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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
3.サイコパスの青春
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決着

結構長く続いた模擬戦。作者のイメージでは2話ぐらいで終わる筈だったんですけどね。楽しくなっちゃって止まりませんでした。

ここまでの一連の動きは本当に素晴らしいものだった。私はまんまと誘き寄せられて彼女の手の平の上に転がされた。


三船は水平方向方向に蹴りを放ったがその体勢で横一文字に足を動かすには股関節の柔らかさと可動域の広さが無いと不可能だ。これは女性だからこそ為せる一撃。


……そしてその会心の一撃の標的は私の首の位置、これはマズい。


避けようと思ったがこれは結構詰んでいる。何故なら余りに近すぎるからだ。前にも後ろにも逃げ場がない。前方向は彼女が居て避けるスペースが無く、後ろ方向に行こうとしても私は前のめり気味だ。ここから後ろに上体を反らそうとしても彼女のリーチからは逃げられない。


それに左右は以ての外、彼女は水平方向に蹴りを放っている。逃げ場がない。


………とキラーミヨは考えている間に私は別の事を考えて行動に移した。


先ず踵を浮かせて足の指先に力を入れて身体を浮かせた。ブレーキを踏んだ際に指先と踵には力を入れていたからその反動を利用し空中に漂うように浅いジャンプをして身体の支えを無くした。


足の裏が床に着くか着かないかの高さで三船の蹴りを受ける為にこの準備は絶対に必要。私は物理的に踏ん張る行為を出来なくさせた。私の体重は軽い。指先の力と反動を利用すれば簡単に跳べる。


そして同時進行で左腕を首の部分まで上げる。腕を上げるだけで力は入れない。そもそも空中に居るから踏ん張る事が出来ないから添えるような構えだ。


彼女の足がすぐそこまで迫って来て私の左腕に当たるが、私は抗わない。クッションの様に衝撃を和らげるイメージでこの技を受ける。


私の左腕は彼女の足に首の所まで押し込まれたが左腕を緩衝材のように使う事で首を守った。


だがそれだけでは彼女の攻撃は終わらない。私の生死など無視して全力で足を振り抜くつもりだ。


だからこそ私の選択は間違っていなかった。空中に投げ出された身体は支えを無くしている。そして彼女の狙いは首、つまり私の身体の先端部に近い位置だ。身体の芯を外している。


そして何度も言うが私の体重は軽い。約50キロ前後だ。この重さを重いと捉えるか軽いと捉えるかは個人差はあるが三船にとって50kgなんて軽いものだろう。


……そう軽いのだ。彼女の筋力で考えれば私を吹き飛ばす事なんて簡単に出来る。そしてこの話のミソは私が宙に浮いているところだ。


軽くて柔らかい物を蹴っても全然飛ばないという事は誰でも知っている事であり、例えばビニール袋なんかが最たる例だと思う。私はそれを応用してこの攻撃をいなすことにした。


その結果、彼女の蹴りによって身体が私から見て右側に傾いていき、私の腰の位置を支点に側転した。


身体が水車の様に回転して三船の蹴りをやり過ごす事に成功……私は反撃をする為に空中で一回転したタイミングで着地を行いすぐさま攻撃に移った。


「「「えええーー!?」」」


ギャラリーが湧く。三船の蹴りがあいの風に決まったと思ったらあいの風が一回転して着地したからだ。


それを見ていた竜田姫も興奮を隠せない様子で両手をギュッと握っている。


(あいの風さん…あなた、本物だったんだね。)


今の動きは間違いなく能力者の中でも上位の位置付けになり得るものだった。彼女がミューファミウムを一人で壊滅させたのは本当だと信じられる動きだ。


例え現場があんな状態であったとしてもだ。あの惨状は決して探知能力者が作れるようなものでは無かったけど、一人で戦っていた事は現場検証で分かっていた。しかし本当にその人物があいの風であるかどうかは疑問が残っていたけど彼女で間違いない。彼女は天狼さんと並ぶ…世界でも屈指の実力を持つ能力者だ。


(良いものだな。若者が切磋琢磨し成長していく姿は。)


あいの風は示した。能力者としての実力とその可能性を。あいの風は間違いなく私を超えられる傑物。あの死神が自身の手で育てる意味がようやく理解出来た。世界に一人しか居ない能力者だから手元に置きたかっただけかと思っていたが…理由は()()()()()


私には分かるよ死神。自分を超えられる能力者を自分の手で育てたくなる気持ちが。私だってそうさ、組織内でNo.2の実力者として扱われている私だって後進の育成に力を入れているから。上に行った能力者が行き着く先は後に続く者の育成しかない。


強過ぎると競う相手も危険な場面にも出会わなくなってしまう。この世界にはまだ能力者と対抗出来る術も人材も不足していて強い奴がずっと強いままの状態が何年も続いてピラミッド図が変わることが無い。


上位の能力者が殺されたなんて聞いたことが無いから引退するしか順位は変わらない。死神もこのパワーバランスを崩す者の出現を期待しているんだろ?


私はずっと待っていたぞ。このつまらない均衡をぶち壊す存在、そんな能力者を私はずっと待ち焦がれていた!


あいの風!お前は私が育てる。死神の事なんて心配するな。私が全部面倒を見てやるッ。さあ私と一緒に遥か高みに行こうッ!


「なっ!?」


完全に受け流された!あの一瞬で最適解を見つけ実行し成功させたあなたは人間の域を超えている。もう私に打てる手は無い。


大きな隙を晒してしまった…あなたはその隙を見逃すような人でも手心を加える人でもないよね。


あいの風は私の胸部に向かって手刀の構えをした左手を突き出してきた。……あれ多分死ぬよね。


(私はあいの風の強敵になれたのかな。もし手加減出来ないぐらいの脅威として認識してくれていたら嬉しいな…)


目を瞑りあいの風の一撃を受け入れた三船理華の心に後悔と無念がよぎった。


もし処理課に入れたら、天狼さんの隣ではなくあいの風の隣で肩を並べて戦えたら…もしそんな願いが叶うなら私はどんな努力だって惜しまないだろう。だから…だからもう少しだけ時間が欲しかったな。


三船の頭に走馬灯が浮かぶ暇もない程にあいの風の手刀が三船の心臓に向かって突き出されて今にも指先が触れようとしていた時…あいの風の左腕が停止した。


「……手加減をしろと言っただろ。」


天狼があいの風と三船の間に入りあいの風の左腕を掴んで攻撃を静止させた。


自身の全力の突きを片手で止められた事とその事自体に反応する事が出来なかった事にあいの風は驚愕する。


み、視えなかった。私の【探求(リサーチ)】でも反応しきれない速度だったよね今の……。彼女の足元には焼け焦げた跡があり彼女が転移ではなく自身の足でここまで来たことが伺えたが、10m程度離れた位置からどうやって来たんだ?


しかも横から私の二の腕を掴んで止めたけど普通止められるか?今の突きは今までで一番速い突きだった。それを止めるなんて私より速いって事じゃん!


()()()()()()


あいの風は天狼の能力を断定しきれなかった。何故なら今起こった不可解な事象には関係性が見られなかったからだ。その不可解な事象は3つ。


1つ目は足元の焦げ跡。木の床が黒く焼けて煙が立っている。これだけなら火関係の能力かと思うけど、それだとそれ以外の不可解な点を説明出来無い。


2つ目は【探求(リサーチ)】でも捉えられない速度。これは物理的に天狼さんが速いんだと思う。それなら異形能力になると思う。……けど異形型の火系統の能力では無いと思う。


その根拠が3つ目の不可解な点。私の左腕に起こっている異常だ。突きの構えから全く動かせない。指先から肘の辺りまで固まってしまっている。時間停止では無い。何だろう……まるで自分の腕のコントロールを奪われたみたいな感覚。天狼さんに左腕を操作されているみたいだ。


(一体何の能力なんだろう。こんな能力はマニュアルにも載っていなかったと思う。)


「……左腕の主導権返してもらえます?」


「ふふっ良い感覚を持っている。」


天狼が私の指摘に対して嬉しそうな反応を示した。訳が分からない。


「て、天狼さん?私…生きています?」


目をパチクリしながら私と天狼さんを交互に見て自身の生死を聞いてくる。殺し損なったから生きてるよ。


「ああ、まだ生きている。良く頑張ったな理華。」


こうして天狼の仲裁によりあいの風と三船理華の模擬戦は終了を迎えたのだった。

伊藤美世の能力について軽く纏めておきます。


【探求】:美世本来の能力。自身を中心とした範囲をマッピングし脳内に表示出来る。


【再現】:死神から借り受けている能力。軌道を構築、又は再現する事が出来る。他にも色んな種類の派生が存在する。


【再発】:探求と再現を組み合わせた複合能力。パスを通じて得た情報と探求から得た情報を組み合わせて再現する事で能力を模倣出来る。


【???】:異形能力。詳細は不明。(美世本来の能力として確定)

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