壊れた先生
明日の投稿は遅くなるかもしれません。なので今日は早めに投稿します。
西日がビルの合間から突き刺さる。季節と言われたらそうなんだけどそろそろ太陽にも落ち着きを覚えてほしいものだ。確か太陽って50億歳なんでしょ?それに比べて私なんてまだ15歳だ。
太陽がやっていい行動ではない。夏だからって騒いでいいとは思わないでほしいよ。そう考えたら夏になって騒ぎ出す輩はろくなやつが居ないな。陽キャとか典型的な例だ。同じ【陽】を名を持つ同士だから何か影響があるのだろうか。
『どうした?何かあったのか?』
横から差してくる日差しにウンザリとしていた私の顔はかなり辛そうに見えたのだろう。先生が心配して声を掛けてくださった。
『いえ、今年も暑いなーって思いまして。』
私の背中は汗でビッショリだ。もしかしてシャツ透けてないよね?早く訓練場に到着したい。訓練場に着けば人目とか気にしなくても良いし、あそこの壁は日差しも遮るからね。
『確かに暑くなり始めたな ミヨも水分補給とミネラルの摂取を心掛けたほうがいい』
先生は偶にマトモな事を言うから反応に困る。そうですねとしか返せない。
「そうします。」
先生は私の返事を聞いて満足したのか私から少し離れて歩るき始める。位置的には私の前側に歩いて先導しているような感じ。先程の発言と合わせて考えても完全に引率の先生のようだ。
(何だろう…先生のテンションが高い?)
訓練場に向かう時、先生が先頭を歩くなんて今まで無かったのに今日は少し早歩き気味だ。私も付いて行く形になるから自然と早歩き気味になる。今日は暑いからちょっとペースを落としてほしいな。
それからも早いペースで引率の先生に連れられること10分、訓練場に着いたのはいいが少しだけ腐った臭いが辺りに漂っている。流石に卵を数日も放置したら異臭を放つよね。
『【再生】出来そうな卵はあるか?』
『…無いと思います。完全に射程圏外ですね。』
『だろうな なら新しい能力の訓練に移るか』
『ついでに場所も移りません?ちょっとこの臭いは…』
クンクンと臭いを嗅ぐ先生を見て疑問が生じる。先生ってその身体で臭いが分かるの?もしそうならそんな事も再現していたのか私は。
『まあ気になって訓練に集中出来ないのも困るしな 昨日戻した卵を持って移動しよう』
再び先生に引率されて連れて来られた場所は通学路途中の河川敷だった。ここは橋の下で人の目も気にしなくて良いし人通りも少ない。
『今回の能力は地味な部類だから人に見られてもそれが超能力とは思わないだろう』
『地味な事は良い事ですね。人の目を気にしなくてもいい能力は昼間でも使いやすいので。』
仕事で対象を処理する時に街中だと手を出せないからね。追跡して人通りから離れた時や屋内でしか能力を使えなかったりする場面が多いから目立たない能力はありがたい。
『ミヨが思っているような能力では無いかもな 直接的に殺傷力を発揮するような使い方は出来ないがとても便利な能力だ 補助系の中でも特に使いやすい』
つまり【再現】や【削除】のような能力では無いのか、まあこの2つあれば仕事する上で困らないから、この先覚えるとしたら補助系の能力の方が良いのかも。
『では最後の能力とはどんな能力なのですか?』
『実際に見せたほうが早いな』
あれ?先生いま何て言った?見たほうが早いとかなんとかって言ってたよね?
『ミヨ 卵を手の上で回してくれ』
『あ、はい。コマのように回せば良いですか?』
生卵を手の上で回す放課後とはどうなんだ?まあ先生が何かを見せてくれるから良いんだけどさ、知り合いにはこの姿を見られたくないなあ特にマリナ様グループには。
『上手く行くはずなんだが何も起こらなければ笑ってくれ』
珍しく弱気な発言をする先生。大丈夫ですよ!先生を信じる私を信じて!
先生の顔をチラッと見ると口角が上がってソワソワとした空気を出している。本当に今日の先生の様子はおかしい。
生卵を手のひらの上で回転させる為に右手で生卵を掴んでいつでも回せるようにスタンバイする。先生がなんか色々とし始めちゃったから待機するしかなくなった。先生は占い師が水晶を覗く時と同じ構えを卵に対して行なって何かをしようとしている。
(やっばスマホで動画撮りたい!先生が目を細めてるのはレアだ。)
『…いけるか?試しに回してみてくれ』
1.2.3 ゴーシュート!唸れ!ドラエッグ!私の卵はコンクリートや鋼鉄すら切り裂く。
右手で回した卵は手のひらの上でくるくると回転を始める。
そして突然だけど普通の生卵は上手く回らない事を知っているだろうか。卵の中身の黄身が移動してしまう影響で重心位置も変動するからなんだけど、何故いまそんな話をしたのかというと私の左手を見てもらえば分かる。回転が止まらない。
『先生、卵がヘッドスピンし始めたんですけどこの卵はダンス経験者だったのでしょうか。』
『まだダンスには早い年齢だろ 生後数日の筈だしな』
マジトーンで返されましたけど冗談ですよ?私が普通に思って発言したと思ってます?先生にとって私ってそういう認識なんですか?
『冗談ですよ?分かりますよね?』
『ほら見てみなさい 軌道がループしているだろう?』
『…ア、ホントウダ!ループシテイマス!』
小さな事柄に見えるかもしれないがこういう小さな積み重ねが人間関係にも影響するのだ。私にも繊細な心が備わっているんだからね!フーンだ!
『成功して良かった…初めての試みだったからな!ワタシにも成長の余地が残っていたのだな!』
すっごく嬉しそうな先生を見れて私の心は癒やされました。推しの笑顔を見れてわたしゃ幸せものだよ。
『これも数日間に及ぶ訓練のおかげてすね。私も鼻が高いです。』
『ああミヨのおかげだ!』
あ、駄目だ冗談が通じてない。というより冗談すらどうでもいいくらい喜んでる。何でそんなに嬉しいんだろう?
『この卵を回転させ続ける事がそんなに嬉しいのですか?』
『嬉しいに決まっている!今の現象は世界初の現象なのだから!』
卵がヘッドスピンし続ける事は確かに世界初だろうけどそろそろこの回転を止めてほしい。ちょっと皮膚と擦れ続けてかゆくなってきちゃった。
『それはおめでとうございます。取り敢えずこの回転止めてもらえませんか?』
『ああ止めてみせるとも!』
先生が再び占い師の真似事を始めて数秒後、卵の回転が止まる。
『アッハハハ!素晴らしい!これが成長というものか!』
駄目だ!先生が壊れちゃった!でも私も壊れてるからお揃いですね。
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