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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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世界事情

さて、どこから話したら良いのでしょう。私の人生を全て使い、言葉を紡ぐことに注力しても他者を納得させたり理解させるには事足りない。もし何百年も私に時間が与えられ、その時間を全て使って言葉を重ねたとしてもその間に事態は急変し、また必要な情報というのは移り変わる。


だからこそ個人個人それぞれで情報を集め精査し、必要ならば他者と情報を共有して結論を導く必要があると私は考えている。


そして情報の量よりもどの情報を持ち合わせているかでその者と話し合いをするかどうかが決まる。意味のない情報ばかり持ち、その情報こそ真実だと考えるような愚者たちとは口を利きたくない。


この私と対等に話せるのはこの世界でただ一人だけ。私の大好きなお姉ちゃんのみが私の話を理解することが出来る。


だけどそのお姉ちゃんはまた一巡目の世界へと向かい何か話をしているみたい。…マザーやアイン達と話しても美世お姉ちゃんの求める真実には決して辿り着けないのにね。あぁ…早く戻って来てくれないかな。じゃないと私…


「おい蘇芳よ〜?この事態をどうするつもりなんだァ?責任取れるのかよ。」


「能力者という存在が世間に露呈してしまった時よりも事態は深刻だ。お前の能力でそれが分からなかったのか?」


ストレスで頭がやられそうだよ。愚者たちの相手なんてしたくないし、もう適当にあしらうのも面倒くさくなってきた。彼らのお悩み相談室なんてしたくないんだけどな。


蘇芳が椅子に背中を完全に預け、他の者たちは今にも椅子から立ち上がりそうな雰囲気の中で東京支部の処理課に与えられた会議室に能力者たちが一つのテーブルに集まり、これからのことについて話し合いが行なわれていた。


室内は無駄なエネルギーを使わないように照明の類は付けられておらず、窓から入る陽の光のみで室内を明るく照らされている。


もうこのような生活が始まってから70時間が経過し、特に明瞭な対策が打てないまま多国籍企業による全世界同時テロから3日目の朝を迎えていた。


「電気が使えないのは発電所を狙った攻撃ではなく発電所から伸びる電柱が折られたからです。多国籍企業に操られている一般人がトラックに乗って電柱に激突したことが原因なのですが、これだけでインフラの数々が使い物にならなくなります。非常に低コストでお手軽な破壊行為ですね。」


多国籍企業の手は根深く世界中に張り巡らされている。彼らに操られている人々の数も多く、たった100人程度がトラックを乗り回した結果、一夜にして日本中に供給される電柱をへし折られてしまった。


だけど別に何十、何百万本もの電柱を折ったわけではない。数として177本程度だけどこれだけで日本中の電気の供給手段を破壊出来る。


何故なら発電所で作り出された電気とは常に流れないといけないから。当たり前だけど発電所などで作り出した電気は膨大で、その電気を1箇所に蓄えておくことは現代の技術では不可能だったりする。


つまり作り出した電気はすぐに日本中へと送らないといけないということ。需要と供給とのバランスが崩れると発電所は電気を作らないように安全装置が作動するようになっているが、それは前述で語った通り発電所内で電気を貯めておくことが出来ないからだね。


だから日本中の発電所は無傷で職員たちも無事だけど、発電所で電気を作ることは事実上不可能になっているから電気が復旧することは無い。電柱を直さない限りは。


でもその指示を出す者と聞く者たちの間に連絡手段が存在しないから復旧するのは難しい。今は自主的に直そうとしている人達も居るには居る。


しかし問題なのはトラックに乗って電柱を破壊していた人々は重傷か又は死亡しているけど、その人達の周りに居る遺族や医者にベルガー粒子が移ってまた破壊行為を始め出すこと。


プログラムされたベルガー粒子は宿主が死んでも寄生先を変えてプログラムされた行動をひたすら繰り返していく。このベルガー粒子をどうにかするには美世のようなベルガー粒子そのものを破壊する能力が必要になる。


だけどその本人が居ないし、美世の射程も万能ではないから全国で起きているテロ行為を止めるには相当の労力と時間を強いられることになるだろうね。


しかも日本だけではなく世界中で同じ様なことが起きている。勿論だけど電柱のような外に設置するのではなく地下に電線を通している国もあるけど、こっちのほうが復旧が難しい。なんていったって地下にあるからね。一度破壊すれば電気の使えない環境下で修理は無理だよ。


そして日本よりも火薬や銃火器を手に入れやすい国ではとんでもない速度で公共施設などにも被害が及んでいる。また日本はまだ目に見えて危機感の感じる事態になっていないからパニックになっていないけど、いわゆる発展途上国のような国で凄まじい殺し合いにまで発展してしまっている。


テロ行為が起きる前の段階で世界人口は78億2178万7899人も居たのに今では77億8961万615人まで減ってしまった。たった3日で3000万人近くが死んだんだからもしこれがニュースで速報されたら世界中で大パニックになっただろうね。


まあ、ニュースすら報道されない段階にまで急速に進んだんだけどさ。


あ、それと死んだ人の内訳は2000万人が病気で死んで残りは人間同士の殺し合いで死んだって感じ。


世界中の病院には電気が使えなくなれば呼吸が出来なくなったり心臓を動かしておけなくなる入院患者が存在する。発電機が置かれていない病院なんて世界中にいっぱいあるからね。どこも日本のような設備を持った病院が国内全域にあったりはしないんだよ。


「…おめえ、フザケてんのか?」


おっと、炎天が私の胸ぐらを掴んで椅子から無理やり立ち上がらせてきたけど私は無抵抗のまま思考を続けることにした。


この者達は本当に頭が悪い。本当に私と同じ能力者?なんで主観でしか物事を見れないのだろう。


私は未来を知っている。だからこのくだらない話し合いが進んでいくと、いつ停電が復旧するのかという話になって最終的に私に聞いてくるのだ。だから私はその答えを皆に話したのに、そのことを皆が理解していない。


私は貴重な時間を無駄にしない為にくだらない話し合いを短縮してあげたの。…それも分からないなんて本当にお馬鹿さんたち。


美世だったら私の言葉を聞いて思考し、私の時間まで短縮してくれる。何故このタイミングでこの情報を話したのかを考えてくれるのは美世だけ。イザ姉ですら私の思考を図りきれていない。まあ考えてくれるだけマシだけど。


今この室内に居るのは美世を除く処理課のいつものメンバー。日本を代表する能力者たちの集まりだけど情報が絶たれた状況下のせいか頭の回転がいつもよりも鈍い。


「おい炎天、蘇芳を離せ。でないとお前の腕をへし折る。」


「おい天狼、お前はまだコイツの味方をすんのかよ。何か弱味でも握られているのかァ?」


「違う。蘇芳の首が締まって今にも窒息しそうになっている。」


天狼の一言で皆が蘇芳の顔色を見ると、真っ青になって苦しそうにしている彼女の苦悶の表情が目に入る。


「…お前本当に能力者なのかよ。自身の体重で首が締まるとか貧弱過ぎんだろ…。」


炎天は手を離し蘇芳を解放する。そして自由になった蘇芳は椅子に座り直しながら深呼吸をして今すぐ部屋を出ようとした。ここまで流れを知っていた彼女にとって最速で文句を言われずに部屋を出る方法がこれだったのだ。


(ちょっと三途の川を見るだけでここから離れられるのなら安いもの…。)


これから起こる会話の内容を知る蘇芳は何も得るものが無いと判断している。1時間掛けて話し合っても何も進展しないと知っているのにここに居続ける理由など無いからだ。


「はあ…結局のところあいの風はどうしたのですか。少し外へ出ると言ってからかなり時間が経ってますけど。」


「ねえ?こういう時にこそ居てほしいんですけど、天狼さんは何か聞いていますか?」


「竜田姫、私があいの風の行動を全て把握出来る訳ないだろ?なにを考えているかすら良く分からない。」


探知能力者として最高水準を誇る組織の問題児ことあいの風の所在地を知りたくて集まった者も多い。だが椅子から立ち上がりここから去ろうとしている蘇芳が話す気が無い時点で知る手段が無いのも事実。


蘇芳もあいの風も優秀すぎる能力者だが、ふたりともかなりの問題児なので大人勢である彼らは未成年組の扱い方に困り果てていた。


そしてそんな時に空席だった席に突然彼女は現れた。元々そこに居たんじゃないかと思わせるようなふてぶてしい態度でテーブルに載せられたお菓子に手を伸ばす彼女こそ皆が求めた探知能力者。


「やっぱり甘い物があるここは最高だよね。」


そして皆が頭を悩ませている問題児であるあいの風が皆の前に現れたのだった。

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