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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
3.サイコパスの青春
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長い1日

やっと美世にとって長い1日が終わります。作者からしたら一週間でしたが。

コンテナ船内部は結構入り組んでて壁や床も厚く厄介な造りだ。敵も武装しているしコンテナの中身も中々に厄介な品物が積まれているしどうしようかな。…ミサイルだよね?コンテナの中身。…お前達ちゃんと税関通したのか?


う〜ん…最悪の場合を想定すると、やり合っている最中に起爆される事かな?流石に私、死ぬよね?


貨物船の近くをウロウロしながら考えを纏める。…ミサイルって遠隔から起爆出来るのかな?爆弾と違うよね?もしかして出来ない?………分からん!もう分からないよ!今日色々あり過ぎて頭が働かないよ!


「ゴリゴリにゴリ押すか……沈めちまおうこんな船。」


口に出したら自然と方針が決まった。私にはこういうやり方が性に合う。明日も仕事があるし処理課の人達がこの辺りまで来ているからさっさとケリをつけたい。私の仕事風景は誰にも見せられないからね。


軽くその場でジャンプした。そのジャンプの軌道を【反復(リテイン)】させる事で貨物船の上空まで軌道を湾曲させて跳んだ。今の私は上に飛ぶという動作を反復させ続ける事で無限に飛ぶ事すら可能になっている。もうこのぐらいは自然とこなせるようになったし今日1日で得られた経験は確実に私の糧になっている。だから今日最後の経験値としてお前達には死んでもらうよ。


「東京湾に死体を沈めるなんて、私も悪い奴になってきちゃったね。」


同時刻の貨物船の船内にて。


「…予定の時刻を過ぎているのに連絡が入らないのは何故だ。」


「…現在確認中です。」


「なら衛星からの映像は?確認していただろう?」


「それが…」


オペレーターの男が口を濁した。船内に不穏な空気が流れる。この船には10名の船員がおり、それぞれが担当のモニターを監視しながら現場の状況を報告していた。


「それが、何だ?続きを報告しろ。」


「…全滅したと思われます。」


「全滅っ!?」


オペレーターの報告に船内がざわついた。アメリカが誇る歴戦の部隊であっても今の報告には驚きを隠せなかった。いつもは冷静な隊長であっても素っ頓狂な声を出さざる得なかった。


「はい。衛星とここでは通信のラグがありリアルタイムでの映像では無いのですが…5分前から動いている人間の姿を確認出来ません。」


報告を受けた船内は蜂の巣をつついたように騒がしくなった。そうなるのは仕方ない。アメリカ国内で最大規模の組織“ミューファミウム”の精鋭部隊がたった一人の能力者に壊滅させられたかもしれないと報告されたのだ。


(信じられん…こんな事がありえるのか?)


こちらの戦力は能力者3名と対能力者を想定して厳しい訓練をクリアした最強の兵士達30名だ。それだけの戦力を前線に送って15歳の少女相手に全滅?何かの笑い話かと思いたいが、紛れも無い現実だった。


(こんな事が出来る相手なんて、それこそ最強の能力者である死神(デス)でないと説明出来ない…まさか!)


「目標は…伊藤美世(デス・ハウンド)は…死神(デス)と同等の存在なのか?」


それしか考えられない。作戦開始から1時間足らずで全滅させるなんて我が国の能力者であっても不可能だ。我が国の最強の能力者相手でも対処出来る部隊が我々なのだから。


「…指示を。指示を下さい!敵は探知系能力者です!下手をすると我々の現在地を見つけ出すかもしれません!」


「船を出港させろ!今すぐにだ!海にまで出ればデス・ハウンドであっても追っては来れないだろう!」


「了解!」


船を発進させようとしたタイミングと同時に腹の中まで響くような衝撃が船全体を襲った。


「な、なんだ!?今の揺れは!?」


「分かりません!しかし船体に対して何かしらの負荷が掛かっていることは間違いありません!」


縦に揺れる振動が船全体に伝わって衝撃音がそこら中に反響している。コンテナに乗せているミサイルが爆発したかと疑った時、再び船を大きく揺らす衝撃音が鳴り響いた。


(ミサイルの誤爆ではない!これは敵の攻撃だ!しかもこのタイミングで仕掛けてくる者など一人しか思い付かない!)


「デス・ハウンドか!」


同時刻、甲板の上にて。


「沈めアメ公共ッ!!!」


頭から垂直落下した私は怪腕を生やして貨物船の中心位置に向かって拳を振り下ろした。3万tの重量を誇る貨物船が大きく沈み込む程の威力の拳は厚い鉄板で出来た船央を凹ませる。


「まだッまだッ!」


軌跡しか残らない一撃が再び貨物船を襲った。未だに縦揺れを起こしている貨物船が海面を押し退けて沈み込んだ。その影響で周りの波が大きく揺れて地上を海水で濡らし衝撃音で気絶した魚がぷかぷかと浮かび上がる。


たった2発の攻撃で船全体が軋み上げて金属が擦れる不穏な音がそこら中で鳴り響く。


(まだベルガー粒子を船全体に纏わす事が出来ていない!この船無駄にデカ過ぎるよ!ふざけんなッ!)


美世は攻撃の手を緩めなかった。船体に対して怪腕でラッシュを決めて自身の効果範囲を拡大させた。ベルガー粒子で船全体を包み込めば一回の能力で沈没させられる。


船の揺れは止まらずに大きくなっていき船の形状にも目に見えて変化が生まれた。コンテナが中央に向かって動き出し、積み上げて置かれていたコンテナが崩れ始める。船の中心位置に向かってラッシュをした影響で中央に向かって傾き始めたからだ。


今にも船が真っ二つに折れ曲がってしまいそうな勢いで船首と船尾が持ち上がり船央が沈み込んでいく。最早能力無しでも沈没してしまいそうな勢いだ。もちろん船内に残っているオペレーターもその事実を把握していたが身動きが取れずにいた。


その理由は船全体を揺らす衝撃と傾き始めた床面に足を取られて立ち上がる事すら難しい状況の中、部屋全体から発せられる金属の歪む音のせいで皆パニック状態になっており冷静な判断や行動が取れなかったのが原因だった。


彼らが様々な訓練を受けていたとしても自分達が乗っている巨大な貨物船を敵が沈めて来ようとするなんて想定外であった。怒号と悲鳴と破壊音だけが部屋の中を自由自在に行き来し、ただの人間であるオペレーター達にはもう為す術がない。出来ることと言えば死を受け入れることだけ…


(キタ!船全体が私の効果範囲に入った!)


「帰国する前に海水浴を楽しんで逝けッ!【反復(リテイン)】!」


貨物船が海中に引き込まれるように海底に向かって落ち続けた。海面は大きく揺れて立ち上がり巨大な水柱を作りだされる。その水柱の中央に居た私にも水飛沫と数kgにもなる海水の塊が次々と降りかかるがダメージは無い。


だが私の周りの空気を押し流されたせいで空中に居るにもかかわらず海水で窒息するかと思った。こんなんで死ぬとか本当に洒落にならない。


「おぼぼぼぼッ!溺れる!溺れちゃう!」


慌てて上空に飛んで水柱から逃げた私は貨物船にかけた能力を解除した。もう船全体が海底に埋まるほどに沈んだので船内に居る彼らが脱出する事は出来ないだろう。


探求(リサーチ)】で彼らの様子を確認したら亀裂から浸水した影響で船内が海水で満たされ殆どの人間が意識を失いかけていた。中には酸素ボンベで生き永らえている者も居たが、船全体が歪んだ影響と水圧で扉が開けられずに閉じ込められて脱出が出来ないような状況だった。…南無三。


彼らが全員死ぬには時間の問題であったけど確実に殺さないとだからダメ押しの能力で確殺しよう。


「窒息死か圧死を選ばさせてあげる…【反復(リテイン)】」


水圧によって圧縮されている船体の軌道を操作した。圧縮する速度が一定になり巨大だった船体がドンドン丸くコンパクトに押し固まっていく。…もう見届ける必要は無いね。


私は彼等に背を向けてその場から離れ、組織のビルに向かった。そして道中、最後の一人が灰色の塊になる事を認識してから【反復(リテイン)】を解除し私は今日という長い1日に幕を閉じた。

美世が海外からデス・ハウンドとして恐れられている理由は任務の成功率と死神の弟子として知られているからです。


今の所、美世の任務成功率は100%でどんな能力が相手でも確実に殺している事と無傷で生還している事から只者ではないと認識されています。そしてその情報を得たミューファミウムが彼女を危険視して今回の作戦が実行されました。


もちろん死神の教えを受けているという情報も掴んでいるので彼女を捕らえて死神の情報を引き出そうともしましたが結局失敗に終わりました。

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