陰に陽光
あまり無い理華回。そしてそっと添えられて存在感があるルイスが同伴。
美世が突然蘇芳ちゃんを連れて会議室を出て行き、暫くすると蘇芳ちゃんだけが戻って来た。彼女の話だと美世は外へ出て取り憑かれた人間を狩りに行ったらしい。そういうことなら私も連れて行ってほしかった。私の能力なら殺すことは出来なくても長時間拘束出来る。調整体が相手でも日中なら問題無いし、何よりも美世の負担が少なくなる。
これは最近分かったことなんだけど美世は結構を手を抜いたり休んだりすることが苦手だ。本人は自覚が無いらしいけど一緒に仕事をするようになった私と天狼さんがそう結論づけるぐらい美世は休まない。
基本的に真面目なんだよね美世って。真面目でいて失敗をすごく恐れる。だから手を抜かないし、どんな仕事も全力で取り組む。
だから今回も恐らく全力で取り組みボロボロになってしまうだろう。身体の傷は能力で治せても心の傷はそう容易く治ったりはしない。彼女が夜にうなされる所を何度も見ているから心配で仕方ない。
やっぱり私も外へ行って美世と合流しようかと考えていたら急に蘇芳ちゃんが見たこともない取り乱し方をして組織全体が慌ただしくなった。
何故なら核弾頭ミサイルがこの東京に向かっているとあの蘇芳が断言したからだ。私もすごく驚いたし、天狼さんや他の処理課の人達も相当驚いていた。それに加えていきなりビルが少し揺れて大きな煙がここからそう遠くない場所で上がったのだ。
ここまでくれば深刻な状況下なのは間違いなく、皆が蘇芳の指示に従い自分に課せられた役割を果たすために会議室を後にした。
そして私は蘇芳ちゃん経由で美世からの依頼により核弾頭の迎撃任務に就くことなったんだけど…意味が分からないよ。能力的に私が適任なんだろうけどさ…。ミサイルを撃ち落としたことなんて一度も無いし、そもそも核ミサイルって撃ち落としていい物なの?
「いや、意味が分からないのは私の方なんだけど。」
私と同じく防衛の任務に就いているルイスは私と一緒に第一部ビルの屋上にて空を見上げていた。彼女は美世の命令に従ってずっとこのビルを一人で守っている。猟犬としても番犬としても優秀なんだよねこの人。彼女のおかげで美世や他の人達が自由に動けているから凄く助かっている。
「魔女ーズは蘇芳ちゃんの直属だけど正式に処理課に所属している訳じゃないから会議とか参加出来ないし仕方ないよ。情報が入ってくるのがどうしても遅くなるし。」
「いや、そういうことじゃなくて…」
ルイスは右手でこめかみを押さえながら話の腰を折ってくる。
「あのクソガ…蘇芳がミサイルを撃ち込まれるまで気付かないなんてことあるの?私はそこまで彼女の能力に詳しくないんだけど、こんな事態を見落とすなんてヒューマンエラーが発生する能力なの?うちの予言者と対した違いが感じられないわ。」
「予言者?あ、あの人か。確かメーディア…さんだっけ?凄いよねなんか。少し話しただけで頭痛くなったもん。初めて会ったのに小学校の頃のあだ名で呼ばれたり、私の能力を言い当てたりしてさ…ほんと凄いよね。」
「あれと何年も連るんでいると慢性的な頭痛持ちになるわよ。…いやこんな話じゃなくて。私が言いたいのは…」
「私も詳しくないよ。本人は話さないし知っているっぽい美世は話してくれないし…。」
最近…隠し事が多いんだよ美世は。しかも蘇芳ちゃんと言動が似てきている。それが凄く嫌。姉妹だから似ているのは分かるんだけど美世の優先順位の一位が蘇芳ちゃんになってきている気がするんだよね。女の勘だけど。
「神は語らず…か。」
そう言って物思いに耽るルイス。…いや、納得するのかい。それでいいの?信用してくれていないってことじゃん。そんなの納得できる訳が…。
「それで、ミサイルってどこから来るのよ。」
突然こっちに顔を向けて真面目な表情で問題に切り込んできた。彼女の独特なテンポについていけないよ…。
「蘇芳ちゃんの話だと西北西の方角でここから70°の角度から来るってさ。」
指を指してそこからミサイルが来ることを伝える。そして時間なんだけどミサイルが見えてくる時間は曖昧であと数分後って言っていた。…酷い話である。もうちょっと情報が欲しかったのに向こうは向こうで凄く気が動転していたから詳しく聞くことも出来なかったんだよね。
だから仕方なくひとりでここに来てしまったんだけど…ちょっと軽率過ぎたかな。
「…これ失敗したらこのビルに居る人間全員死ぬわよね?どうせここが目標なんでしょ?」
「多分ね。でも地下に核シェルターがあるから避難した人達は生き残れるかもしれない。」
「なんでそんなものあんのよ…。」
ルイスは驚いたような疲れたような表情で何故東京のど真ん中に核シェルターがあるのかを尋ねてきた。確か理由は…
「組織の創始者が戦争を経験しているからね。日本に核爆弾が落とされた経験もあるし創始者が付けるように指示したんだって。昔そんな話を聞いた気がする。」
「へー平和ボケせずに備えるなんて偉いわね。」
「いや、あんたも元々この組織に所属してたでしょうが。なんで他人事なの。」
「私はスカウトで入ったから組織の仕組みとか生い立ちとか知らないわよ。上司の男を寝取っただけで追い回す組織なんてここぐらいよ。」
「危険な思想を持っていたり日頃の行いや素行が原因で追われることになったって聞いたけど…。」
彼女にとってはそのぐらいの出来事なのかもな…。一般人とは感性が違い過ぎて正論が通じない。
「…なんで逃げないの?あなたって自分の命優先でしょ?」
少しだけ気になっていたことをルイスに聞いてみた。真面目に回答するかは分からないけど、気を紛らわしていないと緊張やらプレッシャーでおかしくなりそうだから…。
私が失敗すればとんでもない被害が出てしまうという意味の分からない状況下なのに現実味が全く無い。空からは白い雪が降っていてもう見慣れてしまった東京という街を白く染めている。私が失敗すれば真っ赤な炎と真っ黒な煙によってこの街は蹂躙されてしまうだろう。
「そんなの当たり前じゃない。というかみんなそうでしょ?自分の命を優先することなんて。」
まあ…そうだけど。でも、それだとあなたがここに居る理由にはならなくない?
「でも…それでも私には使命があるの。この世界の破滅を防ぐ為に私は同志たちを集めて活動をし続けてきたわ。」
…布教活動を?
「布教活動を。」
まさかの正解だったよ!布教活動だったよ!
「そうなんだ…。うん、意味分からないけど信念があってここに居るのだけはよ〜く伝わってきたよ。」
苦虫を噛み潰したような笑みで話を締めようと思ったらルイスの心に火がついたのか、饒舌に語り始めたんだけど勘弁してほしい…。これから東京都民の命が掛かった任務を成功させないといけないのに。
「メーディアから初めて世界の破滅を聞かされた時は与太話かと思ったわ。というか予言以外の話も大概だったけど。でも彼女は嘘を言わない。そこは蘇芳と同じみたいね。何か関係性でもあるのかしら…今更だけど。」
同じ系統の能力だから有り得る話だ。全く同じ能力の場合では同じ制約が発生する。分かりやすいのがテレポートかな。能力者をテレポートさせようとすると負荷が強まるという共通の制約が存在する。
「まあ、そんなことはどうでもいいわ。私は彼女の予言を信じて行動に移した。私だってね、この世界を守りたいのよ。その為に私は組織から指名手配されることになっても世界中を飛び回ったわ。」
なんだろう…彼女から世界を守りたいって言葉を聞くと違和感がある。そんな風に見えないし彼女のキャラじゃない。
でもな〜…その為に組織の総本山である日本まで来て危ない橋を渡っているんだよね。ちゃんと美世に世界が破滅しそうだって言って来てるし彼女の言葉と行動に嘘が無い。
「そして世界を救ったら私はみんなに尊敬され、崇められ、この世界の支配者になる…!」
あ、やっぱりルイスはルイスだった。欲望塗れの自己中な目的だったよ。良かった〜安心した。クズはやっぱりクズなんだね!
「美世と蘇芳が居るのにそんな地位は無理じゃない?」
「あのふたりは名誉や地位に興味がないから大丈夫。この世界が平和ならそれでいいって考えているもの。」
「…へー良く見てるね。」
私もそうだと思う。地位に執着とか無いからなあのふたり。そこがまた似てて嫌なんだけどさ。
「それなら私がこの世界を平和に導いている間は神になれる!」
「義務教育受けた?」
話が飛躍しすぎてて素で答えてしまった。もしかしたらベルギーでは将来は神になりましょうねって教えられているのかもしれない。
「私の話はもう良いわ。今はこの世界の破滅を防ぐ為に何をすべきか考えましょう。」
「お前が始めた物語だろっ!」
これは魔女ーズから反感を買うよ。人格破綻者でワガママでしかも自己中心的な態度に顔とスタイルだけ良い女とか女から嫌われる要素しかない。
「あなたの緊張感を解こうと思って話したのに。少しは気が紛れた?」
「…え?」
「屋上に来てからずっと顔色悪いし本当にこんなクソガキに任せて良いのかって心配なのよこっちは。」
「…他者を思いやれる機能があなたの脳みそにあったなんて…。」
「…駐車場の続きする?次はガチで殺すけど?」
まさかルイスからフォローが入るとは…。生きていれば色々と経験するもんだね。予想外でどういう顔をしたらいいのか分からないよ。
「いや、私が失敗したらどうせ私もあなたも死ぬし遠慮しておく。」
「死なせないわ。あなたが死ぬと神が悲しむというか私が殺されるもの。」
「…あなたの能力って核爆発すら無効化出来るの?」
「流石にやったことないし実践経験は無いけど私の能力はあらゆる物理干渉を無くせるの。死神の創り出すあの拳銃の攻撃も無効化出来たから多分いけると思うわ。」
それは…凄い能力だ。私の能力と相性が悪いせいでルイスの能力が凄いと思ったことが無いけど、彼女は最悪自分の能力で逃げられるからここに残っているんだね。じゃないと彼女は必ず逃げ出すもの。
誤字脱字報告助かります。ちょこちょこ直しているのでまた見つめましたら報告おねがいします…




