知らない痛み
次回もグロいです。
しかしこれは…本当に凄いことだよね。柔らかい水がこんなにも硬度を上がって運動力も固定されるなんて!分かる!?この現象の凄さが!
私が触れればどんな扉だって開かずの扉になるし子供が投げたボールだってどんな壁をも破壊できる。物体を落とせばどんな深さの穴だって開けられる!お前達はその瞬間に立ち会えたんだよ!凄いよね!?
嬉しくてたまらない私はその場でくるくる回ったり二人の反応を見たりしてこの感動を誰かに共有したい気持ちになっていた。
でも残念…能力を咄嗟に使ったから不完全だったぽい。水柱がドンドン紅く染まっていった。完全には軌道を固定出来ていなかったから水と血が混ざり合っている。
見た目は人の頭の位置から紅くて半透明な柱が建っているように見えるからちょっとだけ前衛的なアート作品みたい。やっぱり美術の道に進むべきなのだろうか。
私は空中に固定されたピアスを手で払い除ける。飛ばされたピアスは壁にぶつかってパラパラと床に落ちた。私は固定された物体であっても干渉出来るから好きに動かす事が出来る。
(な、何なんだよ…)
本当に時間を操作してこんな事が出来るのか!?水がタカくんの顔を貫いた!もう嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!死にたくない!こいつにだけは殺されたくない!絶対に嫌だ!!
「あ!気になる?気になっちゃう!?」
二人の視線に気づいた私は親切心で教えることにした。仕方ないな〜教えちゃいますか!冥土の土産にってやつだね!
「水ってさ、柔らかいじゃん?いつもいつも何かに当たれば形が変わって負けるじゃない?だからたまには水だって硬くなりたいと思ったからお手伝いしてあげたの!」
「「…は?」」
何を言っているんだこの女は…それだけの理由で人を殺したのか?…イカれてる。なんの罪悪感も感じていない様子を見ると本当に俺達の命なんてどうでもいいと感じているんだな…
「俺達を殺す為に雇われたのか!?それとも私怨かッ!?」
勇斗があの女に向けて叫んだ。確かに勇斗の言うとおりだ。こいつには人を殺すことに対して慣れが見える。
「いや、あなた達の名前はリストに上がってなかったから別に殺さなくても良かったよ?」
私には2つのリストがあるけどどちらのリストにもこの二人の名前は無かったはず。
「「え?」」
え?じゃあなんで俺達を狙ったんだ?たまたまにしてはおかしいよな?この女はPOISONの情報を集めていたんだから…
「…じゃあ、なんで俺達を狙ったんだ?」
「う〜ん、あなた達は勘違いをしているのかもしれないけど今回の私の雇い主達はPOISONの壊滅を望んでるだけでそこに所属している一般人なんて気にしていないよ?」
優先順位があるんだよね。私が後藤さんから貰ったリストには能力者3人と幹部連中だけしか載っていなかった。こいつらみたいな使い走りは烏合の衆としか考えていない。どうせ頭を潰せば勝手に散り散りになるんだ。いちいち一人ひとり見つけて殺したりなんかしないよ。
「だ、だったらなんでタカくんを殺したんだ…?」
「私の能力を見たから処理したんだよ?私の能力は人に知られてはいけないからね。」
理不尽だ!!!知りたくもなかった事をそっちの都合で見せただけじゃないか!!!それなら俺達は被害者じゃないか!そんな理由で殺されるのか俺は!!!
「ふざけるなよぉ!このクソアマがあ!!」
「ど・ち・ら・に・し・よ…」
急にどうしたんだ?俺と景を今後に指を指してる。まるで何かを決めているような…俺もガキの頃にやっていたやつだ。
「み・さ・ま・の…」
女の笑顔が不気味だ。楽しくて楽しくて仕方ない子供のような笑顔だ。
「い・う・と…」
何を決めているのか…そんなの決まっている次の生け贄だ!
「や、止め…」
「り!…勇斗さんだっけ?次はあなただよ。」
二人の表情を比較すると面白い。一人は絶望しきった顔をしてもう一人は安堵した顔だ。
「俺は、死ぬのか?」
目の光が落ちたように死んでいる勇斗さん。注射される前の犬みたいで可哀想。
「試したい能力の使い方を思い付いたからね。絶対に死ぬしかなり痛いと思うよ。多分こんな死に方をするのは世界で勇斗さんが初めてじゃないかな。」
「ううぅ…」
泣き出しちゃったよ。大の大人の泣きじゃくる姿は流石に引いちゃうな…
「泣いても仕方ないでしょ?ほらっ。」
とんでもない力で首を掴まれ引っ張られると固定されて動かなかった腕時計と指輪が俺と一緒に動いた。何でだ?あれだけやっても動かなかったのに!
「ゔげっ!」
床面に叩きつけられてうめき声が漏れる。女の腕力じゃねえ!片手で軽く持ち上げられたと思ったらもう地面に倒れていた。
「また動かせねえ!?何なんだよ!?」
腕時計と指輪がまた固定されて動かせなくなっちまった、もう訳が分からない…俺は夢でも見てるのか?
「動かないでね?暴れたらもっと固定するよ。」
私は右腕に着けていた腕輪のような暗器を左手でカチャカチャ鳴らしながら操作すると細いワイヤーが垂れる。先端には矢じりのような重りが付いていて下方向に真っ直ぐワイヤーが張られる。
それを見た男の身体がマンガやアニメの住人みたいに震え出す。さっきの水を垂らした実験を思い出したからだ。
(リアルでこんなに震えられるんだ。)
ワイヤーを80センチメートルぐらい延ばしたら軌道を固定する。そうすると最硬の槍が生まれた。カタログで見たときから出来るんじゃないかって考えていたから成功して良かった。
「これを今から刺すけど大声出さないでね?」
本人の了承を得る前に右肩に槍を刺して固定する。精肉を斬れ味の悪い包丁で切っているような音と骨がパキパキと圧力で砕ける音が部屋に鳴り響く。
「んん゛っ!」
唇を噛み締めて声を出さないようにしてくれる勇斗さん。もしかしていいやつなのかも知れない。もしくは誰かに命令されるのが慣れているのか。
「お、お願いがある…親に連絡させてくれないか…」
「親?」
「死ぬ前に一言伝えたいんだ…ラインでも良いお願いだ…!」
彼のスマホをテーブルから取るために右腕から腕輪を外す。槍はそのまま肩に食い込んだままだから逃げられることもない。
「どっちだっけ?これ?」
「そ、それ…」
「因みにどっちに送るの?父親?母親?」
「……お、親父に。」
(じゃあ駄目♪)
スマホの電源を入れると指紋認識の画面が出る。
「どの指?」
「……」
あーそこで黙っちゃんだ…どこに連絡を入れるつもりだったのかな?
「殺してから試すよ。」
能力の実験に集中しよう。さっきの実験はちょっとだけ失敗してしまったから。思っていたより液体の軌道をコントロールするのが難しい。出来たらもうちょっと練習したい。
液体と言えば人間の身体には液体がいっぱい入っているよね。訓練の卵とさっきのペットボトルの水と目の前の彼。どちらも外側は固体で内側が液体だ。難易度的にも彼がちょうどいいだろう。
それにもう一つ試したい事がある。私に触れたものは効果範囲に入るけど、それは私のベルガー粒子に触れるほど近付いて纏わせるからだ。だったら別に私を媒介にベルガー粒子を纏わせる必要って無いよね?それこそこの槍を触媒にすれば…ワイヤーに纏わせたベルガー粒子を通じて彼の血液の軌道を逆行されられないかな?
もし出来たなら最強だ。アレが出来るよアレが。
「私のベルガー粒子はドアノブに触れている。」カチッ…みたいな事が出来る。ドアノブを通じて相手を私の能力の効果範囲に入れられたら私の射程距離は格段に伸びる。やるしかない!
今日一番の笑顔をしたら勇斗くんが半狂乱と言える反応を見せる。
「い、嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない!死にたくないよ!圭助けて!助けてよ!タカくん!だずげでよ゛!」
「おじいさん、タカくんはもう死んだでしょ?」
【探求】と【逆行】を統合して能力を行使する。【探求】でこいつの血液の流れ、量を探る。たまには探求しろ!
それと同時進行に彼の体内に軌道を作らなければならない。私のベルガー粒子で彼の血管を巡るように操作して軌道を創る。
(液体の軌道を創るのがこんなにも難しいなんて…実戦中じゃなくて良かった。)
少し時間をかけたけど感覚的に行けそうなのが分かる。後は逆行させるだけ。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!死にたくないヨオォイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!」
彼の肩に侵入した槍と太い血管が重なっていたのが良かったのかも。そのおかげで大量の血液をベルガー粒子で纏わせることが出来た。
「ケイ!タカくん!シニタクナイヨオ!!!タスケテヨ!!」
「【逆…」
「ヤダヤダヤダヤダ!殺さないでください殺さないで殺さないで!」
槍を傾けて傷口を広げる。肩から血がどくどくと流れ出て床を紅く染める。
「ゔぐゔぅううう…」
「ふぅ〜…【逆行】」
心臓が動こうとしても血液が凝固したように停止した影響で彼の意識が一瞬で飛ぶ。
「へー意識が飛ぶんだ。」
(一方通行さんがした時は身体中から血が飛び出たよね?私の場合はどうなんだろう。)
血液が逆行を始めるが、ただ逆方向に流れる訳では無く、元の動きを再現する影響で心臓の動きも形も無理やり動かされる。つまりは心臓は弁を使って血液を逆流しないように動こうとし続けるが血液は逆行し続ける。
この2つの動きがぶつかり合えば心臓が壊れる。何故なら血液の軌道は固定されているので凄まじい硬度を持っているからだ。
「あ、死んだ。」
明日も投稿が遅くなるかもしれません。




