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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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共創

テレポートを使えるということは特異点としての特性も戻ったということ。そんな相手の軌道を操作するには骨が折れる。まだここで脳の負担を増やすわけにはいかない。


「あれ?逃げるの?まだ私に一撃も与えていないのに?」


私は両手を広げて傷がない身体を見せつける。お前のように再生能力も無い私が一度も怪我をしていない事実。そんな状況下で逃げれるのなら逃げてみろ。


この非接触型探知系能力者の私からな…?


「本当に…良い性格をしているよ。」


プライドを刺激されたファーストが瞬時に美世の前に現れる。今まで一番速いテレポートだったが、弾丸の軌道すら認識する美世の前ではあまりにも遅すぎる隙だった。


テレポートしたファーストの視界は瞬時に切り替わり、すぐ目の前に美世が現れるがその光景は本当に一瞬のことで、すぐに暗転し暗闇の光景が視界いっぱいに広がった。


(…ああ、顔面をまた潰されたのか。)


ついさっき味わった顔面が潰れる痛みを思い出し自分の置かれている状況を理解する。そしてどうやらそれだけで終わらずに空中を何回転もしているみたいだ。


「雑魚がたまたま手に入れた能力(ちから)で人様に迷惑かけてんじゃねえよッ!!そんなクソ野郎が居るから私みたいなクズが生まれちまったんじゃねえかッ!!」


異様に大きな耳鳴りと一緒に女の叫びが聞こえてくる。恨みや怒りが籠もったその言葉は聞く者に不条理を押し付けてくるものだ。理解出来ない者は理解出来ないし、理解出来る者は平等に彼女を意識せざるを得ない。


「…言ってくれるね。」


空中で錐揉状態中に顔面の再生が終わるが、未だに空中に居た。この感じだとかなりふっ飛ばされたらしいな。探知能力で自身の事を客観的に見ようとすると凄まじい速度で吹き飛んでいる自分に近付く能力者の存在を探知する。…この状況下で来る奴なんてこいつしか居ない。


「死ねやっ…」


「お前がなっ…!」


お互いに怪腕を出現させて拳同士が激突する。この流れは何度も経験したから分かるけど何も意味を成さない行為だ。怪腕が消失するということはベルガー粒子が消えると同義ではある。しかし互いにベルガー粒子の量に困ったりはしない。粒子は腐る程あるし、そもそも自身の背骨が生まれて来る。


ベルガー粒子の削り合いではこのふたりの決着はつかないことは明白だった。


「…魂を消さないと無理か。」


「そういうことだね。お互いに…」


美世も不死に近い特性を自身の能力によって獲得している。ベルガー粒子に命令というプログラムを保存出来るので能力者本人が死んでも復活が可能。しかし魂が削除されればいくら身体を戻しても意味が無くなる。


それはファーストにも言えることで、いくら取り憑いているベルガー粒子が身体を再生させようともその身体に魂が無ければ生きているとは言わない。


(…と、ファーストは思っているだろうね。)


美世だけはその先まで思考を巡らせていた。彼女は他者を優先に考える節があるが、それは他者の立場になって他人の考えを理解出来るということ。それこそ美世の最も恐ろしくもあり優れている部分である。


そして他人は美世を理解出来ない。他者が美世の内面を覗こうとしてもそこにあるのはどうしようもない狂気と覗いた者の心理状態しか見えないのだ。誰も予想をすることが出来ないから彼女に誰も勝てない。


常識の枠に収まらない能力者という存在が彼女をここまでの殺し屋へと押し上げたと言っていいだろう。


(奴に気持ち良く考えさせろ。思考の邪魔になるのなら小石の一つも取り除こう。)


人は自分のアイデアを疑わない。「これ良いな」という純粋な勘違いが人を殺す毒になるのだ。何故か人は自分の考えや常識が至高なるものだと勘違いするけど、私はそれを勘違いだと理解している。その勘違いに溺れたり分かっていてそのままにすることもあるけど、こんな状況下で自身の事を信じる馬鹿ではない。


信じられるものは事実と事象のみ。それ以外のものはクソだ。1%の疑いもあるのならそんなもの信用に値しない。例えば、見ず知らずの人が今から100の事を話すけどその中に1つは嘘があると説明されて、その100の言葉を鵜呑みにするか?しないだろ?


疑いが生じる時点で信用は破綻するものなのに、なんで嘘をついたり勘違いをしたりすると分かっている自分自身を信じるの?今の今まで嘘もついたこともないし勘違いもしたことが無いのか?どんな人間だよそれ。頭に問題があるだろそいつ。自分の得た価値観や情報が正しいものだって誰も証明出来ないだろうに。


だから私は自分を信じない。そしてこの作戦も信用していない。上手くいかないかもしれないと疑っている。だから情報を集めて100%に近付こうとしている。私は確実にこのファーストを殺す。絶対に絶対に絶対に殺す。絶対に生かさない。ここで殺す。私の手で殺す。失敗なんてしない。だから私が信じるのは事実と事象のみ。


お母さんが死んだことも殺されたことも殺したことも疑わない。そして私は今まで一度も殺すことに失敗していないという()()()()()()。これは絶対な事象だ。私は殺すと決めた相手は絶対に殺してきた。


私が唯一自分のことで信用しているのは人を殺すことが上手いことだ。多分才能があるんだと思う。なんでこんなにも殺すことが上手いのか不思議だったけど今では分かる。()()()()()()()()()…。不死という殺すことが不可能な奴を殺すために私はこの世界に産み落とされたんだ。


私の役割がこれなら私というゴミにも意味が出てくる。本当に良かったよ。こんな役割を他人に押し付けないで。…いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。蘇芳や伊弉冉もそうだ。私達姉妹はこのために存在する。


そして他の者達にも役割があって、その為に今日この日に集って来た。これって神様が居るからなのかな。神様が私達に役割を決めて配置したのかな。もしそうなら神様って私のこと相当嫌いだね。私よりも私を嫌いなやつ居るとは思わなかったよ。


だけどありがとう神様。私はお前のことはずっと嫌いだったけどこんな終わっている才能をくれてありがとう。そのおかげで私は人を殺すことが出来る。


「一巡目の大戦犯があまり良い気になるなよ?」


ファーストが駆け出すが、私に向かってじゃない。場所を移そうとしている。あの方角は…


「クソ野郎っ…!」


人の多い通りに移動している。奴を人の居る場所から離そうと誘導していたのにっ…!


「人を優先するというのならさ…こういうのはどうだ?」


大通りに出ると様々な人達でごった返していた。そんな中で超人的な速さで走行しているファーストに人がぶつかると簡単に吹き飛び地面に叩き付けられていく。それはまるでボーリングのピンのように倒れていくようだった。


そして都内から逃げようとしている家族連れの車に向けてファーストはサイコキネシスを行使し、私に目掛けて投げつけて来た。これを避けるのも防ぐのも容易だが、奴は車の死角に隠れて攻撃を仕掛けようとしている。


「なになにっ!?」


「きゃっーー!?」


車の中はシェイクされたように荷物と人が混ざり合って阿鼻叫喚で埋め尽くされる。私に彼女たちを助けさせようとしたのだろう。ワザと車を回転させて投げつけて来た。


だから私が取った行動は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


流石のファーストも予想外だったのか反応が遅れて車に激突する。高速でしかも1トンを超える質量で飛んできたのだからそのダメージはかなりのもの。いくら再生出来ても内蔵なども傷付けば治るのに時間を有する。


(助けずに怪腕で殴っただとっ?! )


車は怪腕で殴られた影響で凹んでいるし、その衝撃で中に居る人間は全員即死した。…忘れていたよ。奴は人の世を守るためなら母親すら殺したサイコパス。俺を殺すためなら()()()()()()()()()


「グベァっ!」


車と一緒に道路に叩き付けられたファーストは四肢がもげて脳みそをぶちまける。そして一緒に叩き付けられた車はクラッシュしながら逃げ惑う人々のところまで転がっていき、10人を越える民間人がクラッシュした車に巻き込まれてしまう。


悲鳴よりも恐怖による奇声が大きく上がった。突然起きたことに人々はパニック状態で隣に居た人間が車の下敷きになっても誰も見向きもしない。その場から逃げようとただ足を動かし続けている。


「そうだ逃げろ逃げろ。私から離れないと今度は自分たちが死ぬ番だよ。」


美世が壊れたファーストの元に向かうと同時にクラッシュしたはずの車がクラクションを鳴らしながら()()()()()()()。車を運転していた男が急に現れたように見えた美世に対してクラクションを鳴らしたのだ。


そしてそのクラクションに反応して下敷きになっていた筈の人々が少しだけこちらを見るが、逃げるのに必死なのかすぐに前を向きその場から離れ始める。


そう、死人は出ていない。美世の怪腕はベルガー粒子による攻撃だ。つまりは殴られた車もその車に触れた者達も彼女の射程圏内に入ったことになる。彼女にとって死とはやり直せる事象。人々をここから逃すためのパフォーマンスとしてあんなことをしたのだ。


「立てよファースト。お前は私が殺す。」


「…はは、悪役(ヒール)が板についてきたじゃんか。」


ファーストはまだ再生しきれていない身体で起き始めて美世と見合う。痛みで頭がおかしくなりそうだが、ここで立たなければあの怪腕で魂を削除されてしまう。そうなれば痛みどころの話ではない。痛みを感じるということも出来なるのだ。


「黙れよニガー。ファッキンジャップに良いようにやられて出来の悪いガンプラみたいな不安定な自立しか出来ない癖に。」


「このご時世にそんな表現するか普通?」


「どのご時世に世界征服を仕掛けてくる馬鹿がいんだよ。黙れよゴミが。」


「最初はそんな娘じゃなかったのに、今じゃ口の悪い殺人鬼か。落ちたものだね。」


どちらも譲る気は無いし、聞き入るつもりもない。しかし挑発を無視出来るほど相手を憎く思っていないわけではなかった。


「さっきから何を勘違いしているか分かんねえけど、人の能力を借りないと何も出来ない癖に私の妹の能力で私のことを何もかも知ったような口きいてんなよ。」


「知る能力だからね。知っているさ。」


ファーストの得意気な顔を見て美世がブチ切れる。


「ただの覗き魔が偉そうに私を語って愉悦に浸ってんじゃねえよッ!女性の部屋に監視カメラや盗聴器を仕掛けて相手の私生活を把握した結果、自分が相手よりも優位に立ったと勘違いしたストーカーと大差ねえぞおめえッ!!」


「の、覗き魔?」


「人の生活を覗くだけの能力で相手の事を全て知るだ〜〜?蘇芳を出し抜いてやった感出してた奴がその能力で全てを知った気になってんだぞ?私だったらこんな恥ずかしいこと出来ないけどね〜?どんな生活を送ればここまで恥の上塗りが出来んの????」


これには流石にファーストも苛つきを隠せない。言い返したくてもここまで言われれば言い訳にしかならない。図星をつかれたような感情にファーストは下唇を噛みしめることしか出来なかった。


「私の視界を覗いただけで私を語るんじゃねえよっ。私の気持ちなんか理解も出来ないし考慮もしていないだろうがよッ。私がここまでどんな気持ちで生きてきたなんて分かっていない癖に、今日が初対面のお前が私を知っているなんて気持ち悪くて仕方ねえんだよッ!!!」


美世の怪腕がまるで生きているかのように痙攣を始める。その事象は誰も知らない。ただの能力による事象に過ぎない怪腕が美世の気持ちを汲み取ったかのようにその性質を変化させていく。


まるで目の前の障害を、美世の邪魔になる小石を取り除こうとするかのように…。

レスポンスが強え女

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