活動が始まる
前書き後書き書くの苦手マンなのでこれからは作中では語れないキャラクターの詳細やなんかいい感じのを書いてお茶を濁そうと思います。
「転移で逃げてみろ。」
私は挑発して響を転移させようとする。
「痛っつぅ…お前は、お前だけは絶対に許さない!」
左腕に刺さったナイフを引き抜こうとするが骨を貫通して刺さっている為に引き抜くことが出来ない。更に痛みで左腕に力が入りそのせいで膨張した筋肉がナイフを押さえつけるように固定してしまっている。
(俺だけでも逃げなければ、生きていればいずれコイツに復讐するチャンスがある!)
「絶対にっ、殺してやるからなッ!」
彼のベルガー粒子が激しく鼓動し彼の存在が希薄になっていき…そして突然姿が掻き消えた。
部屋に残されたのは死体が2つにあいの風が1人だけでPOISONのリーダーである響はこの部屋から転移で逃げ出す事が出来た…と思われた。実際の所テレポーターが本気で逃げればどの能力者も追跡する事は出来ないのだが、追跡するのが伊藤美世であるなら話は変わる。
時間を操作し因果を逆転させる伊藤美世ならテレポーターを追跡する事が出来る。
「お前は、私が触れたナイフを触れた…ナイフには私のベルガー粒子を纏わせておいてある。」
一人、部屋の中央で構える少女は告げた。
「お前が何処に逃げようと、私の射程圏内であり効果範囲に居る。」
感じる…アイツが私の射程圏内に居ることが…
「さて…転移を逆行させたらどうなるのかな?」
やってみないと分からない実験はワクワクするものだ。もし失敗して逆行させる事が出来なくても追いかけっこは得意な方だ。必ず見つけ出す。
残留している軌道に意識を集中させてベルガー粒子を操作する。私のベルガー粒子を残された軌道に注いで強く強固な軌道に補強する。なんせ初めての試みだ。抜かりはあってはならない。
…まだ、まだ逆行させない。テレポートはラグがある。AからBの地点に転移する時、距離が長い程ラグの時間も長くなる。だから焦らない。アイツがこの世界に現れてからだ。
ここまで気を張って待ち構えていても懸念はある。【探求】の射程距離はマッピングされた場所だけだ。もし高所の建物に転移されたら十中八九認識出来ない。
だが、もしもの話だ…マッピングとは私のベルガー粒子が干渉した地形を認識できるという能力だとすれば、私のベルガー粒子を纏ったナイフの位置はマッピングされていない場所でも分かるのではないだろうか?
憶測でしかないし本当にそうなのかも分からない。私自身が一番【探求】を知っているのに理解しきれていない。だからこの実験はぶっつけ本番の無茶な方法だ。しかし無茶ではあるが、やる価値はある。
今まで先生から借りた能力は訓練で鍛えたり理解を深めてきたけど自分自身の能力単体で訓練したことは無い。
能力単体の性能も制約もはっきりとしたものだから成長のビジョンが見えづらかったのもある。曖昧だったらここはもしかしてこうなるんじゃないかとか考える余地があるのに【探求】はしっかりとし過ぎている。まったく誰に似たんだか。
「失敗は許されない…許されない…許されない…だから絶対に成功させろ伊藤美世。」
自分に言い聞かせて自分を追い詰める。失敗が出来ない仕事に逃がしてはいけない相手だ。状況は最悪と言っていい。もし逃してしまったら組織にどう言い訳するんだ?
いや言い訳なんて出来るはずがない。だからこそ緊張感を持って事態に対応出来る。
能力は刺激で大きく成長する。私の【探求】は追い詰められるような事態が発生しにくい能力だ。もし追い詰められたら他の能力で事態に対応するからだ。他の能力は成長していくけど【探求】は成長しない。
だからこの事態を自身で招いた。奴の能力を知った時から実験の内容は思い付いていた。だからアイツを殺さないように自制したんだ。本当は今すぐにでも殺してやりたかったのに。
突然脳裏にイメージが湧く…ナイフのイメージだ。そこからナイフが突き刺さった肉のイメージに移り周りの光景が視えてくる。狙い通りマッピングが実行されて相手の位置を正確に認識できるようになり始めた。
「すぅーーーハァーーー…ヨシ。」
深呼吸して脳に酸素を送り準備を整える。
「断絶した軌道よ逆行しろ。【逆行】!」
私が能力を実行した瞬間、部屋の空間に歪みが生まれた。本当にそのままの意味で歪みが生まれたのだ。軌道がヒビの様に視えてきて…いや本当に空間に対して軌道が歪み、そして空間がヒビ割れた。
これは…とても良くない事が起きる予感がする。空間に歪みがあるのでその影響で部屋の形、見え方にも変化が起きる。例えると遠近法が下手くそな絵のように奥行きが良く分からない。だから視界の四隅の位置と頭が認識している映像との間に差が生じてとても変な感じだ。
(部屋の距離感が測れない…私は動いていないのに部屋が動いているような感覚がして気持ち悪い…吐きそうだ。)
それと同時に私のベルガー粒子にも異常が起きている…もういい加減にしてほしい。現状2つの異常が起きてる。空間の歪みとベルガー粒子の異常だ。
ベルガー粒子が勝手に空間のヒビに向かって蠢いていき、感覚がここではない何処かに飛んだ。この感じは…アイツの所まで飛んだ…のか?
(この感覚はもしかして…パスか?)
響と私との間にパスのようなものが繋がり始めた。こんな事初めてだ。私の方からパスを繋ぐなんて…でもどうしてパスが繋がった?ていうかどうやってパスを繋ぐんだ?
先生と私の間にはパスが繋がっているけどその方法も理屈も教えられていない。確か前に先生が言った言葉…ユニゾンだっけ?これが関係しているのかもしれない。
考えを纏める暇もなくどんどんパスから情報が流れてくる。響の感情やベルガー粒子の揺らぎ、それにテレポートの使い方まで…え?まさか…使えるのか?
ベルガー粒子は向こうに流れて向こうからは情報が流れてくる。問題はないのか…逆行させるはずだったのにまさか私がテレポートさせる事になるとはね。
(でも私自身がテレポートしたい訳じゃないんだよね。だからアイツをここにテレポートさせたいんだけど…)
う〜んと唸りながら方向性を決める。テレポートさせるのは良いけど私がテレポートしてアイツの所に行くわけではないから結局アイツがテレポートするのか?そんな事が可能なのか?
もし可能ならさ、それって相手の能力を再現することなんじゃないの?
本当にそんな事が出来たなら、私は…最強じゃないか?能力のコピーなんてチート能力の代名詞でしょ?そこに自身の能力と先生の能力を合わせたら誰も私には勝てなくなる。
「良しやろう。今すぐやろう。」
今までで一番ワクワクする実験だ!これが成功したら先生に褒めてもらおう!
サイコパス主人公である伊藤美世なんですけど、サイコパスキャラって何かが欠落して描かれることが多いですよね。感情だったり良識だったりね。だから逆に伊藤美世は普通の人より満たされた人間として描いています。
喜怒哀楽といった感情も備わっていて緊張もするし驚いたり怖がったりします。良識もあるし常識も知っています。更に才能にも恵まれていますし慕われたり好かれたりもします。
なのに何が大きく欠落している…みたいなキャラクターですねこやつは。
因みに作者が書いていて一番楽しいキャラクターでもあります。




