人間と能力者の違い
今回の話で美世の仕事の話は終わりです。いやー長かった。書いてて楽しかったです。
報告をする為に直接組織のビルへと向かいそのまま寝泊まりした次の日の朝、あらゆる情報サイト、各種テレビ局、ラジオからある事件が取り上げられた。
[ーーー中国のとある食肉加工工場にて爆発事故が発生しそこで働いていたと思われる500名以上の職員がその爆発に巻き込まれたとの情報が……]
私も組織のビル一階の休憩スペースでその情報を見ていた。テレビとかでは食肉加工工場が爆発したと報道しているが真相は違う。爆発したのは中国の能力者開発機構の本部であり爆発した原因は先生だ。そしてその情報が組織のビル内部でも持ちきりになっていた。私の昨日の出来事も相当だったが先生が行なった事のほうが凄まじくて霞んでしまっている。なんせ敵対組織の本拠地を一人で蒸発させたのだからだ。
(多分だけど【削除】を使った核爆発でふっ飛ばしたんだ…)
先生は私には使うなと言ったのに先生は使ったらしい。だってソプリから得た情報には現場近くから放射線が観測出来たって報告されてるし…ズルい!私も核爆発させてみたいのに!
あれは自分も巻き込むから駄目って話だったけど恐らく【探求】を応用して遠距離から核爆発させたんだと思う。先生とのパスの繋がりを感じるから無事だとは思うけど…ちょっとだけ心配だ。先生に限って最悪の事態にはなっていない筈。
眠い目を擦りながらソプリを弄って情報の出所を探った。この事件の情報元はオリオンというエージェントからだった。…確か前に雪さんと話していた人だ。銀髪だったから良く覚えている。えっと先生のお仕事を手伝っている人だっけ?じゃあこの人も中国に行っているのかな?
(…私も海外で仕事したい。)
多分先生に駄目って言われるんだろうな。なんせ海外では私は人気らしいから。日本まで来て私と握手しようとする観光客まで来たからね。昨日の出来事だから記憶に新しいよ。
「美世ちゃん!」
朝早くから出勤お疲れ様です雪さん!かなり慌てた表情だけどどうしたんだろう。
「雪さん。ここではあいの風ですよ。」
「そんな事どうでもいいわ!昨日ミューファミウムに襲われたって!」
「へーそんな名前の組織だったんですね。」
(本当はもう知っているけど雪さんには秘密にしておこう。)
処理課の人は私個人を狙った行動から非接触型探知系能力者の捕獲が目的だったと言っていたけど、あいつら普通に機関銃を撃ってきたけどね。殺す気まんまんだったよ。
「美世ちゃん分かっているの!とんでもない奴らなのよ!?私達の組織の能力者が奴等に何回苦汁を飲まされたか!」
「そ、そうだったんですね。」
「特定課の先輩たちが何十人も犠牲になったわ…処理課の人達だって何人も殺された。そんな相手に、良く生きて帰られたわね…良かった!」
雪さんにギュッと抱き締められる。…雪さん、震えてる。心配させてしまったんだ私は…ゴメンね雪さん。
「私なら大丈夫だよ雪さん。怪我もしてないしあいつらはみんな私が倒したから。」
「そこが心配なの!無茶しないでよ…まだ高校生でしょ。」
その言葉にハッとさせられた。私自身は仕事をこなす事を苦にしていないし能力者としてもかなり強い部類だろうと思っている。でも雪さんにとっては私はまだ高校生の子供だった。例え色んな戦績を残そうが雪さんにとって私は高校生で年下の後輩なんだ。
「ごめん雪さん。無茶して、これからは無茶せずにみんなを頼るよ。」
「うん…私はあまり頼りないかもしないけど、それでも頼って欲しい。」
雪さんは頼って欲しかったんだ。…私のほうが強い事は何となく分かっていると思う。…それでも雪さんは私の力になりたかった。
(嬉しいな…誰かに心配されるのは。人に心配される事なんて私の人生には無いことだったから。……だけど雪さん。)
ギュッと抱きしめ続けられる私は周りの視線を感じた。
雪さん周り周り!みんな見てるよ!おい!お前写真取るな!動画取るな!ソプリに上げるなよ!
ソプリに私と雪さんのツーショットが上げられ少しだけバズった。上げたやつはもちろんブロックした。
それから私は最後の仕事を終わらせる為にある場所に来ていた。
「ふあ〜〜…あいの風ですけれども報告があるので開けてもらえますか?」
欠伸をしながらインターホンを押して要件を伝える。昨日と同じ時間に来たから相手も私だって気付いてたはず。
「昨日の…入ってください。」
厳ついにーちゃん2人に連れられてビルの奥の方まで進んでいくと目的の場所まで辿り着く。
「昨日今日でどうしたんだあいよ。」
「仕事の話に来たんですよ後藤さん。」
そう、私が今日訪れたのはヤクザが生息しているビルだ。女子高生が2日連続で来るような所ではないけど仕事なんだから仕方が無い。
「…なんだPOISONの情報ならあれが全部だ。あいつらの手かがりを探しているなら他をあたってくれ。」
話を聞きながらソファーに座りデスクに居る後藤さんの方を見ながら話の続きをする。
「違いますよ。あなた達から受けた依頼が完了したのでその報告をしに来たのですよ。…ついでに。」
「…何?なんて言った?」
後藤が私の話を理解できなくてもう一度内容を聞き返してくる。ヤクザってやっぱり頭悪いのかな?最近のヤクザは賢いってマンガで読んだけど違ったね。
「はあ…POISONの幹部と能力者3人はこの世に居ません。依頼は完了しました。」
後藤だけではない。私の後ろに控えている子分たち2人も驚愕の表情を浮かべる。
「何をそんなに驚いているのですか?」
「あいよ…1日でPOISONを潰したって言われたら、そりゃあ驚くだろう。」
「あ、そっちなんですね。驚いたのは。」
「…どういう意味だ。」
「いえ、知っていたんじゃないかなって。」
「…言っとくがお前に対して人を付けさせた訳じゃねえから情報なんてこっちに入って来ていねえよ。」
何だろうな…こういうのらりくらりとすり抜けようとする大人を見ていると父を思い出してしまう。…だからとてもイライラして来るよ。
「今日の朝のニュース見ました?」
「…いや、見てねえな。」
「昨日の夜からここ一帯で警察が出回っていたと思うんですけど知らないんですか?」
「…いや、知らねえな。」
私はリュックからタブレットPCを取り出してあるリストを表示させた。
「徹夜でしたよ。処理課の人から色々と話聞きながらデータを貰って自分なりにまとめて来ました。」
「…なんの話をしているんだ?」
「POISONの能力者3人を組織の人に調べて貰ったんです。彼らは孤児でした。だからどこの孤児院から追い出されて今の今までどこでどうやって生き残っていたのかなって。」
あいつらの話の感じだと幼い頃に追い出されたみたいだからどうやって生き残っていたのか引っ掛かっていた。だから調べてみた。結界はまあ、私の予想通りだったんだけどね。
「彼らはその能力を買われて飼われていたんです。…ヤクザに。」
ヤクザの中には能力者の存在を知っている者達がいる。だから3人を見つけた時は使えると思ったはずだ。
「だから彼らはヤクザの事を良く知っていたんです。クスリがどこの倉庫に保管されているかという事も。」
後藤は無表情だった。おっかないねぇ…人は無表情の方が怖い。
「まあ、ぶっちゃけそんな事はどうでもいいんです。あなた達が制御出来なくなった能力者3人の後始末を私達に依頼した事は。」
「…それは有り難いね。あんた達とは永くやって行きたいからな。」
「組織はそうは思っていないようですけどね。」
「…なに?」
後藤の眉間の皺が深く刻まれ私の言葉の真意を読み解こうと思案顔を浮かべる。そんな必要は無いのにね。
「私の情報を海外に流したでしょ後藤さん?」
後ろに控えている子分たちの手がスーツの下に伸びる。ショルダーホルスターに仕舞った銃を取り出そうとするなんて最初からやる気満々みたいだね。
「組織にも情報を外に漏らして利益を得ようとするクズが居るんですけど簡単に外部には情報を持っていけない。特に敵対している組織には。だから仲介役が必要なんですよ。…あなた達みたいな能力者を知っている人達が。」
「…」
「もちろんそのクズは殺しました。私が、では無いんですけど。死神ってご存知ですか?私の師匠であり先生なんです。知ってますよね?」
裏切り者の情報は先生から教えてもらった。そしてこいつらの存在も。
「組織は私にある仕事を任せました。その仕事のリストは2つあったんです。1つはPOISONのリスト…これはあなた達から受け取るように指示されていました。そしてもう一つのリストは組織から渡されたものです。」
タブレットの液晶には組織から渡されたリストが映っており、そこには後藤とその子分たちの名前が載っている。
「組織は裏切り者には容赦しません。必ず殺して処理します。」
部屋に2つの銃声が鳴り響いた。私の背後から撃った子分たちの銃から響いたからだ。
「「な!?」」
「…【反復】って言うんです。銃弾を止められるから便利でしょ?」
私の後頭部に向かって撃たれた銃弾が髪の毛に触れるか触れないかの所でキュルキュルと回転し、その場に留まり続けていた。
「こんな事も出来るんですよ。」
銃弾が逆行して男の額を貫いた。バタバタと倒れる子分たちを見て顔を青白くする後藤。これから先の展開を理解したんだろう。
「後藤さんって能力者を知っているのに理解していないんですね。」
「…理解だと?…知っているさ、お前達能力者はただの化け物でたまたま能力を手に入れた社会不適合者だって事をな。」
「ふっ、ふふふ。やっぱり何も分かっていないですね。能力者ってただ能力が使える一般人だと思っているでしょ?」
違う、違うんだよ。能力者はそんなイメージを持たれるけど全然違う。
「あなたが知っているように私は非接触型探知系能力者です。肉眼で視認しなくてもそこに何があるか分かるし色々な事を認識出来ます。だけどその事を実現するには能力だけでは不可能です。」
能力者は能力者という生き物だ。そういう風に成長して脳がそれに適応した開拓が行われる。
「身体の作り方、特に脳の作り方が違うんですよ一般人とは。その能力に適した脳を持っているのが能力者なんです。私の場合、今居る場所の情報とここでは無い場所の情報を同時に認識する事が出来るんです。だから例えばあなたとかが私の能力を使えるようになったとしても脳の処理が間に合わなくてパンクするでしょうね。」
ん?銃声を聴いてビル内に居る他のやつらが動き出した…まあ、こんな感じで同時進行で処理出来るのは私が非接触型探知系能力者という生き物だからだ。ただの人間には出来ない。
「証明してあげますよ。私という“生き物”を。」
左手に銃を再現して壁に向かって引き金を引くと壁の向こうにいる手下のヤクザに風穴が空いてぶっ飛ぶ。それから私は銃口を床、天井、壁に向けて引き金を引き続けた。
あっちこっちから人間のうめき声と人が倒れる音が聞こえ、後藤がその音を聞くたびにビクッと震え出す。
「…【再現】」
私が創り出した6つの軌道に再び弾丸が走りビル内に残る生き物は後藤と私だけになった。
「…どうですか?残ったのはあなただけですよ?」
もうこれは必要ないかな…視線を右手に注いでタブレットをリュックにしまおうとするが、利き手じゃないからちまちまとしか進まない。
「後藤さん。あなた…昨日の銃弾触ったよね?」
昨日は見世物として昨日披露したやつだ。その時にこいつの机の上に落とした。あんな事を見せられたんだ。一回は触れてみるのが人間の性だよね?
私がタブレットに注視した隙に後藤が駆け出しドアを開けて部屋から出て行ったが、私は敢えて無視してタブレットをリュックに仕舞ってから背負う。そしてリロードを行なってから後藤が居た場所に引き金を引いて軌道を創り出す。
「ふー…さてと帰りますか。【逆行】」
ソファーから立ち上がって部屋の外に出てみると逆行してきた後藤と廊下ですれ違う。彼の瞳には驚愕が浮かんでいたが、もう彼が私の能力を知ることは無い。
(人の話を最後まで聞かなかったから自分に起きている現象を理解出来ないんだよ。馬鹿な奴だ。)
あいつは私が触れた銃弾を触れた。つまり私の効果範囲に入ったという訳だ。あのチンピラ三兄弟で実験したおかげでこんな事も出来るようになった。
「ベルガー粒子は銃弾に触れている。お前は昨日から私の射程圏内に居たんだよ。」
昨日の戦いの中でずっとお前を観察していた。私の能力の成長の為には同時進行で能力を行使する必要があったからね。
最初からお前は私の経験値にしか過ぎなかったんだよ。
(何だこれは!?身体勝手に動いて…クソッ!ふざけるなよッ!)
後藤は自分でドアを閉めて自分でデスクに着いた。
(俺はいま何をされているんだッ!?こ、これから先なにが起こるっていうんだ…!?)
軌道は重なる。という事は後藤の軌道に弾丸の軌道を重ねておく事も出来るという事、美世が重ねたのは後藤の頭部と弾丸の軌道線だ。
「【再現】」
部屋を出た私は組織に仕事が完了した報告をする為に電話をかけていた。途中、何かが倒れる音が聞こえたが私は気にせずに歩き続け報告を続けるのだった。
今回は特に書く事がありません。本文で書き切れましたので。
追記:次回からはほのぼのとした話があったりなかったり?




