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戦闘書きました。
(クソがクソがクソがあっ!!)
男は自分に開いた風穴と女が去った方角を睨む。あの女に蹴られさらに痛みが強くなり、出血もかなり酷い。次々に自身を襲う展開に頭が混乱する。
男が1番気になるのはこの風穴はどうやって開けられたかだ。多数の目を生やす。…壁に穴を見つける。
(あそこから何かしらの攻撃を放ったのか?ならマズい!攻撃が一回とは限らない!)
男はよろよろと立ち上がりその場から離れようとする。それと同時にこの傷をどうにかしなければと考えた。
身体の体温が風穴から血と共に流れている。…寒くなってきた。しかし男はそこまでこの傷に対し危機感を感じない。それよりこの場に居続ける事に危機感を感じる。
ここは吹き抜けになってる場所が多い。障害物のある場所まで行かねば。両腕で右腕の上腕と穴を抑えて止血する。
頭や急所になる部位は腕でガードしながら階段まで移動する事が出来た。男は先程の状況を整理しながら考えを纏める。
(…まさか罠だったのか?)
確かに理にかなってるかもしれない。少女一人で連続殺人犯を襲うなど考えてみればおかしい。しかも自分は強姦犯だ。ありえない。
(まさかあいつは餌だったのか!少女を差し出せばあのマットレスが敷かれた場所まで移動するという事を見越しての!)
普通じゃない。まさか前に話しかけてきた組織の人間か?ならあの女も能力者か!それなら合点がいく。
(それでも俺は生き残る!この能力を使ってクソみたいな人生を変えるんだ。)
男はヤル気に満ち、本調子に戻る。そして女の存在に集中する事にする。先に女をヤラないと挟み撃ちに合うからだ。
生やした脚から目と鼻で女の跡を辿り、階段を下りた。
男が美世の居る階まで降りて匂いで探し当てるまでの間に、美世は準備を整えていた。
(良し…ここまでは私の思い描いている通りに進んでいる…。)
私は<地図>で確認する。相手はどうやってか分からないがあそこから生還し私をヤろうとこの階まで来たようだ。
私はわざとらしくドアを開けた部屋に待ち構えてる。この入口から入ってもらう為だ。その理由は3つ。
1つはこの部屋には隣に入れるドアがあり最悪移動が可能。2つは狙いを絞る為。素人がいきなり銃で目標に当てるのは難しい。しかも動き続ける人間相手にだ。能力で相手が来るタイミングは分かる。なら後はドアに軌道を合わせて撃つだけ。それなら私でも難しくない。
左手で持った銃をドアに向ける。片手打ちは安定性に乏しいが、この銃は特別。重みは無いし恐らく反動が無い。
実際には撃たれていないからだ。それに片手打ちはカッコいい。空いた右手が出番が無いの?とソワソワしだす。お前は2丁持ちまで待っててね。
今の私はある種の全能感に包まれてる。初めて能力が発現したときも同じだったなと昔を懐かしむ。
親の仇討ちから能力者バトルに発展するなんて想像していなかった。しかも新たな能力の成長に新たな能力の発現。今朝までの私の人生は何だったのかと誰かに話したくなる。あの御方には感謝しかない。私を救ってくれた。命を、人生を。
これに報いないで何だと言うのか。私は言った。全てあげると。勢いで言ったが本心だ。私の全てを使って期待に応える。
今は私の有用性を見せてアピールしなくては。
(そろそろだな。あと…5メートル。)
廊下を進み、この部屋の存在に気付いた標的がここに向かってくる。
私から見たら左側向かってくる。遅くなったが3つ目の根拠。私からしたら左手で狙う為、左に標的が居るのは喜ばしい事だ。だからこの部屋を選んだ。
<地図>から見た3Dの光景と肉眼で見た光景を照らし合わせる。視点は1つになり統合される。そこには銃口から伸びた軌道もあり、私の能力全てを合わせた光景が視界に映される。
あの御方は言った。私の能力とこの能力は相性が良いと。その通りだ。
能力には弱点と制約がある。しかしこの2つの能力は互いの相互性が高く弱点が見られない。あるのは制約のみ。最初から私の能力だったのではないのかと思うぐらい使いこなせる。天才か私は?戦いの天才かもしれん。しかし結果を出さなければ意味が無い。結果が全て。私はトリガーに人差し指をかける。
相手はあと1メートルのところで静止する。流石に警戒するか。でもお前は来るしかない。分かるよ。お前は来るしかない。
(ナイフを持ち出せなかったのは分かってる。お前は素手だ。私に近づかないと攻撃出来ない。)
《ーーーふむ 良い位置だ 私も同じ状況ならそうするだろう 自分で考えて行動し判断出来るのはこの娘の長所だな》
緊張の時間が流れる。でもこの場のコントロール権は私にある。
空いた右手がまだ仕事が無いのかとぷらぷらしてる。…そうだ。
右ポケットに右手を入れる。そこから鍵を取り出して私はニヤリと笑う。取り出したそれを地面に捨てる。
チャリンと床を鳴らす。赤い○が揺れる。…動いた!
ドアに近づく相手。腕が見える。私は左手の人差し指に力を入れ引き金を引いた。
その瞬間、それは放たれる。空気を切り裂く音を置き去りに軌道線上を進む。それは美世には視えた。
物体の無い銃弾。重力と空気の物理的影響を受けずに真っ直ぐ進み、軌道線上の物体を破壊する悪魔の弾丸。この矛盾は放たれる度に【再現】される。
《なるほど 私にも視える これが【マッピング】か》
悪魔の弾丸は軌道線上にある腕を貫き、そのまま風穴の向こう側の壁にブチ当たる。
ドンッと壁が砕ける音と共に空気が無理やり押し広げられた為に発生された空気の揺らぎが美世に届く。
「うぎゃぁあ〜〜〜!!??」
男は腕を引っ込め再び訪れた激痛に苛まれる。
(…凄い。これは私が…やったの…?いや…この能力が凄いんだ。)
私は考えを改め、唖然としたまま銃口を下げる。そうすると軌道線だけが固定されその場に残ってる。
(何これ?さっきの軌道が残ってる?)
『それが【再現】の能力だ 軌道は残る お前は軌道を創ったのだ あとは引き金を引くを必要は無く【再現】すればまた軌道線上に弾丸が走る』
(えっすご!それは強すぎるでしょう!1発引き金を引けばそこに永遠と弾を流せるという事じゃないですか!?)
『その通り 相手は軌道が視えずコチラ側は視える この優位性は分かるな?』
(はい分かります!あの軌道は柵の代わり…いや罠にもなりますね。あそこを通れば視えない弾丸が通る…!凄い能力です!私の【マッピング】ならその場に私が居なくても軌道上に居る標的を<地図>で確認して攻撃出来る…!凄い!)
私は大興奮であの御方に自分の考えを話す。
『ふふ素晴らしい すぐに運用方法まで分かるとは大したものだ なら最後にその銃の残弾は残り5発 つまりあと5回軌道を創れるということだ あとは自分1人で出来るな?』
(はい!期待に応えてみせます!見ててください先生!)
『ーーーセンセイ?』
私は再び銃を構え標的に銃口を向ける。
(この威力なら壁なんて貫通する。あとは軌道を相手に合わせるだけ。)
壁越しに照準を合わせ引き金を引く。
軌道線上にある壁を貫通し破片を撒き散らしながら標的をも貫く。
ドゴンッと音と共に鳴り響く男の絶叫。それを聞いて微笑む私。傍から見ると完全に私が悪い奴に見える。
男はその威力に押されて壁にぶつかる。男は何があったか理解出来ない。分かることはこの威力はさっきの狙撃と同じだということ。
(マズいマズい!出血が…!)
壁に開いた穴から男の状況が見える。身体中から腕が生えその腕が頭や胴体を包んでる。しかも腕には目や鼻、耳まで生えてギョロギョロと動いてる。そこに銃弾の跡である銃痕から血が流れてるという凄まじい有様だ。
そんな名状し難い光景を見た私はSAN値チェック。その結果、私は銃口を下げて右手を相手に向け構える。
私は右手でパチンと指を鳴らしながらこう言う。
「【再現】」
私の軌道線上に再び弾丸が走る。
「うがあああああぁあああ!?」
結果はアイツが教えてくれた。
前衛的なオブジェに再び弾痕が生まれそこから血が吹き出る。
(成功した!初めてやったけど上手く決まった。)
指パッチンは絶対に要らなかったけどそこは勢いの女、伊藤美世。勢いだけでここまで来た女は伊達ではないのだ。そこは信念を曲げない。
肩に掛けたカバンを担ぎ直し右手を添える。男はコチラを見て驚愕…しているのか分からないが足が止まっているのはもはや致命的だろうと考えを改める。
銃口を、軌道を相手に合わせる。これでお終いだ。残り4発撃ち込めば流石に死ぬだろう。
ふふ、相手からしたら意味が分からないだろうな。なぜ私がこの能力を使えるか、ならさっき使わなかったのは?と色々と考えてる事だろう。
アイツの視点では私が何も握ってない左手を向けてるように見えるし、右手で指パッチンしたら穴が開くのだ。仕方ない事だ。
(お前は何も分からないし何も理解出来ないまま死ぬんだよ。私が誰かなのか、何故殺されるのか知らないまま死ね。)
私は万感の思いから卒業する為、引き金を引こうとした…が、相手は最後の特攻を仕掛け、その変容に驚いてしまった。
男の上半身から腕、腕腕腕腕腕腕。数え切れない腕が生えどこが胴体なのか分からない有様となる。
「ゔゔゔううぅ」
くぐもった声と共にコチラに倒れそうになるが下から足がぐちゅぐちゅと生えて続け、その巨体になった上半身を支える。
見た目は人間の木だ。少年ジャンプに出てくるニコ・ロビ○の本気を見た。
しかしこれはふざけてる場合じゃない。体積が大き過ぎる。胴体に当たれば一撃で致命傷になるコチラの攻撃をまさかあんなゴリ押しで対応してくるとは!
相手はその重量と多数の腕を利用し壁に開いた穴を崩しながらコチラの部屋に入ろうとして来る。
私は一歩二歩と後退する。
(まさかこんな使い方があるとは…あれだけの体積。血液だって大量にあるだろう。出血多量によるダメージを体積を増やすことで解決するなんてゴリラかよ!)
ゴリラはそんな事はしないし紳士的で優しい動物だが、今の美世の頭は混乱している。
これは美世が知らない情報だが、能力は脳で制御する。そして今の美世は2つの能力を制御している。
しかも1つは慣れていない為ストレスが大きい。ここに脳のリソースを割いてる為に上手く思考や感情を制御出来ず、脳がバグる。
普段感情を表に出さない彼女が能力を使うと感情が表に出るのは脳が活性され、感情を司る扁桃体。思考や判断を司る前頭前野が刺激されるからだ。逆に言えば人より扁桃体や前頭前野が発達しているとも言える。
しかし今は様々な情報の洪水によって脳が処理し切れない。だが能力に割いたリソースを減らすのは死を意味する。
(どうするどうする?ここは引くのが正解か?あの巨体ならドアを通れない。いや今アイツは壁を壊して部屋に侵入して来てる。詰んでる?いやいやあの御方に観られてるのに逃げるのは危険じゃないか?使えないと思われたらこの【再現】を取り上げられる事だって…どうするどうする!)
《ここからだ能力者は 男の方は能力にリソースを全て割き単純な行動に出た この娘がどう判断し行動するかコチラも判断せねば 死んでしまうのは惜しい逸材だが仕方ない ここまでだったという事だ》
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