生命の境界線
キャラクター紹介が1番書くのに時間掛かりますね。恐らくは2週間以上かかります。
私の手のひらには元の形に戻った卵が転がっている。たったこれだけの事で涙が出てきそうになる。生卵で泣いた女子高生は私ぐらいなものだ。
『死者蘇生出来た〜。』
体力を使い果たしたせいでその場に座り込んでしまう。足がもう動かせないよ…疲れたぁ〜。
『ミヨなら出来ると信じていたぞ その卵を見させてもらえるか?』
『はい!』
両手で卵を持ち先生に見せつける。これが私の努力の成果です!
右手に顎を乗せ左手を腰に回したポーズのまま私の手のひらの周りをウロウロする先生…かわいい。こういう概念は尊いと言うのだろう。先生は尊い。
『ーーーまあ…そうだろうな 完全には出来ていないだろうな』
『え?どういう意味ですか?』
先生の言った意味が良く分からないけど、死者蘇生が失敗したの?どういう事だ?手のひらにはちゃんと卵があるのに。
『前にバラバラにされて食われたものは射程圏外に行くという話をしたがこれは射程圏外に向かってしまったな』
『向かったのですか?いやでも復活しましたよ?』
ちゃんと戻したよ先生!ほら見て見て!ここに卵がありますから!私の卵を見てよ!
汗だくの女子高生が女子高生の見た目をした者に卵を見せつける光景には一種の背徳感がある。
『形だけはな 生き返らせたのは形…つまりは側だけだ 生きてはいるがこれ以上成長することは無い』
?マークが頭の中に乱立する。さっきまで脳を使いすぎて頭が働かない。難しい話はもう考えられないよ先生。
『ものすごく分かりやすく教えてもらえますか?脳がギブアップしています。』
『卵だと分かりづらいか…例えばこの卵が人間だとしよう 射程圏外に行った人間を【再生】で生き返らせると身体だけは元に戻るが精神…魂までは戻らない つまり廃人として戻って来てしまう』
『ではこの卵はなんなのですか?生きていますけど。』
この卵にはまだ精神なんて無いだろう。どうやって区別しているんだ?
『その卵が成長する事はない 未来が無いと言っていいだろう 軌道の先が薄いものは未来が希薄なのだ そこでこの卵が孵るか判断する』
卵を軽く振って軌道を創ると薄い軌道が残る。ああ、なるほどこれは先が無い事が感覚で分かる。もう射程圏外だ。
『じゃあ失敗したんですね私は。』
『いや成功している ワタシがやっても同じ結果だ ミヨの能力はワタシと同じ精度を持っている事になる』
私と先生が同じぐらいの精度か。喜んでいいのかな?でも先生が最初に言っていたことが引っかかる。
『でも先生は私が完全に死者蘇生させる事を期待していましたよね?』
私の話を聞いた先生は膝を地面に着いて私と同じ目線に合わせる。
『ーーー期待はしていたが出来ないことは分かっていた ワタシはその先には行けないからな…だがミヨはその先に行けると信じている』
今までに無い真剣な表情だった。嘘偽りの無い瞳が私を覗く。先生は何を期待しているのだろうか、私がその先に行く事を期待している…?
先生の言うその先って一体全体どこを示しているのだろう…。仮に私がその先に行ってもそこに先生も居てくれるんだよね?
『その先に行っても先生が居てくれるんですよね?嫌ですよもう一人ぼっちなのは…』
もう頭の中がゴチャゴチャして訳がわからないまま涙が流れる。幸せが失われるのはいつも突然に現れる。お母さんの時もそうだった。
『な 泣くな!どうした?どこか痛むのか?訓練が辛かったか?今日はこの辺で止めよう!よしそうしよう!』
女の涙というのは武器になると聞いた事があるけど効果抜群すぎて私の方が驚いた。もしかして先生って女慣れしていない?
『一生一緒に居てください。』
『わ 分かった一緒に居るから泣き止むんだ!』
『褒めて下さい…え〜んえ〜ん。』
『ミヨは偉いぞ!とても素晴らしい!今まで見た能力者の中で1番だ!』
…チョロいっすわ先生。泣くだけでこんなに要求が通るなんて困った時は今度から泣こうかな。え〜んえ〜ん。
その後も数々の要求を押し通して先生に甘えまくった。かなり無茶な要求も涙の前では簡単に通ってしまう。訓練を終えた後も私が立ち上がれるまで二人きりで色々と話し合ったし一緒に居続けてくれた。
この訓練で学んだ必殺技は【再生】ではなく女の涙だった。
そして今日の訓練を終えた私は自宅に戻り、ヘトヘトでもう動くのも億劫なので自室のベットの上でゴロゴロしていたらスマホが光って通知が画面に表示される。…雪さんからのラインだ。
ラインには雪さんとチームの人達と誕生日パーティーをしている画像が続々送られてきて最後に私の誕生日の時はパーティーを開こうというメッセージが添えられた。陰キャには誕生日パーティーという概念が無いから、異文化なので分かりませんと送り返した。
朝になりストーカーと教室の空気を思い出したら高校に行くのが嫌すぎてサボろうという作為を働かせる。いや〜だり〜よ学校行くの〜。昨日の反動でまだ頭全体が重い気がするし体調不良で休みたいな…
「今日学校休むけど気にしないで。」
「車を出すから行きなさい。」
「行ってきます。」
父の圧に負けて一人学校に向かう。あなたの娘、学校で悪目立ちしているんだけど?昨日今日で車の送迎とか絶対に色々と噂される。転校したい〜ていうか高校辞めたい…
「はあ…昨日の昼休みの出来事を削除出来ないかな?」
教室に入るとみんなの視線が身体に突き刺さるのに鼓膜には何も振動が入ってこない。静かだ…ここは女王の教室かな?
自分の席に向かい椅子を引いて座る。私の椅子を引く音がこんなにハッキリと聴こえたのは初めてだ。トロフィーが開放されたかもしれない。
…さっきからヒソヒソ話が止まらない。…い、嫌あああッ!!いつもそんなに息を潜めて話していないじゃん!うるさいぐらいの声量で話してるじゃんか毎朝!うああああ!!!!!早く授業始まってッーーーー!!!
私の後ろのベランダ側に集まる女子グループの視線がエグい…何人かはソワソワしてるし、もしかしてこっちに来る!?あ、一人が立ち上がった。
すぐさまにイヤホンを取り出して耳に装着して拒絶の意思を見せつける。私のATフィールドは拒絶型だよ!早く!早く!早くチャイム鳴ってよ!
多分だけど女子グループの下っ端が私にちょっかいをかけに来たんだ。もうおしまいだ…さよなら私の高校生活。初めまして不登校生活…。
私が死期を悟っているとチャイムが鳴り担任の先生が教室に入って来てみんなを席に着くように声を掛けた。そのおかげでクラスメートがみんな自分の席に戻り女子グループの先兵も自分の席に戻っていくではないか。
…今度からちゃんとHRを聞こうと思う。
非常に居心地の悪い教室で授業を受け、お昼休みまで後1分のタイミングで私の【探求】が嫌な反応を見つけ出す。認識したくないのに3年の教室から部長が出てくることが分かった…。どこに向かうのかな?トイレかな???
真っ直ぐこちらに向かって来るストーカー先輩。また腹パン決めないとなのかな…
チャイムが鳴る前に授業が終わって先生が廊下に出ていく。行かないで!もっと授業を教えてよ先生!
自分を除いたクラスメートの視線が扉に集まる。分かっていますよ。また始まるんです〜痴話喧嘩が再び始まるんです〜ごめんなさいね〜皆様のご迷惑にならないように病院送りにしますからね〜
「伊藤さん!また来たよ!」
左手に力が入りすぎて手のひらが鬱血する。もう壊すつもりで殴らないとこのストーカーは諦めないんだ。だから仕方ないんだよ。学校は傷害事件にはしないと思うから最悪は退学程度で済む。あー短い高校生活だったなーつまらなかったけど高校ぐらいはやっぱりちゃんと出たかったなー。
私が立ち上がろうとしたら私の肩に手が乗せられた事にびっくりして制止する。振り返ると女子グループの人達が私の肩に手を乗せていた。何々!?あんた達あのストーカーの仲間なの!?私クラスメートに売られた!?
「伊藤さん行かなくていいよ!」
「私達に任せて!」
私の両肩に手を乗せている二人が訳の分からないノリで盛り上がっている。え?どういう事?君達私の事嫌いじゃありませんでした?
女子グループの残り3人が私を先輩から隠すように壁になってくれる。え?どしたん君等?好きになっちゃうよ?良いの?私メンヘラだから重いよ?
「佐藤先輩、もう伊藤さんに付きまとうの止めてもらえません?」
女子グループのリーダーがガチ拒絶の声音を出して威嚇する。怖っ!でもカッコいい!姉御肌や!でもなんでこんな状況になっているんだ!?
…ふー落ち着け私。この状況で私がするべき行動、判断はなんだ?ここをミスると私の高校生活が終了する事が確定してしまう。だけど私には先生から教えてもらった必殺技がある!それは…
私の目には涙が溢れていた。そして悲痛な表情を再現される。ふふっ…こんな事はお茶の子さいさいだ。
「あ、ありがとう皆さん…私、怖くて怖くて。うぅ…」
私が選んだ選択は全力で猫を被ってみんなの同情を買う事だった。
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