ぶつかり合う拳
能力者同士の戦闘パートに入りました。
「…ではまたお願いします…失礼します。」
電話を切り建物を後にした私は室内から野外に移ったことによる急激な陽射しの変化に目を細める。
…ランチを逃してしまった。中途半端に昼食を取ると仕事している最中にお腹が空くからどうしよう。夕方に食事を取って夜に向かうとするか。
横からの西日が強まった頃、私はクレープを食べながらパラソルが設置されたテーブル席で時間を潰していた。軽食で済ませてから夜に焼肉を食べる。これは決定事項!
今日は能力者3人を相手にしてから夕食を取るのだ。ガッツリ食べなければ明日の仕事にも差し支える。
「クレープうんま〜♪」
因みに私は甘いクレープ以外認めない教に入信しているからストロベリーと生クリームのクレープを注文した。やばい美味すぎる。疲れた脳に糖分が行き渡って最高だ。朝から能力を使い過ぎたから余計に美味く感じる。
(7時回ったら仕掛けようかな。)
クレープの紙をゴミ箱に捨てた後、うーんと背伸びしながら席を立つ。さーて標的のゴミ屑を処理する為に周りを下見しに行きますか!
マンションの周りをぐるりと一周して辺りをマッピングし、標的が逃げても追えるように準備をした。逆に仲間を呼んで外から来てもすぐに位置が分かる。
スマホをリュックの中に入れてマンションの周りに置かれている花壇と街路樹の間に隠すように置く。戦いになったら邪魔になるからね。それにリュックにはピンを指したしGPSで追えるから取られそうになっても大丈夫。
正面入口から侵入する事にした私は監視カメラが設置された玄関に向かった。
(この映像を向こうは見ているのかな?)
このマンションはPOISONの根城になっているから監視カメラもあいつらの支配下になっていると考えて良いかな。
早く降りてこいよ能力者!ヤクザキックで正面の自動ドアを蹴り破ってお邪魔する。
「こんばんわ〜NHKで〜す。神は信じていますか〜?」
“視界”を飛ばして上の階の人間を確認する。床が厚いのか誰も気付いていない。上に行けば恐らく最上階に居る能力者達を視認出来るからエレベーターか階段で向かうか。
いや、流石に管理室に居るチンピラとDQNの中間みたいな生き物は気付いたね。監視カメラもあるしこっちに来るな…なら先手必勝!
「すいません!誰かがこの扉を破ってマンションに入って行ったのですけど!」
「え!?え?誰?さっきのヤツは…」
左手に意識を集中させて“銃”を【再現】する。
「めんご。それ私だったわ。」
引き金を引く同時に男の胴体に風穴が空き壁までぶっ飛ばされる。壁にも風穴が空いて壁の向こう側まで男の臓物が侵入するほどの威力。やはり能力で生み出す銃の威力には惚れ惚れする。流石の威力だ。一般人だとどこに当てても致命傷になるね。
(そう言えば無能力者に撃つのは初めてだな。初めての相手がコイツとは…もう少し考えて撃てば良かった。)
あいの風が侵入したことを監視カメラの映像で見ていた男が仲間たちにそのことを伝える。
「…誰か来たな。」
マンションの最上階を貸し切っている能力者3人の中でも上位の能力を持っているPOISONのリーダー。茶髪の髪を整髪剤で立ち上げて見た目が二十歳ぐらいの若い男で、Fラン大学の意識の低い大学生のような男だ。
しかしその身から発せられるベルガー粒子は相当のもので、この3人の中でも断トツの粒子量だ。
男の側に置かれたタブレットから監視カメラの映像を確認し状況を二人に報告する。
「誰かって?警察?ヤクザ?」
半裸に近いネグリジェを着ている金髪に染めた長髪の女性。年はまだ10代後半だが彼女の妖艶な雰囲気から実年齢より上に見える。
彼女は脚のネイルの手入れに集中しながら男の報告に反応する。
「それは分からないけど、女だな。」
「女?じゃあ下の奴らが呼んだ玩具じゃない?」
「その女が男を一人殺して上に上がってこようとしている。」
「ならヤクザの手の者じゃない?ハニートラップ使って殺したんでしょ…猿ばっかりだからね。」
「俺が行こう。」
立ち上がったのはPOISONの中でも武闘派の男…身長は190cmを超える巨体。体重も100kg近くありその場に居るだけで空気が重く感じるようなプレッシャーを放っている。
「なら安心じゃん。こいつ女なんかには興味ないしね〜。」
「おい、その言い方は語弊を生む。」
「事実じゃ〜ん。」
最上階であいの風の襲撃に対して対応を始めた頃、あいの風は次々と現れる社会のゴミを片付け回っていた。
(はあ〜〜こいつらゴキブリかよ…。殺しても殺しても湧いて出てくる。)
上の階に行こうとエレベーターを使用しようとしたら急にボタンの電気が消えて使えなくされてしまった。その為に階段で上の階を目指そうとしたのは良いんだけど…途中途中で銃やら棒やらを持った悪漢が襲ってきたので仕方なく灰色のオブジェクトに変わってもらう事にした。
(正当防衛で殺しているけど、お前達を殺しても金にならないどころかお前達の後処理にお金がかかっちゃうんだけど…)
処理3課に依頼するにも費用が発生する。基本的には無料なんだけどそうすると際限が無くなってしまうから、殺し過ぎたり壊し過ぎたりすると報酬から天引きされるようになっている。
だから自分の部屋に閉じ籠もってスマブ○をやっていろ!知ってるんだぞ!お前達がスマ○ラ大会していたのは!
「大門寺さん!能力者!能力者が攻めてき…まグッ」
ドアを閉めて連絡を取っていた男を射殺した。私の【探求】はお前達の行動を把握し続けている。だから隠れても閉じ籠もっても無駄なんだよね。
「私の情報は誰にも共有させないし能力を知った者は必ず殺す。だから出て来ないでよね。」
取り敢えず部屋から出てきたり私を見たりしたゴキブリを殺しつつ上の階を目指した。下の階に残っている生き残りは寝ているやつか女とお楽しみ中のやつばかりで放っといても良さそう。
中にはクスリでトリップしているヤツも居る…酷いマンションだ。ゴキブリと薬中と猿しかいない。人気の無い廃れた動物園だってもっとまともなラインナップをしている。
今昇っている階段を上がり終えて広い広場に出た。人が住んでいるようなフロアではない。共有スペースかな?
階段はこのフロアを抜けた先だ…あれ、エレベーターが動いている。しかも乗っているのは能力者だ…かなりの巨漢だし情報通りのヤツかな。
ウィーンと扉が開きエレベーターから出てきたのは顔や腕に大きな傷跡が残るタンクトップを着た男だった。…デカい!説明不要!
ドスッドスッと表現していいような足取りでコチラに向かってくる。もしかしてナンパかな?
「お前が侵入者か?」
「お前がここのトップ?」
「…質問に答えろ。」
「違うよ?最上階の下の階に引っ越してきた伊藤です。初めまして。あなたがここのトップ?」
「…違う。何のようでここに来た?」
男は私が真面目に答えるつもりが無いことに気付いて用件を聞いてきた。
「死をお届けに来ました。受け取りにサインをください。」
「ハァ…分かった。お前の顔にサインしてやるッ!」
私の頭と同じ大きさがありそうな拳を振りかぶって私の顔面目掛けてストレートを放つ。凄まじい“圧”を感じる。感じるだけだけど。
「うおッ!?か、硬い!?」
男の拳から血が垂れる。しかも殴った際に指が折れたのか殴られた際に折れる音もした。耳の近くで骨が折れる音がするの嫌だな…こう背中がゾワァ〜ってする。
「あなたが柔らかいだけじゃない?」
何度も説明するが私の軌道は固定されている。つまりこの軌道は確定されているからその位置関係をずらす事は出来ない。軌道に干渉出来るのはこの世界で私と先生だけだ。
「後、これは正当防衛って事で。」
左手を振りかぶってから拳を放つ。私の拳は男の腹部に吸い込まれる様に決まり、鈍い振動が床面を伝ってフロア全体を小さく揺らした。
「ゴホァッ!?」
男は前傾姿勢のまま倒れ込みそうになるが私の拳が腹にめり込んでいるから倒れない。男の体重が私の腕に乗り掛かって来るけど何の問題もない。
「邪魔だ…よぉっ!」
今度は相手を吹き飛ばすように拳を突き上げる。その結果、男は10m先まで突き飛ばされ壁に激突し壁のタイルには大きなヒビが入って破片が床に散らばった。
「…あなた、やっぱり異形タイプだね。」
私の軌道を確定させた拳を生身で食らっても意識を失わずにいられるんて…だからゴリラは嫌いなんだよッ!
伊藤美世の一撃を食らい、壁に背中をめり込ました状態でも彼は死ななかった。いや、それどころか彼は喜びに打ち震えていた。
(…やっと、やっとだ!俺と殴り合っても死なない相手がついに現れたッ!)
POISON随一の武闘派である大門寺は項垂れながらも口角を上げて笑っていた。
戦闘パートは書いてて楽しいので明日一日使って書いていきたいと思います。




