大団円
今日の夜か、明日に投稿しますけど、多分あと1か2話でこの物語を終わらせるつもりです。そのつもりで読んでもらえると嬉しいです。
さて、どこから手をつけようか。先ずは現状を理解する必要がある。私はこの目で見て全てを視認し、ありとあらゆる時間軸の事象を観測しないとなんだ。だって、こんなのおかしいもん。私の知る事実と違い過ぎるよ。そんなの…許せないよ。
「じゃあ炎天。任せましたよ。」
私は組織の第一部ビルに訪れていた。私の記憶では数ヶ月前には根本から倒れていた筈なのに今こうして私達はそのビルの中で引き継ぎ作業を行なっている。
「…任せましたよじゃねえッー!!なんで俺がお前の後釜に就かねえとなんだッ!!」
私は組織のトップを炎天に譲り、私はこの春から高校生になるらしい。戸籍もなにもかも用意されているのでそのまま通えるから私は明日から高校に行って勉学に励む…らしい。
「つうか天狼にやらせろよッ!!どいつもこいつも引退しやがってッ!蜃気楼は分かるがなんで天狼まで前線を引くんだよッ!?」
「ああ、この前の事で決めたって言ってましたよ。姉として何も出来ず、妹に後始末を任せてしまったからと。それで後進を育てることに力を注ぐって。」
「ふざけんなよっ…!俺も結局は対して役に立たなかったんだよッ!!死神に下駄を履かせられただけだッ!!俺は認めねえよッ!!」
「なら自分で捕まえてきて下さい。私はもう関係ない…らしいので。」
私はそう言ってすぐさま部屋の外へ出ていく。あれだけの書類の山なら追ってはこれないでしょう。…では、高校生を満喫しますかね。
「蘇芳、朝よ起きて。」
「…お母さん、おはよ。」
お母さんに起こされて私はベッドから離れる。今日は入学式、ちゃんとしないとね。
「蘇芳、この服どうかしら?」
「…ん?綺麗だと思うよ。流石はお母さん。」
私は両目で見て感想を口にした。でもまだ眠いのかちょっと視界がぼやけている。顔を洗いに行こうっと…
「こういうの初めてだから緊張するわ。ママ友…って言うのよねこういうのって。ママ同士の付き合いも頑張らないと。」
「高校ってそういうの薄いんじゃない?別に部活動もしないし、PTAとかやらない限り何も無いよ。」
お母さんは私よりも緊張している。私は小学校も中学校も行かなかったからね。高校に通うことになった張本人の私よりも私が高校に行くことを嬉しく思ってくれている。
「…幸せ、なんだよねこれ。」
鏡で自分の顔を見るとそこには無表情の私が居て、どうにも納得のいかなそうにしていた。…それはそうだ。こんな展開、私は知らないもん。
私とお母さんは都内に小さいけどアパートを借りて二人で暮らしている。前に住んでいた洋館よりもお姉ちゃんのマンションよりも小さくてボロっちいけど、多分私はここが一番好きだ。なのに私は不満そうに顔を歪める。
「…まだ見ないといけない事がある。だから…もう少しだけ待ってて。」
櫛で髪を整えて身だしなみを整える。今日は私にとって大切な日なんだから、ちゃんとやらないとだよね。
「ここが私の通う高校か…」
初めて訪れたけどもう何度も見た光景だ。どこにであるような校風にどこでもあるような少し古い校舎。そして私のお姉ちゃんが通っている高校…
「ほら蘇芳。新入生代表なんだから早く行かないと。」
「あ、うん。」
お母さんに手を引かれて校舎に入っていくと周りの視線を集めてしまう。お母さんが綺麗で若々しいのもそうだけど私の容姿も目立ってるせいだよねこれ。悪目立ち…とは違うけど私は茶髪寄りの髪色をしているからかな。別に染めてる訳じゃないから学校からは指導の対象にはならないんだけど、保護者たちからはちょっと嫌な感じの視線が多い。
「春の息吹が感じられる今日、私達は…」
新入生代表として挨拶を口にするが、私の心はここに在らずで、これからの高校生活の期待とか新生活の思い入れもない。早く入学式を終わらせて見に行かないと。
「お母さんはもう行くからね。蘇芳はひとりで大丈夫?お財布と定期は持ってるよね?」
廊下でお母さんと別れる直前に予定の確認をした。私はあまり外に出てないしお母さんからしたら私がまだ一人で外にいることが不安なんだね。
「うん、クラスメイトに誘われたからちょっと寄り道して帰るね。」
嘘だ。クラスメイトとは約束なんてしていない。同じクラスの何人かに話しかけられたけど、連絡先すら交換していないし、下の名前も覚えていない。
そして私が嘘を付けることで確信したよ。どうやら私の能力の制約は無くなっているらしい。
「…お母さん。」
「ん?なに。」
お母さんは私の制服姿を満足そうに見て私の質問に答えてくれる。それがとても申し訳なく思い、中々本題を口にするのが出来ない。
「えっとね、あの時のこと覚えてる?私達が世界を救った時のことをさ…」
「ああ…覚えてるわよ勿論。私あの時は無理し過ぎて入院してしまったもの。」
「その時さ…救えなかった人達いっぱい居たよね。沢山の民間人が犠牲になってさ…」
「え?誰も死んでないでしょ?」
「…うん、そうだったね。ごめん勘違いしちゃったよ。」
そう…そうなっている。誰も死んでいない。こちらサイドはね。因みに建物も壊れていないし、他にも色々とおかしなことになっている。…私はそれを見に行かないとなんだ。…この見える両目で見ないとなんだ。
「すみません…三船先輩はいらっしゃいますか?」
放課後の2年の教室に行って私は彼女を呼び出し、自分の認識と彼女の認識の差異を見つけることにした。彼女はとても近しい場所に居たんだから何かあって欲しい…
「…蘇芳、ちゃん?どうしたの2年の教室まで来て。」
「理華先輩に用があったんです。」
目的の人物である理華がクラスメイトと話している途中で切り上げてこっちに来てくれたけど、とても驚いた表情で固まったしまった。さあ、それはなんでだろうね?
「…蘇芳ちゃんに先輩って言われるの違和感しかないんだけど。」
「ああそういうことですか。でも、もう私は辞めたのでただの年下で後輩なんですよ?」
「う、うん…分かってるけどさ。ずっと苦労させられたし、苦手意識がさ…」
「あら、なら私って先輩に嫌われちゃってるんですね。あ〜理華先輩にイジメられるのかな〜?」
「そんなことしないよ!」
良かった…私の知る彼女だ。でも、ここには居ないんだね…。
「理華先輩に聞きたいことがあって来たんですけど時間いいですか?」
「私に?ラインじゃ駄目なやつ?」
「はい。絶対に必要なことです。」
「ん〜まあ良いよ。なに話って。」
まあ、こうして会っても彼女が何も疑問に思っていないということだけで収穫はあったよ。だって私が高校に通って両目を開いて物を見ているんだもの。普通だったらこの時点で何かしらのアクションがあるはずなのに。
「美世を知っていますか?」
根本的な疑問を私は理華に問いかけた。…これでどの程度の差異があるのかすぐに分かる。私の知る彼女ならば絶対に忘れるわけが…
「…誰?有名人?それとも…組織の人?」
そう…か。そうなんだね。あー…そこまでなのか。徹底的に美世の存在が残されていない感じかこれ。彼女の口からは聞きたくなかったな…
「…いえ、それだけなんです。お時間を取らせてしまいすみません…」
「え?あ、うん…気を付けて帰ってね〜。」
手を振って送り出してくれた理華を背に私は保育園へと向かった。ここには私の疑問を解決する鍵があると信じて…
「あの…すみません!」
園児たちの送り迎えを終えて園内に戻ろうとしていた女性を呼び止める。…流石に見間違えないよ。だって、本当にそっくりだもん。例え私の知っている見た目よりも老いて少しふくよかになっても私が見間違えるわけがない。
「はい…あなたは?」
「えっと…前にここに通っていたんで、伊藤先生に会いに来たんです。」
「伊藤…?ごめんなさい。聞き覚えが無いので多分もうこの園では働いていないと思います。」
伊藤…じゃない。つまりそういうことなんだ。“此処”ではそういうことになっているんだ…。
「そう…ですか。ありがとうございます。本当にお世話になっていたので残念です。せっかく高校からはこっちに戻ってこれたので一言でもお礼を言いたかったな…」
「…そう。保育士としてそこまで感謝されるのなら羨ましいです。…あ、お名前を聞かせてもらっても?」
「新垣蘇芳です。高校一年生です。」
「新垣ちゃんね。私は皆川と言います。」
来た…欲しい情報が来たっ!でも、旧姓とは違う…。それに、良く見ると左手の薬指に指輪が…
「…あの、ご結婚されているのですか?」
「え、ええ…。旦那と息子が3人居ます。」
ゲロが出そうだった。口の中が酸っぱくなり今すぐにでも全部吐き出したくなる。少しでも早く“此処”を離れたい。
この人は“if”の美代さんだ。平和に過ごし、娘を産まないで息子を3人産んだ女性でただの保育士。…分かったよ。そういうことにしたんだね。
頭の中で一つ一つのピースが繋がり、なんとなくだけど全体像を掴むことが出来た。…来た甲斐はあったかな。
「…すみません。働いている最中に呼び止めてしまって。お時間を割いてくださりありがとうございました。そろそろ帰りますね。」
「あ、そう?園長先生に聞けば昔働いていた人とか分かると思うけど…」
「いえ、私もあまり時間がないので。また機会があればよろしくお願いします。」
この二巡目の世界は私の知る二巡目の世界とは大きく異なっている。崩れたはずの建築物が崩れていなかったり、死んだはずの人間が普通に日常を過ごしていたりね。
自宅に帰る途中でもその傾向は見て取れる。崩れた建物なんて無いしみんな自分達の日常を謳歌し、何百人もの人達とすれ違っていく。…あはは。これヤバいわ。心が折れそうだよ。
「お姉ちゃん…お姉ちゃんがどこにも居ない。」
“何処”から“何処”までが可怪しくなったのかが分からない。私の能力ですら認識出来ないところからお姉ちゃんが関わっている筈なんだよ。でも、私の能力にすら細工されていたら私の【ラプラス】では見つけられない。
もし…伊藤美世を見つけられるとしたらあいつしか居ない。もしあいつが居て、私と同じ状況になっていたら絶対に見つけてくれる筈。
「…そろそろ見つけてくれるって思っていましたよ。」
後ろを振り返ると銀髪の青年が立っていた。彼も私と同じような状況に追い込まれている筈なんだ。じゃないと今日一日ずっと私を観察なんかしない。
「ついにワタシにエラーが起きたのではないかと思ったが、やはりお前は知っていたな。」
「知ることが私の役割ですから。…で、どこに居るんです。」
「…ついて来い。」
流石…私よりも詳しいなんてね。でもちょっと待ってよ。
「ごめんなさい。お母さんに遅くなるって連絡していい?待ってると思うから。」
「…構わん。」
「ありがとう。」
なんか…柔らかくなったよね死神。一年ぐらい一緒に居た美世の影響だと思うけど、今の死神とは上手くやれそうだよ。一年前の死神なんて私をいつでも殺そうとしていたからね。
「…ここ?」
「そうだ。」
死神に連れて来られたのは私の住むアパートから電車で40分程の場所だった。ここは見覚えがある。ここで美世と死神は対立した場所で、母親を生き返らせた場所だ。
前と違ってもう夜だからとても不気味に見えるけど、それは夜のせいなのか、それとも…
「その格好で山に入れるか?」
「美世が居るのなら私は砂漠にも冬の海にでも行くよ。」
山に入ると木々が生い茂り、都会とは違った空気感が私を包む。でも花粉症の人はこの時期に森なんて入れないよね。花粉症じゃなくて良かった…。
「…この先に居る。」
森の中に突然コンクリートの建造物が現れて私達を出迎えた。前にはこんなものは無かったはず。ここも私の知る差異だ。
ここからの角度だと全体の形を見れないけど多分L字形で結構大きい。高さは大体3メートルぐらいかな。
(あの裏にお姉ちゃんが居る…)
「覚悟はいいか?」
それは…どういう意味で言っているのだろうか。
「ここで決まると言っていい。分かるか?“此処”だ。」
「…分かってます。ラストチャンスだってことぐらい理解していますよ。」
多分この時しかない。失敗すればもう後戻りが出来ない。死神、あなたが思っているよりも私はね。ちゃんと理解しているんだよ。あなたも美世も私の願いを知らない。どんなことがあろうとも私は約束を果たす。…絶対にね。
「そうか…なら、お前だけが行け。」
「助かります。お姉ちゃん以外の人には聞かれたくないので。」
お母さんにすら私はこの思いや約束を話していない。それだけ私にとって本当に本当に大切なもの。だから死神、あなたなんかには絶対に話してたまるものか。
一歩一歩前へ進むと死神は姿を消してどこかへ行ってしまった。ちゃんと約束は守るって分かってるから心配はしていない。
コンクリートで出来た建造物を回るように歩くと私の求める人物がそこに居た。…やっとだね。この能力に目覚めてから今日この日を待ちに待ち続けてきた。私は…ちゃんと約束を果たすよお姉ちゃん。
「お姉ちゃん、私の話を…聞いてほしいんだ。大事なお話だからお姉ちゃんには聞いてほしい。」
「…いいよ。最後に聞いてあげる。だから聞くだけだよ。それでおしまいにするから。」
お姉ちゃんは眼鏡を外してワンピース姿で座っていた。まるでこの建造物を座椅子代わりにして座り、裸足の足を投げ出している。…なんかさ、これだけで絵になるから困るよ。とても神秘的でとんでなく綺麗なんだもん。
髪は少し癖がついてて珍しい。お姉ちゃんは直毛なんだけどこうなったということはずっと家には帰っていないんだろうね。でも不潔さは無く寧ろ妖精の類に見えてしまうから恐ろしい。…まるで人間じゃないみたい。
「横…座るね。」
お姉ちゃんの横に腰をつけて空を見上げた。お姉ちゃんもそうしていたからそうした。お姉ちゃんとこういう時間を過ごしたり機会に恵まれたりとかは無かったから嬉しいな。
さて…話そうか。ここで本当の終わり。私達が本当の終わりを迎えるために、私は語ろう。私が何を考えて何をしてきて何を成そうとしているのか、初めて“此処”で語ろうと思う。
お姉ちゃん…私がどんな人生を送ってきたかさ、お姉ちゃんに聞いてほしいんだ。私がなんでお姉ちゃんのために生きてきたのかを…ちゃんと聞いて欲しいんだよ。
今だからこそ言えますが、自分は文字を書くのが好きでありません。2年も書いているのでね。本当に書くのが苦手でかなり辛かったです。でも物語を考えたり設定を練るのは凄く好きなので、その気持ちを大事にしてここまで書いてきました。
なので書きたいものを書く。それを根幹に置いてこの物語を書いてきましたが、それで良かったんだなと今ではそう思います。




