真夏のランデブー 前編
前編後編で分けようと思います。
時刻は19時を過ぎ、私と先生は未だに倉庫の中で話していた。私と先生のランデブーはまだまだ止まらない。
『他にまだ話したい事はあるか?』
『私、新たな能力を獲得したんです!』
『それは素晴らしい!』
本当はパスを通じて知っていたが、ミヨのその自慢気な表情を見たらとてもじゃないが知っていたとは言えない。ここは何も知らないスタンスで聞き手にまわろう。
死神は空気を読んだ。
『しかも2つですよ2つ!1つは先生の能力との合作でもう一つは私自身の能力です!』
『2つもかッ!?ミヨは凄いな……』
むふーと鼻息荒くして誇らしげのミヨを見ているとコチラも幸せな気持ちにさせてくれる。彼女はまだまだ子供だ。褒めて伸ばしていこう。
死神はミヨの教育方針を決めた。
『先生はどれから聞きたいですか?』
『そうだな…最初に言った複合能力の方から聞かせてもらっていいか?』
『はい!私と先生の複合能力なんですけど相手の能力をコピー出来るんです!』
私達の時代にもコピー能力は居なかった。ミヨの探知能力もそうだが世界に例の無い能力を開拓するのが特異点としての一端なのかもしれない。
『聞いたことも見たこともない能力だ ワタシですら使用出来ないかもしれないな』
理屈の上では死神にも使用出来る可能性が存在するが、ミヨが自分で開拓した能力だ。それを奪おうとも真似しようとも思わない。ワタシはただ彼女の成長を見守ればいい。
『ホントですか!?やったー!初めて先生に勝てた気がします!』
割と勝てている部分があるのだが……自覚のない天才は恐ろしいな。
『それでどんな能力をコピーしたんだ?』
『1つだけ模倣したんですけど転移を使えるようになりました!【再発】って名付けたんですけどパスからの情報や【探求】で認識したベルガー粒子の軌道を利用してコピー出来るようになったんです!』
ん?彼女は何て言った?使えるようになった?
『ミヨ……まさかだと思うが転移出来るのか?』
『はい出来ますけど?』
そんな馬鹿な話があってたまるか。テレポーターの能力者が居ないのにどうやって軌道をコピーするというのか。
『それは今出来るのか?』
『良くぞ聞いてくれました!見ててください!』
ミヨはソファーから立ち上がり倉庫の端まで向かってベルガー粒子を操作し始めた。
『……ミヨ 本当に大丈夫なのか?失敗するなんて事無いだろうな?』
ワープを失敗させると最悪の場合身体の一部しかワープさせられず死に至る。もちろんワタシの能力で生き返らせるが。
『テレポートの理屈は理解出来たので大丈夫です!では行きますね!』
ミヨの周りの空間が少し歪んだように視える。これは間違いなくテレポートの前兆。この子は後天的に能力を発現させている事に気づいているのか?自分がどれほどまでに能力の真髄に近付いているのかを今すぐに説きたい。
『ふーヨシ…【再発】act.テレポート!』
ミヨの身体がかき消えて【探求】を以ってしても追うことが出来なかった。
《本当にテレポートが出来るとは……最早能力者としての次元を超えている》
倉庫の入口の辺りで空気が押し広げれたと思った矢先、ミヨが出現しテレポートを成功させた。
「……成っ功したーー!さすが私!凄いぞ!」
今起きたことが信じられない。ワタシはミヨがパスが通じている間、つまり能力の情報を得ている間だけは能力をコピーできるのだと思っていた。だが彼女はやってのけた。一度情報を得てしまえば触媒となる能力者は不必要。つまりミヨはこれから仕事で出会う能力者から能力をコピーし続けられる……しかも殺してしまえば証拠は残らない。
《そしてワタシの考えが合っていれば…》
『喜んでいる所を水を差すようで悪いんだが1つ聞かせてくれ ミヨはコピーした能力を複数ストック出来るのではないか?』
『はい!そうなんですよ!良く分かりましたね?』
やはり……ミヨはテレポーターと同じ感覚を得ているんだ。脳がテレポートの仕組みを理解していなければ触媒無しで能力を得れる訳がない。
ミヨは自身のベルガー粒子を使って能力を発動しているから能力をコピーしたからといって脳への負担はテレポーターがテレポートを発動するのと変わらない。つまり完全に自分の能力として脳が認識している。
『どこでテレポートの仕組みを知った?組織の閲覧可能な資料にも載っていなかっただろう?』
『それはですね…』
ミヨが話した内容は聞いていく内にどんどん頭痛が増してこめかみを押さえないと聞き続けられない程の代物だった。
ミヨに【探求】を与えたのは間違いなく神の悪ふざけが起こした巡り合わせだろう。凶悪過ぎて私達でも敵に回したくない程だ。
『その話は誰かに話したか?』
『いえ、先生の判断を聞くまで絶対に話すつもりはありませんでした。なので誰にも話していません。』
出来ればワタシも聞きたく無い内容であったが、こればかりは聞かなければならなかったからな……
『ベルガー粒子の仕組みは未だこの世界では解明されていない事になっている だから絶対に秘密だ ワタシの能力と同じ扱いにしてくれ』
『分かりました……先生はベルガー粒子の保存機能を知っていたのですか?』
『まあな しかし独学でその理論を見つけたミヨは異常だ ……いい意味でな?!』
思わずポロッと本音を言ってしまい慌ててフォローを入れた。彼女が理解の範疇を外れただけで異常と決めつけるのは間違っている。優れている事は決して間違っている事ではない。
『……先生は私が変だと思いますか?』
ああ…そんな顔をしないでくれ。ワタシが間違っていただけでキミは間違ってなどいないのだから。
『ワタシほど変な奴が居るか?もしミヨが変だとしてもワタシも変だ 変な者同士仲良くしていこうじゃないか』
『確かにそうですね!』
ミヨと同じカテゴリーに居るのは少しだけ、少しだけ妙な気持ちになるがミヨが喜んでくれるのなら甘んじて受け止めよう……周りから見たらワタシもミヨも同じカテゴリーだろうしな。
死神は客観的な視点で自分を評価する事を覚えた。
『先程話した件だが ミヨは彼女と絶対に合うべきだ 今の話を聞いて強く思った 早く会えるようにワタシの方から強く要望を出してみる』
『私とその彼女ってそんなに似ているのですか?』
『同じカテゴリーに入っているな』
『じゃあ先生と同類って事ですね。』
『……そうだな』
彼女とも同じカテゴリーにされたくは無いな……。
山梨県に行くのは最低でも2話より先になります。




