三度の邂逅
一日遅れの投稿です。腕の痛みが酷くてスマホの操作も出来ませんでした。次の投稿も延びるかもしれません。
さて、役者は揃った。しかしあいの風と蘇芳と天の川と天狼を除く面々は思う。来たら来たらで面倒だと…。あいの風はこの停滞した状況を打破するには火薬量が多すぎる爆弾だ。大抵碌でもない結末へと向かうことになるだろう。
しかし起爆剤としては最高水準であることも事実。あの蘇芳を動かせるのは最早あいの風しか居ないのだ。…それは、もうとっても悪い方向へと。
「…皆が集まったことですし話し合いを続けましょう。」
このメンバーの中でもマトモな感性を持ち、立ち振る舞いも完璧である宵闇は敢えてあいの風がどうやってここに現れたのかを無視し、話を前へと進めようと進行役を務めることにした。あいの風関連で掘り下げても頭痛の種が発芽するだけだとよく知っている者の判断だ。
『お姉ちゃん…来てくれたんだね。』
『遅くなってゴメン蘇芳ちゃん。こっちの様子はちょこちょこ見てたんだけど中々時間が掛かってさ。』
心のなかで手を合わして謝る美世に蘇芳はしょうがないなと一言だけ返して席につく。今の蘇芳では美世のことを把握することは不可能。美世がいつここに戻ってくるのかは蘇芳ですら知らない。
「あいの風、今の今までどこで何をしていた?」
蜃気楼は代表して最も聞きたいであろう内容を質問する。そしてほぼ恐らくだが頭の痛くなるであろう回答が返ってくるだろう。
「最善策を講じていました。」
「…そうか。」
彼女の返答に対して何かを言うつもりは元々無かったが、予想外の回答というよりも予想外の反応だった。彼女にしては珍しく余裕が無い。今も何かを考えているかのような様子が伺える。
「そろそろ蘇芳も話してくれない?情報が全くといって集まらない。しかも外に居る組織のメンバーが締め出されてしまっている。そこに居るあいの風の命令のせいで。」
竜田姫に対して密かに恋心を抱いている大学生なような雰囲気の男、初凪が蘇芳に対して発言をする。蘇芳はあいの風が居れば口が軽くなるというのはここに居る全員が共有している事実で、ここまで蘇芳の口が硬かったのはあいの風が居なかったからだと初凪は考えていた。
「正しい判断だからあいの風の命令を取り消さずにそのままにしているんです。」
「…理由は教えてくれるのかい?どうして外に閉め出しているのかを。」
「その判断が私とあいの風にしか出来ないからですよ。皆が知っている通り敵は人に取り憑く。近付けば取り憑かれて相手の手駒になります。だから閉め出しているんですよ。」
「なるほど、納得したよ。」
まあ、そうだろうなとはこの場に居る全員が思っていた。しかし明言されないので予想でしかない。その為に場が停滞してしまっていたが、これでようやく次へと進むことが出来る。
「じゃあ、あいの風さんと蘇芳さんが居れば敵か味方か判断出来るね!」
竜田姫さんの言葉に先程から無言で座っていた薬降るさんが苦々しい笑みを浮かべるのをあいの風は見逃さなかった。
みんなが居るから声を掛けることは出来ないので、私は薬降るさんに微笑みかけるのみで済ませる。…あ、気付いて気まずそうに微笑み返してくれた。
あと理華がさっきからそわそわしていて熱い視線を向けてくる。でも私は敢えて彼女を無視する。そういうのはまた後でね。絶対に時間がかかりそうだから。
「判断出来るからといって事態が良くなるとは限らないけどね竜田姫さん。」
「どういうこと?」
竜田姫さん…というか、ここに居る中で私と蘇芳以外はまだ考えが甘い。まだどうにかなるという希望的観測から来る甘い考えをみんなの発言から見受けられる。
「私と蘇芳しか判断出来ないなんて誰が信じるのですか?」
「え?それは…ここに居るみんなじゃない?そんなの当たり前でしょ?今更ふたりの能力を疑ったりなんてしないから。」
「じゃあ、皆さんが私と蘇芳の判断を信じるとして、皆さんの判断を誰が信じるのですか?」
「…うーん、ちょっとあいの風さんの言いたいことが分からないかな〜って…。」
…見た感じ、今の段階で私の言いたいことに気付いているのは薬降るさんとイザ姉だけか。理華は…どうでも良さそう。でも、こういう考え方をしているほうがこれからの時代生き残りやすいかも。
「いきなり知り合いの人間が別人のようになったりしたらどうします?ベルガー粒子に取り憑かれたなんて発想は起こらないですよね普通は。一般人にそれを理解させるのは不可能です。」
「それはそうだけど…全てを理解させる必要あるの?」
「理解出来ないというのは凄まじいストレスを生み出し、人間同士の信頼関係を崩壊させます。さっきまで蘇芳に皆さんがしていたような糾弾が全世界で始まりますが、話し合いで済めばいいですね。」
「おい、言い方に気を付けろ。皆が皆、蘇芳だけに責任を押し付けようとしていたわけじゃない。」
イザ姉が反論してきたけど、結局それに意味なんて無い。だって…
「言ったでしょ。話し合いで済めばいいって。天狼は私と知り合いだから言葉で済ましたけど、味方じゃない相手に対しては?敵じゃないと判断出来ない相手は?ここで私達が話し合ったって外に居る他人は私達の話も関係性もどうでもいいんだよ。」
ここに居るみんなで信頼関係を築いても意味が無い。問題はこの部分だ。今も問題が起きているのは内ではなく外で、私はその根本的問題を解決するために戻って来ただけ。話し合いに来た訳じゃない。
もし、話し合いをするとしたらその相手は蘇芳だけだ。彼女だけが私と同じ先まで理解している。
「私が外に行って取り憑かれた人間を片っ端から消し去るよ。それが確実で一番問題が無い。蘇芳、ちょっと話があるから一緒に来て。」
私はそう言って席を立ち蘇芳を部屋の外へと連れ出す。イザ姉と理華が付いて来ようとしていたので私は目線でふたりを制し、ここは蘇芳とふたりだけで話したいと目で訴えた。
「ありがとうお姉ちゃん。あそこ息が詰まりそうで頭がイカれそうだったの。」
「私もああいうの無理。会議?みたいな空気感無理なんだよね。」
部屋を出てすぐにテレポートを使い私達の家へと向かった。…寒い。暖房の類を使えないから仕方ないけどこの寒さは私よりも蘇芳に堪えそうだね。
「いきなりテレポートしないでよ。それにここ寒いし。」
「ごめんごめん。ちょい待ち。…【再発】act.発火能力。」
部屋全体に火の玉を生み出し部屋の温度を上げていく。これならすぐに過ごしやすい温度まで上がるでしょ。
「へー向こうでコピーしてきたの?」
「うん、便利でしょ?他にも色々とコピーしてきたんだよ。サバイバル生活でも不自由なく過ごせるようにね。」
私は我慢が出来なくなり蘇芳に向き直って思いっきり抱きしめた。家族との触れ合いに飢えていたせいで断りなく抱きしめたけど、蘇芳は若干びっくりしながらも抱きしめ返してくれて姉妹ふたりで抱擁を交わす。
「おかえり…って言いたいけど痛いよお姉ちゃん。」
「あ、ごめん!痛かったよね。もう少し弱くするよ。」
蘇芳は華奢だ。能力者とは思えないぐらい身体が弱い。多分無能力者と変わらないと思う。だから大事に大事に抱きしめて蘇芳の頭を撫で回す。
「髪には触らないで。」
「あ、はい。」
めっちゃ冷たい声に私は我に返って蘇芳の頭から手を離す。蘇芳ちゃんってお洒落さんだからセットした髪に触られるの嫌いだったの忘れてたよ。私とはこういう所が違うな…。




