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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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乗せられる

方向性が決まるお話です

じゃあ…そろそろ言いますか。私がここに来たのは別に様子を見に来ただけじゃない。能力でいつでも様子を見れるのにわざわざ直接来たりしなくていいし。


「えっとね、ここに来たのはみんなを避難させる為になの。いま外がどんな状況か3人は分かる?」


「待て待て、美世どうした急に?避難はしたいが私は車を持っていないし、避難するようにはまだラジオで言っていなかった。」


スマホが使えなくてもラジオはまだ機能しているっぽいけど、恐らく発電機かバッテリーがあってラジオの放送は出来ているだけで、ラジオ局員もスマホや電子機器が使えないから情報を得る事は出来ていないはず。


もし情報を得れたとしてもまさか世界中で行なわれている多国籍企業のテロ行為自体は予想すら出来ないだろう。


「いま世界中でテロ行為が行なわれているの。そのせいで停電が起きたけど多分復旧することはない。これから先ずっとね。」


「美世ちゃん…?」


私の幼馴染である舞帝虹ちゃんが不思議そうに私を見始める。こんな私を見せたことがないからね。突然でまだ飲み込めていないみたい。


「人間社会では信用と信頼のもとに成り立っていたけど、人間そのものに信用性が無くなって社会性が保たれなくなるの。信用出来るのはまだ社会が崩壊する前の私の射程圏内に居る人間のみになる。そこにみんなを入れたいから私について来て。」


「あの…美世さん?どうしちゃったんですか?何かの漫画読んで影響されちゃったんですか?」


ヤバい。変な子だと思われている。いや、昔から変な子だと思われていたわ。


「もしそうだったらどれだけ良かったか…。でも、本当のことなの。まだみんなは実感が無いよね。だって停電してスマホが使えないだけだもんね。でもさ、これが明日も続いたら?冷蔵庫にある鶏肉や白菜があるし、このカセットコンロで鍋にでもして食べれば過ごせるよね。でもそれ以外だとマヨネーズや牛乳とかしかないから明後日からは外に出ないといけなくなる」


「…なんでうちの冷蔵庫の中身が分かるの?」


澪さんが私がなんで冷蔵庫の中身が分かるのか気になり、質問をしてくるけど私は答えずそのまま続けることにした。


「でも外へ出ても店は開いていない。個人経営とかお店の人が気を利かせれば食料を入手出来るかもしれない。農家の人達が個人で売ってくれるかもしれない。それでも一年後はどうなる?日本の生産力じゃ国民全員を飢えさせないようには出来ない。」


一巡目の世界と同じルートを辿っている時点で必ず食料不足に陥る。そして人口も激減し現在の社会は消滅して新たな社会へと変わることになるだろう。そのことを私は知っている。だからここで動けるのは私だけ。先の展開を知っている特異点である私だけがこの家族を守る事が出来る。


「美世…昔から少し思い込みが激しい子だったけどここまで酷くなるなんて…。今日は泊まっていき。布団はあるから。」


「駄目か…昔から知られている相手だとこんな説明に説得力持たすの無理だもんね。…しょうがない。ちょっと見ててね。」


眼鏡を外して空中に固定し、そして私は一歩その場を後退して彼女たちの反応を伺うことにしたが…本当に知り合い相手に能力を使うのは緊張する。手先が一気に冷えて目眩を感じるぐらいこの行為自体に忌避感を覚えるけど、避けては通れないよね…。


「えっ?なにこれ…マジック?」


「美世さんこれどうやったんですか?」


まだ子供である香桜くんと舞帝虹ちゃんのふたりは何かのマジックと思い眼鏡に触れるけど、澪さんは眼鏡じゃなくて私の顔を見て固まっていた。…さっきも私の顔を見て固まっていたけどどうしたんだろう。私ってそんな変な顔をしてるのかな。


「香桜くん。その眼鏡に捕まってぶら下がってみて。」


「え!?そんなことしたら落ちちゃいますよ!」


「絶対に落ちないし、これがマジックでは無いってみんなに分かってもらいたいからさ。お願い、捕まってぶら下がってみて。」


香桜くんは私の言葉を聞いてすごく不思議そうにしながらも眼鏡に手を掛けてぶら下がろうとし、片足を上げてそれから両足を上げてぶら下がってみせた。


「…俺眼鏡に捕まってるよね?」


「うん…ぶら下がってるよ。美世ちゃん…これなんなの?」


ふたりの視線が私に向けられる。もうふたりは私が話す内容を冗談として受け取れないと思って良い。問題なのは澪さん。この人を説得しないとこの家族は避難してくれない。だってこの人は家族思いで子供の為なら私を切り捨てられるほど強いお母さんなのだから。


「超能力だよ。ずっと黙っていたけど私は能力者で、とある組織に加入してそこで仕事をしているの。その仕事の関係で、今この世界で起きている問題を知ることが出来て、それでみんなを避難させに来たってわけ。」


眼鏡から香桜くんの手が離れたタイミングでサイコキネシスを使い私の元まで引き寄せる。ここまで見せれば私が能力者であるとふたりは信じてくれたはず。そして私の言葉が真実であることも理解してくれただろう。


「あんた…今自分がなにを言っているのか理解しているの?」


「澪さん?私が言った内容の意味なんて1つしか無いですよ。真実ということだけです。」


何なの…何か気に障ったのか澪さんが珍しく怒っている。澪さんが怒った時なんて大昔に勝手に火を使った時ぐらいで、澪さんが怒った所はほとんど記憶に無い。だからなのか、少し澪さんに気圧(けお)されてしまう。


私にとって澪さんは第二の母親みたいなものだから、昔から頭が上がらない相手だけど、ここで引くわけにはいかない。澪さんには死んでほしくないから。


「それが本当なら尚更でしょうが。なんでここに来たの。他にやるべきことがあるんじゃないの?他に助けられる人達が居るんじゃないの?」


「驚いた…澪さん、私の話を全て信じてくれたんですね。」


じゃないとここまで怒れない。香桜くんと舞帝虹ちゃんは子供で私を姉として慕ってくれているから信じてくれたけど大人である澪さんも信じてくれるとは思わなかった。


そして香桜くんと舞帝虹ちゃんは驚いて固まってしまってる。澪さんが怒っているところなんて子供であるふたりでも滅多には見れないからだ。


「こんな時に嘘をついて人を困らせる子じゃないって知ってるからね。だからこそ怒っているの。美世、あなたにそんな凄い才能があったなんて知らなかったけど、その才能を認めてくれて必要としている人達が居るんじゃないの?」


心臓がキュッとして締め付けられたような感覚を覚えた。この人はどんな人生を送ったらこんなことが言えるようになるのだろう。


私はそんなことを澪さんの言葉を聞いてそう思った。澪さんの考え方は私を自分の子供として見ていないと出てこない発想だ。


澪さんは私を必要としている人の為にと言った。つまり澪さんは私を必要としていない。別に信用していないとかそういうわけじゃなくて、私を子供として見ているから私に助けを求めるという発想がそもそも無いんだ。


「私は客の髪を切ったり染めたり、たまに話を聞いてあげることしか出来ない。子供たちの面倒だってちゃんと見てあげれていない部分があるし、この子たちのクラスメイトやその親から良く思われていないのも分かってる。」


言葉が出てこない。レスバには自信があったけど、澪さんの言葉に対しての回答を私は何も持ち合わせていない。


「でもあんたは違う。人と違う才能を持って人々を救える力がある。だから美世、あなたはここに来るべきではない。私はそう思う。」


「…でも、救う人の優先順位はある。私は澪さん達に生きていてほしい。」


「自分たちのことは自分たちでどうにかする!子供が大人の心配しないの!」


そう言って澪さんに肩をバンと叩かれる。もう澪さんは怒っておらずいつも通りの澪さんがそこにいた。


「…ちょっと向かわないといけない所を思い出しました。すみません澪さん。」


「うん、よろしい!いってらっしゃい美世。」


頭をワシャワシャと撫でられる。美容師とは思えない乱雑な撫で方で髪がくしゃくしゃになったけど、母親が子供にするような撫で方だった。


「でも本当にヤバくなったら…あ、香桜くん、なんか書けるものある?」


「あ、あるよ。ちょっと待って!」


香桜くんがメモ帳と鉛筆を持ってきてくれたので私はそこに東京支部への道順と住所を書いて澪さんに手渡した。


「避難するならここに来て。私と私の仲間たちがそこで働いているから。」


「…良いとこに勤めてんじゃん。」


避難場所を高層ビルって書いたからってそんな感想で済ますの澪さんぐらいだよ。…ふふ、澪さんってやっぱりすごい。結構勇気出して告白したのに逆に説教されちゃうとはね。まだまだ澪さんには頭が上がりそうにない。


「美世ちゃん…行っちゃうの?お外危ないんでしょ?」


舞帝虹ちゃんが泣きそうな表情で私の袖を摘みながら訴えかけてくるのはズルいよ…。行きづらいじゃんか。


「こら、男が戦場に向かう時は女は黙って行かせてやるの。」


「美世さんは女だよ母さん…。」


戦場…そう、戦場だ。澪さんは正しく自身の置かれている状況を理解している。なのに私を行かせようとしているから凄い。


私は3人を抱き寄せて別れの挨拶をする。死ぬつもりも死なせるつもりもないけど、次に会えるのはいつになるか分からないから…。


「みんな…無理はしないで。そして人を信用しないで。敵は人を操るの。それでテロ行為を起こしている。だから出来るだけ人と会わないようにね。」


「…分かったよ。客が来たら追い返すことにする。」


「友達も駄目なの?」


「近くの中学校に避難しようか話していたんだけど止めたほうがいい?」


「この3人以外とは話さないぐらいが良い。」


この3人に近付く害獣を見逃すつもりは無いけど、嫌な思いはしてほしくないからね。だからこのぐらい警戒するのが丁度いい。


「…もう行くね。」


3人から離れてどこに向かおうか少し考える。…蘇芳のとこに行くか、それとも一回先生のところに戻るかの2択だ。蘇芳が私の助けが必要な時は呼ぶ筈。じゃあ先生のとこで作戦会議かな。


「美世さん…何をしに行くんですか?危ないことはしてほしくない…です。」


「昔から心配性なの治ってないね。大丈夫、私こう見えて世界最強の能力者なの。すっごく強いんだから。」


拳を前に出して強さをアピールしたけど我ながらバカっぽい。でも、それで良い。そのほうがみんな笑顔になるから。


「じゃあ、ちょっと世界を救いに行ってくるよ。」


さっきよりもバカっぽい言葉を言ってしまった。私のキャラじゃないよ。…いや、寧ろ私っぽいか?世界を救う旅に出るなんて私の憧れるシチュエーションじゃないか。


だけど残念ながらこれからすることは大量殺戮だ。敵となる者全てを殺し尽くす。その為にも世界中をマッピングする必要がある。その効率的なやり方を先生に相談しに行こう。


私はテレポートをし、澪さん達のもとを離れた。彼女たちが少しでも平穏な生活を送れるように…。

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