自己分析
ほのぼのとした話と言ったな…あれは嘘だ。
執筆中に詰まった時なんかは前の話を読みながら誤字脱字を直しているとスラスラと書けるようになるのはあるあるなんですかね?
一体どんなことを聞かれるのだろう。やっぱり能力の事とか?もしくは先生の事とかかな?…ていうかオリオンさんってどこまで私達の事情を知っているのだろう。先生が人に話したりする訳ないし……探ってきたらオリオンさんを殺さないといけなくなるし、嫌だな。
左手に自然と意識が向いて構えを取りそうになる。
「そんな警戒しなくても君達の事は聞かないよ。」
「…私のベルガー粒子が見えるんですか?」
私のベルガー粒子は人に比べてかなり多いらしいから気が昂ると結構漏れてしまう欠点がある。能力者によっては視認出来る人も居るから気を付けないとは思ってたけど…ここも改善していかないと。
「いや、君から発せられる殺気ってやつかな。一般人でも分かるぐらいだよ。」
はははと笑うオリオンさん。殺気?殺気って分かるものなの?…本当に何者なんだろうオリオンさんって。
「…平和的に話を進めましょう。私も別にあなたとは敵対したくありませんから。」
仕切り直してオリオンさんとの平和的な話し合いを進める事にした。……だけど、私達の地雷を踏んだら容赦はしない。
「実はね、キミのメンタルケアを頼まれているんだよ。昨日から働きっぱなしだからね……死神もそこを心配していてね。」
先生!私なんかの為にオリオンさんを派遣までしてくれて…!
「その、わざわざありがとうございます。もしかしてお寿司もその為ですか?」
「半分は正解。残りの半分はワタシが食べたかったからだね。」
オリオンさん、グルメにうるさいのかな?ちょっとだけ意外だ。オリオンさん細身だし…でも大食いの人はみんな細いし、もしかして結構食べる人なのかも。
「えっと、だったらお寿司だけで大丈夫です。元気出ました。」
とても美味しかった。私みたいな年齢だと中々こういうお店には来られないから良い経験になった。しかも奢り。最高のスパイスだ。
「……ミヨはあまり自分の事は話さないし話した事が無さそうだね。」
「……そう言われるとそうかもしれません。親しい人もあまり居ませんから。」
悩みを誰かに話した事なんて今までで一度も無かった……かな?世間一般的には友人や家族に話したりするらしいけど、どちらも居ない私にとっては他国の政治並に関係の無い遠い話だ。
「だったら今ここで言葉にすると良い。ワタシに言い聞かせる必要も分かりやすく話す必要もない。ただ自分の気持ちを認識し直す為に。」
「…どういう意味ですか?」
「キミは優秀だ。報告を見る限り仕事の優先順位を決めて最適な選択をしている。だけどキミが先生と仰ぐ人はそこを気にしている。何故か分かるかい?」
「……いや、正しい選択をしている事に何の問題があるんですか?どうして先生が気にするんです?」
意味が分からない。私はちゃんと仕事をこなしている。対象もちゃんと処理しているし情報の漏洩も注意している。なのになんで先生は気にしているのか分からない。
「キミはキミの感情を押し殺しているからだよ。ミヨ、キミは正しい選択って言ったね。それは自分がやりたい選択だったのかい?しなければいけない選択だったんじゃないのかい?」
「…本当に言っている意味が分かりません。仕事なんだからしなければいけない選択を選ぶべきでしょう?」
「キミは賢すぎる。大人でも迷うような選択でも瞬時に選んで正解を導ける脳を持っている。だけど心はまだまだ未熟だ。そこに自分の意志が無い。やりたい事とやらなければいけない事を選択せずに前者を切り捨ててる。」
「仕事なんだから当たり前じゃないですか。」
「当たり前と言うなら人を殺した時に何かしらの感情を持つ事だって当たり前だ。なのにキミは仕事として割り切れ過ぎている。」
「…私が異常だって、サイコパスだって言いたいんですか?」
「なんでサイコパスになりきろうとするんだい?本当のキミは優しくて常識も良識も持っている女の子だろう?」
オリオンさんの目的が分からなくなってきた。これがメンタルケアだとしたら迷惑でしかない。逆にストレスが溜まってくる。
「違いますよ。私はそんな普通の女の子では無いですよ。」
「違わないよ。キミの本心は違うだろう?」
「……あなたは私を普通の女の子にしたいんですか?」
いい加減イライラして来た。お寿司を奢ってくれるから付いてきたけど失敗だったな。
「私は人を殺してもお寿司を美味しく食べられる異常者なんですよ。しかも私って人を殺した後ほどご飯が美味しく感じるんです。これでも私を普通だって言うんですか?」
「客観性が備わっている。そして自虐的だ。サイコパスには無縁のものばかりだ。」
「……オリオンさんってカウンセラーの人なんですか?」
「キミと話していて感じた事だよ。そしてキミだって分かっている。」
…あれかな。オリオンさんは良く漫画やアニメに居る意味深なセリフだけ吐いてストーリーをかき回すポジションキャラなのかな?それとも電波?もしくは口説かれている?
「因みになんですけど私は何を分かっているのか教えてもらえますか?」
「自身の行動が世間一般的にはおかしいって事をさ。サイコパスなら自身の行動をおかしいって思わないよ。キミはキミの行動に疑問を感じている……違うかい。」
「…何で分かったんですか?…誰にも言ってないし、悟らせないようにしていたのに。」
少し前から私は私の行動に疑問を感じている。客観的に自身の行動を見ていてズレを感じていた。
「キミは第二次性徴期と能力の成長が被ってしまっている。そういう能力者には良くある事なんだ。」
「そんな事、マニュアルには載ってなかったのですけど…」
「まだ周知されていないからね。ワタシが居てラッキーだったね。」
え、笑顔が眩しい。不覚にもちょっとだけドキッとした気がしなくもない。
「ミヨ、キミの場合は成長が長く遅いタイプだ。身長もまだ伸び続けているだろう?」
「そうですね。毎年同じ位伸びてると思います。」
「能力も最近までは未成熟の段階だったと死神から聞いているけどそれは異常なまでに遅いね。」
「遅いと何か問題があるのですか?今の私の状態と何か関係があったり?」
「能力の成長とはつまり脳の成長と同義だよ。」
「…私って発育障害ということですか?」
「違う違う!キミは今の段階で人間を軽く超えているよ!それにキミは無能力者とは脳の作りが違いすぎて比較出来ない。……生き物としての種類が違うって言えば良いのかな?」
「人間とゴリラみたいな事ですか?」
「人間とゴリラって98%以上DNAが酷似しているからゴリラより違うかな。」
生まれて始めて人にお前はゴリラより違うって言われたんだけど私ってゴリラより遠いの?
「ウホッ…ウホウホ。」
「話を戻すけど脳、身体の成長が遅いと心に問題が生じる。言うなれば人格に変容が起きやすくなる。」
華麗にスルーされた。…別に茶化した訳ではない。左手と同じだ。私の意志とは別に動く感触。
「…人格。別人格ですか?」
先延ばしにしていた問題を口にした。何となくは気付いていたのに蓋をして見ないようにしていた問題だ。
「コレばかりは本人がどう認識しているかだけど…ミヨはどう感じている?」
「…上手く言葉に出来ないです。説明も上手く出来ないと思います。」
「ワタシに言い聞かせる必要も分かりやすく話す必要もない。ただ自分の気持ちを認識し直す為に言葉を口に出すんだ。」
オリオンさんは私に最初と同じ事を言った。口に出せと。
(この人を信用してみよう。)
私は昨日の話を誰かに聞かせるわけでもなく自分に問うわけでもなく、ただただ語りだした。
美世の外側の問題が解決したと思ったら内側の問題が浮上して来ました。作者はこういうのが大好きでいつか書きたいと思っていたので書けて満足です。




