表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
550/602

考慮しない

「…じゃあさっさと動きましょう。私には不要な話だし出来るだけ早い方がいい。時間はいつも待ってはくれないわ。」


アネモネが皆を急かし美世の話を進めようとした。彼女がそう判断したということは美世の話に信憑性が高いということを示している。


「でも私達は…」


魔女たちが不安そうな表情で動きが鈍い。彼女たちの大切な人達はここではなく外国に居る。そのせいで本当に連れてこれるか不安なのだ。美世の話す内容が真実だとすると下手をすればこっちに帰ってくることすら危うい。自身の生存率を上げるには伊藤美世から離れるべきでは無いと考えるのは自然なことであった。


「なら私が連れて行きます。」


突然現れた女性が美世達に近付いてくる。その女性は美世と伊弉冉と理華の良く知る女性で、蘇芳の家族であり実の母親である…


「新垣さん…!来てくれたんですか!」


「ええ、蘇芳の言いつけで皆さんをご家族、友人の元へとテレポートさせます。その為に来ましたから。」


流石は私の妹。ここぞという時の手配が行き届いている。


「あの、その方はどちら様で…?」


「私が知る限り最も優秀なテレポーターだよ!実際に行った事が無い場所でも強くイメージすれば行くことが出来るの!」


「話には聞いたことがありましたが実在したのですね…。」


魔女たちが我先と彼女の元へと集まるが顔には不安がまだ残っていた。魔女たちも大切な人達が今どうしているのか気になっているようで、藁にもすがるような思いでいる。


「あ、魔女たち。テレポートする前に聞かせて。ルイスの助けたい人って居るの?」


「ルイスですか?彼女に友人も恋人も居ません。家族は…助けたいなんて思わないでしょうけど…。」


「メーディアのことは多分母親のように思ってると思います。血の繋がった家族は切り捨てるでしょうけど彼女のことは命を賭して助けたいと思うでしょうね。」


メーディアか…。確かにルイスにとって大切な人はその人しか居ないだろうね。


「新垣さん。メーディアの居場所を蘇芳から聞いていますか?」


「はい。皆さんを送った後に私が彼女の下へ向かう予定です。」


あのルイスのことまで気にかけていてくれたなんて、なんて良い娘なんだろうか。


私が蘇芳の有能さに驚いていた時と同時に私はある反応を見つけて一気に身体の奥から殺意が噴出する。


ああ…本当に不愉快な奴。腹いせってわけ?…もう容赦しないからね。


「そうですか…ではお願いします。天狼、天の川も新垣さんに送ってもらって。」


「あいの風は?」


「私は私の大切な人達を助けてくる。じゃあ、また東京支部で。」


私はわたしのせいで最も被害を被った家族が暮らす家の前までテレポートした。…ここに来るのは本当に久しぶり。一年以上はここに来たことが無かったけど、この二巡目の世界に居る間は片時も探知能力で見なかった時は無かった。


「あなたの家族ごっこを台無しにしちゃったから私の家族ごっこも台無しにしようっての?…佐々木真央。」


私の元実家の前で佇む佐々木真央に私は話しかける。突然現れたから瞬間移動で来たと思うんだけどまさかここに来るなんて、ね…。


「あは、こんばんはミヨヨ。いい夜ね?」


包帯で胸から頭まで巻いている佐々木真央が虚空のような眼で私を睨む。…治せるのになんであんな被害者ぶった格好をしているのだろう。ああ、本当に気持ち悪い。この存在は本当に醜悪だ。私にとっても世界にとっても。


「あのね?朝ミヨヨと会ってからずぅぅぅぅっと痛いの。痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて…」


「それ長くなる?」


痛いのは分かったよ。会った時から痛々しい奴だったからね。それに魂が傷つけられたのだから痛くて当然。身体を治せても魂は治せないよ。


「…ミヨヨを殺せばこの痛みを取ってくれるって約束してくれたの。」


へー…それは良かったね。希望があって。


「だからどうやったら殺せるか考えて…ミヨヨの家族を人質に取ろうかなって考えてね?それでここに来たの。」


…へーそれは良かったね。もう…私はあなたのことを考慮しないよ。私の触れられたくない地雷を踏みにじったからね…。


先生とのパスに割り込んでくる奴だから最悪先生の能力を無効化する可能性がある。だからこいつには私の能力で仕留めさせてもらう。その為にも先生の協力が必須になるし、あの子達の協力も…


『先生。』


『分かってる ここで仕留めなければならない相手だ』


『はい。ですから…』


私はもう遠慮しないこの世界を継続させる為ならば人間性を捨てて他の世界の人権をも考慮しない。


『【再生(リヴァイブ)】でそっちのみんなの時間を()()()()()()()。』


『…分かった 本気で相手をしなければならない相手だからな 私達も二巡目の世界を残したいのは同じだ』


先生が鼻血を出して痙攣していたりマザーの手当てを受けていたりする一巡目の世界に居る能力者たちの時間を巻き戻し不必要な時間を削除した。これでまた私は強力な能力を行使出来る。例えまた失神しても先生が居る限り何度も時間を戻せば問題自体が発生しなくなるからね。


「【審査(リビュー)】」


佐々木真央の歪んだ顔が静止する。この能力は先生の【停止(リメイン)】と似た能力で、私が先生の能力をブラッシュアップした能力だ。かなり似ているけど先生の場合は停止させて相手に何もさせないという要素が大きくて、私の場合は私の求める結果のみを選択して事象を引き起こすという要素が大きい。


そして先生の場合では射程はベルガー粒子を広げた範囲で、私とそこは同じではあるけど私だけしか出来ない運用方法がある。それは私の【探求(リサーチ)】と併用して途轍もない射程と効果範囲を得れるというところだ。


ここは私がずっと暮らしていた家の前、つまりとうの昔にここら辺一帯は()()()()()()。そこにノコノコとこの馬鹿は来てしまった。向こうから馬鹿みたいに近付いてきてくれるなんて有り難いことこの上ない。


私の【探求(リサーチ)】は空間に私のベルガー粒子を混ぜ合わせて常に記録をし続ける能力だ。この能力と併用すると私がマッピングした空間全てが私の射程圏内になる。そうすればこうやって射程内の相手をすぐに無力化する事が可能で、向こうはもう何もアクションを起こせない。


佐々木真央に取り憑いているものがどういったものかなんて知らない。もう彼女のことは諦めた。助けようとも思わない。


「あなたはもしかしてただの被害者なのかもしれない…という考慮もしない。もしかしたら重要な情報をあなたは持っているのかもしれないけど、あなたから情報を得ようともしない。私はもう二度と躊躇わない。」


前回は私が馬鹿でグズだったせいで多くの人を死なせてしまった。怪腕で魂を破壊するあのやり方なんてもう取らない。あんな届かないなんて要素は邪魔でしかない。手を伸ばす必要なんて今の私にはない。


「お前のことを何も知らないまま消す。もう二度とこの世界に干渉はさせない。今回は確実な方法で殺るから。」


私は左手を前に出して、まるで窓の汚れを拭くように徐々に横方向へとスライドさせていく。


(…また後悔するかもしれない。佐々木真央が私に勝てる何かしらの対策を講じていた可能性がある。)


多国籍企業が彼女を寄越したということは前回までの彼女ではない。絶対に対策としてろくでも無い事を彼女自身に仕組んだと思う。だけど、私はそんな向こうの事情を明らかにせず圧倒的暴力ですり潰す。


「あなたのバックストーリーなんか知らないまま終わらせる。あなたの背後にある可哀想な過去なんて、あなたという存在そのものと一緒に…」


私の見ている光景には酷く醜悪な汚れがひとつある。その汚れに私の左手が重なることで見えなくなって、その汚れを拭き取って消し去るように左手を横方向に動かす。


左手を動かし終える頃には私の見ている光景にはもう汚れは存在していなかった。これが私の求める能力の運用方法。彼女を構成する原子、分子、魂を完全に消し去りこの世界の総エネルギー量を減少させる。


宇宙にあるエネルギーの総量は一定で不変なものだけど、私の【削除(リボーク)】はその総量を減少させて私の求める結果のみを残す。


「…急がないと。あの家族だけは絶対に助けたい。」


私は久しぶりにあの家族が住んでいる家のドアノブに手を伸ばす…だけど怖くて怖くて仕方がない。本気を出せばここ一帯は私の求める結果のみしか起こらないのに…。


美世がドアノブを捻ることに迷っている時、一巡目の世界では能力と機械が先程の事象について話し合っていた。


「…イトウミヨが行なった事象は凄まじいなんて表現では足りません。R.E.0001を確実に超えました。千年前の能力者でこれ程の能力が存在しているとは…」


「ワタシも同じ様なことは出来るが ミヨのは射程圏内という概念そのものをひっくり返した」


「射程圏内?」


「ミヨはそこに訪れたことがあれば時間軸が違くても射程圏内は変わらずにそのままだ そしてミヨはそこに実際に居なくても常に能力を行使している つまりは地球の反対側に居てもミヨは対象を削除することが可能ということだ」


美世が初めて一巡目の世界に来た時にマッピングした範囲を探知することが出来た。この事実から彼女がその気になれば二巡目の世界から一巡目の世界への干渉すら可能という意味でもある。


「ということはワタシもイトウミヨの射程圏内に囚われているのでその気になればいつでも削除可能ということになるのですね…。素晴らしい能力です。」


「ああ ワタシよりも人を殺すことより特化した能力と言える 対策するにもミヨの射程を知るしか無いがその知る術が存在しない スオウでも把握は出来ないだろうな」


対象を殺すことに特化しきった能力の運用方法を獲得した美世は間違いなくこの世界で最も殺し屋に向いているだろう。その能力もそうだが彼女の精神性が人とは大きく異なるからだ。


佐々木真央を消し去った直後でも美世はそのことすら頭の中から消えており、もう次のことしか頭には無い。この歪んだ感性こそが彼女を最強の殺し屋として成長させた一番の要因なのだろう…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ