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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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リセットボタン

目標の人間はこの東京の街に居るのでそこまでの移動量は無い。東京は狭いからね。だから上手く事が運べば今夜で決着(ケリ)がつく。


『ミヨ 本当にひとりで良かったのか?今回は流石にミヨにも荷が重いと思うが…』


『先生…もう何度も話し合ったじゃないですか。これは私のミスで起きた事です。私が一番頑張らないと。』


『ミヨは良くやっている 責任を感じるのなら私達にある 本当ならワタシがそこに行きミヨをこちらに残すのが正解だった…』


付き合いも長いしもしかしたらそうなのかもと前から思っていたけど先生って結構ジメジメしてる。湿っぽいし先生の人格は能力が生み出したもののはずなのにそこら辺の人間よりも責任能力があるんだよね。政治家たちに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。


『こういうのは2巡目の世界の人間が解決すればいいんですよ。というかみんな先生に頼りすぎ。わたし昔から嫌だったんですよ。』


『嫌いだった?』


『先生に頼りきりな関係性がですよ。みんな死神死神って恐れている癖に心の中では依存して無意識に頼ってる。最悪死神に任せればいいだろって空気感が組織内で充満していて本当に臭かった…。』


誰もが責任を先生に押し付けていた。それが嫌いで仕方なかった。だから私はここぞという時に自分で責任を取るつもり。


『はぁ…ミヨ…優しすぎるよキミは』


先生の呆れ半分嬉しさ半分の声を聞けて自然と足取りが軽くなる。私のこの思いは間違っていないはず。少しカッコつけすぎたけど、好きな相手にカッコいいところを見せたくなるのは女性も男性も同じ。


『…分かってると思うが一応念の為の確認だ 天狼たち向こうが苦戦を強いられた場合に私達の方で対応する しかしそうなるとミヨの方に負担がかかるから常に気をつけて立ち回るように 私達のほうでの繋がりが薄くなる』


『分かってますよ。だから【削除(リボーク)】以外の方法を考えたんじゃないですか。最終手段ぐらいとしか考えていません。…それに別の最終手段もあるので大丈夫ですよ。』


『…そうだな ならいいんだ 話は終わりだ 気をつけるのだぞ』


先生はそう言って引っ込んでしまった。もう少しお話したかったけどしょうがない。私達にはやるべきことがある。佐々木真央たちを殺して裏切り者を対処しなければならない。


(誰なんだろう…知り合いで怪しい人なんて居なかった。というか一番怪しそうなヤツを殺したしな…。)


あの血の繋がった父親が一番怪しかったけど死んだから違う。なら…雪さんとか?…いや、あの小心者の雪さんは無いね。というか私にバレたら殺されるって分かってると思うし可能性は皆無かな。


なら誰か。全くといって思い当たるフシがない。そもそも組織内に裏切り者なんて居るのかな…。先生にバレずにそんなこと出来るなんて凄い優秀な人じゃないと無理なんじゃ…。


そんなことを考えている内に目的の場所まで辿り着いてしまった。渋谷駅からタクシーで20分ほどの距離に目標が居たから一番最初に選んだけど、もう少し心の準備に時間を使いたかったな。


「はぁ…行くか。」


タクシーを降りて家の門の前に立つ。中々に立地のいい所に立っているだけあって豪邸だ。しかも新しいのか壁が綺麗で夜でも浮きだっている。


だけどデザインは奇抜さなどはなく正統派の2階建てのお家。まあ住んでいる人がお年寄りだしそんなものか。


私は両手に黒色の手袋をしてから門の上に手を掛けて侵入し玄関まで歩いて進む。防犯カメラが設置されているけど【個人的範囲(プライベートレンジ)】を行使している私を認識することは出来ない。


だからセコムが来たり多国籍企業どもが来たりもしない。


「お邪魔しまーす。」


サイコキネシスで内側から鍵を開けて玄関をくぐる。完全に不法侵入だけど仕方ないよね。


「…はーい。」


奥の方から60代前半の女性が出てきた。少し驚いているけど私の顔を見て特におかしなリアクションはしていない。…良く分からないな。私を知らないのならそれはそれで簡単に済みそうだから別に良いんだけどさ。


「こんばんわ。」


「はいこんばんわ…。あ、みっちゃんのお友達かい?」


両手を合わせて勝手に勘違いしてくれるおばあちゃんが奥の方へと戻っていく。…またこのパターンか。少しだけ敵の正体が見えてきたね。


「ほらみっちゃん。お友達が来たよ。」


おばあさまが連れてきたのは虚空だった。何も居ない。誰でもない。存在しないみっちゃんを玄関まで連れてきてくれた。


(共通点は見えない存在を認識して普通に生活していることか…。)


佐々木真央と全く同じ。つまり私の目的である人物はこの人と…


「なんだい。みっちゃんのお客様かい?」


またひとり、見えない存在を認識しているおじいさまが出てきた。この二人はともに無能力者なのだけどベルガー粒子が多い。これも佐々木真央と同じ。


まぁ…ここに来る前から分かっていたけど、この老夫婦を今から殺さないといけないんだよね。他に解決手段や方法があれば良かったのに、私は馬鹿だから他の方法を思い付かない。


「…私も美世って名前だから他人事のようには思えないな。」


「はい…?なんておっしゃいましたか?」


私の小声で漏らした言葉は耳の遠いおばあさまには聞こえなかったらしく、耳に手を当てて聞き直してくる。しかし私は再び同じことは言わずに危険な存在を処理する為に行動を開始した。


「みっちゃんってあなた達のお孫さんですか?」


「…ええ、みっちゃんのお友達ではないのですか?」


「美世ちゃんのお友達は少ないので恐らくは違いますね。」


自分の影を操作して老夫婦二人の足元まで移動させて二人を影の中へ落とそうと能力を行使しようとした。しかしその瞬間に私の視界いっぱいにベルガー粒子が広がり私の身体は凄まじいGが掛かって真後ろへと吹き飛ばされていく。


玄関のドアを破壊しそのままの勢いで石と鉄で出来た門をも破壊して私は向かいの家にまで侵入してしまった。突然のことでろくに防御も回避も出来ずにモロに食らってしまったが、どうやらまだ現場から長く離れていた呆けが抜けていなかったみたい。


「いっつ…、マジか…サイコキネシスかよ…。」


いつかの念動力者、宮沢みゆきを思い出す出力だ。しかもクッソ…髪の毛が抜けて頭皮が痛い。門の石塀に髪の毛を引っ掛けて何百本は抜けたみたいだ。背中も何度も強打して骨が軋んでいる。


「…あ、あの…だ、大丈夫です…か?」


「あ、お邪魔してます…」


ヤバい。向かいの家に人が居てバレてしまった。ここは…リビングか?ソファーで寛ぎながらサッカーを見ているおっちゃんと目が合う。


「…救急車、は…居るかい?」


スマホを片手に心配そうにしてくれるのは嬉しいけどこのぐらいで救急車を必要にするほど私はヤワではない。


「…この家って保険入ってます?」


「え?あ、あぁ。入ってるとも。」


「なら良かった。()()()()()()()()()()()。お邪魔しました。」


フォーマルな格好もこう粉塵だらけだと情けないな。しかも早々に先生のお手を煩わせるなんて本当に情けないったらない。


『…先生、早速なんですけど問題発生です。おばあちゃんに吹き飛ばされました。最近の老人元気すぎですよ。』


『見ていたから分かっている とんでもない出力だな 並の能力者では出せないほどだ』


首をコキコキと鳴らしながら向かいの塀を超えてベルガー粒子を操作する。この能力は未だに良く使い方が分かっていないから集中しないと…。


『こちらも準備は出来ている 少し待て』


死神はアインと切り替わり後ろで控えていたマザーに指示を出す。


「ミヨのピンチだ。やれそうか?」


言葉は優し目だが言い方が厳しく質問ではなく命令のような意味合いが強い口調だ。しかし両者の関係性を考えればアインが我慢して冷静に話しているというのは分かる。


「ええ。いつでも大丈夫です。では皆さん。よろしくお願いします。」


「「「「「「「はいっ!」」」」」」」


ゆうに200を超える能力者たちの返事と共にマザーの操る機械人形が準備を開始する。


「皆さんにはイトウミヨの手助けをしてもらいます。その為にこの場に居る全員の脳を繋げてR.E.0001の能力を強化し、2巡目の世界に干渉するだけの出力まで増幅させます。」


能力者はパスを繋ぎユニゾンを行なうことで能力を増幅させることが出来る。この方法を用いてアインの能力を増幅させ、こちらの時間軸である1巡目から向こうの時間軸である2巡目の世界に干渉することが美世たちの立てた作戦。


このネストスロークには美世にこの一年で世話になった能力者たちが数多くおり、マザーが船内に呼び掛けることで協力者を集めたのだ。能力者しか居ないネストスロークだからこそ出来た方法だが、アインが居なければ実行することも出来ない。


一つの世界にこれだけの優秀な能力者が集まることは恐らくこれから先一度も無いと思われる。


「みんなは特になにも考えなくてもいい。基本的には僕が能力を行使する。だから気負わずリラックスしていてくれ。」


アインはこの場に集まってくれた276人の仲間たちに心の中でお礼をしながらパスを繋いでいく。凄まじい負荷の掛かる行為だが今のアインは人間ではない。なので脳への負荷も無視した能力の行使が可能になっている。


『ミヨ、準備は出来た。僕が能力を行使するからミヨは指向性を持たせることに集中してくれ。』


『オッケーアイン。私の求める方向は過去の一分前だよ。』


美世とアインとの間に繋がったパスに情報の行き来が激しくなっていく。美世はあまりの負荷に一気に脳が熱くなるが必死に耐えて指向性を確立させることに集中する。


『耐えろ。もう僕の射程がそちらを追い抜く。』


アインの射程は美世の居る時間を追い抜き更に逆行していく。ここまで届けば後は彼の独壇場。美世と息を合わせて行き先を合わせるだけだ。


『ーーー行くよ。』


『うん…行こう。』


そして二人は口にする。この世界に干渉する能力の中で最も規模の大きい神の所業ともいえる能力の名を。


『『【再開(リセット)】!』』


世界はたったひとつの能力によって逆行していく。それはまるで世界が彼女たちの願いを聞き入れたかのように形を変え、時間すらも巻き戻していく。


壊れた物は元に戻り、記録された人々の記憶は失われ時間は次々と消失し、その事象に唯一影響を受けない能力を行使した者は世界の全てを知覚していた。


これこそが世界中の能力者たちから死神と恐れられた【多次元的存在(ディメンション・)干渉能力(エクセェース)】の本来の能力。全ての時間と事象を消失させて全てを無かったことにするやり直し。その能力が時間をも飛び越え行使された。


これが美世達の立てた対策であり絶対に失敗しない方法。ゲームのリセットボタンを押すが如くの所業こそが彼女たちの出した結論だった。

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