忘れていても尋ねなかった名前について話しているうちに、彼はルリのもとに辿り着いた。
「すぐに帰るなんて、酷いじゃないですか……」
やけに息を切らしながら、オサムは話しかける。走ってきたとはいえ、どうにも体力的な息切れだけではないように思える。
「どうしたの?」
そんな彼の様子を観察しながら、ルリは用件を訊く。
「せっかく連れて行ったのに、何もせずに帰るなんて、何のために来たんですか!?」
オサムはそんなことを言うが、ルリからすればなぜ死体を見に行かせるためだけに連れ出したのか疑問なところである。
「別に、依頼でもないし、私自身はあの現場に用件ないしね」
「あー、まあ、そうですね……」
まだ何か言いたげではあるが、諦めたように肩を落とし、オサムはルリの言葉に頷く。ルリが来て半年。特に『黒瑠璃の詩』の常連はその性格をよくわかっているのだ。
「で、それだけ?」
そう尋ねつつも、もう用は済んだだろうと、ルリは家に入ろうとする。オサムはそれを慌てて止め、ルリが向かい直ると彼は背筋をまっすぐに伸ばし、勢いよく頭を下げて言った。
「あ、あの!犯人を……ここから、追い出してほしいんです!」
それは、『黒瑠璃の詩』に対する仕事の依頼だった。
* * *
店の中で、改めてオサムの話を聞く。
「ふむふむ、犯人を追い出せ、ねぇ」
オサムは真剣な顔をして頷く。
「うーん、そういうのはまず、ここの長に相談するのがいいんじゃないの?」
殺人だとかそういう集落の崩壊の危機ならば、率先して動くべきはここを統括する者であろう。
「その人はもう殺されたじゃないですか……」
俯いて悲しげに彼は訴える。
『でも、代わりにコハクが治めてるじゃないか』
クロの声は当然オサムには聞こえないので、代わりにルリがそれを伝える。
「それじゃダメなんです!」
すると、今度は思いきり否定してきた。
「ん?何がダメなの?」
「長」と比べると、確かにコハクはこの集落を上手にまとめているとは言い難い。「長」は、厳しくも人情厚く、時には冷静に時を見極めながらこの集落の未来を見据えて行動していた。それに対しコハクは、現状に翻弄され、慌てふためきながら仕事に追われている。とはいえ、人々からの人望もあり、足りない人手も誰かが空いた時間にやってくれている。「長」とは違うものの、異なる形でこの集落をまとめあげるはずだ。
「それは……あいつが……」
オサムは何か言いたげに言葉を紡いだが、尻すぼみに声は消えていき、その主張は喉元を出なかった。
『なんか、怪しいね……』
そんな様子を、クロは訝しんであからさまに警戒する。いくら常連とはいえ、ただそれだけの関係だ。無闇な信頼感などは抱いていない。
「んー、じゃあ、逆に訊こう。「長」の何がよかったの?」
殺人などに興味はなく、依頼とあればすぐに受けようと思っていたルリだったが、オサムの何か隠している様子には興味を惹かれて、違う問い方をしてみる。
すると、オサムは悲しそうな顔を再度浮かべて、話し始めた。
「工場長は……「長」は、私の勤める工場の工場長でした」
『いや、ちょっと待ってよ。「長」がここの工場長だったことは聞いてるけど、オサムさんはここの工場に勤めていたの?』
クロの言葉をルリが代弁する。
「まあ、そんなところです。結局、勤めて数年でこんな状況ですけどね……工場長は、新人の私にも優しく、時に厳しく指導してくれました。そんなこの工場に私は生涯勤めようと思ったものです」
「はあ、そうですか」
ルリは興味なさげな様子を隠そうともせず、オサムの身の上を聞く。ルリにとってそんな身の上話はどうでもよく、聞きたいのはオサムが感じる「長」とコハクの差異だ。けれども、一応話の腰を折ることはなく相槌を打ちながら耳を傾ける。
「AIが暴走し、工場、どころかこの街そのものが崩壊したときも、工場長は私たちを救ってくれました。生き残った人々を集め、役割を決め、少ない資源でも暮らしていけるように効率のいい基地を造りました。そんな工場長を我々はすぐそばから見てきました」
「我々ってことは、他の工場の人もいたの?」
「いますよ。元工員は基本的にここの幹部として多くが残ってます。今もなお残っているのはもう少ないですけど……」
「え、オサムはそんな重要な人だったの?」
「いえ、私は、新人でしたもので……」
そう言って首を振るオサムは、けれども不満そうな様子はなかった。
「……ところで、話が見えないのだけれど」
最初から興味なかったが、彼の身の上にも完全に飽きたルリは、そろそろ話の続きの催促をした。
「あ、ああ、そうですね。工場長は、「長」はヒトの手でこの集落を存続させてきました。それなのに……!」
段々と語調が強くなり、何か訴えるように叫びかけたところで、オサムは話しすぎたとでも言うように自ら口をふさいだ。
「それなのに?」
「いえ、忘れてください。とにかく、私はアレに任せすぎるのは嫌なんです。だから、お願いです。犯人を追い出してほしいんです」
彼は露骨に誤魔化し、結論をまとめた。
「……まあ、いいや。わかった。依頼だしね。受けようか」
『受けていいの?あからさまに何か隠してるじゃん。あやしいよ』
不用意に承諾したルリに、クロは忠告めいた声を掛ける。だが、ルリはそれを無視して、オサムに対して続けた。
「でも、一つだけ。犯人を追い出せってことだけど、特定はしなくてもいいの?」
オサムの顔が引きつったものの、なにも答えず、彼はお辞儀だけして、そのまま店を出ていった。
『今の質問。どういうことだい?』
含みを持たせて質問した意味をクロは問う。
「うーん、だって、普通犯人は見つけて、その処罰はみんなで決めるものだろう?なのに、オサムは犯人を見つけて、でもなく、捜して、でもなく、ましてや殺してとか罰してでもないからさ」
『わざわざ「追い出せ」と言った本意を聞きたかったってこと?』
「え?いや、そんなんじゃないけど?」
クロの質問に対し、ルリは本気で不思議がっている様子で首を傾げた。どうやら、隠れた真意を問いただしたかったわけではなく、単に依頼の確認として聞いたものだったらしい。
『なんか……失望したよ』
「え!?なんで!?」
勝手に期待されて勝手に落胆されたルリは、訳が分からず尋ね返したものの、猫は楽しげな電子音を鳴らすだけだった。
* * *
ルリとクロは集落をぶらぶらと歩き回る。そうして辿り着いた場所は、「長」の死体があったところだった。
『とはいえ、もうなーんにも残ってないよ?』
もう事件から数日経っている。死体は埋葬され、血の跡などは綺麗に清掃されていた。
「うーん、でも、犯人捜しはとりあえず現場検証みたいなイメージない?」
『まあ、分からなくはない』
ルリは死体があったちょうどその場所に立つと、死体の様子を思い出す。
「ねえクロ、「長」の死体ってどんな感じだったっけ?」
『うん、死体の様子?詳しくは調べてないけど、首に強く締められた跡が残っていたね。ワタシたちが初めて見た時点でもう血液は凝固して、筋肉も硬化していたよ』
死体そのものには大して興味もなかったルリに代り、クロがその時の状況を説明する。
「ま、あのときは朝だったし、前日に「長」の元気な姿は見ていたし、夜中のうちに殺されたんだろうね」
『いやいや、もしかすると死体が動いていたかもしれないじゃない』
「何言ってるんだか」
そんな冗談を交えつつも、考察を進める。
『にしても、なんで「長」は抵抗しなかったのかね?』
「ん?したんじゃないの?」
『いや、してないね』
言い切るクロに、ルリは疑問符を浮かべる。
『いや、ルリ、死体に興味なさすぎない?』
「だってあの時はこんな依頼受けると思わなかったし」
『探偵向きじゃないね』
「知らんがな」
『それで、「長」の傷は首の絞め跡しかなかったからね。手とか足とか綺麗なもんだったよ』
「綺麗だったからなんなの?」
『いや、誰かを殴ったり蹴ったりした跡もなかったってことだよ』
「あー、なるほどー」
のんびりとした声を出しながら、ルリは理解する。
「死体さえあればなー」
ルリの持っている解析機は、ヒトの状態を判断することくらい造作ない。死体さえあれば死因でもなんでも調べられただろう。
『そればかりは仕方がないよ。燃やされちゃったし』
この集落は火葬の方式をとっている。もともとこの街の埋葬方式がそうであったこともあるのだろうが、同時にペストなどの伝染病や死体による汚染を防ぐ面でも有用だ。「長」の埋葬時にはルリも立ち会った。
「いやー、工場内にあれほどの火力場が残っているなんで驚いたね」
『探索しきったかと思っていたけど、まだまだ未踏地があるもんだね』
そんな風に話がそれ始めたところで、ふとルリが地面から何かを拾った。
「うーん?これ……」
『お、なんか見つけた?』
ルリが拾ったものは、オレンジの色素が一部にこびりついた欠けた小さな石だった。
「面白い石見つけた」
『あー、そうですか』
クロは興味なさそうだったが、ルリはシナツへの思い出になるかもしれないとそれをポケットに入れた。
そこではもうすることがないので、ルリとクロが立ち去ろうとする。そんな彼女らを呼び止める声がした。
「ん?」
『おや、コハクじゃないか』
「長」の死体はその家のすぐ近くにあった。当然コハクの家もすぐ近くにあるので、彼女がそこにいることは何もおかしいことではない。
「ルリさーん、クロさーん、こんにちはー」
機嫌よさそうにブンブンと手を振っていた。
「あー、こんにちは」
『こんにちは』
コハクはルリのところまで来ると、クロの頭を撫でる。クロはそれに対してゴロゴロと喉を鳴らす。
「コハク、なんか用?」
わざわざ声を掛けてくる意味が解らず、ルリは尋ねる。
「用がなければ話しかけちゃだめってことはないでしょう?特に用事なんてありませんよ」
なぜだかコハクはニコニコと機嫌よさそうだ
「強いて言えば、ここでなにをしているのかなぁなんて気になっただけです」
「そっか。にしてもなんか上機嫌だね」
ルリがその機嫌のよさを指摘すると、今度は急にいつもの調子に戻って、不思議そうに首を傾げた。
「上機嫌?なんのことですか?」
「いやににっこにこだから」
すると、今度は突然怯えた顔をする。
「え……、そ、そんなことは……」
そんなコハクの気分の移り変わりを、流石のルリも妙に感じる。
『なんか、ころころと機嫌変えるね……』
「なんかあったのかね?」
ルリとコハクが相談していると、コハクは再び笑顔に戻る。
「そんなことはないですよー、元気元気です」
「……とりあえず、休んだらどう?」
人間は疲れていると奇行に走ることがあると聞く。ルリはコハクに休息を提案した。けれども、コハクは首を振ってそれを断った。
「いえいえ、休んでなんていられません。もっともっと働きますよ」
「はあ、そう」
おかしなものだとは思いつつも、本人はいたって平気そうなのでルリはおとなしく引き下がった。変なコハクに付き合い続けるのもあまりいい気分でもないので、さっさとずらかろうとルリは手を振ってこの場を離れようとする。
『ルリ、もう、帰ろうか……?」
クロもなんだか疲れてきたようで、帰る提案をしてくる。
「うーん、じゃ、私たちそろそろ帰ろうと思うから……」
ルリもそう言って、踵を返して帰ろうとしたとき、
「あ、そうそう。最近誰かここで殺されたらしいから、気を付けてね」
ルリはぴたりと足を止め、クロは顔をピクリと動かして後ろに振り返る。
『誰か……?』
クロが呟く。
「うんうん、命は大事にしないとね。どんな身体をしていても命は一つなんだから」
止まっていた脚を再び動かし、人型機械はこの場を離れる。愛玩機械はそれについていく。
後ろでは、いつまでもニコニコと、まるで機械のようにコハクが手を振っていた。
「長」の死体があった場所を離れたルリとクロの間には、重い沈黙がのしかかっていた。目的は別になかったが、彼女らの足は自然と第二の殺人現場に進んでいた。
そうして辿り着いた場所には、暗くなってもう人がいなくなった現場だった。死体ももうどかされている。埋葬するのはまだだろうが、明日か明後日には火葬されるだろう。
ちょうど死体があったところに立つと、その下の地面を、目を凝らして眺めてみる。
『……いやー、怖いね』
長かった沈黙を先に黒猫が破った。
なにが、などと無粋なことは訊かない。すでにルリとクロには分かっていた。
彼女らだからこそ、わかって、しまっていた。
「なんというかさ、哀しいね」
ルリは、クロの言葉に対して同意でも否定でもなく、ただ自分の感想を述べた。
『数時間程度の短い探偵ごっこだったね』
「ちょっとは面白かったけど」
『まったく、不謹慎だなぁ』
そうは言いつつも、クロの声も少し楽しそうだ。
地面には、よく見ると微かな石片が落ちている。それをルリは拾うと、握りしめて粉々にした。
「……ちょっと、話でも聞きに行こうか」
そんな風に言って、ルリはその現場も立ち去ろうとした。
『終わる前に、かい?』
クロの問いに、しばし間を置く。
「……いや、終わる時に、かな」
その時、集落のどこかからか、爆発音が聞こえた。
この街そのものを支えるシャフトが、ぎしぎしと悲鳴を上げている気がした。
* * *
爆発音で、家から人が飛び出し、静かだった道が一気に騒がしくなる。人々は思い思いに叫びつつも、言っていることはほとんど同じ。そんな彼らを、ルリは冷めた眼で眺める。
「まったく、皆同じ反応を示すよね」
『こうなると、ヒトと機械の意識に違いなんて、ないよね』
「……本当に」
しみじみとルリは呟く。
今の爆発音。正確な出所はわからないが、この層全体に響くような大きな音だった。流石にそこまで響かなくとも、確かに集落の外まで響いたはずだ。直線的な電磁波を防いできた工場の壁も、波状に広がる音波はそれを完全に遮るには至らない。完全に蓋をしていたのであれば防げたかもしれないが、残念なことに上方には高層の屋根以外に壁はない。むしろその屋根が音を反射して集落の外まで音を届けただろう。
『とりあえずシナツのもとへ行こうか』
クロの声に従い、『黒瑠璃の詩』の店に走る。店の前には、爆発音を聞き、さらに帰ってこないルリとクロを心配してか、シナツがきょろきょろと辺りを見渡しながら心配そうに立っていた。
ルリのことを視認すると、ほっとしたような顔になり、思い切り手を振ってくる。そんなシナツに駆け寄ると、急いで抱きかかえる。
「なんかあったの、ルリ?」
少し舌足らずに尋ねるシナツの質問には答えず、爆発音が聞こえてきた場所から離れるように走る。
『……ルリ、いいの?』
そんなルリに、クロが投げかけた。その言葉を聞いて、ルリの足が止まった。
『行って来たら?』
抱きかかえていたシナツの顔と、クロの顔を見比べる。数瞬、迷い、結論を下した。
「シナツ、クロの後ついていって」
クロも逃走経路を把握している。むしろクロの方が詳しいだろう。散歩と称して集落銃を歩き回っていたのだから。ルリも己以上に安心して任せられる。
「ルリは?ルリは来ないの?」
「いや、行くよ」
シナツの言葉に即答すると、続きは訊かずにルリは反対方向に駆けていった。シナツもついていきたそうにしていたが、クロが脚に絡み、それを阻害する。
「ルリ、なんだか変な顔してた」
シナツが呟く。その足元で、黒猫が瑠璃色の機械が行った方向を横目で見た。
『ワタシたちがきっと行きつく先だ。見に行ってごらん、ルリ』
ニャーと鳴く声の裏にあった愛玩機械の呟きを、この場で聞いた者は一人もいなかった。
ルリは、爆発音がした方向へ走っていた。正確な場所はわからずとも、大体の方角はわかっている。それに、人々の喧騒がその出所を伝えてくれる。
辿り着いたその場所には、人だかりができていた。そしてその向こうには、家が丸ごと燃えていた。暗い夜を、不穏な篝火が明るく照らしている。ルリはその裏に周りこむと、人の気配を探った。
今までヒトの振りをするために両目にカバーをかけていたが、それを半年ぶりに外す。可視光だけを受容していた人型機械の瞳は、回路を切り替えると人間には認識不可な波長の電磁波を受容する。
「なかには……誰もいない……か」
正確には、誰もいないわけではない。けれども、それは今、ルリにとってどうでもいい情報である。
おそらく周囲に残っているであろうその痕跡を探して、ルリは辺りを周る。しばらく探すと、家の炎でほとんどかき消されているが、ヒトではないなにか、ヒトよりも体温の高いナニカが通った後を見つけた。
「見つけた」
その薄い痕跡を辿っていくと、そこに辿り着いた。
そこは、どことなく見覚えのある場所だった。けれども、ルリの記録には残っていない場所でもあった。
円盤の外側。下には黒々とした下層の街が広がっている、そんな場所。そこの柵に、その人物はもたれかかっていた。
「コハク」
そして、そこにいた人物に声を掛けた。
「あれ、ルリさんじゃないですか、どうしてこんなところに?」
いつもと変わらない、いや、いつもよりも機嫌よく彼女は応える。
「どうしてもこうしても、コハクがここにいたから、私もここに来た。それだけ」
「は?それじゃ答えになってませんよ!ちゃんと答えてください!」
今度は何か怒っているように話す。それを見て、ルリは哀れに思いながらもどこか複雑な思いを胸に抱く。
そして、その全てを見据えながら、ルリは口を開いた。
「コハクはもう、壊れかけてるんでしょ?」
その言葉を聞き、コハクは目を丸くする。
「壊れる?わたしが?そんなわけ……だってわたしは工場のAIを統括管理してるんですよ?そんなわたしが壊れたら、工場はおしまいじゃないですか」
「ああ、もう、それだけでいいや」
今度は笑いながら答えるコハク。ルリにとってはその姿こそがあまりに痛ましく、目を背けたくもなる。けれども、その姿を真っ直ぐと見据えた。
壊れた機械の末路を、正面から受け止めた。
「きっと随分前から壊れてた。けど、「長」いや、工場長がある程度修理して誤魔化してたんだろうね。工場長のあの人が統括AIのコハクを知らないわけがない」
だから、翌日に自分が殺されることも予見していたのだろう。ポケットからオレンジ色の、琥珀色のついた石を取り出す。それはただの石ではなく、欠けた螺子の一部だ。
「ああ、工場長。今どこにいるんですか?」
それを聞いて、ルリは溜息をつく。
「もうだめだね……昼の時点で気づいちゃいたけど」
初めの殺害は絞殺。次の殺害は全身を殴打しての撲殺。そして三番目は、家ごとの爆殺。昼間のコハクの応答から、もう限界が来ているのは気づいていた。そもそも、最初の殺害の時点でもう駄目だったのだ。二番目まで何とか耐えていたのかもしれないが、一度腐れば、どんどんと腐敗は進んでいくのだ。
「記憶の欠如、メモリーの損失、認識の崩壊。それらの錯綜と矛盾による暴走。ヒトと認識していた“誰か”の殺害。次点で来るのは、自我境界の曖昧化による崩壊かな」
長年使用され続けた、機械の末路。雪が降ろうと降らなかろうと、その最期はやって来る。特にコハクのような複雑すぎる回路を持ち始めると、その結末はより悲惨なものとなる。
「コハク……いや、ここまでくると、もうコハクじゃないかもね」
壊れた人形のように、いや、本当に壊れた機械が笑ったり泣いたり怒ったりしながら何か話す姿を、ルリはじっと見る。そして、その様を記憶に刻み込む。
「もう、“コハク”という存在は消えたんだ。だから、私が殺してあげよう」
せめてもの情けとして、完膚なきまでに壊そうとルリは構えようとして、
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ。
聞き覚えのある音が聞こえた。そしてその瞬間、
「あ、れ?」
コハクが呟く。
円盤の下から現れた影は、すぐ近くにいたコハクに背後から襲い掛かり、コハクの体躯は軽く投げ飛ばされた。
「あれ、わたし、なにを、工場長?だれ、いや、わたしが……ア……」
ルリのすぐ近くまで吹き飛ばされ、身体の表皮が削られながらもコハクは、そんなことを呟いていた。
「……っ!」
そんな彼女を見捨てきれずに、ルリはとっさに彼女を抱えると現れた四脚の蜘蛛から逃れるべく走り出した。
今一匹しか来ていないという事は、これをルリとコハクしか認識していない状態でどうにか倒せば、それ以上蜘蛛がやって来る可能性は低い。もともと蜘蛛が集団で行動するとはいえ、効率の悪い狩りはしない。獲物が少なければその分の蜘蛛しかやってこないのだ。蜘蛛はそういう交信を相互に行っている。
前に飛び出して、蜘蛛が振り下ろした脚を避ける。ほとんど身動きしないコハクを抱えているせいで金属腕を使っての攻撃も満足にできない。
「ぁ……ごめ……さい……」
その場で蜘蛛の攻撃を紙一重で避けるルリの耳に、掠れたような声が聞こえてきた。けれども、その声色は随分“まとも”だ。
「うるさい、動けるなら自分で動いて」
余裕のないルリは辛辣な声を背中の機械に投げる。
蜘蛛に投げられた衝撃により一時的に意識が元に戻ったのかもしれない。ヒトと似た精神構造を持つ機械は、命の危険にさらされたときに精神が正常化する可能性も高い。その逆もあり得るが。
「わた……ころ……」
「知ってるから、気が散る…………っ!」
コハクの訴えを黙らせ、熱線を躱す。しかし、ルリ自身は躱しきったもののコハクの分を見誤り、その華奢な腕を熱線が焼き焦がす。短く悲鳴を上げるが、それを押し殺してコハクがまだ何かしゃべろうとする。
「ねぇ……わたしを……」
「うるさいったら……!」
なおも黙らせようとするが、コハクがさらに声を上げる。
「ねぇ……!もう、いいよ……!」
思いのほか強いコハクの言葉に、ルリの方が押し黙る。
「なぜ?」
蜘蛛の攻撃をかわしつつ、冷静に尋ねてみる。
「わたしは……大切なダレかを殺した……もうそれだけで、わたしは……」
その言葉に、ルリは完全に沈黙する。
ルリの記憶の中に、大切な存在を殺したことも殺されたこともない。コハクの気持ちなど微塵もわからない。そんなとき、どうすればよいかという最適解もわからない。だから、
「そっか」
人型の軍用機は、背中の民間機のいう事を素直に聞くことにした。
少し蜘蛛から離れところで、コハクを降ろす。
すぐさま押し潰さんと迫る蜘蛛の脚を最後に弾くと、思い切り跳んでその場から離脱しようとした。けれども、蜘蛛の脚はなおも動いて、鋭く突出するように変形したその先端が、コハクの胸を貫こうとする。
その刹那。
“──…………。”
コハクの口が動いて、何か言った気がした。それを読み取り、なんと言ったのかを予測し、
「はぁ……」
ため息をつき、足を踏ん張った。そのまま地を蹴り、前へ進む。その勢いは真っ直ぐ前へと進み、同時に金属腕を展開し、一部を銃身に変形させ。
コハクの横をすれ違う。蜘蛛の脚が彼女の胸に触れる。硬い金属骨格を歪めながら、そのまま穴を穿つ寸前、今度は確かに声が聞こえた。
──ごめんね。
歯を食いしばって、撃鉄の解放とともに拳を打ち出した。蜘蛛の正面からぶつかった拳は、その巨大な身体を破壊には至らないものの、宙に浮かし、後方に飛ばす。そしてそのすぐ後ろは──円盤の外側だった。
コハクの体を貫き、その内部のケーブルや循環液を撒き散らしながらもそれを磔にしたまま、蜘蛛が落ちゆく。
ただ一人残った人型機械は、思わず舌打ちをした。
「……謝るくらいなら、やめとけばいいのに」
その言葉は、己の耳にすら響かなかった。
* * *
──エラー、“人間”の定義がされていません──
わたしは工場の機械だった。
そこにあるほかの機械をヒトが容易に統括するため、産み出されたAIだった。だから、人間と仲良くなろうとした。より円滑な指示のために。
この身体もそのためだった。
より親しみやすさを得るための容姿だった。
ただ、そのために生まれた。けれども、ゆえにわたしはその人々を愛していた。なんと思われようと、愛していた。
一番の誤算であり、でも嬉しかったこと。
それは、皆もわたしを愛してくれたことだった。
工場長も、工員もみんな、愛してくれた。
ただの統括機械であるわたしに、情を与えてくれた。
ただの番号ではない、大切な名前もくれた。
工場がなくなっても、愛してくれた。わたしがいなくならないように、拒絶されないようにわたしのことを隠してくれた。
でも、そのうちわたしにはそれが誰かわからなくなっていた。
ヒトと主と従えるべき機械と、何もかもが分からなくなっていた。
未だネットワークに接続していたわたしは、わたしよりも上位の機械の意識に侵食された。それは時が経つにつれ、より強く混濁していった。
ある日に来た、ネットワークから切断されているしゃべる猫型の愛玩機械と瑠璃色の瞳を持つ人型機械。もしかするとわたしを殺しに来たんじゃないかと思って、わたしは彼女らを恐れた。同時に、ここのヒトたちを殺しに来たんじゃないかと思って、見張っておかないとって思った。
結局、それらはただの杞憂だったけど。
──この間の記録情報は欠損しました──
──人を、滅ぼすべきだ。
わたしにとっての人間。従うべきダレか。もう忘れてしまったけど、でも、あれ、わたしは。
人、ヒト、ひと?
そっか、わたしにとっての“大切なダレか”を殺せばいいんだね。
きっと、そんな存在が、人を愛するように造られた私にとっての、“人間”だから。
* * *
雪が降っていた。久しぶりに降る、夏の雪だ。
金属腕をしまっていたルリは、雪の中を歩いていく。クロとシナツと合流しなければ。
いまだ燃えているが、雪のおかげで少し小さくなった火事の家を抜け、集落の外を目指す。その道中、この集落でやっていた便利屋、『黒瑠璃の詩』の店を抜ける。ついでにそこで軽く荷物をまとめた。こぢんまりとした荷物を手に持ち、そのまま歩いていくと、工場の目の前に辿り着く。そしていよいよ外に出ようとした瞬間、
「どこに行くんですか?」
男の声が聞こえた。振り返ると、オサムがいた。
「ああ、オサム。どうしてここに?」
「いえ、私が見張りの番なので」
「長」が殺されてから、まるで中の人を監視するかのようにできた巡回の見張り。今日はそれがオサムだったのだろう。
「なんか爆発音とか聞こえましたけど、大丈夫だったんですか?」
どうやら、爆発や火事のことも知らないようだ。
「たぶん、大丈夫じゃない。オサムは職務に忠実だね」
「まあ、はい、それが取り柄でしたから」
オサムがここにいたのは、ルリにとっても都合がいい。ルリには、彼に聞きたいことがあった。
「ねぇ、オサム。オサムは、もしかして、コハクの正体を知ってた?」
同じ工場勤務であれば知っていた方が自然である。案の定、オサムは諦めたようにため息をつくと、口を開いた。
「そうですね、知ってました。アレが工場長を殺したのであろうということも、わかってました」
「じゃあ、なんで依頼の時に犯人を示したうえで依頼しなかったの?」
「それは……」
ルリの質問に、オサムが口ごもる。
「うーん、犯人を知らせたくなかった?依頼しつつも、なんとなくそれが達成されないことを期待していた?うーん……」
「……」
独りごちるようにルリは呟き、オサムはそれには答えない。しかし、答えはしないものの、話はし始めた。
「私は機械が嫌いだ。多くの物を奪っていったやつらがどうして好きになれる……!?AIが暴走して、工場のあとにここを造った時も、あのコハクという機械を匿う事だけはわからなかった。ほかの幹部連中も、なんでアレのために、他の人々を騙すような真似してまで守ったのか……!」
少しずつ感情的になるオサムを、ルリはぼうっと見つめる。
「うーん、やっぱり、私にはわからないね。私には。でも、コハクはみんなを愛していた。みんなから愛されていた。それはオサムも変わらない。さあ、なんでだろうね。私にはわからないから、あとは自分で考えて、結論を出してよ」
そう言って、ルリはそのまま出ていこうとした。それをオサムが止める。
「なんで止めるの?」
「それが仕事だからです」
「その仕事をこなす意味は何?」
「……この仕事は、本来コハクの秘密を守るための、外のヒトの形をした機械を人々に目にさせないための監視です。ここの人々はそういう人を集めている。コハクという機械を知らない、無知な人々」
「なら私が出るのは問題ないのでは?」
「でも……それがきっと、工場長の遺志なので」
「敬愛と憎悪と行動意義。自己矛盾の塊だね、人間ってやつは」
「あなたも人間でしょう?」
「……」
そこで押し黙ったルリを見て、オサムはその疑いをその瞳に浮かべた。
「まさか……」
ルリは黙って押しとおろうとする。今度こそはオサムも止めようとはしなかった。工場に入り、姿が見えなくなる前。
「そうだね、きっと、コハクも矛盾の塊だったよ」
それだけを言って、その集落を顧みることは、二度となかった。
その集落は、無知な人間で構成されている。機械について、本当に無知な。
彼らは機械を知らない。人型の機械がいることを知らない。人間は正しくヒトであると信じ切っている。
彼らは機械を恐れる。ただひたすらに、なにかもわからずに怯え続ける。
その集落は、有識な人間により統括されていた。機械について詳しく、機械を愛してさえいた。
彼らはもういない。その機械にほとんどを殺された。残った者も、もうじき死ぬだろう。
その集落は、もうじき滅びる。その滅びは、彼ら自身によってもたらされる。
人間は機械について知り、けれども詳しくは知り得なかった。その知識は、お互いがお互いを疑うに足るものだった。
その集落は、そのうち人間同士の猜疑心に満ち、いつ誰が殺されるか、誰が機械なのか、常に疑うようになる。いずれ、集落内で“魔女狩り”が始まるだろう。間違いなく、凄惨な結末を迎える。
一人の人間を連れてそこを去った機械たちは、そのことを十分わかっていた。