作戦変更
なになになに、なんであんなに怒ってるの?私が何かしたっぽいんだけど私も被害者だよっ!?だってこっちは探知能力しか使えなくなったんだよっ!?どうすればいいのかも分からないのに…!
「お前を殺せば能力が解除されるっ…!」
あ〜…そういうことか。そういう発想もあるよね確かに…。でもさ、今現在進行系で行使されているこの能力はもう私のコントロール下から離れて勝手に動いている。しかも私のベルガー粒子をずっと吸いながらね。
ベルガー粒子が背骨から生まれるのは知っている。でも私のベルガー粒子は未だにゼロ。つまり現在進行系で私の生み出しているベルガー粒子を吸っているということだ。どんだけ燃費が悪い能力なのこれ。しかも私は特に能力を行使しようと思って放っていない。本当に勝手に能力が行使されたんだよ。
「…独立した能力だから私を殺しても意味無いと思うよ。解除したくても解除出来ない。放たれた能力はキャンセル出来ないって知っているでしょ?」
後退りしながら忠告するけど聞いては貰えなかったみたい。彼も距離を詰めようとこちらに向かってくる。
「お前に近付こうとしてもこれは干渉してこないみたいだ。しかし、不快感はある。これに自ら近付くような気がしてな。お前にこの気持ちが分かるか?」
「いきなりウザい彼氏みたいなこと言い出すじゃん。お前の気持ちはお前だけのものだよ。人にひけらかすのは違うんじゃないかな…。」
なんでこういう時でも人を苛つかせることが言えるんだろか。最早才能があるんじゃないかって思うよ。だってほら彼、ものすごく怒っているもの。
…もういっそのこと、煽り散らかしてみるか。こいつは多分私の能力自体に対して解決策を講じれない。さっき怪腕を出現させて消そうとしていた。でも何も起きなかったからこそ私を消そうとしている。
私は中指を立てて心底相手を嘲笑っていると伝わるようにムカつく笑顔を浮かべて煽る。さあて、この世界の命運を賭けた鬼ごっこを始めようか。
「この展開を知っていたか覗き魔。次はストーカーにジョブチェンジしやがれ変態!」
探知能力しか使えなくても私自身が異形能力者だ。電気を作れなくても身体能力自体に制限が掛かることはない。振り向きザマに超加速でファーストから逃げ出すと呆けた顔で立っている彼の顔が見えて気分が最高に上がる。こんなに鬼気迫る鬼ごっこをすることになるなんて思わなかったよ。
「このクソ女ッ…!」
ファーストも走り出して美世のあとを追い出す。彼も美世と同じく煽られて口が悪くなる。彼も普段は余裕がありそうにたち振る舞っているが、追い込まれれば美世と大差無いことを自覚しているのでこの煽りは違う意味で彼を強く刺激した。
先ずファーストは自身の軌道を操作して思いっ切り加速する。異形能力者との鬼ごっこで単純なスピード勝負をしたら勝てるわけがない。特に美世はパワーよりもスピードに秀でている異形能力だ。先に動かれている時点で不利な状況に追い込まれてしまっている。
今もこうしている間もファーストの視界には黒い人の形をしたシルエットが写り、それも彼の神経を逆撫でる要因となって焦りが募る。そのシルエットは徐々に徐々に大きくなり、近付いて来ていると意識させてくるから尚更だ。
「ヤバいヤバい本当に死ぬっ!」
しかし焦っているのはファーストだけではなく美世もだった。自分が死んでも独立した能力は行使し続けるかもしれない。しかし自分が死んだ場合にはもしかしたら能力が解除されるかもしれない。そうしたら全てが無駄になる。ここまでやってきたことが意味をなさなくなるのは彼女にとって耐え難いものだった。
(さ、作戦変更しないと!先ずは生き残る事に専念しないと!)
「逃がすかよっ!!」
テレポートで瞬時に進行方向を塞ぐように現れるファースト。しかし探知能力を駆使しながら逃げる美世にとってはその行動は最適解とはならない。テレポートは瞬時に移動出来る能力だが若干のラグが発生する。ここにテレポートすると決めてから移動を始める影響と合わせると美世の進行方向に現れることが出来るが、彼女はファーストの横を通り抜けるように走り去ってしまいまた距離が離れてしまう。
「分かってはいたけどその切り替えの速さは厄介だなっ…!」
この展開は分かっていた。テレポートを戦闘で使っても美世の速度に対応することが出来ていなかったからな。向こうもそれが分かっているから想定していたかのように動いたし、振り向くこともなく走り去っていく。
(テレポートならいい!問題なのはあの能力を使われること!)
意識を逸してファーストを殺す算段が私のせいで破綻してしまった!せっかく理華と協力して追い込んでいたのに!
『作戦変更!!助けて理華っ!!』
私は相棒の理華に助けを求めた。戦闘面で使える能力を失った私ではファーストを殺すことが出来ないどころか逆に殺されてしまう。
『ちょ、どういう状況なの!?私の射程からだと良く見えないんだけど!』
理華は根本から折れた組織のビルの屋上から避難して隠れていた。一人だけ戦わずに隠れているのは彼女の存在がこの戦いを終わらせるピースとなるからだ。…2つの意味でね。
調整体が蔓延るこの東京で彼女の能力は有効的に機能する。しかしそれは私達に対しても同じ事が言える。もし理華が能力を使えば間違いなく向こうも理華の能力を使ってくる。そうなると私や先生、あとは理華の蘇芳以外の者達は瞬時に燃え尽きてしまうだろう。
【熱光量】に対抗出来る能力は【熱光量】しかない。パスを通じて能力の貸し出しで使える者しか抗うことは不可能。その為に理華には隠れてもらい私と先生たちで注意を引いていたのだ。
だから蘇芳には本当に申し訳なかったけど戦闘に参加してもらいつつ理華の能力は使わないでもらっていた。元々の私達の作戦はファースト達の意識を私達に向けさせ、注意が完全に逸れたタイミングで【熱光量】による攻撃で瞬時に肉体を蒸発させること。
再生能力を持とうとも再生させる肉体が蒸発しきれば肉体が消滅する。そうすれば私が彼らの魂を削除してしまえば全てのケリがつく算段だった。しかし私が先生の能力を使えなくなった段階で破綻してしまったので、フリーな戦力の理華に助けを求めたという訳。
理華の能力なら完全に消滅させられる。その証拠に奴らは理華の能力に対して異常なまでに対策を講じていたからね。調整体然り薬降るさん然りで、何かしらの能力で【熱光量】を対策をしていた。多分だけどファーストたちもあの重力場を創り出せる。
だから来ると分かっている彼らには【熱光量】は通じない。だから奴らに想定させずに一瞬で勝負を決めたかった。
『今の私は探知能力しか使えなくなって逃げるしか出来なくなったの〜!!!』
『なんでっ!?』
『なんか分からないけど私の能力が勝手にファーストを攻撃しているの!!』
『はあ〜!?』
理華のはあ〜!?はストレスに効く。常識人枠に入っている理華の反応はとても良い。しかし状況は何も変わらない。避難し終わった住宅街に入り家の屋根を伝って逃げるが壁をぶち抜いてファーストが追従してくる。
しかも拳銃を再現して下から撃ってくるから屋根というか家が壊れていって足場が次々と無くなっていく。この能力ってこんなにも厄介だったのか。【多次元的存在干渉能力】を使えない者からしたらなんて理不尽な能力なんだ。私ってこんな理不尽な押し付けをしていたんだね。
『…えっと、待って待って。…待って、え?どういうこと?何かの能力で美世がさ、能力が使えなくなっているみたいな感じになってるの?』
『そうそう!!だから理華があいつらを蒸発させてから私が奴らの魂を削除するって作戦が使えない!!』
今度はサイコキネシスで車が次々と上から降ってくる。瓦が車との衝突で飛び散り私の頬に一線の切り傷を付ける。…これ頭に当たったら流石に死ぬかもしれない。私は普通の能力者よりも頑丈だけど生き物の枠を超えていない。急所に当たれば死ぬ時は死ぬ。
『でも私が能力を使うと…』
そうなんだよね…。理華ならその場に居ても射程距離があるから能力を届かせることが出来る。でもそうなるとファーストしか殺せないし、他の奴らが理華の能力を使えば一瞬でここ一帯が蒸発してしまう。
『じゃあえっと…なら、先生!助けて〜!!』
先生に助けを求めた瞬間に私の周りに様々な事象が起きる。先ずはこの場に全員が急に現れた。テレポートを使ったのだろう。セカンド・サード・フォース・フィフスが現れてすぐ先生と蘇芳、そして天狼も現れて一気に状況が混沌に包まれる。
今の私にこの人数を捌ける自信がない。だから全員を無視して逃げ続ける。幸いに私を追っているのはファーストのみで、他の者達は先生や蘇芳、天狼を相手にしていて私に見向きもしていない。
『今は乱戦に持ち込むことしか出来ない!』
『充分です!!ファーストも巻き込んでスマブラしててください!』




