あなたは私の光
この話はこの物語で最も書きたかった部分のひとつです。
何が起こっているのかすら分からない。私達の前から急にあの子が居なくなった時から分からないことばかりだった。…いや、もっと前から分からないことばかりで俺はまだ…あの子のことを分かってあげられていない。
最初から新しい家族とは上手くいかないだろうとは分かっていた。しかしあの子の意思や立場を考えずに大人たちの都合を押し付けてしまったのは今でも申し訳なく思っている。
そのせいであの子は心を閉ざして俺のことを信用しなくなってしまったが…こんな父親にもなれなかった俺なんてそもそも信用出来るわけがないか。元々父親のことなんか眼中に無かった子だからな。俺も…あの子を眼中に入れずに過ごしてしまったから何も言えんが…。
だから逃げないことにした。あの子の知り合いらしい外国人たちから色々と言われたが何を言っているのか分からないし、あの子が待っているのに逃げるわけにはいかない。
だってあの子の言う事は正しかった。本当に世界はめちゃくちゃになり、もしあのままあの子が帰ってこないで家に居続けたら家族全員が死んでいたかもしれない。
それでやっと分かったよ。あの子が家を出た理由が。あいつは俺達を巻き込みたくなかったんだな。そしてあの子はちゃんと自立し責任感を持って皆を守っている。
今もこうして俺だけじゃなく妻や誠も守ってくれてるし、よく見ると美世の右腕…折れてるじゃないか。血も出ていて痛々しい。そんな中でああやって戦ってるのに俺はっ…!
「ルイス!みんなを!」
「分かってますっ!!」
ルイスが影を操り私と魔女達と私の大切な家族たちを守ろうと壁をいくつか創り出すと、自分の周りに触手のように影を動かしてあらゆる事態に対応出来るように立ち回る。
「ラァミィ!光はサイコキネシスじゃ防げないからそこら辺の瓦礫で周りを固めて!」
「承知しました!」
光の攻撃を防ぐには物理的に光の射線を防ぐしかない。もしくは同じ能力である【熱光量】で対象するか、又は【審査】で自分達に不利益な事象が起こらないようにするとかかな。
「シーク!あなたの能力は敵も防げない!いつでも攻撃出来るように準備をしてて!」
「はい!」
軌道を操作して身体全体を強化しようとも衝撃は防げない。シークの能力は振動を増幅させて指向性を選んで放出することが出来る。
「ボー!私のすぐ後ろにスタンバってて!」
「もう居ます!なんならメリッサとステファニーも居ます!我先と逃げたそうにしています!」
「ルイス並の立ち回りをするじゃん…!」
良し、みんなちゃんと役割を理解している。あともう少しでチェックメイトなんだ。私の能力が発動されてからもうすぐで10分は経つと思う。…多分長くてもあと2分だ。なんとなくだけどそう感じる。
「あと2分だっ!!あと2分で勝負が決まるッ!!」
私の言葉を聞いて最初に動いたのはサードとフォース。私が言うからこその説得力。この動きの速さから察するに、恐らく彼女たちが思っていた想定よりも時間が残されていなかったって感じか。
「サードッ!!持てるリソース全てを使って殺し切るよッ!!!」
「言われなくてもッ!!!」
サードとフォースの手の中に光が集まりサッカーボール程の光球が生み出される。しかし思っていたよりも光球の光の強さが弱々しい。それはサードとフォースのふたりも分かっていて、その理由を探ろうと辺りを見回すとその答えがすぐに分かった。
「影で塞いだのはこの為かッ!!」
天井を影で閉ざされている影響で陽の光がかなり少なく、電気が止まっている影響で人工的な光も殆ど室内には存在していなかった。あるのは非常用照明程度の光量とサード自身が熱を持って赤い光を放っているぐらいで、この量の光を集めたところで上限は知れている。
(サードが放つ光で薄暗いことに気付くのが遅れたっ!まさかここまで計算してたのっ!?)
「あの女本当にヤバいよッ!!ここまで読めるものなのッ!?」
「誘導されてたんだよっ…!こうなるのを見越していたから最初に塞いだんだッ…!!」
サードとフォースは美世の静かな殺意に恐怖を覚える。確実に殺すという意志が彼女の行動一つ一つに見て取れるからだ。逃げたと見せかけてからのこの理詰めの立ち回りはやろうと思って出来ることではない。
「私が天井の影を散らすッ!!フォースは美世をッ!」
「分かってるッ!!」
サードの集めた光の球から一線の光が放たれて天井部の影を極限までに薄めていく。すると天井から極少ではあるが光が漏れて室内を明るく照らし始めた。
そしてフォースの放った光は美世目掛けて飛んでいくが途中で影の壁が障害となり、光は遮られそうになるがそれでも【熱光量】の光が影を貫こうとする。
「これはっ…!あのブス女よりも粗末な精度と出力だけど相性的に防ぎ切れないっ…!神よッ!影の中に逃げてここから離れてくださいっ!!時間は私が稼ぎますからどうか私の家族と仲間を頼みますッ!!」
ルイスが影の触手を美世の足元まで伸ばして受け取らせようとした。それは自分の影の中に入った民間人達やここで働いていた職員、そして彼女の同志と彼女の家族であるメーディアたちをだ。
「ルイス…」
美世はルイスの目を見て本気だと理解し、一瞬だけ悩むが彼女の提案を否定することにした。何故ならば美世は約束したからだ。
「あなたも守るよ。約束したからね。だから死のうとしないで。私が守るからさっ…!」
ボー・ペティットから奪い取ったベルガー粒子で美世は【熱光量】を行使してフォースの攻撃を防ぎ切る。【熱光量】の光はあくまで光。光を操る【熱光量】で集めることが出来る。
(理華とやったことがあるから分かるけどこれはジリ貧の対決になる。だから私が最低でも1分間持たせればこの戦いは終わるんだっ!!)
「っ…!ボーは避難しててッ!!メリッサっ!!私のもとにッ!!」
「は、はいっ!!今すぐ行きますっ!!」
ボーはルイスの影の中に落ちて避難するとすぐにメリッサが美世の背中に触れてベルガー粒子を渡していく。
「…サードっ!こっちに手を貸してっ!出力で押し切るっ!」
「分かったよッ!!」
サードまで美世に対して光線を放ち、その影響でルイスの影では太刀打ちが出来なくなる。しかしルイスはその光がとんでもなく危険なものであると分かっているので、出来るだけ広範囲に影を広げることでこちらに光が侵入しないように対策を打っていた。
(この光は少しでも身体に触れただけでアウトの代物!油断なんて出来ないわっ!!)
「ラァミィッ!もっと瓦礫を集めて周りに置きなさいッ!持ち続けなくてはいいからッ!!」
「言われなくてもやってる!!」
ラァミィはサイコキネシスで物理的に遮蔽物を置いて光の侵入を防ごうとした。しかし瓦礫の重量はかなりのもので、動かすのにとても時間がかかってしまう。なのでその時間を稼ごうとシークが能力を行使して敵の妨害に入った。
「脳の血管を破れればっ…!」
シークはフィンガースナップをするとその衝撃を増幅させてサードとフォース目掛けて放出させる。その衝撃の大きさは道中の小石程度ならば振動で粉砕するほどの威力だった。流石にこの攻撃によりサードとフォースの毛細血管や鼓膜は一瞬にして破壊されることになる。
「…こんなものであたし達が止まるかよッ!!」
サードは異形能力者だ。身体の頑丈さには自信があり、フォースの前に立つと振動波をその身だけで受け止めてみせる。
「さ、サード…」
「あたしごと光で貫けッ!!私が放つ光を組み合わせれば上回るかもしれないッ!!」
フォースは躊躇いなく手の中にある光球をサードの背中に押し当てるとサードの放つ光を利用して【熱光量】の出力を上げていく。しかしそうなるとサードは凄まじい激痛に襲われることになり、あまりの痛みに意識を失いそうになるが彼女は自身の下唇を噛み千切ることでどうにか耐えてみせた。
そして己も能力の行使を続けて光を美世目掛けて放ち続ける。彼女の身体は凄まじい熱が加わって燃え上がり、その熱によって光が放たれるが、サードとフォースはその光すらも利用して【熱光量】の出力を上げてみせた。
こんな方法を取るとは思わなかった美世達の陣営は耐える事が出来ずに大火傷を負うことになる。特に美世の近くに居るルイスとラァミィは目を開けることも出来ずにその場に膝を付いてしまう。
「グッ…!!」
「くっ…!」
光は美世が集めることでどうにか【熱光量】の特徴である感染のような熱の広がりを防ぐことは出来ていたが、単純に空気が温められたせいで触れた皮膚が火傷してしまっていたのだ。この空間内の空気の温度は200℃を超えて300℃にまで達しようとしていた。もはや呼吸も出来ない熱の波にルイス達は堪らず意識を失いそうになる。
この中でまともに動けるのはもはや美世のみで、異形能力者である美世だけが高温に耐えていた。シークも美世たちから離れていたおかげでそこまでの火傷を負わずに済んでいたが、身体を出すことは非常に困難な状態であり、シークはラァミィの動かした瓦礫に身を隠して口と鼻を両手で覆い隠し、出来るだけ熱から身を守ることで精一杯な状況に追い込まれている。
「…メリッサはここから少しでも離れてて!もうルイスも限界だから!」
あまりの熱に首を頷くだけの返事をしたメリッサが後ろまで非難していく。そして残りの魔女であるステファニーは意識絶え絶えでありながらも美世のもとまで匍匐前進で近付いていった。
(ここでベルガー粒子を渡せないと私達は全滅だわ…)
あの光を防げるのは神である美世しか居ない。ルイスもラァミィもあの熱を防げないし、もう生きているのかも分からない。もう目を開けられる温度じゃないもの。サウナなんか目じゃない熱の空気に晒された皮膚から水分がもの凄い勢いで飛んでいく。匍匐前進しようと手を動かすだけで袖から空気が入り込んで全身が熱い。
でも、これだけは…私のベルガー粒子だけは神に届けるんだからッ…!
「…か、かみ。お受けとり…くだっ…!」
「喋らなくていいよ!そしてありがとうメリッサ…!」
舌と喉が干上がって口周りの筋肉が動かせなくなったメリッサにお礼を言うと美世が周りの熱を集めて前側へと放出していく。するとあれだけ暑かった空気の温度が急激に冷えていき50℃程度まで低下した。
「ラァミィ!無茶を言っているのは分かるけどあなたはみんなを連れて私の後ろまで引いてッ!」
服の外に出ている皮膚の全てが水膨れになっていたラァミィの姿はとても悲惨であり、そんな彼女に命令をするのは本当に胸が引き裂かれそうの思いだった。だけど生き残るにはそうするしかない。もうそれしか選択肢がないのだ。
「っ…」
意識を失いかけていたルイスとメリッサの身体が少し浮いたと思ったら落下し、ラァミィはその場に倒れてしまう。
(ラァミィの意識が無くなったっ!しかもルイスもメリッサも意識が無いっ!!)
「シークっ!お願いっ!みんなを…」
瓦礫の後ろで避難していたシークのほうを見ると身体から白い蒸気を発して動かなくなった彼女の姿がそこにはあった。マズい…少し離れた場所にいたから大丈夫だと思っていたけど人それぞれ熱に対しての耐性も個人差があるし、あそこは熱が籠もりやすかったのかもしれない。意識を完全に失ってるどころか心肺停止の状態かも…
「美世っ!!!」
「え、お父さんっ!?なんで下がってないのっ!?」
突然後ろの方で避難していたはずのお父さんがこっちに向かって走って来た。ここは危険だって分かんないのっ!?
「この人達を連れて行けばいいんだよなっ!?おい!お前達も手伝ってくれっ!」
父が誠たちにも手伝うように伝えると本当にあの人と誠がこっちにやって来た。来ないでよっ!!危ないんだって!!私もあと何秒保つか分からないんだって!!
「お願いだから誠たちを連れて少しでも長く離れていてよっ!!」
ここの温度はとても高い。私は耐えられるけど誠みたいな子供が耐えられる温度じゃないのになんでっ…!
「お、お姉ちゃん!あそこの人も連れてくよ!」
「いいから下がってなさいっ!!死んじゃうんだよっ!?その人たちみたいに火傷を負って死んじゃうかもしれないんだよっ!?」
みんな私の話を無視してルイスとラァミィとシークの3人を避難させようと動き出した。誠なんてメリッサの足を引っ張ってどうにか動かそうとしてるし、あの人なんて敵から見えてしまうのにシークのもとまで走っていった。
「本当に下がっててよお願いだから!なんのために身体を張ってるのか分からないからっ!!みんなを守るって決めていたのにっ…!なんで…!なんで逃げてくれないのっ!!」
悔しいわけでもないのに涙が出てくる。ルイスたちを避難させてくれるのは嬉しいけどそれはあなた達の役割じゃない。それは私か彼女たちの役割なんだ。手が空いているとか助けたいとかそんな話じゃない。一般人がこんな所に居るのも危険に晒されるのも間違ってる!
「お前を一人で置いていけないだろ!!」
父が私に怒鳴るけど、声を聞けば分かる。何度も怒鳴られたもん。怒っているんじゃなくて父も私と同じで必死なんだ。私もみんなに怒鳴ったけど別に怒っているんじゃなくて必死だっただけ。…なんでこういう所が似ちゃったんだろ私…。
「美世さん、頑張って。私達も頑張るから諦めないで…!あなたはひとりじゃないわ!私達家族がついているからね!」
「…ズルいよ。あなたがそんなことを言うなんてズルいよ…!」
私のことを嫌いなはずなのに、危険な目に合っているのになんで助けてくれるの。なんで…なんで優しくしてくれるの。なんで助けてくれるの…
「ヤバいよ…もう、ベルガー粒子が…!」
手の平が熱くて仕方ない。サードたちの放つ光線を手の平で受け止めて向こうに放出し返しているけど…もう拮抗すらしなくなった。周りの温度も上がっていくし、あと最低でも30秒は保たせないとなのにっ…!
「美世っ!」
「美世さん!」
「お姉ちゃんっ!」
ルイスたちの避難を済ませた父たちがまたこっちにやって来た。なんでっ!?ここの温度ぐらい近付いて来れば分かるでしょうがっ!?無能力者には耐えられない温度だよっ!?
「下がっててッ!!もう保たないの!!!」
熱に対して耐性がある筈の私の手の皮膚が焼けてしまっている。多分だけど手の平の温度は400℃ぐらいあるかもしれない。痛みを通り過ぎてもはや痛覚を感じない。でも手首辺りは真っ赤に染まってとても熱い。熱さで死んでしまいそうだよ…
「もうお前をひとりにしないッ!!ずっと一人ぼっちにさせてきたんだっ…!最後まで一緒にいようっ…!」
父が熱くなった眼鏡を外して私の方までやって来る。死んじゃう…このままだと誠たちも死なせてしまうっ…
怖い…怖くて仕方ない。あの家族だけは死なせたくない。私は死んでもいいからあなた達だけは…!
「…わたし、わたしね。」
口にして血の気が引いた。熱くて仕方ない状況なのに私は血の気が引いて背筋が凍り付き、生きていて一番って言っていい程の恐怖に心が蝕まれていく。
でも、それでも…言わないと。これを言えばこの人達がここに居る理由を失う。そうなればこの家族は助かる。だから…言わないとなんだ。本当はもっと早く言わないとだったのに。だからそのツケを今更こんな状況で払わされることになるんだよ。
「わたしは…」
歯がガタガタ震えて立ち眩みを覚える。私にこれを言う勇気なんて無いよ…。想像しただけで吐き気をもよおすよ。だって、これを言ったら…もしかしたら傷付けることになるかもしれない。それだけで涙が溢れてくるのに、怒ったり罵倒とかされたら心が折れてしまうよ…
「ああ、あああぁ…!」
涙が蒸発して目を開けられない。まるで私には泣く権利すら無いと言われているみたいでとても悲しくなった。死ぬ時はろくでもない死に方をするだろうなって分かっていたけど、こんな思いをして死ぬなんてあんまりだよっ…!神様!こんなのないよっ…!!
「くっ…!う、うあああっ…!」
言え、言え、言うんだ。終わりにしよう。家族ごっこも寄生も止めてここで死のう。じゃないと私がお母さんを殺した罪悪感は決して消えない。もう私は充分生きたよ。分かってるでしょ?
平穏な世界に私なんて…いらないんだよ。
「美世っ…」
かつては父親として、家族として一緒に過ごして来た人に対して、私は最悪な事実を口にした。
「…私は、あなたの娘じゃありません。…血が繋がってないんです。あなたの元妻は他の男と浮気をして私を妊娠したんです。だから…あなたとは父と子の関係じゃないんですよ。」
話している途中で残りのベルガー粒子を使って自分をぶっ殺そうかと思った。母親を殺した際の罪悪感と同じか、それ以上の罪悪感が私の脳を犯していく。…もういいや。もう死にたい。終わりたい。こんな人生、望んで…
「お前…」
リアクションなんて知りたくも聞きたくない!罵倒もされたくない!同情も哀れみもいらない!早くここから消えてよッ!!じゃないと、わたし…わたしっ…!
「…知っていたのか。」
私は振り返って父の顔を見た。目を開けるのもツラい筈なのに父は私の顔を見て驚いていた。そして私はとんでもない恐怖に襲われていた。父に知られていたのだ。最悪な事実を知られていたという事実は私がそれまでに知っていた恐怖をも嘲笑うほどのもので、私は痛みも思考すらも忘れてしまう。
「な、なんで…なんでなんでなんでなんで…」
「…DNA鑑定をしたわけじゃない。だから確証とかは無かったが、そうなんだろうなとは思っていたよ。」
え?え?…え、待って。どういうこと?え?え?知ってて私を育てたの?え、なにどういうこと?なんで私を捨てなかったの?世間体?それともなに、え?え?分からないよ。なにこれ?私のことを娘じゃないって、分かってたのになんで…
「美世さん…私達夫婦は最初から分かっててあなたと家族になろうとしていたんですよ。」
「はぁ…?あなたも知ってたの?だったらなんで…」
追い出さなかったのと言おうとする前に誠が私達の会話に入ってくる。
「お姉ちゃんって…お姉ちゃんじゃないの?」
止めて…そんな不安そうな顔をしないで誠。あなたは私と血が繋がっていないことを喜ぶべきなんだよ。こんな人殺しを姉として慕わなくてもいいんだよ。だからそんな泣きそうな顔をしないでお願い…
「…いいや、お前の姉だよ美世は。」
違う…違うんだ。私は姉じゃないし、家族じゃないんだよ。ずっとあなた達家族に寄生していた卑しい人間なんだよ。
「だから最後まで家族一緒だ。」
そう言い終えると3人が目を瞑りながらこっちに近寄って来た。もう熱さで目を開けられないのに私の所まで歩いて来る。私に近付けば近付くほどに熱くなって呼吸も怪しくなるのになんで父や誠やあなたまで来るのっ…!
そして私を家族と言ってくれた人達は私の服にしがみつくと手を離さずにその場に留まった。手の皮膚なんて真っ赤に染まって火傷をしてしまっている。私の着ている服が触るだけで火傷するぐらい熱いんだ。なのに離れる様子もなくここに留まった。
「…死なせない。この人達だけは!私の家族だけは絶対に死なせないっ…!!!!」
みんなのベルガー粒子を吸って能力に変換し、敵の攻撃を中和していく。中和するといっても範囲は狭く、家族の周りの温度を下げるのが限界で、私の腕は燃え盛って指先は炭のように燃え尽きていた。
「あああああああああッ!!!!!!!!!」
叫びを上げて最後の能力に全リソースを割く。痛覚も味覚も触覚も聴覚もなにもかも消え失せて私はただ一つの願いのために能力を行使し続ける。もう私には自意識はなく、ここがどこなのかすら分からなくなり生命維持に必要な機能すら止まりそうになっていた。
しかしそうはならなかった。ここで最後の手札が場に登場する。もうジョーカーもエースも出された場面で出てきたのはクイーンと言っていい程の能力者。ここでこのカードが切られたことで美世たち親子は命拾いした。
「私が絶対に美世のことを死なせないよ。」
美世たちの後方にある瓦礫から少女の声がすると同時に一線の光が放たれる。その光は美世のすぐ横を通り過ぎてサードにまで達し、彼女を酷く驚かせることとなる。
「何っ!?」
フォースは慌ててその光を受け止めるか屈折させようとするが出力が足りずにサードの体温が急激に上がっていく。もはや近くに居るフォースが燃えそうなまでに高温になったサードは炭化が急激に進み、近くに居ることが不可能になったフォースはその場を離れるために真横へ倒れ込むように回避行動を取った。
美世の後ろの瓦礫から飛んできた光はサードを蒸発させるとか細い線となって徐々に消えて行った。そして瓦礫には真っ赤に染まってドロドロになった穴が空き、そこからひとりの能力者が現れる。
「美世を虐めた後始末…その命で払ってもらうから。」
凄まじい怒気を孕んだ声を出して現れたのは美世の相棒でありこの場面に終局をもたらす程の能力者。その能力者には組織から天の川というコードネームを付けられ、眩い光の流れを表すのに相応しい能力を持つ存在であった。
彼女の名は三船理華。最後の最後まで温存されていた彼女と見合うことになったフォースは心が折れかける。ここで彼女と殺り合うなんて想定していなかったからだ。
だがそれもそのはず、ここまで決して意識させないように美世が立ち回ってきたのだ。本来はもう少し後に現れて最後の最後にサード達を狙うことで完全な時間切れを狙う算段であった。しかし美世のピンチとなれば黙って待機し続けるような女ではない。
そんな彼女を完全に敵に回したフォースにはもはや戦う道しか残されていない。そしてその状況に追い込まれていることにフォースはここでようやく理解したのだった。最大の脅威は美世ではなくあの能力者であると…
この物語のテーマのひとつとして家族愛を描いています。恋愛よりも友愛、友愛よりも家族愛を大きく取り扱って書いているので、本当にここまで書けて良かったです。




