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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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ストレスフル

次回から戦闘パートが続きます

フィフスは確かに眼鏡を掛けていて目が悪そうだった。しかし蘇芳の能力を行使したことによる代償ならばそこでもう蘇芳が気付きそうなものだが…


「一巡目の世界でも私の視力は良くなかったし、今の私は一巡目の時よりも視力が悪くなっているけど、生活環境があの時とは違うからね。上手く勘違いしてくれてて良かった。」


フィフスは目を細めながら私達に真相を語る。眼鏡は先程の先生の一撃で消し飛んでしまったのだろう。かなり見にくそうだ。


「…フィフス、あなたはこの二巡目の世界でわざと暗い場所で過ごしていたんだね。私もあなたの視力が一巡目の時よりも悪くなっているのは知っていたけど、まさかそこから細工されていたなんて正直やられたって感じだよ。」


蘇芳の苦虫を噛み潰したような表情は敵にとってはこの上なく嬉しい賞賛のようなものに見えるのだろう。5人ともしてやったとニヤケ面を晒している。


「ーーー正直、そこはもうどうでもいい。奴らがここで勝負に賭けている事実と、何故ミヨの能力全てをコピー出来ていないのかが問題だ。」


先生はここまでの話を聞き終えてどうでもいいと切り捨てた。…確かにそうかもしれない。こいつらのバックボーンとか知ったところでやることはお互いに変わらない。敵対関係も変わらない。


ただこいつらがどうして私を挑発して私の能力を使わせようとしているのかが問題だ。私もコピー能力の射程に居るはず。だから向こうは私の行使する【探求(リサーチ)】をさっさとコピーして私達全員を消し去ればいいのに、なんでそうしないんだろう…。


「そこは言えないよ。でも…もう我慢が出来なくなってきたんじゃない?」


またファーストが挑発してくる。もう我慢なんてしていない。ただお前達を確実に殺す為に動いている。その方法として【探求(リサーチ)】と【削除(リボーク)】の複合行使を使わずにどうしようか考えているところだ。


「…へー、まだ動かないのか。我慢強いというか頑固というか…。」


「お前はタイプじゃないんだよ。クズ野郎の言葉に乗るほど私は安くも軽くもない。」


挑発には挑発で返したけど、ここでヒートアップしたら向こうの思い通りか…。


「ハハッ!俺もお前はタイプじゃないな!両親を殺して姉妹仲良しごっこに興じている女なんか…」


ファーストが更に挑発しようと言葉を並べている途中でバチッと電気が弾ける音と共に青白い光が発生したと思ったら、その場からファーストの姿は消え失せ天狼の姿も消えていた。そしてふたりの姿が消えてすぐに近くの建物が崩れ落ちて道路には黒い焦げと白い煙が生じる。


「貴様如きが私の妹について語るなッ…!!何もあの子の気持ちなぞ汲んでいない癖に、分かったような口振りで貶すんじゃないッ!!!」


天狼は近くに落ちていた鉄骨の破片でファーストの腹部を突き刺し、そのまま建物の柱まで振り抜いたのだ。それだけで建物が崩壊する程の威力なのだから末恐ろしい。


そしてそんな姉の姿を見た美世は激昂する天狼とは違って落ち着きを取り戻していた。自分よりも冷静さを欠いている人間を見ると落ち着くように、自分よりも怒っている姉を見て妹である自分は冷静でないといけないと考え、あれだけ溢れ返っていた怒りと苛立ちが鳴りを潜める。


これに関しては伊弉冉が美世を落ち着かせる為に狙ったわけではない。ただただ単純に妹のことを悪く言われてブチ切れた伊弉冉が妹よりも我慢が利かなかっただけだ。


だがファインプレーであることは変わらない。流れが向こうにあった中で伊弉冉が良い意味でブチ壊したので蘇芳も本調子に戻る。すぐさま情報を【ラプラス】で視て状況の掌握に努めるが、相変わらずに何も視えない。特異点がここまで集まると蘇芳の能力では未来を視ることが出来ず、不確定な展開を進むしか無いようだった。


(向こうからしたらこのタイミングで仕掛けるしか無かったのか…。私ですら視えないのだから向こうだってこの先の展開は視えていない。)


条件は同じでもこの時に賭ける思いはどうだろうか。向こうは一巡目の自分を捨ててもこの二巡目に賭けてきた。でも…私もそうだ。私も一巡目を捨ててここに賭けにきている。そしてその先こそ私が望むもの。


だから…私の思いを超えられる訳が無い。私よりも強く願ってここに賭けてきている者なんて居ない。


例えアイン達でも私の思いを超えられないよ。彼の死の間際に願った思いも私の思いの前では霞んでしまうだろう。


蘇芳が遥か彼方にある思いの根源を思い出しつつ自分の使命を再認識していると敵が動き出した。仲間であるファーストがやれているのをただ黙って見ているわけがない。特に先程からいいようにやられているサードは仲間の中で一番速く行動に出る。


「姉の方が釣れるのかよっ…!」


サードはすぐさま振り返りざまに天狼目掛けて殴りかかった。彼女の身体能力ならば瞬時に天狼の下へと行けるが、彼女が振り向いた時と同時に天狼の投げた鉄骨の破片が目の前にあって足を止めざるを得ない。


反射的に回避行動を取るサードはギリギリのところで避けることが出来た…と思われた。だが天狼の投げた鉄骨には彼女のベルガー粒子が纏っており、彼女の能力は電気を創り出し操作する能力。鉄骨から溢れ出るほどの電圧と電流が導体である人間の身体へと流れる。


「かッ…はっ…?!」


美世が一度試しているので分かるがこの能力によって再生能力を獲得した相手でも身体能力と超能力を一時的に封じられる。本当に短い時間ではあるがこの状況下では致命的な隙であることは間違いない。


「そこ…」


しかしサード以外も動いている者が居る。コピー能力者であるフォースは死神の能力をコピーして拳銃を創り出し天狼に銃口を合わせるが、その軌道線上には()()()()()()。しかし彼女たちは不死性を獲得している。なので躊躇いもなく()()()()()()()


サードの左肩に命中するがそれでも不可視の弾丸は止まらない。肩に風穴があき、天狼に目掛けて不可視の弾丸が突き進んで…そのまま崩落した建物に衝突した。本来の目的で行使された能力は天狼に干渉することもなく行使し終える。


「死角からの攻撃を避けたっ!?」


「ふ、ふざけんなフォースっ…!!グベッ…!!」


視覚的にも意識的にも意表を突く攻撃だったのに天狼は避けてみせた。それどころか突然襲って来た肩の痛みで動きが止まったサードに天狼は扇ぐように腕を振るうとサードの身体が宙に舞ったのだ。


直接触れずに腕を振るった際に生じた風圧のみで成人女性の身体が浮き上がるという身体能力だけでは片付けられない事象が発生し、同じ異形能力を持つ美世ですらも流石に言葉を失う。


「まずいまずい、あのデカ女暴れ過ぎだよ。」


セカンドの抑揚のない声のせいで聞く者に緊張感が伝わって来ないが、腹部から沸騰したヤカンのように白い蒸気が上がっているファーストに、驚異的な速度に翻弄されるサードとフォース、そして眼鏡を失い未だに探知能力を使いこなせていない為に上手く戦いに参加出来ずにいるフィフス達を見てセカンドは目標設定を決めていく。


ここまでの彼の言動からは分かりづらいがセカンドは仲間の中でも客観的に物事が見ることが出来るので参謀的な位置に居る。だから彼の言動を仲間が止めたりはしない。自分達の中で誰よりも頭の回転が速い彼ならば打開策を思い付くと信じ、その間はいくらでも肉壁になる。それが彼らの共通認識だった。


そしてそのことをある程度理解している蘇芳がついに動く。ここで畳み掛ける為にも彼女がこの世で最も手を借りたくない相手の手を借りねばならない。


「…死神、力が戻って来たみたいだけど…確実に殺れそう?」


最後の詰めのために死神へ確認を取る。戦力比はこちらに傾いているのは間違いない。確実に奴らを殺すために死神の力が不可欠になる。


「愚問だな。そんな確認必要ない。能力でしかないワタシも怒りを覚えることはある…」


死神も天狼と同じくキレていた。ミヨがあの時にどのような思いをしていたのかは分かっているつもりだ。何故ならば自分は当事者で、あの時に一番近くに居ながら傍観者でしかなかったからだ。


ミヨがあの時にどれだけ後悔し、それでも己の役割を果たした彼女の行動をそんな言葉で片付けていいものではない。


「そう…なら、私も賭けようかな。」


蘇芳の持つ膨大で高圧縮されたベルガー粒子が解き放たれる。特に目の方に集まっていたベルガー粒子が拡散し、彼女の周りに纏わりつくと急に彼女の存在感が増す。まるで今の彼女は臨戦態勢、そんな彼女を見て美世が静止しようとする。


「待って、もしかして蘇芳ちゃん…()()()()()?」


「うん、この状況は私のせいだから。私が失敗しちゃったからここで取り返さないと。」


姉に止められるのは分かっていた。だから言うことだけ言って能力を行使することにする。ここで言い争いなんてしている暇なんてないから。


「…分かったよ。蘇芳の気持ちは尊重する。でも無理だけはしないでね。」


「お姉ちゃん…ありがとう。」


絶対に止められると思っていたのにまさかあの頑固な姉が折れるとは思わなかったので驚きつつもお礼を口にする。…もう、私の知るお姉ちゃんとは違うんだね。こっちのお姉ちゃんも好きだけど。


「先生、蘇芳がもし…」


「分かっている。…スオウ、一度だけだ。一度だけ生き返らせてやる。だからミヨ、君は好きに暴れていい。ここで決めるぞ。」


「…はいっ!!」


何度も敵対し、殺し合いを興じた特異点の3人が初めてこの場にて共闘することとなる。共通の敵の前では過去のしがらみを忘れて手を取り合えると、もし過去の彼女たちが知れば誰も信じなかっただろう。しかし現実としてこの時間で3人は手を取り合って共通の敵を前に臨戦態勢に入る。


「さあ…行くぞ。」


「はい…行きましょう。」


「ここで絶対に終わらせる。()()()()()()()()()…」

俺達の願いはこれからだ

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