未来と現代の能力者
さて…あまり時間は掛けられない。私達を再現するのはアインやネストスロークに居る能力者たちに負担が掛かる。しかも異なる時間軸に私達を再現する為に使っているルートにはミヨのパスを活用させてもらっているから彼女にも負担が掛かっていたりもする。
向こうもこれから大変だと思うし出来るだけスマートにこの敵を相手にしたいのよね。だからあまり派手な能力の使い方は出来ない。出来ないんだけど…
「おうらっ!!」
ディズィーが私の思惑とは裏腹に凄まじい速度で走り抜けると敵の一体を思いっ切り蹴り上げて、そのまま調整体が落ちてくることは無かった。あの男…アインの能力を使わったわね…。
「はいっ!」
今度はユーが敵2体をサイコキネシスで圧縮すると一定の速度で圧縮されていき…拳大の大きさまで圧縮しきってしまった。恐らくは圧縮される軌道を固定したのね…。
「ちょっとみんな!アインの能力使いすぎ!アイン凄く大変そうよ!」
『みんな…もう少しお手柔らかにお願いね?僕は大丈夫だけどパスを繋いだ彼らが大変そうだから…。』
アインとパスで繋がった能力者たちは突然自分たちの脳に重くのしかかってくる感覚に表情を歪ませていた。
「えぇ…つよ…私達いらないじゃん…。」
そして急に現れた死神らしき者達が一瞬にして調整体を3体も無力化し、その様子を後ろから見ていた天狼たちはかなりドン引きしていた。特にディズィーが調整体に触れた筈なのにピンピンとしているのが印象的に映っていた。
「おい…あの異形能力者らしき男はさっき調整体に触れたよな?大丈夫なのか?あいつに触れると侵食されるんだぞ?」
「ん?ああ、それなら大丈夫。私達って侵食されるほど正確には再現されていないから。怪異点のを真似させてもらったの。」
「それはつまり…ここに怪異点が7人居るってことか?…おい、もう帰るぞ。私達いらないわ!」
最後はもう素の反応になった伊弉冉は全員を連れて帰ろうとする。調整体たちも大概だがアネモネたちの方が大概過ぎた。こいつらだけで世界征服出来るんじゃないか?
「…美世のところ行きます?」
理華の一言がトドメとなり伊弉冉たちはそこから立ち去ろうとする。魔女たちは少しだけ死神たちの能力が気になっていたがここに居てもやることが無いと判断して一緒に立ち去ろうとした…勿論半分冗談だが。
しかし調整体にはそんな冗談も通じないしそんなことを許すはずもなくアネモネ達を無視して彼女たちの下へと向かっていく。
「まあ…流石にね?」
理華は手の中に隠し持っていた光球を向かってくる調整体に一体に向けて放つ。
(前は狭い空間ということもあって出力を抑えていたから仕留めきれなかったけどここは屋外…全ての光を一点に集中すれば…!)
理華の放った光球は一直線の光線となり調整体に衝突する。光線は光速で直進する為に調整体は避けることが出来ずに天の川の能力をモロに食らうこととなった。
しかしここまでは前回と同じ。調整体は装甲の一部をパージしてテレポートで飛ばすことが出来る。なので天の川の操る光線を受けた装甲の一部を調整体はパージした。
「それはもう前に見たよ。」
天の川の操る光線は装甲を貫通し調整体そのものを貫通する。貫通するほどの出力を出すには手持ちの光を全て使うしかないがそれだけの価値のある威力を誇っていた。
しかも貫通したということは光線の触れた箇所が蒸発したということ。調整体の身体に空いた風穴からは蒸気機関車を彷彿とさせるほどの蒸気が立ち昇り一瞬にして赤熱化してしまう。
そして調整体は蒸発しきってベルガー粒子のみを残して消えていった。
「…ハァーハァー。どんなものよ。」
「…やるわね。」
「え?」
天の川は自分の一言にルイスが反応したことと自分を認めたことに驚いて変なもの見た表情で固まる。
「…なによ。」
「…なにもねえよ。」
「年上を敬うのが普通なんでしょ日本人って。」
「精神年齢がガキだから良いでしょ。」
「生意気なガキ…。」
ルイスはそう吐き捨てて前へと出る。
「ラァミィ!いつまで遊んでんの!」
「…うるさいなこの生意気なクソ女。」
「おいっ!普通に悪口言うの止めてよっ!!」
ルイスと一緒にラァミィも前へと躍り出る。流石になにもしないでいられるほど恥知らずではない。ラァミィが前へと出ると他の魔女達も前へと出始めた。
「ちょっと!なんで私の時は後ろで見てただけなのにラァミィが出るとみんな来るのよっ!?おかしくないっ!?」
特におかしくはない。というよりもさっき一人だけで逃げようとしていた人間の言う事ではない。
「ハーパー。天の川を見ててくれ。」
「え、あ、はい!任せてください!」
「まだ私はやれます!」
天狼もルイスたちと前へと出るためにハーパーに天の川のそばに居るように指示を出す。だが天の川は自分も前へ出ようとする。
「お前は後方で支援だ。光を全て出しきったのだろう?」
「…ヘイトは買えます。」
「それなら後ろでも出来る。…もう充分活躍したさ天の川は。それに…私だってカッコつけたい時もある。」
天狼は二人に笑いかけてからルイス達のあとを追っていく。
「…昔からカッコいいですよ。」
「ですね…憧れます。」
二人に見送られた天狼は能力を行使してどう攻めるかを考える。どうしても近付かないと私の能力は何も出来ないけど、相手に触れればそのまま取り込まれてしまう。相性はかなり悪い相手だ。攻め方を考えないと…
「同士たちよ。私がベルガー粒子を奪いつつヘイトを集めるからあなた達は各個撃破して。」
ルイスは自身の影を浮かび上がせて触手のような6本の影を生み出す。そして空に飛んでいる調整体たちに向けて触手を伸ばしていった。
(アイツ…あんな使い方も出来るのか。思っていたよりも器用だな。)
美世の母親はああいう使い方はしなかった。自分の身体に纏わせて防御を固めるような使い方が主だったが、ルイスの場合は攻撃手段として使うことが多いような印象を受ける。
「みんな、相手はテレポートしたりいくつもの能力を使います。ヤバくなったらルイスに擦り付けて。」
「本当にあなた私のこと嫌いよねっ!?」
ラァミィの指示によって魔女たちの戦い方は決まった。特にルイスのことを庇うような発言も無い為にルイスは渋々と従う姿勢を見せる。
「さて…私も動くか。」
ルイスだけでヘイトは捌ききれない。もう一人動ける奴が居るだろう。
「おい、素早く動ける奴が居るだろう?」
何かが弾ける音と共に地面に電撃が流れて真っ黒に焦げた跡が生まれる。その焦げ跡の先に突然現れた天狼にルイスは不敵な笑みを浮かべて彼女を歓迎した。
「お前の電撃で私の影が薄まるのよ。さっさと向こうら辺に彷徨いてなさい。骨は拾ってあげる。」
「…今回は指示を聞いてやる。借りひとつだからな。」
天狼は近くに居る調整体に視線を向けると、調整体は視線に反応して影の触手ではなく天狼に注意を向けた。この少しの仕草で天狼は調整体に知性のようなものを感じ取る。
そして一人と一体が見合うとすぐに両者は前進し衝突が始まった。だが天狼は生身、本当に衝突すれば取り込まれてしまうだろう。そこで天狼は自分の右足に電流を流して磁場を発生させる。
コイルと同じ方法で自分の右足をコイルとして扱い電流を流すことで磁場を発生させるとその右足で調整体を蹴り抜いた。
調整体たちの身体は金属と同じ性質を持ち、天狼はその金属が鉄であると見抜いていた。彼女の目は赤外線や磁場などを見ることが出来るため調整体の身体は磁場の影響を受けることを確信していたのだ。
よって天狼の右足が調整体に近付くと調整体の身体は反発して直接触れることもなく蹴り抜くことが出来た。蹴られた調整体はまるで弾丸のように弾かれてビルの5階まで吹き飛ばされる。
「おーやるな。この時代の能力者にしてはかなり強え。」
その様子を見ていたディズィーが調整体を掴んで丸く圧縮しながら感心した声を出す。
「ね。確かテンロウ…だっけ?前にもそんなコードネームだった能力者が居たけど彼女は別格ね。」
そして手から発したイオンビームで次々と調整体を溶かしていくナーフも天狼のことを興味深そうに見ていた。天狼たちが話している内に4体もの調整体を屠っていたアネモネ達はこの時代の能力者を観察し、そしてこれから起こるであろう世界の終末について思いを馳せる。
どうか、自分達のような結末を迎えませんように…と。




