畳み掛ける
次で1章が終わる予定です。
少年誌のボーダーラインを超えそうな有様の私の仇は、その足と腕を壁に擦りつけながら部屋に侵入してきた。
皮膚が裂けたり、或いは肉を抉りながら来るものだから白の若木に赤のコントラストが入り、子供が見たら泣き出す事間違いなしのクリスマスツリーが出来上がっていた。
(…腕とか足とか指が折れ曲がってるのに痛くないのかあれ。)
壁を壊す際か、その体重を支える為か枝の先が折れていて皮膚の内側が腫れ上がり赤黒く変色している。
私と対象との距離が後3メートルの位置まで近づく。流石にここで動かなければ私は真っ赤な身体のトナカイさんになってしまう。
(ここで逃げるのは私の流儀に反する!それにまだコチラには手札がある。全部を出し切っていない!)
私はここで決着をつけると決める。そう覚悟を決めた私の動きは早い。
(残り4発全部撃ち切る!)
私は相手が回避行動を取っても着弾する様に軌道を1発ずつ左右に少しだけズラして撃ち込む事にする。あれだけデカイと真っ直ぐ撃たなくても当たるし回避行動を取ろうとした相手の動きに制限をかけられる。
引き金を引く。その瞬間、軌道は確定されその線上にある物体にブチ当たる。
ブチュウッと肉が裂ける音が幹から鳴る。一瞬相手の進行が止まるが後退までにはいかない。続けて引き金を引く。
部屋の空気が震え続けてキーンと耳鳴りに近い音が鳴り広がる。私は更に引き金を引く。
相手は腕を全面に出し銃弾を防ごうとするが手の平から弾丸が侵入し、手首、前腕、肘、上腕の順番で肉と骨を砕きそのまま体内にまでその衝撃が届く。
標的はそのままたたらを踏み、それでもコチラに近づくが私は最後の1発を撃ち込む。最後の弾丸…コレも相手に突き刺さる。相手はその衝撃に後退しそうになるが複数の足で踏み止まった。
複数の目が私の動向を薄目で見守る。止めろ怖いんだよ。陰キャにそんな多くの目線を向けるな。
なんだ…?私が撃ち切った事に気付いたのか、目元が嬉しそうに形を変える。木の模様が嬉しそうな目元に飾られ、なんか私が凄い彼の為に何かをしてあげたみたいだが、実際は騙しているので居心地が悪い。
私はまだプレゼントを残してるのに、私は真っ赤なウソのトナカイさんだから。私は残弾の無くなった銃を下げ代わりに最終兵器を相手に構える。
そう…それこそは…右手だ!
…溜めた割にはショボいけど相手の視線を釘付けにしている。そして中指と親指を擦り合わせる。スリスリ…私がこれから何をしようとしてるか理解したようで、多くの目が見開かれた。
相手が射線から逃れようと回避行動を取る。肉の木が一歩踏み出す前に私は指を鳴らす。パチンと。
「【再現】。」
ドゴンッ!!
指パッチンを合図に4つの軌道が走った。同時に4発撃ち出される。その威力は絶大で相手を後退させることに成功した。1発1発撃っても効果がなければ同時に撃てばいいじゃない。射的ゲームと同じ。目標がデカければ近くに近づいて同時に撃てばいいじゃない!
血がわたしの足元まで飛び散ってる。手の視線が右手と私自身にキョロキョロと動く。
そんな見られても私の行動は最初から決まってる。
「【再現】。」
パチンっと指パッチンをするとドゴンッ!!と衝撃音と共に凄まじい血が噴き上がる。衝撃に耐え切れず上体が後ろに反れる。
ただ私は畳み掛ける。
「【再現】。」
4発もの不可視の弾丸による衝撃を体積と重さで受ける為、衝撃音が床一面に響く。それを人間の強度で受けるのは無理があるだろう。肉と血が抉れる音に水気が増えた。
「【再現】。」
指パッチンの音のすぐあとに骨が砕ける音と血の塊が床面に散らばる。
「【再現】。」
相手の腕が衝撃で折れ曲がり床面に落ちる。木の下には目玉や耳と鼻が散らばって噎せ返りそうな血の匂いが部屋の中を満たす。
もはや枯れ木だ。枝は落ち、果実を地面に転がってる。幹は衝撃で折れたのか体重が支えきれなかったのか中心から折れてる。
残った目は瞬きすら億劫そうにして虚空を眺めていた。衝撃で内蔵や肺をやったのか不規則な呼吸を繰り返してる。
(私は残弾を撃ち切りお前は連載打ち切り、パチンと鳴らせばバキンと鳴らす。)
心の中でラップを使い煽り散らすが、相手の反応はない。それはそうか。テンションがアゲアゲで普段やらないラップをかましたところでオーディエンスは湧かない。このフロアには殺害されそうな殺人犯と殺害された女性陣。後は生還してる私と静観してるあの御方。ここで湧くのは血飛沫だけだろう。
これ以上は意味の無い時間が過ぎるだけだと思い、最後の勝利宣言…だろうか私は仇に話しかける。
「私は明日も生きる。お前の事なんか忘れて新しい人生を歩んでやる。」
話しかけても反応はない。億劫そうに足を投げて座ってるだけだ。
その影響で軌道は恐らく頭の位置にある。
私は仇に最後の質問をした。
「…一応聞いておくけどなんでお母さんを殺したの?」
目がちらりとこちらに向けられる。何かを思い出すように上を見たり、殺害した被害者の部屋に目線が向かったりするが、返答はない。
心当たりがあり過ぎて分からないか。
私は意味のない事をしたなと思った。後悔を残さない為に一応聞いたが、本当に無意味だったね。
「【再現】。」
弾丸は貫通し向こう側の壁に風穴を開ける。赤い○は灰色の物体に変わり床に朽ち落ちた。
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