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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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動機

蘇芳が語った事を正確に理解出来る者が果たしてこの世界に何人居るだろうか。私はその中に入っているかどうか判断も出来ない。だって、何故そこまでして私に寄り添った凶行をしたのかが分からないから。


この二巡目の世界での彼女の行動の全ては2つの選択肢を生み出す為の凶行だった。その選択を選んだ彼女の動機が未だに不明なのが一番気になる。


「…正気?蘇芳は消したい側なのに私がこの世界を残したいという選択肢を取れる為に多国籍企業を利用したの?多国籍企業を後回しにしたのはこの世界を残すため…?」


「うん、ミューファミウムを潰すことは絶対に最優先だったし、私が能力に目覚めたタイミングを考えると多国籍企業にまでは絶対に時間が足りなかったからね。私にとってはお姉ちゃんが最も最優先なの。」


「ふんふん…蘇芳の目的も考えも分かったよ。」


本当に中学生?知っていたからといってここまで出来るものなの?確かにやらないと蘇芳自身が死んでしまうからモチベーションはあっただろうけど、いつ心が折れてもおかしくなったと思う。


「だから薬降るさんも利用した。彼女に流してほしい情報を多国籍企業に流させたりね。本人はそんなこと気付いてすらなかったけれど。でもそのおかげでこのタイミングで向こうが仕掛けてくれた。お姉ちゃんの能力が最盛期にね。」


「…だから薬降るさんをずっと処理課に残していたんだね。でもありがとうと言っておく。何も言わずに薬降るさんを組織に席を残してくれたから。」


薬降るさんとあの会議室で会えて良かった。誰も気付いていなかったし、薬降るさんも背負い続けていた重しからやっと解放されたと思う。


「彼女にはずっと二重スパイみたいなことをしてもらっていたからね。だから殺したりはしないよ。お姉ちゃんが悲しむし。」


「そのことに薬降るさん本人が気付いていないことが唯一の救いかな。」


こんな話、蘇芳としか出来ない。彼女と対等に話せるのはもう私しか居ないだろうね。


「私はお姉ちゃんが悲しむことはしたくないからね。…ずっと前から()()()()()()()()。」


そう言って蘇芳は顔を伏せる。確かにそんな約束っぽいことを初対面時にした気がする。約束を守る姿勢には感心するけどやってること結構ヤバイよ蘇芳ちゃん。


「じゃあ…さ、最後に聞いておきたいんだけど私が三巡目の世界に行かないって選択肢を選んでも蘇芳は邪魔しないんだね?」


「うん。私は三巡目に行きたいけどお姉ちゃんがこの二巡目の世界が良いって言うんだったらここに残るよ。」


「…そこが分からないな。なんでそこまでして私にとって有益な選択肢を用意して私を優先するの?蘇芳って私のこと怖いよね?」


純粋に気になって聞いてみたけど蘇芳が素直に話してくれるかは半々かな。だって、ずっとそこの部分を濁してきたからね。多分話したら駄目なんだろうな…。


「怖いけど…大切だもん。たったひとりだけもん。私のこと分かってくれる人はお姉ちゃんだけなんだもん…。」


…蘇芳は本音を言ったり、素の部分を見せる時に口調が幼くなる傾向がある。だから、これは蘇芳の本音だってすぐに分かった。蘇芳は嘘を言えないらしいんだけど、そんなことを根拠にしなくても見れば分かる。


「蘇芳のことを分かってあげられるのは私だけなんだね。そして、私のことを分かってくれているのは蘇芳だけなんだね。」


手を伸ばして蘇芳の小さな手を握る。…冷たい。もう部屋の中は暖かくなっているのに冷えているのは酷く緊張しているからだ。…蘇芳にとって私は緊張する相手で恐怖を覚える相手だってことになるけど、仕方ないよね。


「…こんな私でゴメンね。違う人が伊藤美世だったら良かったのに。」


「え…?」


突然顔を上げて私を見る蘇芳の表情は悲しそうでありどこか懐かしむような表情だった。


「…やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。まさか()()()()()()()()()()()()()()…。」


「前…?そんなこと言ったっけか…。自虐的なことを割りと多く言ってるし言ったのか。それに蘇芳はそもそもどの時間も知ってるもんね。」


「…はっ!…ゴメン混乱させちゃった。もう戻るよ。私はやることまだあるし。」


「あ、あ…うん。分かった。テレポートで送るよ。」


蘇芳が椅子から立ち上がり目を合わせてくれない。恐らくは失言のようなことを言ったんだけど思うけど、どこが失言だったのか分からない。でも、無理やり聞こうとするのは違う気がするから何も無かったかのように振る舞い、蘇芳を送り届けようとする。


だけど蘇芳は断り一人で戻ると言い残してテレポートを使って戻って行ってしまった。…どうしよう。話したくないことを話させてしまったみたいで罪悪感に襲われる。


(蘇芳…なんか泣きそうだった。でも泣かなかったのは私の為だよね。)


泣くと駄目だったんだ。あそこで泣くと蘇芳の目的に反することになる。だから泣かずに一人で戻って行った。それが彼女の覚悟なんだと思う。


「…私も行くか。暴動がチラホラと起こり始めてる。」


東京都内で人々が集まり不安をぶつけ始めている。これは危険だ。まだ物に当たる分にはかわいいけど、人にその抑圧された黒い感情が向けられれば、取り憑かれた人のようにこの世界を破壊しようとしてしまう。


東京でこうなら全国で起きてるし、海外なんてもう人殺しが普通に起きている。取り憑かれた人間が関与していないのにだ。


先ずは外に出ている組織の人達の正確な位置を見つけないといけない。特に能力者が取り憑かれたら最悪だ。もうどうしようもない被害が発生してしまう。分かりやすく言うと私やイザ姉、理華のような強力な能力者が取り憑かれたら多分1ヶ月で日本中の人間を殺しきれると思う。


でもそこまで強力な能力者は私の射程圏内に居るから大丈夫。問題なのはそこまで強くなく、取り憑かれてもそこまでベルガー粒子が多くない人達だ。


大した能力者でなくても無能力者の一般人は簡単に殺してしまえる。だからここに属する能力者も見つけないといけない。


次に取り憑かれて問題が大きくなるのは警察官や自衛隊のような銃を持った人達、若しくは銃器が手に入る人達だ。日本にだって銃器を製造している場所はある。ここが多国籍企業の手に落ちたら加速的に被害が大きくなってしまう。


優先順位を決める必要がある。その優先順位は先生とマザーに決めてもらったけど、あれは私が一巡目の世界に向かって話し合いをしていた時だった。


「私が敵なら原子力発電所を狙います。そこでウランを入手し、人工密度が多い地区で放射線をバラ撒きます。そして放射線がバラ撒かれたと敢えて知らせてパニックを狙いますね。これだけで数百万人は殺せます。」


「そうだな。数人の関係者がいれば持ち出すことも可能だろう。そして次に危険なのは軍事施設だろうな。ミサイルが人口密集地に撃たれればもうどこにも逃げ場が無くなる。人が集まっているということはそこが安全だからだ。安全な場所を破壊していくのは効率的な戦略方法だ。」


このふたりエグい方法をぽんぽんと提案するな。侵略者特有の遠慮の無さがある。でも、参考になるからこのまま聞こう。早く二巡目の世界に戻りたいけどまだ行くには早すぎる。


「取り憑く相手を無差別に指定するパターン、取り憑く相手を決めて狙う2つのパターンが考えられます。無差別のパターンはウイルスのように周辺の人間を狙い、個人を狙うパターンは恐らくもう接触は済んでいる。でないとここまで大きく向こうが動く筈がありません。」


「認めたくないが同感だ。敵はもう用意を終えている。防ぐのは無理だと考えていい。ミヨのするべきことは被害を最小限に留めることだ。防ぐことではない。」


「分かってます。防ぎ切れなかった自覚はありますから。だから相談に戻ったんですよ。そして手を貸してください。最悪…先生には()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


私だけだと無理だけど、先生となら射程を大きく増やすことが出来る。だって、先生は私の能力【探求(リサーチ)】を使えるから。

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