同類
もっと短く簡潔に纏めろって言ったよね?(自問自答)
陽キャグループと別れられる理由を持った私はウキウキ気分で放課後に山梨県へと向かった。
高校から一番近くにある転移門が設置されている建物をソプリで探して山梨県の指定場所までワープした。東京はウザったい程に晴れ模様だったけど山梨県は雨が降っていて本当にワープしたんだなと実感出来た。
私がワープした建物はレトロチックな洋館だった。床はカーペットが敷かれ所々に花瓶や絵が設置され人の手が加わっている事が伺える。
【探求】で洋館をマッピングしていたら奥の方から執事さんがやって来た。
…いや執事?令和の時代に執事服着た初老の男性が古い洋館を歩いている?
もしかしたら明治時代にタイムスリップしてしまったのかもしれない。……そんな訳無いけど。
執事さんの後ろには女性が一人ついて来ている。歳は30前半って感じの見た目で結構綺麗な顔立ちをしている。その立ち振舞から使用人と表すのが似合う女性だ。
……それに能力者というオマケ付き。
「ようこそおいでくださりました。この館の管理を任されております小林と申す者です。こちらは使用人の新垣です。」
「どうも小林さん、新垣さん。こちらこそ急な申し出に対応してくださり有難うございます。」
無茶を言ったのはこっち(先生)だ。まさか翌日に会うことになるとは思ってもいなかった。私にも心の準備というものが…
「いえ、この館の主が待ちに待った日なので。」
「はは。昨日から待ってもらったんですね。」
「いえ、何年も前から待っておられましたよ。」
「え?」
執事さん何て言った?何年も前から?聞き間違いか?
「では主がお待ちになっておりますのでお部屋へ案内致します。」
執事さんの案内でどんどん館の奥の方へ向かっていく。この館は造りが特殊なのか上に上がったり下ったり何度も何度も廊下を曲がって初心者には優しくない造りをしている。
恐らくわざと目的地の主の部屋まで辿り着け辛くしているのだろう。この館の主は用心深いのか、命を狙われるような立場に居るのだろうか。
コンコンッ
「失礼致します。」
館の中をぐるぐると巡ったかいもあってようやく目的地に辿り着けた。
ここに来る前に私の能力で部屋の中はマッピング済みだ。だから主と呼ばれている彼女の事はちゃんと視認出来ている。
彼女の年はもしかすると私より低いかもしれない。クセ毛でいわゆる姫カットと呼ばれている髪型で体格は小さい。それに肌の色が白すぎるのも相まって病弱そうに見える。
(腕ほっそいなー。それに私と同じ陰の香りがする。)
病弱そうな箱入り娘……それが彼女に対して初対面の印象だった。
「あいの風様をお連れいたしました。」
あ、自己紹介してなかった。勝手に知っているもんだと思って言ってなかったなー失敗失敗。
「ご苦労様。下がって大丈夫です。」
小林さんと新垣さんが一礼ずつしてから部屋から出ていった……え?私とこの子で放置していいの?
「大丈夫ですよ。お掛けになって。」
彼女が座っているテーブルと椅子に座るように言われたので取り敢えず座ることにした。……私さ初対面の人とテーブル席で対面に座るの苦手なんだよね。
「お茶を淹れますね。」
カチャッ
「あ…」
彼女がポットを掴もうと手を動かしたらポットを倒してしまった。その為、ポットから良い香りのするお茶がどんどん溢れていく。
「あらあらごめんなさいね?私とした事が……美世と会えたから緊張してしまって。」
美世……初対面の人に名前を呼び捨てにされるのも苦手なんだけど。……まあ今回はこちらからお願いした立場だし我慢我慢。
「目を開けていないからでは?」
さっきから目を瞑っているからポットを掴み損なったんじゃないかな。
「なるほど……今の美世の状態は分かりました。」
今ので何が分かったの?全然会話のキャッチボール出来ていないけど。
「ポットのお茶を戻してもらえます?勿体ないので。」
「戻すってそんなの、………グルなの?」
部屋に緊張が走り空気が凍りついた。普通お茶を戻すなんて言わない。まるで私が時間を戻せる事を知っているみたいじゃないか。
「死神とは何も繋がりはありませんよ。」
私の能力を知っているのは先生だけ。なのに私が時間操作出来る事を知っている時点であなたは先生と繋がっている事は確定している。
「あなたが今日私を呼んだ理由は何?」
「美世に会うため、協力関係を結ぶためです。」
「あなたは死神と手を組んでいるのでしょう?」
「それは勘違いです。私と死神は友好的な関係では無く逆に敵対していると言えます。」
訳が分からない。敵対しているのに先生の事を知っている?いや、敵対しているからこそ先生について調べたのか。
「それって私の目の前で言っていいの?私とも敵対するって言っているものだよ?」
先生の敵は私の敵だ。
「ふふふ…美世とは敵対しないよ。これは絶対。」
やけに自信ありげに言うな……本当に何なんだろうこの子は。電波系の子なのかな。
「私の名前は蘇芳。私は美世と同類だよ。」
いやー飛ばしてくるなーこの子。お姉さんはもうタジタジだよ……
「私が聞きたいのは何で蘇芳さんが知っているのかだけだよ。」
ただのカマかけならそれで良い。もし時間操作の能力の事を知っているなら先生に連絡して判断を仰ごう。
「知ることが私の能力だから。その代償として視力を失ったけどね。」
「っ!?」
蘇芳さんの瞼が開いたと思ったらベルガー粒子の塊が目の中に圧縮されていた。こんなモノは初めて見た。粒子が圧縮され過ぎて結晶のように固まって見える。
それが両目とも宝石みたいに輝いているけど信じられない……!能力無しでベルガー粒子が視認出来るとは。
「碧くキラキラしていて綺麗でしょ?」
「……ノーコメントで。」
「ふふふ!美世ってやっぱり面白いね。8年以上待ったかいがあったよ。」
「執事さんも言っていたけど人違いなんじゃない?私はあなたの事は知らない。山梨県だって初めて来たし。」
「私はずっと前から知っていた。美世の事も死神の事も……美世のお母さんを殺した能力者の事もね。」
「知っているのっ!?」
血液が一気に沸騰したんじゃないかと錯覚するほどに熱くなり興奮した私は椅子から立ち上がって蘇芳さんに詰め寄った。
「知っているよ。それが私の能力だから。もし信じられないというならパスを繋いで【探求】で探ったら?それなら私の能力をコピーして確信を得られるでしょう?」
今の発言で私は蘇芳の言っていた事を全面的に信じる事にした。彼女は知っている。私の知っている事も知らない事も全て知っている。
「望みは何?何でもしてあげる。」
「私の望みは殺されない事。館の構造を見たでしょ?」
「あなたは命を狙われている。外部からも内部からも。特に死神にはマークされている……違う?」
「やっぱり美世は私の同類だね。生まれてはじめて会話が出来る人間と会えた。」
蘇芳は心の底から嬉しそうな声を出して頬を緩ませる。
「その同類って何?あなたも【探求】みたいな能力を持っているの?」
「私のは探知系じゃないよ。千里眼系の能力。一応は異形型に分類される能力で美世が辿り着く筈だった能力だよ。」
「私が?…私の異形能力が千里眼系って事?」
「うーん……何て言ったら伝わるかな?」
人差し指を顎に当ててうーんと悩む蘇芳さん。目を閉じたまま天井を見ているけど何が見えているのだろう。
「あ、そうだ!美世はいつから眼鏡をしているの?」
何だろうこの質問は……えーといつだったかな。
「小学校に上がった辺りだったかな…いやその前から目が悪くて眼鏡を買ってもらっていたかな?だから幼稚園の年長組だった頃には掛けていた、かな?」
「それからどんどん視力が弱まったんじゃない?」
「それが普通なんじゃない?というか何この質問。」
「それに比例して能力も成長していったんじゃない?」
「能力は年々成長していくし視力は年々弱まっていたけどそれって関係ある?」
「能力が目覚めたのも視力が落ちたのも同じタイミングだったんじゃない?私と同じだよ。」
蘇芳の目が開き私の目を覗いた。そこでやっと気付いた。同類の意味が。
知ることが能力だと言った彼女と知ろうとする私の能力。
「同じ能力…そういう事?」
彼女の笑みが深まり雰囲気が変わった。彼女から発せられる何かにそのまま飲み込まれるような感覚を覚え鳥肌が立つ。
「今日は私とあなたしか居ない。お話をしましょう?あなただって待っていたはず。…私という存在を。」
※お茶は溢れたままです。
ついに満を持して蘇芳を出せました。100話前に出せて良かったです。




