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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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主導権

私の戦い方は結構慎重派だ。とにかく相手の情報を得ることを念頭に入れて相手のことを分析して戦うのが私の戦いのスタイルだ。


でも色んな能力を得てからは初手から相手に無理難題を吹っ掛けるような戦い方もするようになった。それで相手の反応を見たりして更に敵のことを分析出来るようにもなるしね。


この戦い方が一番私に向いているんだと思う。探知能力者だから出来る戦い方だし、勝率を高くするには効果的なやり方だとも思う。


今のところ薬降るさんを分析して分かったことは痛覚が無いことだ。首を切断してしても痛がる素振りが無かったからね。普通は激痛が走る。くっつける時も相当痛いはずなのに痛覚がある反応ではなかった。


私のように傷を無かったことにするのとは訳が違う。彼女に治療してもらったことがある私にはそのことが実感として理解しているつもりだ。


だけどこれだけでは断言は出来ない。だから敢えて避けやすい速度で怪腕を放ち左腕を消滅して反応を見た。まあ彼女の利き手である左腕を消す意味もあったけど。


まあその甲斐もあって痛覚が無いことは確信出来た。問題なく会話が出来たし、汗一つすらかかない。彼女の能力によるものなのか、それとも取り憑かれた影響で痛覚が無いのかはまだ分からないけど、戦いのうえで痛覚が無いのはメリットにもデメリットにもなり得る。


私だったら痛覚は消さない。能力者にとってストレスはブーストだ。ストレスで良く挙げられるのがその痛覚であり自身の成長に欠かせない要素になっている。


(ここまでは良い。流れは私にあるし主導権を握れている。)


分析はある程度済んだ。だけど薬降るさんが何かを呟いたタイミングで流れは変わる。私にとって悪い方に。


なんだろう…とても嫌な感じだ。違和感…と言っていい。目の前の薬降るさんが別人に思えた。うん、それがこの違和感の正体だ。薬降るさんは別の何かになった。


「…薬降るさんじゃ無いですね?誰ですかあなた。」


…返事はない。その代わりに薬降るさんの身体に変化が訪れた。消失した顔面の半分と左腕を埋めるように結晶のようなものが生えてくる。…氷?とは違うな…。なんだこれ。


結晶は透明感のある青い鉱物っぽい。でも輝きというか、表面が月明かりに当たると虹色のように反射する。まるで油のようなテカり方だ。宝石のような綺麗なカットの輝き方ではない。そのせいであの結晶が硬いという印象は受けなかった。


だからこそ私はその左腕のように生えた結晶が突然私の怪腕のように伸びて襲ってきたとしても、危なげなく避けることが出来た。


「おっと…!」


怪腕を使って結晶を弾き私は薬降るさんから距離を取る。…怪腕から感じた感触は鉱物っぽい硬さと、シリコンのような弾力さだ。


「…薬降るさんはどうしましたか?それとも薬降るさんはまだそこに居るんでしょうか。」


私の声に対して全くといって反応がない。…意識が無い?私は相手の意識があるのか無いのかを判断出来る。今の薬降るさんは意識がとても薄いように感じる…というかほとんど無い。


この状態…私は知ってる。お母さんの意識が浮上し身体のコントロールを奪われた時と同じ。恐らくだけど別人格が浮上して薬降るさんの意識は降下したのだろう。…(ろく)でもない能力だな。こんな能力に頼るなんて彼女のスタンスとは合わない気がする。


それほどまでに私が彼女を追い込んでしまった結果か。この能力は取り憑いたベルガーに保存された何かだろう。…お母さんよりも先生の存在に近いかもしれない。能力そのものに備わっているAIのようなもの。


能力を行使するのに必要なのは脳みそとベルガー粒子。そこに人間であるかは含まれない。能力そのものが能力を行使する…。マザーよりもたちが悪いかもね。


どうやら多国籍企業たちは独自の路線で能力を研究し成功させたようだ。その成功例が私の目の前に居る。


これは能力者の脳みそだから出来たことだ。私もそうだったから分かる。そしてこれはとても危険なものだ。能力者が能力を行使するためのパーツとしてカウントされる未来が見える。…これも一巡目の世界への可能性だ。


そうか…蘇芳はこれを私の自力で辿り着いて欲しかったんだ。蘇芳が全てを言ったらこうならなかった。こんなアイデアは浮かばなかったし、私が彼女のことを助けようとこうして戦うことも無かったかもしれない。


本当に…本当によく出来た妹様だ。


「取り敢えずあなたは私の求める未来にはいらない存在だから削除しますよ。」


あの結晶は消せる。怪腕に触れた箇所は消滅しているからね。ベルガー粒子を結晶のようなものに変える能力なら特に問題ない。さっきの結晶を使った攻撃は人には有効だし、弱い能力を使う能力者にも通るだろう。だけど今までで見てきた能力の中では良くて真ん中ぐらいだ。大したことはない。


こっちは向こうのベルガー粒子を削っている。あの結晶もベルガー粒子だ。削ればガス欠になって何も出来なくなる。例え能力を使わずに肉弾戦で来ても私は能力が使えるし、異形能力者だから肉弾戦では決して負けない。


私は怪腕を振るいベルガー粒子を削ろうとした。だけど予想以上に向こうの動きが早い。薬降るさんは結晶の腕を振るって結晶の粒を飛ばしてきた。…触れるのは避けた方が良いだろう。取り憑いて来る可能性が非常に高いからね。


「【熱光量(サーマル)】。」


結晶は高温の光に当たると蒸発することなく飛んできた。…これ、あの駐車場に現れた調整体と似た材質な気がする。見た目は違うけどどうやら熱に対しては同じくらいには耐性があるみたい。


「ちっ…。」


怪腕を光速よりも早く振るって私に結晶が触れる前に削除しきる。怪腕は私の身体のどこからも生やせるし、どう動かしても私の身体には干渉しないからどんな無茶な動きだって可能だ。私の腕と重なってもすり抜けて敵の攻撃のみを消し去ることもね。


(…どうする?ゴリ押すか?この怪腕を出しているだけでも先生たちに負担を掛けてしまう。)


ほんの一瞬だけ葛藤し、私は前へと走り出した。敵の攻撃はそこまで早くはないし、範囲もそうでもない。近距離戦では私のほうが圧倒的に有利だし身体の半分ぐらいは持っていきたい。


怪腕を唸らせて振り抜こうとした所で私の脳内にあるマップに妙な影を捕らえた。影というよりも模様のようなもので、地面に5箇所ぐらい急に現れたのだ。模様は黒い渦のようなもので暗闇に紛れて私を囲むように配置されていた。


「まさか複数の能力を同時に行使出来るのっ…!?」


私も出来るけどまさか能力自身が複数の能力を行使するなんて流石に予想外だ。この現代には複数の能力を行使する者はかなり珍しい。一巡目の世界に居るあの子達は当たり前のように複数の能力を持っているけど、この二巡目の世界では私以外に見たことが無いと思う。


予想外の出来事に攻撃のモーションを解いてしまった私はその渦のような染みの攻撃を受けることになる。先ず最初に感じたのは気だるさだ。身体がとても重く感じて体調にも影響が及んだ。


(精神系…?いや、本当に身体自身が重い気がする。)


私は視界の隅にある前髪が徐々に垂れる事を認識した。私の前髪が風が吹いたわけでもなくこんな挙動をするなんてあり得ない。これは…まさか重力操作か?


ならマズい。早くここを抜けないといけない。私はあまり重力に詳しく無いけどあのマザーが重力の能力が危険だと前に教えてくれた。


私は怪腕を思いっきり地面に叩きつけて地面を砕いた。土砂は私の身長よりも高く舞い上がり、土の中にあった小石などは手榴弾の破片のように無造作に飛び散る。


そして地面に現れた染みに土砂が集まっていき、私はそれを見届けるとその場を離れて重力の檻から抜け出すことに成功した。


あの染みは重力の渦だ。そしてあそこに物が集まると重力は低くなるみたい。それだけ分かればいくらでも対策が打てる。…だけど重力とは厄介極まりない。少し食らっただけで私の身体に確実なダメージを負わせれるから…。

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