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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
6.私達の居ない世界
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狂気演舞

現実に引き戻すためにかなり乱暴なやり方を取ったけど効果はあったようだった。佐々木真央はかなり動揺し、あのふわふわした雰囲気が消え去って現実味を帯びてきたからだ。


「パパ…ママ…。」


「思い出した?事故で亡くなったこと、あなたに偽物の両親を見せた奴のことを。」


彼女に接触を図った者が私の敵。彼女からそいつの情報を得なければならない。そして特異点である私がそいつを殺してしまえば未来は変わる!あの未来だけは絶対に無かったことにしないといけないの!だから…あなたには悪いけど死んでもらう!


「知らない…あなたなんて知らない…!あなたの言っていることもやってることも知らないもん!」


頭をかかえその場に(うずくま)る佐々木真央は本当に残念で、どうしようもなく子供だった。こんな人種と関わることはほとんど無かったから言葉が出てこない。


拳銃を持った相手に蹲るなんて凄いと思う。私には絶対に出来ないから。


「…で、質問には答えてくれないの?知り合い相手に拷問とかあまりしたくないんだよね。まあ、しないといけないのならするけどね。」


「拷問…?」


お、反応があった。流石に聴き逃がせないワードだったか。頭を上げて怯えた表情を覗かせる。…人間らしい表情だ。初めて彼女に出会えた気がする。


「私結構得意なんだよ。人を痛めつけて吐かせるの。」


拳銃を彼女の足に向ける。それだけで私が殺す気で撃とうとしているのではなく痛めつけようとしていることが伝わったようだ。これから起こり得る未来を想像して表情を凍らせている。


「やだ…やだよ…!痛いことしないで…!」


「嫌だよ。痛いことしないと話してくれないでしょ?」


馬鹿はこちらの話を聞かない。会話が出来ないから人とズレた感性に育ちこんなアホになる。でも人間も所詮(しょせん)は動物、痛みを知ればペラペラと話し出す。


「話す話す!だから痛いことだけはっ!痛いのだけは嫌っ!!」


涙を出しながら懇願されても私の心は今も苛つきと冷淡な感情しか覗いていない。私は私の家族を失うわけにはいかないんだ。


「じゃあ取り敢えずスマホ貸して。履歴なんて向こうが残すわけ無いだろうけど、一応昨日までは追えるから。」


私は佐々木真央を立ち上がらせてからスマホを受け取り時間を巻き戻していく。


『ーーーあまり戻しすぎると時間制限が…』


先生に注意を受けるけど私は能力の行使を止めずに時間を戻していく。…昨日まで時間を巻き戻しても履歴には残されていない。いくらデータを探っても欲しい情報は出てこないということは間違いなく工作している奴が居るということだ。


「ふ〜ん、用意周到だね。」


「な、なにも無いよ!ラインを交換してる子も少ないし、私はあなたの求めることは言えない…!」


怯えすぎて身体の震えが凄いし、声も震えていて聞き取れづらい。この構図って傍から見ると私は悪者って感じだね。いや、悪か。


「じゃあさっきからアンタのベルガー粒子が私に干渉してきてくるけど?」


「べ、ベルガー?なんて?」


佐々木真央にはベルガー粒子が見えていないことはさっきの銃を再現させた時に視認出来なかったことで分かっていた。なら何故この粒子は私に干渉しようとしているのか。


そんなのは決まっている。()()()()()()()()()()


昔の私と同じだ。コイツの中に居る何かが私を敵と認識して能力を干渉してきている!


『今すぐに殺せ!!怪異点(イレギュラー)と同じだ!()()()()()()()!!!』


先生とのパスから凄い剣幕の先生の声が聞こえてきた。私はすぐに拳銃を構えるが引き金を引くことが出来ずにその場で硬直してしまう。頭の中に凄まじい量の情報が流れ込んできたからだ。


私は認識してしまった。彼女の中にある何かを。私の能力は記録し探知すること。常に記録し続けるこの能力は“認識してしまうこと”=“記録する”に繋がる。そのせいでコイツの中にある莫大な情報を記録してしまい脳のリソースが持っていかれ身体の自由を奪われてしまった。


(ヤバい…とんでもないものを向こうは隠し持っていたみたい。)


情報を記録しても全く解析出来ない。情報量もそうだけどあまりにも異常なものだからだ。比較出来るものでもないし全く新しい概念をいきなり頭の中に放流されたみたい…!


『処理はするな!受け流して取り合うな!』


『分かってますけど私という個が埋もれてしまうぐらいの情報量なんです…!』


探知能力者としての唯一の欠点ともいえる。私は記録することをそこまで自由に干渉出来ない。射程圏内なら全てを記録してしまう。そのせいで処理落ちしてしまいこんな致命的な隙を晒してしまうのだから最悪だ。


「…ワタシが向こうに行くしかない。」


1巡目の世界にて美世たちの様子を伺っていた死神は腰を上げて美世のもとに向かおうとする。


「アナタが向かうのではなくイトウミヨをこちらに呼びましょう。出来るのですよね?」


マザーが死神に美世をこちらの時間軸に戻す計画を提言する。マザーにとっては美世の安否が第一優先事項。そして死神にとっても美世が第一優先事項なのだ。


「…そうだな。お前の言う事なんて聞きたくはないが美世の命が優先だ。こちらに連れて…」


『ダメです…!ここに私という特異点が居ることに意味があるんです!私の命よりもこの世界の未来が大事なんです!じゃないと私がここに居る意味が無くなる!私に私の役割を果たさせてください!』


美世は自身の役割を果たそうとしていた。彼女は真人間というわけではないが責任力のある自立したひとりの人間だ。どの場面でも最適解の答えを引き結果を出してきた。


その最適解の答えが毎回彼女に良い結果をもたらすとは限らなかったが、それでも彼女は毎回最適解の答えと結果を出してきた。その彼女がここに留まり続けることを選択したのだから死神はその選択を邪魔したりはしない。


『…分かった ミヨに任せる』


『ありがとう先生。』


美世は無理やり身体を動かして引き金にかけた左手の人差し指に神経を集中させる。そして美世は引き金を引いた。弾丸は音速で撃ち出され対象の腹部に突き刺さり内蔵を大きく損傷させる。


「え、なんか…痛い…!?」


佐々木真央は感じたことのない鈍痛にその場に膝をついて口からうめき声を漏らす。そしてうめき声と共に血も吐き出して頭がすぅ~っと冷えていく感覚に恐怖を覚え、彼女は初めて死の感覚というものを感じていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…、これで本体は死ぬ。アンタが死ねばその中に居る奴も死ぬんでしょ?」


私の時と同じでこういうのは寄生しているだけで寄生先が死ねば両方とも死ぬはず。私みたいな特殊な能力があればいくらでも取り返しが出来るけど佐々木真央は能力者ではない。もし能力が使えたとしても痛みで能力の行使に集中は出来ないだろう。


「痛!痛い痛い!ミヨヨ…痛いよ…!助けて…」


まさか引き金を引いた相手に助けを求めるなんて思わなかった。…馬鹿もここまで来ると凄い。


「助けるわけないでしょ。さっさと死ん…」


私はもう一度引き金を引こうとしたが佐々木真央の腹部にある銃痕に異変が生じる。私の探知能力が彼女の傷口が塞がっていくのを探知したのだ。


「…何者なんだよお前。能力者でも無いのに、なんで傷が塞がっていくんだよ…!」


傷口から弾丸が吐き出されて完全に傷口が塞がる。時間を巻き戻したわけじゃない。血痕は残っている。つまり何かの治癒能力を行使したということ。でも彼女が能力を行使したわけではない。中に居る何かが彼女に干渉したのだ。


「ミヨヨ…酷いよ。なんで、なんで私を虐めるの?」


佐々木真央の瞳が私に向けられる。あのときの私みたいに青くはなっていない。しかし彼女の目には被害者面した者に宿る卑屈さと怯えが宿っていた。


ああ…本当に、なんて気色の悪い生き物なんだろう。

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