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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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怒涛

戦闘パートに入りました

夜の街に一匹の猟犬が放たれた。いや、この表現は正しくない。彼女は躾けられた猟犬ではなく獰猛で過酷な環境を一匹だけで生き残ってきた狼だ。


(命令しやがって…生意気な女。あとで狩ってやろうか。)


ルイスは心の中で悪態を吐きながら目の前の獲物に集中し駆け出していた。異常なまでに姿勢を低くし、頭の位置と尻の位置の高さが同じになるぐらいにまで傾けた前傾姿勢はまるで四足歩行で走っているようだ。


これは彼女の常人離れした関節の可動域と優れた筋肉に靭やかな身体のバネがあってのもの。異形能力者でもこんな姿勢で走れたりはしない。彼女の優れた身体能力と手足の長さがあって初めて可能とする独特の走行方法だ。


「キャハッ!久し振りに嬲り合いのある獲物で嬉しいったら無いわっ…!!」


コンクリートの上を疾走するルイスの後に続くようにメリッサが駆け出し、天狼が電流を流して監視カメラを次々と破壊していく。


「疾走れ…【冬季雷(とうきらい)】!」


乾燥した空気の中で天狼の作り出した電気が疾走り監視カメラを破壊した。そして電線にも電流が流れて看板や信号機などにも影響があり駅周辺の電灯が全て消える。


これによって天の川とルイスの能力が生きてくる。後ろに構えている天の川の集めた光がルイスの背後から照らされる。そうなるとどうなるか…ルイスの影が前に伸びていき射程を得る形になる。


「先ずは本当に再生するか確かめさせてもらうわっ!!」


ルイスは自身の下に生まれた影に手を突っ込みチタン合金で造られた刀を取り出した。この刀は木刀のように刃が厚く切れ味は無いが、能力者の筋力で振れば能力者の骨でも容易く折ることが出来る。


そしてルイスの影の中にはこれとは別に武器が入っており、組織に再度加入した際に支給された武器を全て影の中に入れて持ち運びしている。彼女は近距離戦が得意としているが武器の取り扱いにも長けていたりするのだ。


そんな組織特製の刀を右手に構えてルイスは地面スレスレを走り抜け…


(男…しかも恰幅が良くて腹が出てるところから戦いには無縁そうね。)


ルイスは男に近付き水平方向に振り抜く。彼女の振り抜いた刀は正確に男の頭を捕らえて頭蓋骨を粉砕させた。


「ごっびぃ…!?」


男の口から声と唾液と髄液が一緒に漏れて側転しながら真横に吹っ飛んでいく。まるで車に真横から衝突したかのような挙動にルイスは満足げそうだった。


「ちょっ…!?ルイス飛ばし過ぎだって!私の能力で囲む暇ないんですけどっ!?」


「うっさい雑魚!私の影でも踏んでなっ!」


ルイスは獰猛な笑みを深めて追撃を試みる。時速70kmで吹き飛んでコンクリートの道路を転がっている標的に向かって走っていくのも少し味気ないと感じたルイスは自身の手足を影の中に沈めて影を操作する。


ルイスの影は時速200kmを優に超える速度で動かせるので容易に男の下へと接近することが出来る。これがルイスの近距離戦の強さを支え様々な能力者を屠ってこれた要因でもある。


「影たちッ!!喰い散らかせッ!!」


両腕を影の中から出したルイスの両腕には影がへばり付いており、その影ごと思いっ切り振り抜いた。影は渦のように螺旋に回りながら男に向かっていく。そして影に触れた標的の一部は影の中に飲まれて男は身動きが取れなくなった。


元々男の頭蓋骨は粉砕され身動きは取れないのだが何があるか分からない。なのでルイスは影に男の四肢を喰わせて身動きを取れないようにし…回転させた。


「千切れろよッ!!」


ルイスは四肢を飲み込んだ影をそれぞれ別方向へと回転させて男の四肢を千切るように奪いとった。四肢は影の中へと飲み込まれていきルイスの許可無しでは永遠に浮かび上がることはない。


「…尖兵としては優等生だな。」


天狼はルイスの戦い方を見て相当高く評価をし直していた。はっきり言ってルイスの能力が強過ぎる。あの美世の母親が数ある美世の能力の中で好んで使っていただけある。ほとんどの相手に優位に立てて弱点が見つけられない。


「エグいですね…私の能力と相性が悪いのでこの前は勝てましたけど、対策取られたら次は勝てるかどうか…。」


両手に光を集めて保持しながらルイスの戦いを見ていた天の川も天狼と同様な評価をしていた。あの美世に呼ばれて前衛を任されただけのことはある。能力もそうだが彼女自身がとても戦闘に慣れてて猟犬としては完成していると言っていい。


「…勝てるんじゃないですか?すっごく強いですよ。アイの戦いを思い出しました。そのぐらい凄いです。」


ハーパーはアメリカでの美世の戦いを思い出していた。実際ルイスは美世と並ぶ戦闘センスを有しており経験値に関してはルイスのほうが上だ。ただ人格破綻者なので味方が居ないという欠点はある。誰も彼女のカバーはしてくれないのでひとりで戦うしかない。


それでも彼女の単体性能は間違いなく世界でも五本指に入ると言ってもいい。むかし組織でエージェントをしていた時に現地では死神以上に恐れられていただけのことはある。


「戦いしか出来ない奴なんですよ昔から…。でも、戦いだけは頼りになるから本当に困るわね。」


「そう…強いんですよね。実力あるせいで逆らえないし、出来ればこの戦いで死んでほしかったな…。」


サラとシークが静かに毒を吐く。かなりの猛毒だがこの毒を育てたのもルイスなので自業自得というもの。魔女たちは後ろからルイスの働きを見てやっぱりコイツだけは敵には回したくないと再認識する。


「ちょっと…私いらないじゃん…。下がりたいんですけど…。」


手持ち無沙汰になったメリッサは何故か狂犬のリーダーと一緒に最前線に出ていることに気付き仲間たちのもとへ下がろうとする。ルイスのことだから自分を巻き込む可能性もあるので出来れば近づきたくないのだ。


「ねえー!これ死んだでしょ!?どうするのー!?」


ルイスは自分の周りに影を作って防御陣形を作りながら天狼に指示を仰ぐ。彼女の言いなりになるつもりはないが、役割分担はちゃんとするあたり彼女の性格が良く現れている。


「…いや、死んでない。死んでいないぞっ!注意しろっ!」


天狼は四肢がもがれて頭部が割れた標的が動き出すのを視認した瞬間に能力を行使し駆け出し始める。そしてその動きを見たルイスは後ろに居るメリッサに指示を飛ばす。


「おいメリッサッ!獣達を創造して辺りに飛ばせッ!調整体たちが来たらそいつらに襲わせるっ!!」


ルイスは調整体たちが美世のように探知する能力を持っていると睨んでいた。あの地下駐車場での一件は調整体に探知能力が無いと片付けられないからだ。


そして何を探知しているかといえばベルガー粒子しかないだろう。なのでベルガー粒子の塊であるメリッサの創造した動物たちをランダムに配置することで的を絞らせないように工作を試みる。


「わ、分かったわ!だからアナタは私が能力を行使している間ぐらいは私を守っててよっ!?」


「チッ…うるさいわね。」


ルイスは影の一部をメリッサの足元まで飛ばして標的に向き直る。するとなんと標的が手足の無い状態で立ち上がろうと上体を起こしているではないか。流石のルイスでも驚きを隠せない。


「マジで言ってる…?」


これには事前に殺せないと聞かされていたとしても手応えを感じていたルイスにとって驚愕するものだった。


「ルイスっ!!準備をしておけっ!!完全にベルガー粒子を奪わないとコイツは無限に再生するぞっ!!」


天狼は道路に生えていた街灯を掴み…持ち上げた。これにもルイスは驚きを隠せない。異形能力者がトラックを持ち上げるのは見たことがある。でもあれはハルクのような筋肉が膨張して体が極端にデカくなるタイプだった。


しかし天狼は身長が高いといっても海外では良く見たりするぐらいの体格で、特に身体が膨張してデカくなったりはしていない。しかし天狼はまるで人を抱えて持ち上げるような動作で高さ5メートルもの鉄の塊を持ち上げて走り出す。


「マジで言ってる…?あの身体のどこにそんな力があんのよ…。」


天狼は街灯を横にして抱えながら走り出し街灯の先端を道路に突き立てた。その反動で天狼の身体は浮かび上がりそれはまるで棒高跳びのようだったが、天狼は空中で街灯を持ち上げて思いっ切り振りかぶり…


「耳を塞げルイス…!」


まるでスイカ割りのように街灯を縦に振り下ろす天狼にルイスは思いっ切りドン引きして影の中へと避難する。


「やっばいわこの女…!」


そしてルイスが影の中へ避難した瞬間…地面に凄まじい衝撃波が発生する。標的の身体はヒビ割れた道路の破片と混ざり合って地面に染み込む程に押し付けられて身体の殆どがミンチになっていた。


「…おっかねえなあの女。」


ボーがポツリと漏らした感想はその場にいる全員の感想を代弁したもので、彼女がルイスよりもヤバい能力者であるとその場に居る魔女たちは認識を改めるのだった。

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