殲滅戦
二郎食べながら二郎みたいな話を書いてる…カロリー高いっす。
意識がサイコキネシスの方に向いた瞬間、1台だけ無事だった装甲車から轟音が鳴り響いた。備え付けられた機関銃が火を吹いたからだ。機関銃から撃ち出されるのは世界最大の口径を持つ弾丸でその大きさは最早砲弾のようなデカさだ。
もちろんこの弾丸は見た目の大きさだけではない。その威力の大きさは厚く守られた装甲車すら貫通する場合がある。
ここまで来るともはや生き物に向けて撃つような弾丸ではないと思われるが今回の標的は能力者。しかも能力者の中でも指折りの実力者と言われている“死神の猟犬”
慢心など捨てて立ち向かわなければならない強者。
例え彼等に与えられた任務…伊藤美世をアメリカに連れ帰るという任務を放棄してでも…
(…しまった。)
人間が喰らえばミンチに変わり道路の染みとなるような弾丸の嵐を伊藤美世は真正面から受けてしまった。
「がはっ!?」
だ、弾丸が重い!なんだこの弾丸!?肉眼でも弾丸が赤く視認出来る。そのぐらい熱いんだ。しかも空気が弾丸に押し出された影響か、至近距離に扇風機を置かれているんじゃないかってぐらいの強風が肌を襲う。
でもまだそのぐらいならマシだ。問題なのは食らった箇所に衝撃と熱が伝わってくること!
能力で自身の身を固定している美世であったが完全に防ぎ切る事が出来ずにダメージを負うことになる。
近距離で撃たれた弾丸はその威力を存分に発揮し赤熱した弾丸は空気に冷やされる前に美世に到達して着実に熱と衝撃を蓄積させた。
(この熱と衝撃は不味いッ!)
服越しでも伝わる衝撃で内臓が悲鳴を上げて吐きそうになるし血流が乱れて心拍が急上昇している!さらに厄介なのが熱だ。私が着ている服は耐火加工と耐熱加工がされているけど限度がある。
私に弾丸が当たっても弾かれて何処かに吹っ飛ぶからまだその点は良い。問題なのは摩擦熱が生じて私と私の周りの温度も上がっている事だ。
能力者であろうと熱に対しての耐性は無能力者とそこまで変わらない。私は何処ぞの皮膚温度を500℃まで上げられるゴリラとは違って繊細なんだよ!
因みにだがゴリラも熱に弱い。500℃まで体温を上げられないし耐えられない。そして伊藤美世と違ってとても繊細な生き物である。
「怪腕ッ!」
両肩から生やした怪腕で弾丸を防ぐ事にした私は意識を集中させた。イメージするのは弾丸を殴って弾き飛ばせる程のパワーとスピード。軌跡しか残らないこの怪腕なら弾丸の速度にも対応出来る筈!
秒速1000mを超える速度の弾丸を弾き飛ばすのは尋常ではないスピードと正確無比の操作が必要になる。もちろん弾丸に押し負けないパワーも必要だ。そしてこの3つを兼ね備えた能力を伊藤美世は持っていた。
1発弾く度に激しく唸る金属音が鳴り、その音が鳴り終わる前にまた新しい金属音が鳴り響く。怪腕の速度は弾丸を横から殴り飛ばせる程に素早かった。…秒速1000mなんて目では無い。弾丸の軌道を認識出来ている美世が正確に認識出来ない程のスピード…それは正に光速に差し迫る速さだった。
「フゥー…フゥー…」
脳と内臓が悲鳴を上げて立っているのも難しくなった私はその場に膝と尻を着いて呼吸を整えようとした。だが周りの空気は硝煙が混じり、50℃近く熱されていたので上手く吸い込む事が出来ない。
硝煙を吸い込まないように服の袖を口に当てて少しずつ空気を吸い脳に酸素を送る。怪腕と【探求】の操作は結構脳に負担がかかるから少しでも脳が働けるようにしなければならない。
酸欠気味の頭は重く感じる。…でも下方向を見ていると口からピザが出てきそうで嫌なんだよな…ん?
足元、私の周りには機関銃から撃たれた弾丸があっちこっちに散らばっていた。それはまあ別に良かった。当たり前だしね。気になったのは弾丸に私のベルガー粒子が纏わっていたことだ。
(私…そんな事したか?)
事実として目の前にベルガー粒子を纏った弾丸が転がっている…無意識的に纏わせたのか?
この時の美世の勘は当たっていた。美世は無意識的にベルガー粒子を操作して弾丸の軌道を操作していた。理由はもちろん自身の為だ。この弾丸を喰らい続けていたら危険だと防衛本能が察知して弾丸の軌道を逸らしていたのだ。
因みに美世が立てなくなっていたのは無意識的に行なった能力の行使によるものである。
そしてもう少し説明すると美世の身体にぶつかって弾丸が弾かれていたのではなく軌道の方向性を変えて反らしたからだ。そのおかげで真正面から来る衝撃を減少させる事に成功していた。でなければ美世の骨はヒビ割れて内臓は裂けていただろう。
(いや、今はそんな事よりあの機関銃と残っている兵士達を考えないと。)
なんせまだ最低でも能力者が2人控えているのだ。ここで時間を食われる事態は避けたい。
(ベルガー粒子を纏った弾丸を数えてみたけど…これ千発は超えてる?)
地面に転がっている弾丸と現在進行系で撃たれている弾丸の数を認識した美世はどう操作するかを迷っていた。これは使える…と。
千発をゆうに超える弾丸の軌道を【逆行】…それから【反復】の同時使用。
「散々撃ってくれたな…お返しだッ!」
千発を超える弾丸が全て動き出す。軌道の先にある機関銃に向かって秒速1000m超える弾丸が我先と逆行した。もし【逆行】だけ使用したら機関銃を詰まらせて使用不能にするだけだが、そこに【反復】を組み合わせたら止まることのない銃撃に進化する。
本来撃たれた弾丸は弾頭を正面に発射されるが逆行した弾丸は逆向きで吹き飛ぶ。その影響で対象に衝突すると貫通するのではなくめり込む事態になっていたがその銃撃の量を考えたら些細な事だった。
美世はまず機関銃と機関銃を操作する敵に向けて銃撃を行なった。こちらに向かって来る銃撃を物ともせずに逆行する弾丸は機関銃を破壊し兵士をミンチにした。しかしそれでも弾丸は止まらない。向かいのビルのカーテンウォールと鉄筋コンクリートの柱を破壊してようやく停止した。
美世は自分から100m程度離れた所で能力を解除を行なっていた。そうしなければ地平線まで弾丸が吹き飛んで行くからだ。…それでも能力を解除したとして急に止まることはないのだが。
「お前達も散々撃ってくれたなぁ?少しは撃たれる立場になってみろ!」
生き残っている兵士達の殲滅に移った私は弾丸の軌道を捻じ曲げて次々とミンチに変えた。私から100m以内の距離なら確実に殺せる威力を持った800発の弾丸…防げるものなら防いでみろ!
ある兵士が呆然としながらその光景を眺めていた。人間には認識の出来ない速度の赤い弾丸が横雨のように降り注ぐ。雨宿りしようにも装甲車は押し流され頼りになる仲間達も次々と赤い霧状の何かに変わって消えた。最後の一人となった自分も仲間と同じく霧に変わるだろう。
「…これは、夢。そうだ。夢にちがっ…」
傘を持たない兵士達に赤い雨を防ぐ術は無かった。
「スゥーハァー…スゥーハァー…」
サイコキネシスが居ると思われるビルに向かいながら深呼吸をしてリュックから飲み物を取り出す。ずっと戦い続けていて軽い脱水症状になっている身体に水分を補給しなければこの先の戦いには勝てない。なにしろ相手はサイコキネシス…私が初めて敗北したことがある能力なのだから。
兵士達が軽装備の理由は伊藤美世の仕事を行なった現場には銃痕が残されている事が多く、彼女と戦う際には銃撃戦を想定していたからです。




