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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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姉妹終い

うん、久しぶりに人とのスキンシップが取れたし、これなら暫くは大丈夫。蘇芳ちゃんから離れて椅子に座り軽いお話を始める。


「ありがとう蘇芳ちゃん。蘇芳粒子が補給出来た。」


「私も美世お姉ちゃんエキスが身体に付着したよ。」


「なんか汚らしい表現じゃない?気の所為?」


あれ?もしかして私ってそんなに妹から慕われていない?あれ?泣きそうだよ?


「それで、何でここまで移動したの?」


「あ、えっと、イザ姉や炎天に聞かれたくなかったから。異形能力者って耳も良いじゃん?部屋の外でも聞かれちゃうかなって。」


つまり誰にも聞かれたくない話をこれからするって事だけど、別に聞かれてしまっても良いっちゃ良いんだよね。ただ余計な情報を与えてイザ姉たちの判断が鈍る可能性があるから配慮して二人っきりになったってだけ。


「私が何をして何をしようとしているのか確認したいんでしょ。」


「う〜ん〜まあそんな感じかな?確認するだけで蘇芳の意見を否定するつもりは無いからそこまで構えなくていいよ。私の考えも知りたいでしょ?」


「うん。分かっているつもりだけど、お姉ちゃんの考え方とかもう読めなくなったし、お互いに話し合いが出来たらなって思ってたから良いよ。」


ここまでの話の流れからとても良好にスムーズに進んでいるが、これは両者ともに同じ考え方を共有しているからだ。これが処理課相手だと話は変わってくる。会議室で行なわれていたような話し合いにもならない時間の浪費が延々と繰り返されるだろう。


「私はこれから人狩りに行くよ。取り憑かれた人間もベルガー粒子も消し去る。敵の数にも限度があるだろうしいつかは終わると思うから。」


「…うん、いいんじゃない?お姉ちゃんらしい選択だと思う。」


反応が思っていたよりも普通だ。もっとこう…なんかあるじゃん?それとも蘇芳は知っていたのかな?能力で知っていた訳じゃなくて蘇芳自身の予想でさ。


「じゃあ次は蘇芳の番ね。どうするつもりなの?中々にこの世界終わりに向かってるよ?」


蘇芳は少し考えてから私の質問の答えを口にする。その時に彼女の口元を見て蘇芳の口は小さいなって変な感想が頭の中に浮かんだ。


そうなんだよね…ちっちゃいんだよね。もう私のほうが身長が頭2つ分もデカくなってしまったから蘇芳がとても幼く弱々しく見えてくる。少し前までは恐怖の対象だったのに、今じゃこんなにも頼りなく映ってしまう。


年下で私の妹で、生意気なんだけどそこが可愛くもあり、年不相応に色々と企んでいるような14才の女の子…。そんな子に対して世界は色々と求め過ぎだ。彼女が望んだ能力じゃないのに、視力を完全に失う羽目になった私の愛する妹は、今も表面には出さなくても心の内では姉である私のことを恐がっているのだろうか。


「私は()()()()()()()。こんなお姉ちゃんに優しくない世界…私はいらない。」


「…なるほど。まあ、良くはないよね二巡目(ここ)って。私は一巡目の世界を知ったからこの世界を一巡目のようにしない為に動いているけど、蘇芳は三巡目の世界を知ってるもんね。」


私も終わらせたい。でも私と蘇芳とでは終わらせたいという言葉の意味合いが違ってくる。私はこの危機的状況を終わらせて、二巡目の世界を継続させていくつもりだけど、蘇芳は二巡目の世界を終わらせて、次の三巡目の世界へと行くことが目的。


まるで違うけど私達の共通点としては被害を最小限にしたいという気持ちがある。まあでも私達以外の人達からすれば被害を最小限にする為にも私と蘇芳が今すぐに行動に出ないといけないんじゃないかって考えるだろう。


でもね、すぐに行動することが最善の方法なんていうのは愚策と言わざる得ない。私と蘇芳だけが最善のタイミングで最善の方法を取れる。先の展開を知っているから最悪の展開を回避出来るんだ。


「うん…。なんか、変わったね。もう私の知ってるお姉ちゃんじゃない。」


「蘇芳の知ってる私っていつまでの私?私ってどこのタイミングから蘇芳の知る私から離れていった?」


素朴な疑問だけど少し気になる。蘇芳の能力って結局彼女自身しか知り得ないからね。


「う〜ん…お姉ちゃんのお母さんの一件が終わった辺りからかな…。」


「あぁ…そうだね。一巡目の世界と違う点だもんねそこ。じゃあ、そこからの私って二巡目だけに存在する私なのかな?」


「まあそうかな。」


こうやって蘇芳と他の時間軸に居る私の話をするのは初めてな気がする。一方的に聞かされることはあっても私から聞くこと無かったし。


「ふ〜ん。貴重な話が聞けて満足したよ。蘇芳のやりたい事聞けたし。」


「別に全部話した訳じゃないけどね。」


「別に全部は聞かないよ。話したくなかったら話さなくていい。蘇芳ちゃんは私に対して気を使わなくていいし、やりたいことあればやってていいよ。私は適当にお外で活動してるからさ。」


引きこもりの蘇芳は外で活動したりしないだろうから棲み分けは出来る。蘇芳は蘇芳のしたいことをしていればいい。それが許される立場なんだし誰にも止められないしね。


だって蘇芳は私とパスを繋いで先生の能力を…


「あれ…なんで今の今まで気が付かなかったんだろう。そうじゃん。別に私の意志を無視してやればいいのに…。」


私は眼鏡を外し考えをまとめ始める。蘇芳の目的は三巡目の世界へ行くこと。それによってこの二巡目の世界を終わらせることが目的だ。なら今すぐやればいい。彼女も特異点だ。


私の能力を貸し出しているというか勝手に借りることが出来るんだからこの二巡目の世界を【再開(リセット)】すればいいはず。


なら何で蘇芳はやらない?もしかして出来ないのか?能力を行使するのに脳みそが耐えられないとかかな?でもそんなこと言ったら私もキツいよね?先生みたいなベルガー粒子というか能力のみの存在じゃないと難しい気がする。


「おっ、気付いたね。流石はお姉ちゃん。」


「えーなんでこの子嬉しそうにしてるの。お姉ちゃん分かんないよ…。」


ちょっと引き気味に妹を見る。何考えているのこの子マジで。異常じゃない?私の妹なだけある。


「私は私の目的のために動いている。私の言動の全てがその目的のために使われ、私の選択はその目的に対し最善の方法であるの。」


「そんな誠の好きなカードゲームに書かれてる効果の説明文みたいなこと言われても…。」


「誠の話をしないで。美世の家族でもないのに。」


…なんだ今の。いや待て待て待て…どいうこと?なんで蘇芳は誠のことをそんなに毛嫌いしてるの?嫉妬?それとも別に何かある?蘇芳がなんで自分でこの世界を終わらせないのかという話から逸れてしまっているのにこっちの方も気になっちゃうよ。


「お姉ちゃんの家族は私なんだから家族じゃない子の話なんてどうでもいいでしょ?」


「いや、一緒に過ごして来た時間なら誠のほうが長い…」


「私のほうがずっと長いッ!!」


テーブルに両手を叩き付けて蘇芳が立ち上がり今までで聞いたことのない怒声を浴びせて来た。…まさか地雷を踏んだ?蘇芳の地雷は誠なの?


「私のほうがずっとずっとお姉ちゃんと一緒に居たッ!お姉ちゃんが大変な時や辛い時に一緒に居てあげれたのは私ッ!!なんでそんなに誠のことが大事なのっ!?ねえ!私のほうがお姉ちゃんのこと大事に思ってるよっ!?」


目を開けて真っ青になった目を晒しながら蘇芳は吠える。だけど熱くなっていく蘇芳とは真逆に私の身体は冷えていく。普段怒らない人が怒ると怖いと言うが、私は彼女の想像もしたことのない姿を見て頭が全く動いてくれない。


「私が何でこの世界を終わらせないと思う?私が前にお姉ちゃんの味方だって言ったの覚えている?」


「お、覚えてるよ。でも、なんでそんなに私にこだわるのか分からない。私は…家族を殺したサイコパスで、何回も蘇芳を殺そうとしたのに、なんで蘇芳は…」


分からない。分からない分からない分からない分からない分からない。分かるのはいま彼女の闇に触れているということだけだ。どんな人間にだって闇の部分があるけどこんな激しい感情を彼女が持っていたなんて…。


「私だけがお姉ちゃんを知ってる。お姉ちゃんの目的も知ってる。だから私は2()()()()()()。残す選択と消す選択を。」


蘇芳はテーブルに人差し指を置いて文字を描く。


「この世界を消す選択も用意した。美世お姉ちゃんがこの世界を消したいのなら私が協力する。私と美世お姉ちゃんと伊弉冉お姉ちゃんとパスを繋ぎユニゾンすればギリギリこの世界を【再開(リセット)】出来る。」


1人で無理なら3人で…か。それなら出来るんだね。先生の時みたいに千年前まで遡る必要無いし、数年程度なら行けるのか?


「そしてこの世界を残す選択も用意した。無能力者も能力者も支配出来る最強の能力を持つ美世お姉ちゃんならこの世界を手に入れられる。もう誰にも傷付かせない。お姉ちゃんが望むなら私はお姉ちゃんの味方であり続け、お姉ちゃんが暮らしやすいようにこの世界を整地する。…私がこの世界で暗躍し続けた結果はね。要らない人間も社会も全て消し去ってから必要なものだけをこの二巡目の世界に残すという選択なの。」

姉も大概ですが、妹のほうが大概です。

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