模倣
何とか投稿出来て安心しました。
ダメージが無かったと言えば嘘になる。三船が放った一撃は私の急所を的確に狙ったものだった。だから攻撃自体を避けられないと思った時に私は急所だけを避ける為に自分から当たりに行った。耳の前側にある頭蓋骨から当たるように首を振ることでなんとか鼓膜と三半規管を守る事が出来たけど問題はその後だ。
私の体重は軽い。筋力があっても私自身が軽いから強い力が私自身に加わると簡単に吹き飛んでしまう。だから三船の攻撃で私の身体は宙に浮いて頭から着地するという無様を晒してしまった。
だけどこの時、私は無意識的に自身の頭部と首の軌道を固定する事で着地の際のダメージを負わずに済んだ。
この前の戦いでは頭皮の一部がふっ飛ばされて流血がウザかったからね。同じ轍は踏まない。
あの時の傷は周りの髪の毛に埋もれているおかげで目立たないけどまだ完全には完治していない。傷口はもう塞がってちょっとずつ産毛のような髪の毛が生えてきた。完治まではもう少しかかりそう。
でも1週間でここまで治ったのは組織の治療のおかげだ。あの時、治癒能力者が居てくれて良かった。
怪我を負わない為にももう少し能力の自動化を図りたい。もしこれから無意識に相手の攻撃を避けたり防御出来るようになったら私は神の領域に達する。名付けて“身勝手の極意”
…パクリじゃないもん。オマージュだもん。
戦闘中なのにこんな事を考えられるぐらいには私の意識は第三者視点に切り替わっている。キラーミヨは今も身体を動かし続けて上手く攻撃を見切り相手の型を学習している。
(この感覚が本当に気持ち悪い…キラーミヨが私自身だって分かるから。)
キラーミヨを別人格と言い切れない所は記憶の共有をしている為に思考があくまで私自身の経験から生まれている所だ。つまりキラーミヨが思い付いた発想は私の人生経験と記憶から生み出されているって事。だから共感出来るし私も同じ事を考えられるから…いや考えているから他人って感じではない。
例えば目の前に赤い車が走り去ったとしよう。これを私が見て思う事は色が赤かったなとか速かったなとか考えるけどどれも私の発想だ。人間は1つの情報に対して複数の考えを持つ生き物であり、反する考えや矛盾した発想を持ったりもする。今の美世とキラーミヨもそんな感じだ。複数の考え方が完全に分断されて独立した人格になっている。
戦闘狂であり残酷な天使のキラーミヨ。そしてこうやって俯瞰しながら冷静に思考している美世。どちらも私であり知らない誰かではない…気がする。
ただあっちは車が赤いと思ってこっちは車が速いと思っているだけの事。だから大丈夫。オリオンさんや雪さんと話し合ってから数日間、ずっとこの事を考えていた。そして導き出した答えがどちらも私であるという結論だ。
あっちの私は結構受け入れがたいけど仕方ない。だって私だもん。あっちの考えている事も理解できるし腑に落ちないなんて事は無い。
多分あっちは異形能力が強く影響している私で、こっちは探知能力が強く影響している私だ。そう考えるととても分かりやすい。戦闘特化の思考のキラーミヨと俯瞰しながら第三者視点を持っている美世。
もしかしたらデュアル・アビリティはみんなこんな悩みを持っているのかもしれない。数が少なすぎて情報が無いから分からないけど一度で良いから会ってみたいな。
(それにしても三船さん本当に良く体力が持つね…そろそろコチラも反撃に移りますか。)
美世がここに居ない同族の事を考えていた時、キラーミヨは全く違う事を考えていた。2つの事を同時に思考し独立させる事で様々な状況に対応出来るように成長した結果が今の状況である。
だが先程までの彼女の認識を訂正しなければならない。美世の脳はかなり開拓が進められて思考を分断させる事が可能になり最近になってようやく自覚出来るようになったが、1つだけ勘違いをしている。
彼女が思考を分担出来ているのは脳の開拓が進んだおかげだが、開拓が進んだから分担したのではない。原因は別の所にある。それは死神から貸し出された能力が起因している。
美世がその事に気づいた時、何を再現していたかを知ることになるだろう。
(コイツ…動き続けているのにキレが増してきている。)
今も三船の攻撃は継続されており、彼女の体力に対して驚愕の思いを抱いていた。
私も体力には少しだけ自信があるが運動自体あまり好きこのんですることも無いので運動をし続ける経験は少なく、長期戦は不得手だと自覚している。なので私は短期決戦を仕掛ける傾向があり、最後はゴリ押しで戦いを終わらせる事が多い。
しかし今回は怪腕も銃も使えない状態なので決定打に欠ける戦いを強いられているし、それに三船の動き見切った私が自身の動きにも取り入れないかを試そうとして泥仕合と化している。
(足運び…それに大振りの攻撃はしないで確実に当てる攻撃を選択し続ける。)
何となくだけど分かってきた。【探求】で彼女の動きを観察し続けたおかげで私の動きの駄目な所が分かってきた。私って結構運動神経に自信があるせいで激しい動きをしがちだけど彼女の動きと比べて無駄な動作が多かったと気付けた。
目の前には良いお手本が居るので私の能力なら簡単にトレースする事が可能だ。今の私は肉眼では動きを捉えきれてないけど3Dとして認識出来る私の能力では頭の中に彼女をトレースして細やかな動きをどの角度からでも視ることが出来る。
彼女が突きを放つ時にどの足から動かしてどれぐらい踵を上げてどのくらい脇を締めるのか視ながら私も同じ動きを再現した。
(この動き!?)
あいの風の拳が顔の横を通り過ぎたと思ったら頬に痛みが走り、徐々に濡れる感覚が頬から首の下まで広がった。…私に血を流させるなんて。
三船の頬には横に切り傷が走りそこから血がドクドクと流れてその血を慌てて袖で拭き取った。
「天狼さん私はまだ行けます!」
血を流した事によってこの戦いを止められるのではないかと考えた三船が天狼に続行の意思を伝えた。こんな傷でいちいち止められていたらあいの風を滅多打ちには出来ない。
「…継続で問題ないな?」
天狼が二人を交互に見て確認を取った。
「問題無いです。」
こんな量の血ぐらいではまだまだ足りない。半殺しっていったらもっと血がドバドバ出てるもんだからね。
「では再開としよう…両者構えて。」
最初とは違いお互いに構えを取らせる。天狼もあいの風の動きと目的に気付いていたからだ。あいの風は短時間で流道を理解し模倣している。さっきの突きは中々目を見張るものがあった。このままやらせればもっと面白いものを見れるかもしれない。
三船は流道の構えを取りそれを見たあいの風が同じ構えを取る。まるで鏡に映したみたいに両者が同じ体勢で左右に別れている。
「真似をするな偽物。」
「口を動かさないで手を動かせモブキャラ。」
((コイツとは絶対に仲良くなれないな。死ねッ!))
先に三船が動き距離を詰めそこからコンマ0.01秒後に同じ動きを再現するあいの風。この一連の動きだけでどちらが実力が上なのかが伺えた。
(三船、お前ではあいの風には勝てない。しかしこの戦いで多くの事を学んでくれると信じている。)
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