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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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幼き若し

今回は区切り良く終わらせたかったので少し短いです。

組織のマニュアルには色んな記載があるけど、相手がどの組織・勢力に属しているのかを見抜く表があって、CIAを見破る記載も載っていたことをこの男を見て思い出した。でも彼らは相棒を連れるかチームで動くらしいから一人だけでここに来ていることに違和感がある。


「いや、全く組織の人達はおろしたてのスーツに身を包んでて羨ましい。こっちはボロい靴を履いて世界中を歩き回っているのに。」


「予算が下りないんでしたっけ?しかも各国の政府や警察からも嫌われてたりして大変ですね。」


「ハハハ!うちも大概ですがそっちほどではありませんよ。あなた達が歩いた後は死体ばかりで、まるでこれからお葬式に行くような装いだ。」


アメリカンジョークってやつ?笑えない冗談だ。それに私達は葬儀屋じゃない。害獣駆除業者だ。


「それで、何の用で来たのですか?あまり時間を取らせないでください。」


「それはこっちもそうでね。時間は取らせないよ。…いま世界中で起こっている異変は理解しているかな?」


「それこそこっちの台詞ですよ。理解しているのにここへ来たなんて…何を考えているのですか?」


「私は日本担当でね。何もせずに帰国は出来ないんだ。組織はどう動いているのか探ろうと思ったんだが…まさかデス・ハウンドが出張ってくるなんて思いもしなかったよ。」


…今のところ筋は通っている。不自然なところは見られない。単純に一番情報を持っていそうな私達に接触を図っただけ?


「何を知りたいんですか?」


「…聞いたら教えてくれるのかい?」


「内容によります。」


CIAの男は少し驚いたようなリアクションを取った後、真剣な面持ちで私に質問を投げ掛けてくる。


「このあと…世界はどうなる?いや、どうなると思う?恐らく第三次世界大戦よりも酷い結末がすぐそこまで来ていると私は考えているが、君もそう思うかい?」


この人…ちゃんと今の現状を正しく理解している。このタイミングでここに来たのはちゃんとした確信があって来てたって事がこの人の言葉から読み取れる。


「はい。そう考えて動いています。」


だから私も真剣に答えた。出来るだけ真摯に伝えたけどちゃんと伝わったのかは分からない。嘘を言っているように捉えられたかもしれないけど、これ以上言葉を重ねるのは違う気がする。


「…そうか。ありがとう…ちゃんと答えてくれて。」


「いえ、あなたを見てまだまだ人は捨てたものじゃないなって思えましたよ。」


「そうだな。まだ捨てられてたまるものか。我々も出来る限り足掻くつもりだ。」


足掻くか…。それはどういう意味で使ったのだろう。もしこの事態を終息させるつもりで足掻くのならこの人は恐らくすぐに死ぬことになるだろう。もしくは取り憑かれて終わりだ。


「時間を取らせてすまなかった。では私は行くよ。」


とても…とても無責任な言葉を言いそうになる。この人はちゃんと選択した人だ。そこに茶々を入れるような事はしたくないけど、多分お互いに後悔することになると思うから私は彼の背中に声をかけることを選択した。


「ご家族は大事ですか?」


男は予想外な言葉に少しだけ不可解な気持ちになりながらも振り返り、そして彼女の質問に答え始める。


「ああ、世界で一番大切だ。」


「ならここで帰った方がいい。とても後悔することになる。」


「それは、どういう…」


「ここで帰国しないともう家族に会えない。…忠告はした。使命があってそれを果たすつもりなら私の射程外で終わって。顔見知りの死体は探知したくない。」


言いたいことは伝えた。彼がどう動くかは彼次第。私はもう用は無いと伝える為に背を向けてその場を離れる。そして道を曲がりテレポートでその場を離れようとした直前にありがとうと聞こえた気がした。


それが何に対してのお礼かは言った本人にしか分からない。でも、彼の家族が生き残ってくれればいいと思い、私は私が大切だと思う家族の下に向かう。


彼女達は家で大人しくしていた。電気が使えずスマホなどの連絡手段が使えなくて身動きが取れないのだと思う。避難場所を事前に分かっていればすぐに動けるけど、まだ寒い冬の夜に外へ出るのは相当勇気がいる選択だ。子供2人を連れて外へは出れないだろう。


私は彼女達の住んでいる1階が美容院で2階が住居スペースの建物の前までテレポートし終えてすぐにいつものようにインターホンを押そうとしたけど、電気が通っていないことに気付いてドアをノックする。…2階に居るからもしかしたら気付かないかもしれない。


でも気付いてくれて2階から降りてきて1階側にある玄関ドアまで来てくれた。


「はーい、どなたですか?」


「…澪さん。私です。美世です。」


「美世?どうしたこんな夜遅くに…美代、さん?」


玄関の鍵を解除して澪さんが顔を出したと思ったら信じられないものを見たような表情になり、最後のほうは掠れてよく聞きとれない声を出してそのまま固まってしまった。


…私からすれば一年以上ぶりだけど、澪さんからすればよくて半年程度のなのに何をそんな驚いているのか分からない。…あ、この状況下で私だけ来たことが変なのか。夜遅くに来ることなんて無かったものね。


「えっと、突然訪れて驚かせてしまってごめんなさい澪さん。」


「え?あ、あぁ美世か…。暗くてよく分からなくてさ。もう老眼鏡つけないといけないかもね。」


「絶対に似合わない組み合わせですよそれ。」


澪さんが眼鏡かけたら多分笑ってしまう自信がある。だって、ね…?タトューが凄いことになってていかにもな見た目なのに老眼鏡はズルいよ。


「なんか…背伸びた?夏頃に比べてまるで別人なんだけど。」


「…成長期でさ。関節痛くて大変。」


「そう…あ、入る?ここまで寒かったでしょ。停電で電車動かなくて避難しにきたの?」


澪さん…やっぱり昔からとても優しい。今も私のことを心配してくれているし、私のほうが背が高くなっても私を我が子のように迎えてくれる。


「お邪魔します。香桜(かおう)くんと舞帝虹(まてぃに)ちゃん元気?」


「部屋の隅で凍えているよ。でも美世が来たと知ったら元気になるさ。私も元気になったからね。」 


笑顔で迎えてくれた澪さんの後ろをついて行って階段を上がっていく。久しぶりに来たけど美容院特有のトリーメントというか良い匂いのする薬品と、家庭の匂いが混ざり合った澪さん家の匂いだ。私はここの匂いが小さい頃からとても好きで嗅いでいると凄く落ち着く。


「お前ら〜上客来たぞ〜。カセットコンロの上座を空けろい。」


「いや、そんな太い客じゃないよ。」


初手からなんて説明をするのよ。これで2人にがっかりされたら立ち直れないからね!


「美世さん!?」「美世ちゃん!?」


「ふたりともお久しぶり。お年玉は持ってきてないから期待しないでね。」


本当に部屋の隅で震えながらカセットコンロの周りに居た2人が立ち上がって私のもとまで走って向かって来た。おーよしよし元気してたかい?


「なんでなんで!なんで美世ちゃん来たの!?来る前に言ってくれればもっと色々と用意してたのに!」


「美世さんどうしたんですか!停電してるのに良くここまで来れましたね!」


ふ、ふたり同時に話されても受け答え出来ないよ。でも…あ〜懐かしいなこういうの。なんかやっと帰ってきたって感じがしてきた。ここは昔からなにも変わってないから凄く安心する…。


「こらこらお二方。客人を困らせるんじゃないよ。」


澪さんが親らしくふたりを窘めるけど、そうだよね。澪さん昔からお母さんやってたんだよね。見た目や普段の言動から考えられないけどちゃんと家の事もしてるし、一緒に暮らしているふたりから家事のことで愚痴や文句を聞いたことがない。


ご飯も美味しい…というか子供が好きな味付けやメニューを作るから私も小さい時から凄く好きだし、遊びに来るといつも部屋は綺麗にされてる。綺麗にしてるのは普段から客商売をしているからなのかな。1階の美容院も一見ごちゃごちゃしてるように見えるけど床なんていつも掃除されてるし清潔感がある。


(改めて思うと凄い人なんだな…。香桜くんと舞帝虹ちゃんが良い子に育つわけだよ。)

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