大仕事の準備
ファッション回です。
金曜日の夜に自宅のマンションに居た私は組織から送られてきた荷物を開けていた。ソプリを使って注文しておいたのが翌日には届くこの便利さ。まるでどこぞの密林みたいだ。
「夏服と装備一式がもう出来たの?」
もしかしたら注文する前に予め用意してくれたのかもしれない。和裁士さん達ならありえる。取り敢えず着てみてサイズを確認しよう。
今回用意してくれた仕事用の夏服はシンプルな見た目に薄い生地で作られているから蒸れたりはしないはず。
服が入ってあるだろうケースを開けて服を確認する。上はオフショルダーの黒いパーカーワンピース。肩口にファスナーが付いていて外すと肩が露出出来る様になっている。恐らくは私が始めて組織に行った時とのファッションを参考にしている。下はシンプルな黒いホットパンツとショートパンツの中間みたいなやつ。今回はストリートファッションで仕上げてあるね。
それに加えて下に着れるインナーが入ってたけどこの時期に何枚も着たくないな…説明書も一緒になっていたから多分防弾防刃加工がされているやつなんだろうけど、私は能力で大体の攻撃を防げるからいらないんだよね。和裁士さん達に私の能力は教えられないから知らずに善意で用意してくれたんだろうけど…一応説明書読んでおこう。
ふむふむ…やはり防弾防刃加工がされていて…耐UV加工なので肌が焼けません!流石は女性陣から絶大の信頼と人気を誇る和裁士さん。女性が望むことが分かっていらっしゃる。私も良いなって思ったもん。
しかし和裁士さん達は能力者の事を分かっていない。私は陰キャではあるが良く外に出歩くんだけど今までで肌が焼けた事が無い。恐らく能力者は皮膚も無能力者に比べて丈夫に出来ているからだと思う。雪さんも肌が白くてシミやそばかすには縁の無さそうな健康的なお肌だ。だから能力者にはあまり魅力的には感じないだろう。
(あれ?まだ何か入っている?)
化粧水と日焼け止めクリームが入っていた。しかも手書きの手紙付で。
[いつもお仕事お疲れさまです。最近はとても日差しが強くなってきましたのでこちらをお使い下さい。]
明日化粧水を使い日焼け止めクリームを付けてインナーを着て行こう。うんそうしよう!
さてお次はどなたかな。残っていたのは…ブーツだ。高級そうな箱に高級そうな黒いブーツが綺麗に詰められていた。サイズは足首よりちょい上ぐらい。
うわあメッシュがスッゴイ…スリットにメッシュが入っていて通気性が良さそうだけど靴底にもソリットがある?私の能力は3次元で視認出来るから細かな形状を認識出来る。
そうか…普通は水の侵入を防ぐように設計されているけどこれは逆に水を排出するように出来ている。これはいいね!ブーツなのに通気性がいいのは助かりやすぜ。ありがとう和裁士さん!
今度は装備品を見てみよう。服とは別のケースを開けると銃もナイフ、あとは能力者専用の暗器だ。私には能力の銃があるけど一般人には見えないので脅しの際には機能しない。今回のターゲットは一般人も含まれているので特別に用意してもらった。
(今回のターゲットは初めての複数人だからね…)
いつもは能力者1人だけを対象とした仕事だけど今回の仕事は大仕事だ。正直な話…かなりワクワクしている。無能力者を殺すのも初めてだから失敗しないようにちゃんと準備しとかなきゃ。
でもこの銃を頼んだとき逃水さんに反対されたんだよね。今回頼んだ銃は静音性と携帯のしやすさを選んだからかなり経口が小さくて火薬の量も抑えてあるから能力者に対しては殺傷力がかなり低い仕様だ。
逃水さんにも私の能力の事は言えないから心配させてしまっている。この銃で仕事するには無理があるからね…それでも装備一式用意してくれたから本当にありがたい。
その用意してくれたものの中にナイフがある。これは片手に銃、片手にナイフを持ったらビジュアル的に来るものがあったから適当にカタログを見て選んだ。シンプルなデザインのナイフでサイズは刃渡り20cm程度。
腰に付けられるホルダーも一緒に頼んだけど…これが1番カッコいい。なんだろう、なんて言ったらいいのかな?スポーツカーより地味な仕事用の車、消防車の方がかっこいい的な?このホルダーもそれに通ずるものがある。
「…ちょっと付けてみたいな。」
新しい服と装備を全て着た状態で立ち鏡の前で自分の姿を確認する。
「うーーん…絶対に制服でもスーツでも無いよね?」
分かってはいたが組織の中で私だけだよこんな渋谷駅に居そうなメンヘラ女子は。どうしよう…また処理課の集まりがあってそこに私だけこんな格好で居たら絶対に浮くじゃん!
「可愛いから良いけどね!いつもありがとう第三部さん達!」
特に腰から下がえちえちだ。ワンピースの下から見える生脚が凄い。太腿にベルトを着けているから本当にエッチだ。良くイラストで見るけどリアルで見ると凄い。
(和裁士さん達にお礼したいから写真送ったら喜んでくれるかな。)
自撮り女子の誕生。顔を写さずに下半身を集中して撮影した。後でラインのグループに送ろう。
この行為が後々に自分自身の首を絞める事になるとはこの時の私には知る由もなかった。
(ショルダー初めて付けてみたけどこれで合ってる?)
腰のベルトと一緒にホルダーを留めたけどこの使い方しか無いよね?一応は腰の所に拳銃とナイフを仕舞ってあって左手側に拳銃で右手側にナイフが掴める様になっている。
太腿のガーターベルトにもホルダーが付けられて拳銃のマガジンが左右に1つずつ付けられるようになっている。誰かがワンピースの中身を覗かない限りバレはしない。警察だって女子高生のワンピースを覗こうとはしないだろう。…いや居るか?
右手首に付けた暗器もいい感じ。ブレスレットの一種にしか見えない。明日はこれを使って1人殺す事を目標にしよう!
立ち鏡の前から離れた私はタブレットを操作してある動画を再生させる。動画の内容は美容系ユーチューバーの化粧動画だ。明日はちゃんとした格好で向かわなければならないので、私は人生初のお化粧にチャレンジする事にした。
テーブルの上には様々な化粧品と鏡が置かれていて準備は済ませてある。財力に物を言わせて買い揃えたのだ。
「まずはベースから!崩れにくくするには下地が大事!」
なるほど?
「次はファンデーション!自分にあった色を見つけよう!おすすめはこれ!」
なるほど??
「アイプチメイクならこれ!」
え?あいぷちって何の用語だよ!?初心者向けとか嘘こいてんじゃねえぞっ!!
「コンシーラーを使って気になるクマを隠そう!」
釣られたクマー!
美世の長い夜は続く。
「…メイク落として寝よう。」
私のオススメにコスメと美容の動画しか出てこないぐらい様々な動画を見漁ったが、なんの成果も得られませんでした!お金をドブに捨てましたね。何回課金出来たんだろうか…うぅ涙でメイクが。
シャワーを浴びメイクを落とした私は身体と髪を拭いたバスタオルと一緒にベッドに倒れ込んだ。慣れない事は疲れるのが世の常である。私はそのまま眠ることにした。
本当ならあの家に帰ってから寝るはずなのだが今回は特別だ。父には沖縄で撮影があるから日曜まで帰ってこないと伝えてある。私の能力なら街中でばったり遭遇する事も無いしお土産を渡すような間柄でもないから嘘がバレる心配が無い。それよりも、もっと別な…ヤバっ眠い…
「明日は、早い…から……も、寝な…と…………」
今日は大人しい?回でした。多分しばらくは忙しい回が続くと思います。




